「すずやおねえちゃん!」
「おおー、提督のご子息様じゃん。今日も可愛いねえ! よしよし」
「すずやおねえちゃんの手あったかくて大好き」
「……可愛いぃぃ!!」
「すずやおねえちゃん好き!」
「……鈴谷、もう死んでもいいじゃん?」
「鈴谷姉ちゃん」
「んー、今日も可愛いねえ! うりうり!」
「ちょ、頭撫でるのはやめてって! 俺はもう子供じゃないんだから!」
「鈴谷から見ればまだまだお子ちゃまだよー」
「鈴谷……さん」
「んん〜? もしかして思春期ってやつ? お姉ちゃんって呼ぶの恥ずいの? 可愛いなあ」
「なっ、いい加減子供扱いすんなよ!」
「強がっちゃって。まだまだ子供じゃん?」
「そ、そのうち身長だって追い越すんだからな!」
「ほおぅ、それは楽しみだねえ」
「今日から父に代わってこの鎮守府の提督を務めることになったからな。甘やかしたりはせんぞ。お前に言ってるんだぞ鈴谷」
「いやあ、感慨深くてさあ……。鈴谷よりも小さかったあのお子ちゃまが提督だなんて」
「こ、子供の頃の話はもういいだろ……。忘れろ……」
「……ほんとに鈴谷の身長追い越しちゃったじゃん」
「当たり前だ。俺はもう立派な大人、お前たち艦娘を指揮する提督なんだからな」
「……そうだね。よろしくね、提督」
「くそっ! 簡単な任務だったのに……。どうして俺は父のようにうまくできないんだ……」
「提督……。あんまり自分を責めないでよ。最初なんだから失敗して当たり前じゃん?」
「うるさい! 完璧じゃなきゃ意味がないんだ……。こんなんじゃ……」
「提督……」
「あ、提督! 鈴谷特性カレーを作ったんだけど──」
「いいよ。別に腹減ってないし、要らない」
「あ……そ、そっかあ……。えへへ……。鈴谷ってばまた空回りしちゃったじゃん」
「もういいって、そういうの」
「え……」
「俺があの人の息子だからっていつまで世話焼いてるつもりなんだよ」
「そんな、鈴谷はただ──」
「もう子供じゃないって言っただろ。迷惑なんだよ」
「……鈴谷はただ、提督のことが」
「ひとりにしてくれ」
──提督のことが、好きなだけなんだけどな。
× × ×
「はぁ……」
昨日の今日で、ものすごく気まずかった。でも鈴谷は提督の秘書艦だし、この執務室のドアノブをまわさなきゃいけないことは分かってる。でも扉を開けばすぐそこに提督がいるわけで、どんな顔すればいいわけ? とびきりの笑顔で「ちーっす!」とか言っておけばいいのかな? いやでもそんな雰囲気じゃないっていうか、昨日の提督めっちゃ冷たかったし……。てか昨日だけじゃなくてここんとこずっと冷たいし……。
鈴谷なにか悪いことしちゃったの? ずっと甲斐甲斐しく世話してあげてるじゃん! ……いや、それが悪いんだった。
「ぬぁーっ! じゃあどうすればいいわけ!? もうわかんないっての!」
両手で頭をかきむしり、執務室の目の前だということも忘れて大声で叫んだ。
「……なにしてんの」
「て、提督!? 」
当然中にいた提督には丸聞こえだったわけで、扉を半分ほど開けて顔を覗かせた提督は呆れたような表情を浮かべている。
いや、その顔なんかむかつくんですけど?
「いくら身体が丈夫でも拾い食いとかはやめた方がいいんじゃないか? ほら、頭の方に支障きたしちゃってんじゃん」
「はあ!?」
「なにそれ!? 意味わかんないっての! ちょー失礼じゃん!」と、捲し立てるように大声をあげた鈴谷から目を逸らし、提督は両耳を塞いでやり過ごしていた。
その態度にまた腹が立ったけど、それより先に笑いの方が込み上げてしまった。
「くっ……ふふっ……。ほんと、デリカシー無さすぎじゃん」
「ああ、確かに。俺もお前もそんなものは持ち合わせていないな」
ふたりして、顔を見合わせて笑った。
こんな風に言葉を交わせたのは随分久しぶりだった気がする。いつもなにかに追われているようで、余裕の無かった提督が、やっと笑ってくれた。
「……とりあえず、中入れよ」
そう言われて、執務室に入りいつもの席に腰を下ろすと、珍しく提督がお茶を淹れてくれた。
それを一口啜って、ちらと提督の方に視線を移す。
すると提督もこちらを見ていたようで、ばっちりとあってしまった目を気まずそうに逸らし、俯いたまま小さく口を開いた。
「昨日は……いや、昨日だけじゃなく、俺が提督になった日から今日までずっと、お前を傷つけてきたな」
「その……」と、言葉を噛んで、いたずらがバレて怒られる前の子供の頃のような表情で、でもしっかりと鈴谷の瞳を見据えながら言った。
「すまなかった。どうか、許してほしい」
ブレないその瞳を見て、確かに成長したところもあるけれど、根の部分は変わっていないんだと思った。
こんなことを言うと提督は「当然だろ」って不思議そうな顔をするけどさ、そうやって相手の目を見てちゃんと謝れるところは素敵なところなんだよ。
「……いーよ。鈴谷、べつに怒ってないし」
目を細めて笑うと、提督はまだ緊張したような面持ちで後ろ髪を撫でながら俯いた。
何度も息を吸っては吐いてを繰り返し、やがて覚悟を決めたようにぱっと顔をあげた。
「俺、鈴谷のことが好きだ」
「え───ええ!? ちょ、マジ急すぎるんですけど!」
「ずっとだよ。本当にずっと、お前だけを見てきた。気づかなかったか?」
「き、気づくわけないじゃん!」
顔を真っ赤にして叫んだ。すると提督は「そうか……」と考える素振りを見せ、かと思えば急に立ち上がり鈴谷の方に向かって歩いてくる。
目の前までやってきて鈴谷の両手を、そのひとまわり大きな両の手できゅっと包み込んで──
「鈴谷のことが好きだ」
同じ言葉を繰り返す。
「……もっ、それは……聞いたってば……」
「伝わったか?」
──なんて、ふにゃりとだらしなく笑うから、怒るに怒れなかった。
幼い頃の笑顔を重ねて、可愛いとさえ思ってしまう。
「立派な提督になってさ、お前に相応しい男になれたら言おうって決めてたのに、そううまくはいかないもんだな」
「……鈴谷も好きって言ったら、どうする?」
ちらと前髪の隙間から瞳を覗かせて、上目遣いで見上げた提督の表情は驚きと嬉しさと気恥ずかしさを織り交ぜたような、なんとも言えないものだった。
「え、いや……だってお前、俺のことずっと弟みたいに──」
「わかんないっての……! 自分でも、いつからこんなにも……どうしようもないくらい好きになってたかなんてさ……」
段々と小さくなっていく声が情けなくて、もう提督の顔は見られなかった。
少し気まずい空気が流れて、でもすぐに提督が名前を呼んでくれた。
「鈴谷」
その優しい声にぴくりと肩を震わせ、恐る恐る顔をあげると、その瞬間に唇が触れあった。
一瞬触れただけのキスだったのに、今までに無いくらい熱を感じている。
「す、好き同士なら良いのかなって思っ──ッ」
誤魔化すように笑った提督の顔を両手で掴んで、思いきり引き寄せてキスをした。
「……んっ……んぅ……てー、とく……」
永遠にも感じるくらい永いキスを。朝陽が射し込むふたりだけの執務室で、何度も溶けあうような熱いキスをした。
「なあ鈴谷」
「ん〜?」
「俺たちが付き合ってること、みんなにはもうとっくにバレてるらしいぞ」
「は!? まじ!?」
「くまのんが言ってた」
「ちょー恥ずいんですけど……」
「だからさ、もうしてもいいんじゃないか?」
「なにを……」
「ケッコン」
「……はぁ。ムードとか無さすぎじゃん」
「でもその方が俺たちらしいよ」
「そうかなぁ……?」
「お帰り! どーする? ご飯にする? お風呂にする? それとも、ナニする?」
「疲れたから風呂〜」
「ムードもデリカシーも無いじゃん……」
「な〜んかマジ退屈なんだけど〜」
「仕方ないだろ。もうお前を戦場に出すわけにはいかないんだから」
「それはわかってるけどさぁ……」
「お前だけの身体じゃないんだ。今日もなるべく早く帰ってくるから我慢して待っててくれよ」
「……男の子だと思う? それとも女の子かな?」
「男だったら野球教え込む」
「そればっかじゃん……」
「俺ばかりが歳をとって、お前はいつまでも変わらないな」
「艦娘だからね」
「ほんと、ずっと綺麗なままだ」
「提督も、ずっと格好いいよ……」
「鈴谷……」
「どうしたの?」
「ありがとう」
「うん……」
「愛してる……」
「鈴谷も、愛してるよ」
「いっぱい……迷惑かけてごめん……」
「お互い様じゃん」
「ずっと傍にいてくれて……ありがとう……」
「うん……」
「おやすみ……。すず、や……」
「おやすみ。提督……」
──鈴谷みたいな艦をここまで重用してくれて……ありがとね。
鈴谷「っていうSSを考えたんだけど、バッチリじゃん?」
提督「もしもし、大本営ですか? ケッコン……あ、いえカリではなくケッコンカッコガチの指輪を大至急お願いします」
鈴谷「ちょ、提督!?」
提督「鈴谷の甲板ニーソ触りたい……」
鈴谷「うわ……きっもー……」
鈴谷可愛すぎじゃん