平成ライダー達の異世界放浪記   作:宇賀神

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仮面ライダーW『ISの世界2』

「あんまり効いてねぇな……」

 

 

軟風に舞う土埃を手で払いながら、それなりの高度から地面に叩きつけたISがむくりと起きあがる姿を見て、空いた片方の手を顎に当てる。

 

 

「とも限らないね。表面上は傷一つ付いていないように見えるけど、シールドエネルギーが衝撃を全て吸収しているからに他ならない」

 

「あーつまり、そのエネルギーを削りきれば俺達の勝ちって事か?」

 

「その通りだ」

 

「……随分と余裕だな」

 

 

ここまで、Wに一方的な試合運びをされてきた千冬は、その声に悔しさを滲ませながらISの姿勢を正す。

 

 

「もう勝った気でいるみたいだが……私は本気を出していないだけだ」

 

 

彼女なりの強がりなのか、それとも負け惜しみなのか、はたまた本当に本気が出ていないのか翔太郎は分からなかったが、この台詞は負け台詞だと相場が決まっている

 

 

「本気を出していない?言葉選びが正確じゃないね織斑千冬。君は本気を出せないんだろう?」

 

 

案の定、フィリップはせせら笑いながら、千冬の心を見透かしたように返す。

 

動揺を誘うブラフとも取れるこの発言に対し、千冬はポーカーフェイスで動じなかった。

 

が、内心は汗ダラッダラである。フィリップの指摘は正鵠を射ていた

 

 

「はっきり言おう、君は手の内をさらけ出しすぎた。そのISで勝つには、最初の奇襲が失敗した時、たった一回の攻撃を受けたくらいで下がるべきじゃなかった。あそこでラッシュをかけて、IS慣れしてない僕たちを仕留めるべきだったんだ」

 

 

そのISで、という指摘に背筋に寒気が走り、ツーっと冷や汗が首から肩に一筋伝う。

 

 

「どういう意味だ?フィリップ」

 

「あのISの使用兵器、瞬間加速に初速、機体の形状……エクストリームじゃなく、僕の持ち合わせの知識と照らし合わせた推測でしか無いが、あれは学校側の用意した第二世代の機体だね」

 

「それでもISってのは、俺達でも負けの芽がある代物なんだろ?」

 

「僕たちが油断していたファーストコンタクトや、翔太郎が言ったように手加減をしようとすれば負けるだろう。もしくは……専用機と呼ばれるISに搭乗している場合を除けばね」

 

「専用機?」

 

「そう。彼女は『暮桜』と呼ばれる彼女専用にチューニングされたISを持っている。それならば実力を最大限まで引き出して戦えたが……」

 

「……その第二世代って奴じゃ、有り余る力の使い所が極端に限られるってのか」

 

「だろう?織斑千冬」

 

 

(なんだこいつは……)

 

 

口に出しそうになるのを抑え、奥歯を噛み締めながら無言でフィリップを見据える。

 

なんとも珍しい事だが、千冬はWを相手に怖駭という感情を抱こうとしていた。

 

ヒットアンドアウェイで実力を推し量っていたはずが、逆に自分が精察される始末。

 

実際問題、機体のスペックが千冬の要求する水準を満たしておらず、本気を出そうにも真の実力を発揮できないでいた。

 

さっきの彼女の台詞は捨て台詞でもなんでも無く、事実そのもの。

 

『銃は使い手を選ぶ』との諺があるが、これのまったく逆をフィリップに見抜かれていたのだ。

 

 

それどころか、今のいままでISの実物を見ておらず、昨日までは存在すら知らなかった人間が、自分の使用しているISをピタリと言い当てたのだ。

 

更に、今や殆どの人間から忘れ去られ、IS学園地下特別区画に放置されている『暮桜』という専用機の名前まで口にした。

 

しかし、暮桜は第一回モンド・グロッソを勝ち抜いた機体だ。昔の雑誌やインターネットを適当に漁れば暮桜に関する情報を見つけることは可能だろう。

 

だが猶予はたったの一晩。

 

フィリップが一晩を過ごした保健室にそれらの雑誌は置かれてないし、今朝方、お目付役の山田真耶からフィリップの様子を聞いても、PCなどの電子媒体には触れておらず、安楽椅子を軋ませながら爆○ハンバーグよりもぶ厚い教本しか読んでいないという。

 

まさか、一晩であの分厚いIS教本を読破したワケでもあるまい。そこまでの知識を一晩でどうやって得たのだろうかという疑念だけが、彼女の思考を支配していた。

 

 

「このまま戦いを続けたら、多くの観衆を前に無様な姿を晒してしまう事になる。素直に負けを認めたまえ」

 

「あ、おいフィリップお前!」

 

 

Wは子供に目線を合わせるように猫背になり、右手で千冬を指さしながら赤い右目をチカチカと点灯させ、敗北宣言をしろと促した。

 

冷静な分析から導き出した判断を何の躊躇もなく言い放つあたり、フィリップという人間のデリカシーの無さが伺える。

 

それを止めようとした翔太郎だが、自分達がここまで優勢だった理由を整理していた為、間に合わない。後の祭りだ。

 

しばらく無言だった千冬はフィリップの言いぐさにカチンと来たのか、頭を軽く横に振って雑念を振り払い、キッとWを睨み付けて口を開いた。

 

 

「二つ、訂正しておこう」

 

「なんだい?」

 

「ISは兵器じゃない。使う武器もだ」

 

「成る程、世間一般に普及しているISは競技用のパワードスーツだったね……。済まない、それは訂正されて然るべき間違いだ」

 

「それともう一つ。私はお前の言うように不利な状況だが……それでも勝つのは……私だ!」

 

 

吐くと共に、Wに拳を振り上げて飛び出した!

 

しかし今度は実力を測る為じゃない、勝つ為だ。僅かでも勝ちの目が少しでもある限り、諦めようとしない千冬の負けん気がそうさせたのだ。

 

 

「ハッ、そう来なくっちゃなぁ!」

 

 

戦いが始まる前まで、冷遇で冷徹な女性からは考えられない、冷たいマスクから覗かせる熱烈に、翔太郎はマスクの下でニッと笑って殴り合いに応じるべく握り拳を作った。

 

やがて、Wの大きな複眼に千冬の姿が自身にも覗き込めるくらいまで接近する。対してWは避ける素振りも見せず、握り拳を前に突き出し――――ISの鉄拳と衝突した!

 

 

「オラァ!」

 

「ハッ!」

 

 

お互いかち合った衝撃に後ずさりするが、ものの1秒も経たずに距離を縮めて殴り合いを始めた。

 

Wは胴体めがけて殴りかかる。

 

だが、見え見えの右フックは軽く体を反らすだけで避けられてしまった。空振りした勢いを生かして後ろ回し蹴りもするが、これも腕でガードされてしまう。

 

回し蹴りをガードされたWは蹌踉めき、態勢が崩れてしまう。

 

それでも隙を最小限にまで抑えて立ち直ると、今度は正拳突きを放った。

 

だが、これも紙一重で躱されてしまい、拳は空を切り、勢いに乗った体が前に投げ出されてしまった。

 

この隙を千冬は逃さなかった。

 

 

「食らえ!」

 

 

吸い込まれるようにWの腹部へと放たれた鉄拳を阻む物は無く、ようやく、ようやくそのボディに傷を付けることに成功した。

 

 

「グァ!」

 

 

甘くなったボディに一撃を受けたWは、殴られた箇所に火花を散らせつつ白煙を上げて後ずさる。

 

千冬は追撃がてら頭部に一発軽いジャブを入れ、更にチャンスを逃すまいと拳を振りかぶった。

 

三発目も顔面めがけてパンチが来ると踏んだWは、顔前に両腕をクロスさせて三発目を防ぐ。

 

……かと思われたが、テンポ良くたたき込まれた二発目に比べ、三発目が異様に遅い。

 

 

「あ……?」

 

 

クロスさせた両腕を解き、Wはようやく現状を悟った。

 

三発目に振り上げた拳は嚇しで、本当の狙いは、腕をクロスさせて視界をシャットダウンさせたWから消え去り、背後に回る事にあったのだと!

 

だが、そこまで読めたはずのWは、先ほどまで千冬が佇んでいた位置を中心にキョロキョロと見回すだけで、90℃前方しか探そうとしていない。

 

一方、Wの背後に回った千冬は、こちらに気づく前にさっさと勝負を付けるべきだと、手にした刀を背中に振り下ろそうと上段の構えに入った。

 

Wがどれだけ堅いのかは、銃弾を手で弾いた光景が脳裏にちらつくくらいには理解しているつもりだ。

 

それでも相手の中身は人間。ISの絶対防御の様に生命安全装置が無いのでは、首を切りつけたらそのままスパーンなんて事態になりかねない。

 

だからこそ、背中に狙いを絞った上段からの斜め切りだったが――――これが完全に裏目に出てしまった。

 

 

《ルナ!》

 

 

《メタル!》

 

 

手応えが無い。いや、ある事には有ったのだ。

 

だが、刀に体重をかけてもピクリとも動かないし、何かを切り裂いたような感触とはまったく別物の、まるで鉄に鉄をぶつけたような鈍い衝撃が腕を伝わった。

 

よく見ると、Wの左半身が銀色に変色しており、背中に振り下ろした刀は彼の背負っていた鉄の棒とぶつかっていたのだ。

 

 

「だろうと思ったぜ」

 

 

ハッと千冬は気づく。Wは自分の姿を見つけられなかったのではない、見つからなかったフリをしていたのだ。

 

Wは斜めに背負ったメタルシャフトの下と上の両方を掴んで持ち上げ、乗っかっていた刀ごとISの腕を上に持ち上げると、クルクルと回転しながら立て続けにメタルシャフトの乱打を浴びせた。

 

二度、三度、千冬はしなやかに曲がるメタルシャフトで無防備に殴られるが、四打目辺りで腕でガードし、八打目でなんと――――宙へと逃げた。

 

 

「おいおい、空は飛ばないんじゃなかったのかよ」

 

「どういう意味だい?」

 

「戦う前に、俺達へのハンデとして空は飛ばないっつったんだ」

 

 

Wは基本的に空を飛べない。翔太郎から仮面ライダーとはどういった物なのかと簡単に聞いていたからこそ、空中からの攻撃は有利に働く戦法だったが、試合前の完全に舐めきっていた千冬の台詞が、彼女自身を縛り付けていた。

 

つまり空を飛ぶのは奥の手も奥の手、最悪、使わないまま試合を終わらそうとしていたのだ。

 

しかし、彼女は空を飛んだ。一方的に自分から縛った鎖を振り解いたのだ。それが意味する所はつまり……。

 

 

「千冬女史が事前にそう言ったのならば、僕たちは完全に優位に立っているという事になるね。彼女は規則、制約、人の信頼に関わる行為には厳しい女性だ」

 

「まぁ約束っつーか、奴さんが勝手に言ったんだけどよ……」

 

 

フィリップの言う通り、他者との人間関係を大事にする千冬は信頼を守るため、こと約束には堅持な人間だ。

 

だが、彼女を取り囲む人間は勝手に期待し、勝利という結果を常に求めている。

 

千冬は千冬で、プライドにかけてその期待に答え続けなければならない。

 

だからこそ、一方的に提示した条件を、翔太郎に掲げていた威厳を捨ててまで勝ちを拾いに来たのだ。

 

 

しかし、千冬が「空を飛ばない」と言った後に、翔太郎は「やりようがある」と返していた。

 

 

これをぬかりなく覚えていた千冬は、空へと舞い上がると刀を構えて停空する。

 

彼女の脳内には、先の戦闘で現状と似たようなシーンがフラッシュバックされていた。

 

Wから数十mの距離を取り、絶対に攻撃圏外へと離れたはずだった自分をルナ・ジョーカーの力で捉えられたシーンだ。

 

Wの「やりようがある」とは即ち、あの腕が伸びる力だろうと目星を付ける。

 

最初こそは避け方を違い、良いように弄ばれてしまったが今度はそうはいかない。

 

腕が伸びてきたら捕まる前に切り裂けば良いのだと意気込み、刀を手にして舞い上がったのだ。

 

これまでの機動能力の差を生かした攻めの姿勢とは違う。今度は後手に回る受けの姿勢だ。

 

 

「だが、この状況はよろしくないね」

 

「空を飛ばれた以上、さっさとこいつで決めるしかねぇな」

 

 

Wは、刀を構えたISを見上げながら、焦らずにダブルドライバーの上部を両手で押し込み、メモリスロットを閉じてメタルのメモリを抜き取った。

 

そして新たに取り出したトリガーのメモリのスイッチを押し、空いたメモリスロットに入れ、メモリスロットを開こうとする……が、フィリップの右腕によって制されてしまう。

 

 

「待ちたまえ翔太郎」

 

「あん?」

 

「ルナトリガーの威力では心許ない。言ったろう?手加減している余裕なんか無い。仕留めるなら確実に、だ」

 

「あぁ……。だったらアレだな」

 

 

フィリップは翔太郎に考えが伝わったのを確信すると、掴んでいた左腕を離し、右手でルナメモリを抜き取って、新たに取り出した赤いメモリのスイッチを押してメモリスロットに入れる。

 

Wドライバーに赤・青のメモリが刺されると、ようやくWドライバーを両側に開いた。

 

 

《ヒート!》

 

 

《トリガー!》

 

 

右半身が赤、左半身が青。

 

銃と熱の攻撃的な記憶が込められたフォーム、ヒートトリガーだ。

 

トリガーの名の通り、トリガーマグナムと呼ばれる小型の銃を所有し、専ら得意とするのは遠距離戦。

 

しかし威力は侮る無かれ、今のWが持ちうるどの形態よりも、群を抜いて最大の火力を誇るフォームとなっている。

 

Wは胸に装着されていたトリガーマグナムを手にし、ベルトからトリガーメモリを抜き取ると、銃身の半分を折り曲げてマキシマムスロットに差し込んだ

 

 

《トリガー!マキシマムドライブ!》

 

 

ガイアウィスパーが流れると、Wは銃口を持ち上げて銃身を元の形に戻し、両手でトリガーマグナムを支えて、宙に浮いている千冬に銃口を向ける。

 

牽制の遊び弾は一切無し。本気の一発勝負だ。

 

 

「銃だと!?くそっ、さっきの黄色じゃないのか……!」

 

 

千冬は三度目の変色をしたW観察していたが、こちらに向けられた銃口に、ようやく自分の置かれた立ち位置を察した。

 

銃を持った相手に対抗する手段は二つ。

 

こちらも銃を使うか。

 

接近戦へと持ち込むか。

 

 

(今から銃へと持ち替えて応戦するか?)

 

 

Wはこちらへと銃口を向け、今すぐにも引き金を引こうとしている。

 

ダメだ、刀からの銃への持ち替えモーション中に撃たれでもしたら一環の終わりだ。銃への変装は間に合わない。

 

ならばと、千冬はもう一つの可能性に賭けた。

 

刀の刃を下に降ろし、出来る限り空気抵抗を減らして加速してWめがけて突っ込んでいく。

 

 

接近戦だ。

 

 

戦闘慣れした人間ならば、向けられた銃口から着弾ポイントを割り出し、発射のタイミングに合わせて避ける事が可能だと言われている。

 

LoLで例えるなら、Threshを相手に盾にしていたミニオンが全滅しそうな場合(あ、大体このタイミングで碇が飛んでくるな)と判断して、左右にチャンピオンを動かして避ける。そんな感じ。

 

しかもトリガーマグナムの見た目はハンドガンタイプ。

 

人でも取り扱える大型な銃(パイファー・ツェリスカ)の口径が28mmだとしても、銃弾をギリギリのラインで、動作も最低限に留めて避けられると判断したのだ。

 

銃を構えられ、引き金を引かれるまでのほんの僅かな時間に計算を叩き出すと、勢いよく加速してWに急降下した。

 

不利な立場に追いやられている人間の思考でここまで冷静な判断を下せるのは、流石人類最強の女性と謳われただけある。

 

 

WもWで自分達めがけて急降下してくる千冬に動じず、しかし二人の呼吸を合わせようと熱を込めて必殺技名を叫んだ。

 

 

「「トリガー・エクスプロージョン!!!」」

 

 

 

(ここだ!)

 

 

 

カチッと引き金を引く音がすると共に、銃口から体を反らし、それでも勢いを殺さないよう右斜めへと移動しつつ、束を握り直して刀を振りかざす。

 

 

――――瞬間、千冬の視界は真っ赤に染まった。

 

 

何が起きたのか、どんな攻撃を受けたのかを理解する間も無く、電子音を立ててシールドエネルギーがゴリゴリ削れて行き、勢いを失ったISは地面へと墜落していく。

 

 

避けたタイミングは完璧だった、カウンターを入れる準備も出来ていた。

 

 

だが、今回に限って言えば、それらの人間から逸脱した化け物じみた思考回路が仇となった。

 

 

いや、彼女も所詮は人間だったのだ。

 

人間は窮地に陥ると、常識と現実を照らし合わせて最良な答えを導き出そうと探る。

 

千冬が取った行動は、そうした思考回路が背景にあってこそだ。

 

 

たった一つ、Wが放ったのは銃弾ではないという点を除けば、彼女の取った行動は、最善のそれだったのだ。

 

 

Wの銃口からは、千冬が避けようとした銃弾の大きさを遙かに上回る範囲で火炎が放射された。

 

『熱』と『銃』の二つを持ち合わせているWだからこそ出来た必殺技だ。

 

『マキシマムドライブ』と呼ばれる必殺技なだけだってWへの負担も大きいが、威力は申し分ない。

 

かつて、ドーパントと呼ばれる怪物を跡形もなく溶かしたこともあるくらいだ。

 

 

「まだだ……まだ……終わってない……負けてない……!」

 

 

しかし驚くことに、千冬は苦しそうに呻き声を上げながらも、がらくた一歩手前まで半壊しているISの上体を起きあがらせた。

 

火炎放射がそのまま彼女を襲うこと無く耐え抜いたのは、ひとえにISの絶対防御とシールドバリアのお陰だろう。

 

そのお陰か、ISのあちこちが融解し、吸い込むのを躊躇うほどの悪臭がアリーナを包むほどの現状だ。

 

にも関わらず、彼女の闘志は燃え尽きていなかった。

 

だが、誰が見てもボロボロのボロボロ、なぜISが動けるのか疑問に思うくらいだ。

 

敗北は免れない。

 

 

「千冬様が負ける……?」

 

「そんな……これは夢よ……悪い夢だわ……」

 

 

第一回IS世界大会モンド・グロッソの優勝者にして世界最強のIS操縦者であり、女性の憧れの象徴的存在である千冬の負けに、周囲の観客達は驚きを隠せなかった。

 

公式戦では無いものの、彼女達からしてみれば織斑千冬の敗北は悪夢そのものだ。

 

そも、世界を震撼せしめた天下のIS操縦者とは言えど、使用しているISは第二世代。使用する武器、シールドエネルギーの残量、シールドバリアの耐久性、ありとあらゆる機体性能が専用機の水準を大きく下回っていることは周知の事実。

 

だがそれでも、そのハンデを背負っていたとしても、彼女が勝ってくれると誰もが信じて疑わなかったのだ。

 

だからこそのどよめき。だからこその困惑の色。

 

 

「男の癖にナマイキよ!」

 

「よりによって男が千冬様を……許せない!」

 

 

だからこその女尊男卑の価値観の揺れ。

 

当事者である千冬も戦う意思をねじ曲げず、こちらを睨み付けていた。

 

 

「……織斑さん、勝負は付いた」

 

 

 

そんなのは誰よりも千冬が一番理解できているだろう。

 

彼女は悔しそうに歯ぎしりし、最後の最後まであがこうとISを操作するが、思うように動かない。

 

そんな彼女に、無情にも最後の一撃を放とうと銃を構えるWは、引き金に指をかけて――――。

 

 

 

 

 

 

保健室の安楽椅子に体を預け、先ほどまでWとして戦っていたフィリップは目を覚ました。

 

精神をソウルメモリに入れ替えたフィリップを、今も心配そうに見つめる山田真耶がかけたであろう毛布を半分に折り畳み、足かけにして体を起こすと、彼の腹の上に置かれたISの教本を手に、何事も無かったように読み進めようとしていた。

 

だが、隣のベッドに腰掛けていた真耶が、フィリップを呼び止める。

 

 

「フィリップ君!」

 

「なんだい?山田女史。僕はまだ続きを読み終わってないんだが……」

 

「心配したんですよもう……急に倒れちゃうんだから……」

 

「やれやれ……昨日、僕はしばらく意識をこっちに移し替えると説明しただろう?」

 

 

ローブのポケットからサイクロンメモリを取り出し、トントンと人差し指叩くと、ローブのポケットへとしまった。

 

 

「でも、何回呼びかけても起きないから……私心配で……」

 

「ハハッ。君は心配性だね、僕はこの通りピンピンしてるよ」

 

「でも無事で良かったです……。あ!そういえば試合の結果はどうなったんですか?」

 

「結果?あぁ……。勝負は引き分け、今頃はそういう事になっているだろうね」

 

「ひ、引き分けですか……?私てっきり……あっ」

 

 

引き分けというワードに、意外そうに顎に人差し指を当てて、フィリップ達が負けるのではと紡ごうとして、慌てて口を押さえた。

 

が、遅かった。

 

フィリップは呆れながら首を振ると、教本に目を落としながら「ナンセンスだ」と呟く。

 

 

「山田女史、昨晩僕が宣言しただろう。専用機で戦わない限り、織斑千冬は僕らに勝てないってね」

 

「それはそうですけど……。じゃあ、フィリップ君達は引き分けに持ち込むまで善戦していたのですか?」

 

 

あの織斑千冬相手に意外だ。と告げ足そうとした口を噤み、意外そうに聞き返す。

 

だが、返ってきたのは意外な反応だった。

 

フィリップは鼻で笑い、教本のページを一枚捲ったのだ。

 

何に笑ったのか分からないが、何が可笑しいんですかとほっぺを膨らまして山田は怒る。

 

 

「いや済まない、僕たちは確かに善戦していたよ。だがそれは織斑千冬も同じだ」

 

「へ?」

 

「そもそも、試合そのものは僕たちの勝利だったんだけどね。でも、僕の相方は生涯半熟卵な翔太郎だ。織斑千冬の置かれている立場に情をかけて、『自分達の負けだ』と公言したら変身を解いたんだよ。今頃、潔く負けを認めようとする織斑千冬と言い争って、折り合いに引き分けを選ぶだろうね。だから試合結果は引き分けだ」

 

「情をかけられた……?え、勝利目前だった?織斑先生相手に?しかも引き分けになったんじゃなくてフィリップ君達の勝ちを譲って引き分けにした?」

 

 

真耶は自分の空耳かフィリップの虚言かのどちらかとしか思えなかったが、矢継ぎ早に投げかける質問に一つ頷くだけのフィリップを背にすると、信じられないと口にしてアリーナへと駆けだした。

 

しかし、アリーナへと到着した彼女が真実を目の当たりにすると、そこで意識が途絶え、数人の生徒によってフィリップの横のベッドに運ばれたのだった。

 

教師であるはずの彼女が、生徒達に布団と心配をかけられる彼女を横目に、フィリップはこう評価する。

 

 

 

「面白い人だ……。少し興味が湧いたよ、山田女史」

 

 

 

この後、真耶を運んだ女生徒達に取り囲まれ、顔を赤らめてキャーキャー言われながら可愛い可愛いとパンダにされる事も知らずに…………。

 

 




ちなみにIS側の時代設定はワンサマーさん入学の3ヶ月前、W側は本編終了後となっています。

正直、設定などはそこまで凝って作る予定は無いです。(無いです)

他のクロスオーバーも早く書きたいからね。仕方ないね。

ま、次は何を書こうかまだ決めてないんすけども。
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