監獄の勇者と傲慢王女 作:フィルフィル
――パキリと、口枷が外れた。カツンと固い音が鳴り、地面へ転がり、そして割れる。
経年劣化だろうか。あまりにも呆気なく割れたそれにクノアが目を向けると、目の前で酷い音が聞こえた。
「――ゲホッ、ゲホッ――ぅえ…………あー、あー、あーー……声出すのは久方ぶりだなぁ……」
しみじみと、空気を何度も味わうように吸い込む少女。
足が止まる。思わず唾を飲む。異様な雰囲気を放っている――だが、ただそれだけだ。
死刑を待つ囚人など幾度も見たことがある。中には大量殺人を犯した者もいた。そのようなタガの外れた犯罪者などか放つそれと同等の物を、目の前の少女は纏っていた。
だが、その程度慣れたものだし、むしろ嬉々としてその雰囲気を味わうだけの度胸をクノアは保持していた。
「全く、酷いもんじゃねぇか?おい、そこの。幼気な
突然、涼やかな声が響く。少なくとも口枷をはめられていた人間がすぐさま出せるようなものではない。
しかし、それを一瞬の硬直で乗り越えるとクノアはいつも通り声を張り上げた。
「……
『王族』の証たる金色の髪と夕焼けよりも尚輝く茜色の瞳。それらを示すように睨み付けるが――それを欠片も認識していないように、目の前の少女は口を歪めた。
「おう、そうか。で?わざわざこんなところまで来てどうした?こんな辺鄙な部屋――はは、てか牢獄だな――なんもねぇぞ?」
認識していない――それもそうか、とため息を付く。己が自負するほど傲慢で、歪で、そして誰よりも臆病なクノア。
それゆえにここに来て、今に至り、そして今から禁忌を犯そうとしているのだが、しかし。クノアが今から行う『禁忌』を後悔することは無いのだろう。
クノアは己以外の苦労を苦労と思わない。だからこそ己が第一と自負出来るし、誰よりも先んじてここに来ることができた。
だが、そんなクノアが多少己を無視されても納得してしまうほどの状況に、目の前の少女はあった。
端的に言えば、その少女はあまりにも執拗なまでに縛られているのだ。
手も足も、胴も首も目も何もかもが、枷で鎖で目隠しで。縛られ閉じられ戒められ。
体は十字に磔になり、小柄な体躯がひどく痛々しかった。
まるで『この世界にお前は要らない』と誰かが言っているように、固く少女を縛り付けている。クノアが近付いた事に呼応して外れたかのような口枷がなければ、本当に少女は欠片も――少しの意思表示すら出来なかっただろう。
嘆息し、声を出そうと――、
「――あぁ?それとも、まさか――この
――唐突に、少女の雰囲気が歪に変容する。
ゾッと背筋に鳥肌がたち、一瞬この場所に関する『ある童話』が頭をよぎる。
ニヤリともクスリとも、どのような笑いとも形容出来ないナニカが少女の口元を覆い尽くす。目隠しで目を見ることは出来ないが、その目は己がを侮蔑しているようにすら、クノアには感じられ――。
カッと頭が熱くなった。
「――いいえ、言わせていただきます」
先ほど感じていた恐怖は、傲慢で吹き飛んでいた。燃え盛る火勢よりもなお強く、クノアの言葉は烈火を尽くす。
「ほぉ?いいだろう、話くらいは聞いてやるさ」
「貴女の不躾な物言いは後で矯正させて貰いますが、まあ今は良いでしょう。時間が惜しい――さて、端的に言います」
そしてクノアは軽く息を吸う。それは、これまでの恨みを思い返す為に。
革命の、転覆の、反逆の絶望を――己が臓腑に焼き付けるため。
「
そして、それを耳にした
「ほぉ?」
裂けるほどの笑みを、その顔に浮かべた。