五月初日にホームルームで茶柱からプライベートポイント等のこの学校のシステムを知らされてから一週間が経った。先月はまだこの学校のシステムを知らなかったせいで新入生のほとんどが受かれていたが、今ではその様な気配は全くなく、多くの新入生が緊張した様子で授業を受けている。
そんな中、学力的に余裕のある竜治は教師の言葉をノートに取りながら、先週の坂柳との会話を思い出していた。
(アヤノコウジくんをオレ達のなかまにいれる。アリスは本当にだいたんなことを考がえるよな。しかも、そのためのだんどりもすぐに用意するし……。でも、いちばん面倒なしごとを、押しつけるのはやめてくれないかな?)
綾小路清隆を自分達の仲間にする。
そのための交渉を今日自分がやるようにと竜治は坂柳に言われており、彼は彼女の無茶振りに内心でため息を吐くのだった。
「アヤノコウジくん、ちょっといいか?」
「雨田? 一体どうした?」
放課後になって竜治が綾小路に声をかけると、カバンに教科書を入れて帰り支度をしていた綾小路が感情が見えない無表情で竜治を見上げた。
「いきなりですまないが、すこし話しがあるんだ。いまから一緒にきてくれないかな?」
「駄目よ」
竜治の言葉に答えたのは綾小路ではなく、彼の隣に座っていた堀北だった。
「私も綾小路君に用事があるの。だから駄目よ」
竜治はまるで自分の意見が優先されて当然という態度の堀北をしばらく見た後、綾小路に視線を向ける。
「アヤノコウジくん? なにか、ホリキタさんとやくそくをしていたの?」
「いや、そんな約束はした覚えはないけど?」
綾小路が竜治に返事をすると、それを聞いていた堀北が胸の前で腕を組んで口を開く。
「そうね。確かに私は綾小路君と約束はしていないわ。だけど私はこれからの中間テストに関する話をするつもりなの。雨田君、貴方はどうせ大した用事じゃないのだから、後にしてくれないかしら? 後、貴方に私の名前を呼ぶ許可を出した覚えはないわ」
(……えっと、なにコレ? どうしてオレ、いきなりホリキタさんにここまでいわれないといけないの? オレ、なにかホリキタさんを怒らせることをしたか?)
これ以上ない上から目線の堀北の言葉に、竜治が怒るより先に困惑していると、そこに綾小路が助け船を出してくれた。
「雨田。堀北はいつもこんな感じだぞ?」
「そ、そうなんだ? わるぐちがデフォルトってことか。……将来、くろうしそうだな」
綾小路の言葉にひとまず納得した竜治は、堀北に話しかける。
「くだらなくなんてないよ。オレはただ、アヤノコウジくんと友達になりたくて、すこし話しがしたいだけだ」
「友達……!?」
竜治の言葉に綾小路は瞳を輝かせるのだが、堀北の方はくだらなそうに竜治と綾小路を見る。
「それだったらここで話せばいいでしょう? それに、いくら特待生だといっても『自分は特別な人間だ』なんて顔をして、周りを見下している貴方に友人を作る資格なんてないわ」
『『…………………………』』
堀北がそう言うと竜治と綾小路だけでなく、話を聞いていたDクラスの生徒達までもが揃って沈黙した。
確かに竜治は入学式の日に「自分は特待生だ」と言ったし、周りとの認識の違いを感じていて、それが周りからは見下しているように見えているのかもしれない。
だが、それを初めて話す相手に上から目線で暴言を吐く人物に言われるのは納得がいかず、そう思ったのは竜治だけでなく綾小路を初めてとするDクラスの生徒達も同様であった。しかし堀北はそんな周りからの冷めた視線にも気づかず、あるいは気づいていても無視しているのか言葉を続ける。
「そもそも、私には貴方みたいな人が実力で特待生になれたとは思えないわ。どうせ親の力で特待生になれたのでしょうね」
「………!?」
そうに違いないといった感じで言う堀北の顔を竜治は無言で見る。
確かに竜治がオブジェクトのエリートとなれたのも、彼の父親が雨田電機のトップであるからだ。
しかし竜治もエリートとなるための努力をしたし、エリートとなってからはオブジェクトに乗って様々な戦場で戦いをしてきた。その戦いは楽なものばかりではなく、中には何回も死を覚悟した戦いもあった。
そんな自分の努力と戦いを、何も知らないくせに一方的に否定してくる堀北に、竜治が悲しみと怒りが混ざった複雑な感情を抱いていると、見かねた綾小路が口を開く。
「堀北、言い過ぎだ。雨田も堀北を許してやってくれ。……とにかく、今日は雨田の話を聞くからここを出よう」
そう言うと綾小路は雨田を連れて教室を出て、そんな二人の背中に堀北は「後悔するわよ」と言う声を投げかけた。
教室を出た後、何とか気持ちを落ち着かせた竜治は、綾小路をある場所に連れて行った。そこは業者や外からの来客が出入りする学校の出入り口のすぐ近くであった。
「雨田? こんなところまで連れてきて、一体何の話なんだ?」
「……『あやのこうじざいばつ』」
「っ!?」
綾小路の質問に竜治が短く呟くと、それを聞いた綾小路が僅かに目を見開き、竜治は綾小路を見ながら話し始める。
「『あやのこうじざいばつ』は最初、にほんにある、少しおおきな会社のひとつでしかなかった。
だけど、にほんで初めてオブジェクトがつくられたとき、多額の開発資金をだしたことで知られている。
そしてオブジェクトがせんそうの代名詞になると、『あやのこうじざいばつ』は、オブジェクトかんれんの軍需産業や、民間軍事企業にて手をだして、独自でオブジェクトを3きも保有する、日本有数の大企業にせいちょうした」
「………」
竜治の綾小路財閥の説明を、いつもの無表情に戻った綾小路は無言で聞く。
「『あやのこうじざいばつ』のトップには、一人息子がいて、オレと同い年くらいらしい。その、一人息子のなまえは……アヤノコウジキヨタカ」
「……それは凄い偶然だな。でも俺はそのアヤノコウジキヨタカ君とは同姓同名の別人だ」
綾小路は無表情のまま淡々とした口調で言うが、竜治にはそれが内心の怒りや恐れを必死に隠しているように感じられた。
「話はそれだけか? だったら俺は帰らせてもら「アヤノコウジくん」……?」
竜治はこちらに背を向けて立ち去ろうとする綾小路に声を投げかける。
「単刀直入にいうぞ。オレの、オブジェクトのせいびしとなってくれないか?」
今の竜治の言葉は流石に予想外だったようで、綾小路は驚いた顔となって振り返る。
「オブジェクトの整備士? それに俺のって……」
「そうだ。オレはオブジェクトの操縦士、エリートだ」
「………」
綾小路は数秒言葉を失うが、すぐに首を横に振る。
「すまない。雨田が冗談を言うようなタイプには見えないが、言葉だけでは信じられない」
「だろうな。だからこれから、オブジェクトの整備基地までつれていく。そこでなら信じられるだろう。大丈夫、そとに出るきょかなら、すでにとってある」
「……雨田。お前は一体何者なんだ?」
綾小路の言葉に竜治は小さく笑うと、彼の前でもう一度自己紹介をする。
「オレはアマダリュウジ。
オブジェクト「かみなりぐも」の操縦士のエリート。
『あまだでんき』ぐんじぶもんの現場指揮官。
『しほんきぎょうぐん』でのかいきゅうは少佐だ」