朝のホームルームのせいか、その日のDクラスの空気はずっと暗いままであった。
そして一日の授業が終わった放課後。竜治が教室を出ようとすると平田が話しかけてきた。
「雨田君。これから皆でクラスポイントを上げる方法について話し合いたいと思うんだけど、君もどうかな?」
見れば平田の周りには数名のクラスメイトが集まっており、竜治は首を横に振って答える。
「すまない。きょうはこれから人とあう約束があるんだ」
「そうなんだ。引き止めてすまなかったね」
「いいや。……それと、クラスポイントをあげる方法だったら、けんとうがついている」
「っ!? それは本当かい?」
すまなそうな顔となって謝る平田に、竜治がもう一度首を横に振ってから言うと、平田だけでなく彼の周りに集まっているクラスメイト達も驚いた顔となって彼を見る。
「ホームルームでのせんせいの話しでは、ちこくや不真面目なこうどう、がっこうが咎めるこういが『マイナス』になっている。
だったら逆に、がっこうが賞賛するこういが『プラス』になるはずだ。
……しかしそれはじゅぎょうを真面目にうけるだけじゃダメだ。それはがっこうでは当然のことで、『プラマイ0』とされるはずだ」
竜治の言葉に平田達は納得した表情となって頷くと、平田が続きを聞いてくる。
「確かに……。それじゃあ、学校が賞賛する行為って?」
「かんたんなことだ。テストで高得点をとったり、部活動でたいかいに優勝するなどの好成績をだすことだ。だから、次の中間テスト。それがさいしょのクラスポイントを上げるチャンスじゃないか?」
「そうか……そうだね! ありがとう、雨田君。参考になったよ」
「どういたしまして。それじゃあ、オレはもういくよ」
竜治は自分に礼を言う平田にそう言うと、今度こそ教室を出て、自分を呼び出した人が待っている所へ向かうのだった。
竜治を呼び出したのは坂柳だった。今、彼女と竜治は喫茶店の中にいて、Dクラスの朝のホームルームの様子を聞いた坂柳が楽しそうに笑う。
「朝のホームルーム、Aクラスでも驚いている人が多かったですが、Dクラスはその比ではなかったようですね。……実際にその様子を見てみたかったです」
「やめてくれ」
坂柳の言葉に竜治はうんざりとした顔で言う。
坂柳有栖は人形のような可愛らしい容姿とは裏腹に、非常に強い嗜虐的な性格で、その優秀な頭脳を相手を苦しめることに使うという恐ろしい一面を持っている。
ただでさえ阿鼻叫喚といった朝のDクラスに、もし坂柳がいて口出ししたら、どうなるか想像もつかなかった。
「それにしてもクラスメイトに授業態度の改善を頼んだり、アドバイスをしたりするなんて、竜治君は優しいですね。それだったらいっそ、竜治君がDクラスをまとめたらどうですか?」
「オレはリーダーなんてガラじゃない。それにエリートのしごとがきたら、アリスとは違って、すぐににほんをでないといけない」
竜治は坂柳の言葉に即答すると、自分と彼女では仕事の環境が違うと言う。
オブジェクトのエリートである竜治は、オブジェクトの調整のために週の半分は放課後に整備基地に向かっているし、今言ったように出撃命令が出れば世界中のどこにでも行かなければならない。
それに対して坂柳は、オブジェクトの出撃命令がない限りは自由となる時間が多く、更に彼女は先天的に心臓が弱くて歩くにも杖を使っており、オブジェクト同士での戦闘では日本にある基地から指示を出しているのであった。
「それもそうですね。自由にできる時間が多かったので、Aクラスでも派閥を作ることができました」
坂柳が頷いて言うと、それを聞いた竜治が意外そうな顔となって彼女を見る。
「はばつ? アリスだったらすでにAクラスを纏めあげているとおもったけど?」
「フフッ。Aクラスには思ったより優秀なクラスメイトがいて、今はその人の派閥と遊んでいるところです。でもすぐにAクラスを支配してみせます」
「おもったより、か……」
坂柳は楽しそうな笑みを浮かべながら答えるが、それに対して竜治は何かを考えるような表情となる。
「どうしたんですか、竜治君?」
「いや、このがっこうは、本当に名門校なのかとおもってな。朝のホームルームをみても思ったが、やっぱりレベルがひくい気がするんだ」
学力もそうだが、突然の出来事に対応する対応力といった人材としてのレベルが低すぎると思う。これでは企業に就職できてもマトモに活躍できないと竜治は感じていた。
「ああ、それはそうでしょう。彼らのほとんどは、今までレベルの低い教育しか受けていませんから」
竜治の疑問に坂柳は何でもないように答える。
「それはどういうことだ?」
「日本……いいえ、資本企業の教育体制は二つに分けられます。
一つは私や竜治君のように子供の頃から企業が運営している教育施設で英才教育を受けさせる。
もう一つは小学校と中学校はあえて低レベルな教育をして、高校と大学で一気に英才教育を受けさせる。
この学校の場合は後者ですね」
「……なんでそんなまわりくどいことを?」
坂柳が言う資本企業の二つの教育体制に、竜治が困惑したよう聞くと、彼女は真剣な表情となって説明をする。
「資本企業の『安全国』では、将来有望な天才児が大企業の非公式な組織に誘拐される事件が多いことは知っていますね?」
「……ああ」
竜治が硬い表情となって頷く。
坂柳が言った通り資本企業の安全国では、物理学で博士号を取った十歳の天才少年が他勢力のテロに偽装した大企業の組織に誘拐され、その後は
「だから資本企業で子供を誘拐されることなく育てたい人達は、子供を専用の教育施設に閉じ込めて最初から英才教育をするか、一度誘拐する価値もない低レベルにしてから途中で英才教育をするかのどちらかを選ぶわけです」
「なるほど……」
「ちなみに日本で最も誘拐事件を起こしているのは『綾小路財閥』らしいですよ」
坂柳の説明を聞いて納得した竜治は、続けて聞いた彼女の言葉にクラスメイトの男子生徒の顔を思い浮かべる。
「アヤノコウジくん、か……。オレがいえたことじゃないが、彼もすごい家にうまれたな……」
「竜治君、ちょっといいですか?」
ため息混じりに呟く竜治に、坂柳が面白いことを思いついたという顔で話しかける。
「なんだ?」
「その綾小路君なんですけど……私達の仲間にしちゃいません?」