平成ライダー達の異世界放浪記   作:宇賀神

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仮面ライダーWは何者かの意思により、異世界へ飛ばされてしまった。

そこにはISと呼ばれるパワードスーツがあらゆる兵器に打って変わって戦争の抑止力となり、それを動かせるのは女性だけという現実から、女尊男卑が横行している不思議な世界だった。

翔太郎とフィリップが飛ばされた場所は、まさにISを動かせる人間を育成する専門学校であり、とある女性教師二人に見つかった二人は現状を説明して助けを求める。

が、片方は蔑んだ目で見られた上に与太話と一蹴されて相手にされず、もう片方は素直に信じてくれたもののわたわたして込み入った話に踏み込めない。

ならばと、証拠代わりにスタッグメモリ、バットメモリ、スパイダーメモリ、デンデンメモリ、フロッグメモリを実演してみせた。

すると蔑んだ目をした女性教師もようやく信じる気になったのか、ガイアメモリについて食い付いてきたではないか。

フィリップが自分達が変身する仮面ライダーWを例に挙げて簡単に説明すると、その女性教師はまだ半信半疑なのか、「ISと戦わせてガイアメモリとやらの力をもっと見せて欲しい」と無茶振りをしてくる。

アレは見せ物じゃないし、力を誇示する兵器でもないと断るが、見せてくれた上で納得の行く能力であれば仮住まいをくれてやるとまで言う。おまけに挑発もされた。

「それともISに負けるのが怖いか?仮面ライダーとかいう名前もダサイし、きっと力も劣るのだろうな」


このやっすい挑発に初太郎は頭に血が昇ってしまう。仮面ライダーとは風都の人たちが付けてくれた大切な名前だ、バカにされて冷静でいられないのは当然である。フィリップに宥められながら、ISとの対決を了承するのだった。



かくして迎えた当日…………





仮面ライダーW『ISの世界1』

広い広いIS学園のアリーナ。

 

晴れてはいるが流線的で斑な雲が所狭しと鏤められた夏一歩手前の空の下、学舎に場違いなスーツに身を包んだ一人の男と、専用機水準よりもやや低い第二世代ISに身を包んだ凛々しい一人の女性が対峙しており、それを取り囲むように数十m遠くで多くの生徒や複数の職員が観客よろしく見つめていた。

 

 

「空は飛ばないでおいてやる。せめてものハンデだ」

 

 

学校から拝借しているISを装着した女性・織斑千冬は、目の前の、白に黒の縞が入ったシャツに黒いジャケット、赤いネクタイ、黒のソフト帽を被った男・左翔太郎に語りかける。

 

 

「あぁ気にしないでくれ。確かに俺は空は飛べないがやりようはある。それに……こんな可愛らしい女性に手加減されたとあっちゃぁ……ハードボイルドの名折れだ」

 

 

右手で平べったい帽子の天辺を抑えながら、左手でダブルドライバーを腰に宛がい、実に気障ったらしく、勿体振って返した。

 

(よっしゃ決まった)と内心ガッツポーズして、上着の内ポケットからジョーカーのガイアメモリを取り出しつつチラチラと周囲の反応を見る。

 

 

ところが、彼の待ち望んでいた黄色い歓声が上がるどころか、観客達から嘲笑が聞こえ、千冬は呆れながら頭を振っていた。

 

あれ?とクエスチョンマークを浮かべる翔太郎の頭の中に、保健室の安楽椅子で温雅にISの教本を閲読していたフィリップの声が響き渡る。

 

ちなみに彼の隣にはお目付役の真耶が「何ですかそのベルト!?マジックですか!?」と騒いでいるが、残念ながら第三者の声までは聞こえない。

 

 

『翔太郎、この世界じゃ男性は女性に情けをかけられ、家事に勤しむ世界。言うならば男尊女卑ならぬ女尊男卑が世界の常識だ。昨日、織斑千冬から説明を受けただろう?』

 

「ハッハーン、そーいやそうだったな……。ハードボイルドもなにもあったもんじゃねぇな」

 

『そんな言葉は死語どころか禁句だろうね、過激派と呼ばれる女性からは目の敵にしかならない。…………山田女史、ちょっと黙っていてくれないか』

 

「そういやあの……あー……ISとやらが装着できるのが女性だけだからか?」

 

『そう。最も、ISそのものは男性でも女性でも装着できるパワードスーツだ。ガイアメモリやドライバーに比べればプロテクターが甘いね。しかしガイアメモリと違って搭乗者への毒素が皆無なのは素晴らしい。まぁ少し手を加えればバグなんて簡単に作り出せるから、やはりプロテクターが甘いと言わざるを得ないね』

 

 

地球の本棚、謂わば『地球が見てきた記憶』を脳内に保有している彼ならではの発言である。おまけに地球の記憶・事象を小さな小さなメモリ一本に閉じこめるという、『人間離れした天才』という形容では稚拙な表現に成りうる頭脳を持っているフィリップからしてみれば、環境さえ整っていればISの開発なんてお茶の子さいさいだっただろう。

 

この時点で翔太郎は置いてけぼりになったが、お構いなしにフィリップはベルトで意思が繋がったまま、あちら側で質問を投げかけてきた真耶に講釈をたれる。

 

 

『その通りだ山田女史。それを女性にしか装着できないように仕掛けを施したのは、他ならない開発者の篠ノ乃束という女性だ。彼女の存在は謎そのものと言っても差し支えないほど不思議に満ちてる。神出鬼没で、過去の経歴すらも殆どが闇に葬られている手の懲りようだ。でも過去を辿る接点が無いわけじゃない。彼女には妹と、妹が好意を寄せる男性、それにその姉である織斑千冬とはかなり繋がりが深い。そう、その織斑千冬だ。今から僕たちと一戦交えようと――――』

 

「あー分かった!分かった!」

 

 

翔太郎は何も分からなかったが、フィリップの長話を切り上げるために両手を前に突きだして制するポーズをしながら荒々しく声を上げた。

 

しかしこの会話、Wドライバーを装着している者同士と距離に関係無く意思疎通が出来るから成立しているのであって、この性能を知らない人間からしてみれば痛々しい一人芝居そのものである。

 

 

「どうした?怖じ気づいて気でも動転したか?」

 

 

千冬の煽りに観客の嘲笑も大きくなり、翔太郎だけが恥を晒してしまう結果となった。

 

 

「ったく……なんで俺ばっか……」

 

 

照れ隠しがてら、ジョーカーのガイアメモリを放り投げてキャッチしてから一人眉間に皺を寄せてぼやく。

 

 

『君がそういう運命を背負っているからだ、ハーフボイルドの左翔太郎。山田女史、僕の体をよろしく頼むよ』

 

 

言うが早いか、苦笑しながら、フィリップはサイクロンのガイアメモリのスイッチを押してダブルドライバーの右側のメモリスロットに差し込み、ソウルメモリへと意識を移し替えて安楽椅子に体を預けた。

 

 

「手厳しいなぁ、フィリップ」

 

 

すると、遠く離れた翔太郎のベルトにフィリップの差し込んだサイクロンメモリが現れた。

 

一番近い位置から翔太郎を観察していた千冬だけが、サイクロンメモリの空間移動に目敏き気づき眉を顰めるが、翔太郎はその目線にニヤリとニヒルな笑みで応え、サイクロンのメモリをベルトの奥へと深く押し込む。

 

翔太郎も掌で遊んでいたジョーカーメモリのスイッチをカチッと押し、《ジョーカー》とガイアウィスパーを流しながらダブルドライバーの左側のメモリスロットに差し込むと、両腕をクロスさせて左右のメモリスロットが連結していた上部を人差し指と親指で弾き、ベルトをWの文字に展開させた。

 

 

《サイクロン!》

 

 

《ジョーカー!》

 

 

その瞬間、翔太郎のベルトに可視可能な緑の『C』と黒い『J』のローマ字が浮き上がり、更に彼の目の下に黒いラインが浮き上がる。

 

ベルトから雷が幾度となく放電されると共に無数の黒い欠片が飛び散り、まるで雷に制御されているかのように一定範囲を保って舞い続けていた。

 

しかし、放電現象はほんの一秒ほどで止んでしまう。が、今度は彼を中心に緩やかな風が渦巻き始め、一つのつむじ風へと速成されていく。

 

すると、黒い欠片はつむじ風の中心点にいる翔太郎に吸い込まれるようにして、褄先、太股、腰、胸部、腕、頭と順々に彼のボディに張り付いていった。

 

やがて全ての欠片が体に固着されると、そこに翔太郎はおらず、右半身が緑、左半身が黒に染まり、大きな赤い複眼を持った風都の戦士『仮面ライダー』が在った。

 

更に彼を取り巻いていたつむじ風は突風へと変貌し、土埃を巻き上げながらアリーナ全体に吹き荒れる。

 

 

その異形の姿を見るやいなや、千冬と観客達の嘲笑はピタリと止み、吹き荒れる風に目を細めながらもWに釘付けになっていた。

 

 

一方のWは風を心地よさそうに受け止めており、それを象徴しているかのように、項から突き出るウィンディスタピライザーがぱたぱたと元気良く棚引いていた。

 

ようやく風が落ち着くと、Wは体を少し横に逸らしつつ右手をベルトに添え、左手で気怠そうに、しかし人差し指だけはピシッと伸ばして千冬に突きつけて決め台詞を放つ。

 

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ」」

 

「罪だと……?」

 

 

決め台詞が癪に触ったのか、罪というキーワードにピクリと千冬が反応する。

 

刹那、彼女は先手必勝と言わんばかりに決めポーズをとって余韻に浸っているWに一気に詰め寄った。

 

 

この瞬間、戦いの火ぶたは切って落とされた

 

 

「うおっと!」

 

 

突然の奇襲に驚くものの、踏んだ場数が一桁二桁ほど千冬とは違う。

 

焦らずに横薙ぎで振り抜いた刀を紙一重でしゃがんで避け、そのまま片足で軽く体を右回転にスピンし、流れるような動きで風を纏ったカウンターの回し蹴りを入れる。

 

 

「お返しだ!」

 

「クッ!」

 

 

蹴りは見事にISの右側面に当たり、金属に鉛玉を当てたような鈍い音が響かせて、その表面に火花を散らせた。

 

千冬を乗せたISは蹴りの衝撃を受けきれずに、脚で地面を擦り付けながら衝撃を散らしつつ横へと滑っていくものの、何とか転倒せずに堪えきって見せる。

 

そのまま作られた距離を生かし、射撃の精密制が高く、それでいて小回りの利くハンドガンタイプの銃器を手にして遠距離戦を仕掛ける。

 

しかしこれはあくまで正攻法。人知を遙かに卓越した技術によって、超人的な力を持っているWには通じなかった。

 

 

「フッ!ハァッ!」

 

 

Wは風を纏った素早い動きで回避しつつ前進し、かと思えば当たりそうになった弾丸は手刀で叩き落として着々と距離を詰めていく。

 

あり得なかった。手刀で弾丸を弾くだと?余りに現実離れしている。

 

彼女が使っているのが学校が用意した第二世代のISの武器とは言え、鉄板程度なら貫通する威力だ。

 

まるで出鱈目な回避法だが、一歩、また一歩と着実に距離を詰めてくるWに千冬はジリジリと後退をしながら撃ち続ける他、無かった。

 

しかし千冬はこれを良しとせずに、銃器を仕舞うと再び刀に持ち替えた。

 

いずれは弾切れするからという現実的な理由からもあるが、何より千冬のプライドがそうさせなかった。戦闘前にあれだけ息巻いていたのだ、見得を切ったのだ、自身が劣勢に見えるような試合展開を観客に見せるワケにはいかない。

 

Wは銃弾の雨が止んだのを確認すると、地面を蹴飛ばして一気に彼我の距離を詰め、殴りかかる。

 

 

「オラァッ!」

 

 

これは読んでいた千冬は刀の腹で受け止め、拳を上へと弾き、がら空きになった体を一閃。

 

そこへ間髪入れず、反撃させる暇も与えず追撃して勝利を手に……するはずだったが。

 

 

「何だ……この力は……!」

 

 

放たれた拳を弾くどころか、想像を上回る力に姿勢を崩されないよう踏ん張るのが精一杯だった。

 

千冬はチッと舌打ちをすると、機体の出力を更に上げ、Wを無理矢理押し退けると再びスラスターを噴かしてはバックステップで距離を取る。

 

実力が未知数の敵との戦いでは、先ずはその実力を知るところから始まるのは戦場の常。

 

つまり千冬は、Wの小手先を計るためにヒットアンドアウェイを心がけて戦闘を繰り広げていたのだ。

 

 

が、Wは二度目の離隔を許さない。

 

 

「逃がすか!」

 

 

Wはドライバーのメモリスロットを閉じて右側に挿入されていたサイクロンメモリを素早く抜き取り、黄色のメモリのスイッチを押して挿入、再びドライバーのメモリスロットを左右に開く。

 

 

《ルナ!》

 

 

《ジョーカー!》

 

 

ガイアウィスパーが流れて、緑色だったWの中央線から右側が黄色に染まり、まるでパントマイムの様に肩から指先まで腕をしならせてこちらへと手を伸ばしてきた。

 

 

「色が変わった!?」

 

 

千冬は後ろに下がりながらWの変色に驚破を発した。

 

しかし、二度の接近戦を経て、Wのスペックに圧倒され続けている事実は変わらない。

 

だからこそ千冬は変色を訝しむが、果たしてメモリチェンジの意味が理解できなかった。

 

おまけに手を開いて突きだした所で、無駄に空を切って前につんのめるのがオチだと想定する。

 

それでも一応は、と身構えようとする――――その時。

 

 

「何だそれは!?」

 

 

Wの突きだした黄色い右腕が、まるでマジックハンドみたいに伸びてきたのだ!

 

 

「嘘ぉ!?」

 

「腕が伸びた!?」

 

「何あれ!気持ち悪い!」

 

 

 

観客は異様な光景を目にし、口々に思い思いの感想を告げていく。

 

突如としてWから伸びた触腕。まともな思考回路をした人間なら避けるどころか、ショックから立ち直るのにコンマ1秒はかかるだろう。

 

しかし、千冬だって伊達に化け物手前の完璧超人を語られてはいない。

 

 

「捕まるものか!」

 

 

後ろへの勢いを殺しながら、片足を地面に付けてバックステップからサイドステップへと移行する。

 

とても初見とは思えない反応速度だ。

 

すんでの所でWの腕は左肩を掠めて横を通り過ぎていった。

 

伸びた腕から連想される、昔の玩具として有名なマジックハンドは真っ直ぐにしか伸びない。マジックハンドに対する回避方法は正しかったと言えるだろう。

 

そう、Wの触腕がマジックハンドと同じ構造ならば、だ。

 

 

「そらよっ!」

 

 

蛮声と共にWが体を右から左へと軽く捻ると、彼から伸びていた黄色い腕も右から左へとしなやかに弧を描いて、ステップした状態で宙に浮いていたISの胴体に巻き付いた!

 

 

「くっ!」

 

 

千冬はスラスターをWとは反対側に噴かそうとするが、巻き付けられた瞬間に体制が崩れてしまっている事に気づくのに、そう時間はかからなかった。

 

機体の正面が茶色い地面とこんにちはしている時点で、彼女の危険信号が『スラスターを噴かすのは止めろ』と告げていたのだ。

 

仮に、運良くWと体を正面に傾かせられても、機体は宙に浮いてしまって地に脚がついていない。機体の性能による力勝負を試みても敗色濃厚どころか0に近い確率で負ける。襟巻きの様な腕からの脱出は諦めるほか無かった。

 

 

彼女の並はずれた反応速度が、回避行動が、結果として彼女の首を絞めてしまった。

 

 

ま、避けようとしなかったらしなかったで捕まって現状と変わりない状況に陥っていただろう。

 

彼にルナ・ジョーカーへのフォルムチェンジの隙を与えた時点で詰みだ。

 

 

Wは千冬の搭乗しているISを自分の側まで引き寄せ、上から下へと振り下ろしてから触腕を解放させる。

 

ズドォンという大音量と共に土煙が舞った。

 

千冬のISに展開されていたシールドバリアにダメージが蓄積され、シールドエネルギーがピピピッと減っていく。

 

しかし優位に立っているはずの翔太郎は、焦り気味に「やべっ」と漏らしていた。

 

 

「暴走状態の奴らみたいな去なし方しちまった……大丈夫か?」

 

「その点は安心してくれて構わない。宇宙空間での活動を目的に作られたパワードスーツだけあって、頑丈さだけは僕らに並ぶ堅さだ。おまけに『絶対防御』と呼ばれる搭乗者の死亡を防ぐ能力も備わっている」

 

「そうか……なら手加減する必要はねぇな」

 

「バカを言い給え翔太郎、手加減なんかしていたらこっちがやられてしまうよ。そうだろう?ブリュンヒルデ」

 

「……私を……その名で呼ぶな」

 

 

土埃から黒いシルエットが凛然と立ち上がった。

 

第二ラウンドの始まりだ。

 

 

 




次回は多分これの続きでW×ISは終わり。他のクロスオーバーもこんな感じで、日常の一変を切り取ったシーンを書いていきます。


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