Justice中章Ⅱ:蠢き轟く脅威と去り逝く者達   作:斬刄

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4話急がば回れ(レイナーレ・士郎ルート)

 

12/4 8:00

 

ホテルにある朝のバイキングを済ませ、全員でレイナーレの部屋へと移動していた。

 

「ホテルの朝食、結構おいしかったね」

「そうね、八江ちゃんとミッテルトの二人と一緒にケーキお代わりしてたものね」

 

八江、ミッテルトとさやかの3人は美味しい物欲しさで色々と皿に盛っていたことを思い出し、恥ずかしげに目を逸らす。

 

「まぁ…休む為に宿泊したんだから、それくらいのことで気にしないわよ」

「あ、うんっ。そうだったね」

 

レイナーレの部屋に到着すると、海鳴市の地図を持っている士郎が広げて机に置く。

 

「それじゃあ本題に入るわよ。私達が今いるのはここのホテルで、ここからフェイトの家近くにあるバス停まで行くことになるのだけど」

「…またさっきみたいに、戦うことになるんだろうな」

「昨日と同じように少しずつ距離を詰めて、別のところでもう一泊するわ」

 

今回も、移動中での戦闘は避けられない。

バス停に向かうだけでも戦闘と罠を突破しなくてはならない。仮に強引に合流場所へ向かい、正輝達に合流するとなると必ず邪魔が入る。

 

何連戦も戦えば疲弊し、合流するまでの持久戦のこと、その上で八江を庇いつつ戦うとなれば長時間待ち合わせ場所に留まることはできない。

 

「あ、そうだっ…!アタシからも言わなきゃいけないことがあったんだ‼︎」

「何か言い忘れたことがあるの?」

「士郎さん、ちょっとマーカーある⁉︎」

 

さやかは士郎からマーカーを貸してもらい、そのまま地図に記入していく。

 

「えっとね…これをこうしてっと。

宿泊中に水分身を偵察に向かわせたりしたんだ。今書いたところは私が偵察に向かわせた場所だよ。

 

蛇口とか、マンホールの下水道から移動してる」

「…匂いとかつくんじゃないの?下水道から通ったのなら、当然汚れてるでしょ」

「匂いと汚れとか不浄物は魔法でどうにかしてくれるって。

 

あと、下水道には罠は貼られてなかったよ」

「そんな所まで調べることができるんですか…」

 

さやかがしてやったって顔をし、聞いていたレイナーレは微妙な反応をする。

 

「調べるも何も…不衛生過ぎて、通る人もいないから罠を張らなかったんじゃないの?」

「そうとも限らねぇぞ。

通路どころか根城にする奴だっているからな」

「へぇ〜そんな人もいるんだ…」

 

ランサーや士郎達のような聖杯戦争の知識では大抵の魔術師は直接的な戦闘を避け、使い魔を使役しつつ魔力を温存する為の隠れ蓑を探し、拠点にする。大きな霊脈の上から市内全体の人間から魔力を集める寺があれば、教会のような霊的なものから防ぐ結界もある。

 

 

対して下水道はそのどちらでもないが、人目につかず隠れる場所としては使われ、更には拠点にしやすいよう魔術で改変される事もある。

 

「下水道に罠が張られてないってことは、罠を張った張本人もそこにいないの?」

「あんなデカブツを動かせるとしたら、広くねぇと無理だろ。タレットやら小型ドローンとか、人型の兵器を使ってんならともかく戦闘ヘリやら、大型無人機のデカブツを何十機か投入してばかりだからな。

 

下水道に罠を張ってねぇのは、単に俺達がその場所を通るなんて考えずに、街中で十分だと考えてなかったとかなんじゃねえのか?」

「機械に指示送るにも電波が通らなかったとか?

場所によってはさ、電波が繋がりにくいとか」

 

巨体ロボばかりが襲ってきているが、罠や小型の機体を下水道に設置されてもおかしくない。

1stがもし機械を電波で操作のなら、後者が正解だろう。

しかし、今は無人機を仕向けた人を探すのが優先ではない。

 

「その話は、また後にしなさい。

それで、貴方が向かわせた水分身達は正輝と接触することができたの?」

「うーんっ…3人くらい行かせたんだけど、昨日より全く容赦しないっていうか。

全然通らせてもらえないんだ」

「いくら少女でも…分身は例外ってことね」

「まぁそうなっちゃうかーって思ったよ。分身が大丈夫なら、正輝さんでも同じ方法をしそうだし」

(つーことは、下手したらルーン魔術を使った探索も、探知されてたってわけか)

 

さやかが笑って話しているのをランサーは聞きながら、そう思った。これで何処の場所でも、姿を隠しても気付かれてしまうことが判明した。

 

「分身が無理なら、変装のような外見を装ったりするのも不可能みたいね」

「それも試したよ。でも、すぐバレてさ…上空からビーム砲とか、掌から赤い波動を放つ特殊な機体まで出てきたし。

ホント幼女以外の敵は躊躇なかったなー。

ハハっ…とにかく、私達が待ち合わせにしてるバス停が中心として…バス停の東と北側へ私達が進むんなら近道できるけど、かなり危険な無人機と罠が仕込まれてるから通らないことを勧めるよ」

「うげっ…マジで容赦無ねーっスね…」

 

遠い目をしながら気力のない声で偵察結果を報告する。1stのシステムが本人ではなく分身だと認識し、躊躇なく攻撃するように組み込まれている。

街中に罠を仕掛けている1stが、容姿を隠したり、欺くことを許さずに徹底して調べている。

 

「逆に、正輝達のいるマンション周辺に強力な機体が設置されているんじゃないのか?」

「そうかもしれないわ。

さやかの話が本当なら、家に近づくだけでも大変そうね。今日のところは、なるべく近くまで進むことを考えないといけない。

 

ただ、どうにか接触して連絡できるようになるまで近づけれるかが…」

「待ってくれ。さやかちゃんだけじゃなくて、俺からもみんなに伝えなくちゃいけないことがある。

 

連絡のことなら、俺がどうにかしたから安心してくれ」

「どうした、坊主?」

 

今度は、士郎が手を挙げる。

彼もさやかと同じ、何か言いたげな顔をしていた。

 

「安心って…私達の持っている携帯は連絡出来ないようにされてるのよ?

さやかの念話が可能な範囲でないと不可能よ。

 

それとも他の人に借りたり、公衆電話とか使って連絡するの?」

「違う、そうじゃないんだ。

今から取り出すよ」

 

士郎は自分の右ポケットからある物を取り出す。彼は以前持っていた携帯とは違う別機種のものを取り出し、全員に見せた。

 

「それ…新しい携帯電話?私達が所持した物には繋げれなかった筈だと思うんだけど」

「いや、他の人が持っていた携帯電話を投影して密かに連絡しようと試みたんだ。

何とか繋げることには成功して、こっちの現状を伝えることはできた。

 

正輝には『何時だと思ってんだ』って怒られたけどな…」

 

携帯電話は、一般市民が手に持っていたものを見て投影魔術で作り、正輝に連絡していた。

ある程度の動向を見られている以上は公衆電話やホテル内の電話、自分達の持つ携帯電話は妨害されてしまうが、民間人の携帯電話を使って連絡しているのなら1stの包囲網に気づかれない。

 

「さやかは水分身を向かわせて、士郎は深夜に携帯電話の作成を試みたのね…もう早く寝なさいって、私全員に言わなかったかしら?」

「深夜の時間帯なら出来るかなって…悪い、声をかけるべきだった。正輝にも、申し訳ないことしたなって思ってる」

「あーうん…アタシもやる前にみんなに言うべきだったよ。ごめん」

 

さやかと士郎の二人が勝手に調べ、もう実行してしまったのだから怒っても仕方がないと、レイナーレは溜息を吐く。

 

「動きたいならランサーとか、私にも一言かけなさいよ…それで、どれくらい近くなったの?」

「このホテルからマンションまで7kmくらいだそうだ。今回は襲われなかったから良かったけど、また更に近くに泊まるのは流石に危険過ぎないか?

 

今日、合流するのも危ないのは分かなくもないけど…」

「さやかの偵察した場所に危険な罠があるのなら、無理でしょ。少しずつでも近づいて、徒歩でも問題ない距離になってから。

 

 

あぁそれと…あの無人機も罠も置かれてない下水道なら安全だから通るとか言わないわよね?

絶対に却下よ」

「えっと…うん。

流石にアタシもそこまでは考えてないかな」

「俺はそこまで気にしねーが、その様子だと下水道は無しに決定だな」

 

無人機に襲撃されない上に安全が保証されてたとしても、不衛生な所へは行きたくない。ランサーは霊体化して移動することも可能だから気にしなかったが、それ以外は嫌そうな顔をしている。

 

「ホテルを出たら、昨日と同じように外へ出て…街を移動するわよ」

 

*****

 

12/4 13:00

 

昼飯は既にホテルでサンドイッチを購入し、休憩を挟んで移動していた。

家近くに出没した強力な無人機達との戦闘を避け、徒歩で遠回りしつつ全員で周りを見渡していく。

 

レイナーレ達は遠回りし、狭い道へ移動すると無人機が出現した結界とは少し違うようなものが張られる。閉じ込められたことで戦う準備をしたが、さっきまでとは異様な空間感じる。

今までとは違う結界が、展開されていた。

 

「無人機じゃ…ない?」

 

1stが仕掛けたものなら無人機やタレットが所々に出現し、狙い撃ってくるばかりだと身構えていたのに全然出てこない。

目の前に出てきたのは、異様な化け物達だった。

数匹もの液状のスライムや大きい蛙が頭上から落下し、地上には山賊のような格好と棍棒を持った青色の豚が6体出現する。レイナーレを見つけたと同時に、棍棒を持ちながらも早歩きして迫って来る。

 

「…あれって敵なの?」

 

青い豚ことボコブリンが高く飛びかかり、持っていた棍棒をレイナーレ達に向けて振り下ろした。

 

「アァァッガ‼︎」

「うわっ、攻撃して来た⁉︎」

「敵って事で良いみたいっスね!」

 

まずレイナーレとミッテルトが光の槍を投げ、爆発させてボコプリン3体を吹き飛ばす。液体の化け物であるスタチューも襲いかかってきたが、ランサーの薙ぎ払いを一撃食らっただけで倒される。

 

「なんだコイツら…」

「上から新手が来ます!」

 

最初にいた敵を全て倒すと、今度はライガを掴んでいるグリフォンの群れとモリブリンを持つ大きい鳥のカーゴロック、プロペラの羽をつけたピーハットが飛んでくる。

モリブリンとライガが地上に下り、ランサー達を襲撃する。

 

「ちっ、見たこともねぇ化け物が続々と沸いて出て来やがる。魔物か…?

とにかく飛んでいる敵は堕天使の嬢ちゃん二人に任せるぞ」

「それにしたって、数が多いわねっ…⁉︎」

 

ミッテルトは光の槍を線香花火のように爆散させ、複数もの針が魔物達に突き刺さっていく。

光の槍は悪魔だけではなく、魔物にもまた効果は絶大だ。

 

それが針となると威力は衰えるが、広範囲に散りばめられる事で何体かは飛行しきれずに墜落し、消滅した。

敵一体一体はそこまで強く無いが、とにかく数が多い。

 

「やりーっ!」

「さやかは八江ちゃんの側にいてくれ!

投影開始(トレース・オン)‼︎」

「私も手伝うよ!」

 

士郎は投影魔術で干渉・莫耶を形成し、八江に近づいてきた敵を反撃する。さやかは八江の側にいつつ、何本もの剣を周囲に出現させて、それらを投げ飛ばす。

 

グリフォンとは違い、何十体もいたピーハットとカーゴロックは光の槍どころか、矢と投擲された剣を受けただけでも倒せる。

 

「コイツら簡単に倒すことはできるけど、また増えてるし!」

「とにかく、八江ちゃんを守るんだ!」

 

レイナーレ達は、とにかく防衛に徹していた。

なるべく全員離れず、八江を中心に背中合わせに戦っている。

 

ランサーは、モリブリンとライガ達を相手に戦っている。薙ぎ払ったモリブリンの槍を飛んで避け、そのまま頭上から足で蹴り飛ばした。

 

(…コイツの攻撃、他の魔物に当たってねぇか?)

 

モリブリンの持つ槍の薙ぎ払いは、他のモリブリンだけではなく、他の魔物にまでその攻撃に巻き込まれている。

英霊で槍を使いこなしているランサーからして見れば、そんな隙だらけで拙い戦い方をしたらまぁそうなるだろと若干呆れ顔になっている。

ランサーは、モリブリン達よりも出てきた魔物の中で一番厄介なライガ達を警戒する。

 

(チッ…むしろコイツらの方を先に潰すか)

 

ライガはモリブリンの振り回しを見て、巻き込まれかねないと離れて動く。遠回りし、この場で一番弱い八江だけを狙おうとしている。

 

「囲まれてるっ…武器を持っていない八江ちゃんだけを狙おうと」

 

違いとしたら幼い少女にまで襲いかかっていることと、危険度が無人機よりもかなり低かったこと。

警戒していたライガを、ランサーがすぐさま撃破した。

魔物を数分で全員倒したことに一同、微妙な顔をする。

 

「なんか、呆気なく終わったね。

敵は多かったけど…一体一体が弱くなかった?」

 

敵を全員倒したと同時に結界が解除されると、さやかが拍子抜けしたような反応をする。

 

「俺達の実力なら、大したこと無かったってわけだな」

「良かった…」

「でも、俺達だからどうにかできて…無関係な人達がこれに巻き込まれたら殺されてるな。

こんなこと、時空管理局って組織が黙ってないだろ。

そういえばあの人達は今の現状を知らないのか?」

「仮に知って管理局が到着したとしても…この街に置いてある罠や無人機達を設置してる奴が絶対に介入を許さないんじゃないの?

…仮に知ってても、手が出せないわ」

 

無人機の結界だけではなく、魔物が出現するようなものまで仕掛けられていた。無人機以外のものでも反応するよう二重に仕掛けたにしても魔物が幼女、少女を襲っているのだから仕掛ける訳がない。

 

「さっき出てきたの…まるで魔物のように見えたが」

「まぁ人間じゃないとして、俺達のこと殺す気で襲ってきたもんな」

 

海鳴市のことをまだよく知らない不知火は、士郎に聞く。

 

「あの…この海鳴市は詳しくないのですが、元々は魑魅魍魎なところだったんですが?」

「この街はそういうところじゃない。誰かが持ち込まない限り、あんなのが蔓延るなんて事は絶対に無いんだ。

 

ただ管理局も来れない、あの無人機達を仕組ませた張本人もこんな罠は仕掛けない…ー体誰がこの罠を仕掛けたんだ?」

 

 

無人機以外の他に、魔物まで別の何者かがまた別の罠を仕掛けられている。

しかも、1stはそのことを気づかないまま。

無人機に子供に対する攻撃を無力化しているのに、子供まで襲う罠など仕掛けるわけがないのだから。

 

 

「誰が仕掛けたとかっていう話以前にさ…これって、かなりヤバくない?あの無人機達もそうだけど…さっきの魔物まで街中とか沢山出てきたらさ。

 

しかも、気づいたのがウチらだけとか尚更…」

 

 

 

ミッテルトの一言に、全員が沈黙する。

さっき出現した魔物達が突如現れ、海鳴市の民間人達を巻き込んで襲うことを考えたら。この罠が他のところに何十個配置され、それが起動するとなると混沌が起きるのでは無いか。

 

今やこの海鳴市は様々な罠が配置され、無法地帯と化している。

 

「…今の私達じゃどうすることもできないわ」

「あぁ、最優先は正輝達との合流だ。

その後に動かないとどうしようもない」

 

あの戦いで少し思い詰めたが、全員すぐに考えを切り替えた。

 

「私も…下水道には無人機はいなかったから調子に乗ってたけど、あんな罠を見て急に不安になったかな。

 

 

私の調べてない所に張られてるなら…流石に正輝達が無事だったら、このことも確認してるよね?」

 

さやかは朝に報告した時は上機嫌だったが、戦いを終えて急に不安になった。

 

*****

 

12/4 18:00

 

その後も道中に出てきた無人機やタレットを破壊しつつ遠回りをし、レイナーレ達は旅館に泊まり、一泊する。

 

「さやかが連絡網になるんだから、体調管理だけはしっかりするんだぞ。

俺は深夜に連絡しないと無理そうだし…」

「うん…とゆうか、私じゃないと無理っぽいよね」

「二人が突破口になるのだから、明日はお願いね」

 

今回は難しい話をすることもなく、次の日に正輝達と合流する為には準備を着実にするとして、その為にさやかの念話と分身が鍵になる。

彼女の力が必要不可欠として、今度こそ余計なことをせずに休むことに専念するようレイナーレはさやかと士郎の二人に伝えた。先日のホテルのように独断で探索することをせず、魔力を温存するようにとも釘を刺している。

 

 

夕食と温泉を終え、全員が10時30分まではゆっくりしたり、遊んだりしていた。

 

 

さやか、八江、ミッテルト、士郎の4人でトランプを用意しつつ、ブラックジャックをしている。士郎がオーダー役になり、3人にカードを配っている。

 

 

「ふぅ…疲れたわ」

 

レイナーレは椅子に背もたれし、自販機で買ってきたジュースを飲みながら3人が遊んでいるのを眺めている。

手札をよく見ると、ミッテルトは7・1・10の18でキープし、さやかは10・1・11と22で自滅している。八江もまたコールし、4のカードを引いたことで合計16だったのが20となる。

 

「よし、それじゃあ見せるぞ」

 

士郎は合計19でセーブしたままにしており、八江の一人勝ちになった。

 

「あーギリギリっすか」

「八江ちゃんの勝ちだな」

「良かった…」

 

八江も最初は士郎達のことも恐れていたが、今では笑顔を向けている。

3人が楽しく遊んでいる中で、不知火だけが遊びたいという気分になれずに自室へ戻っていった。

 

 

*****

 

彼女が、最初に宿泊した時に遊んでいたのは彼女自身の気を紛らわすためだった。正輝の仲間とは初対面であることから、納得はしたけど釈然とはしてない。

 

特に、堕天使と悪魔絡みに巻き込まれた時は彼らと関わって同行したら危ないんじゃないのか。

 

ーーーーこのまま事情を聞かされないまま敵味方の判断だけさせられて、しかも事情も教えてもらえないまま私刑を是とするなら、流石にレイナーレ達に敵視することはしなかったが、彼らを信用しきれないままランサーの二人だけで分断して行く事も考えていた。

 

 

その心配も杞憂に終わり、もう少しで正輝達に合流できることを喜ぶはずなのに、何故かできなかった。

 

夜空を見上げて、別のことで頭を悩ませていた。

 

「よう、こんなところで呆けてんのか?

マスター」

 

ランサーが気にかけ、不知火は彼に反応して顔を向ける。

彼女の顔は元気がなく、顔を見た後に俯く。

 

「悪いけど、貴方に私の悩み事を話したところで…意味なんてないわ。艦娘特有のことだから、一緒にいたランサーでも多分わからないと思う」

「悩み事ねぇ…俺は英霊で、マスターのような艦娘じゃない。艦娘特有の苦しみを、完全に理解して受け止めることは出来ねぇかもしれないが、誰にだって言わなきゃ分かんねーこともあると思うが。

 

ま、話す話さないはアンタに任せる」

 

ランサーにそう聞かれ、不知火は少し考えてから悩んでいたことを話した。今ここにいる艦娘は不知火のみで、話を理解してもらえる相手はいない。

 

「他の艦娘達のことを考えてたの…私は、こんな悠長にしても良いのかなって。私以外の艦娘も、同じ目に遭ってるってなると私だけが安心できる場所にいるから。

 

 

最初は知らない場所に飛ばされて、悪魔とか、子供を盾にしたりとか…無人機の軍団とか。

理解が追いつけなくて、深く考える時間もなかったから、その場に合わせて動いただけ。

 

 

私自身一体どうなるか全く分からなかったし、

私以外にも転移されてるから…同じ目に遭ってるんじゃないかって。

 

転移される前に襲撃してきた艦娘も、関与してないとは限らない」

「確かに、強制転移で俺達以外も移動したからな。恐れてるのは、他の艦娘がこの街で騒ぎを起こすことか?」

 

不知火は頷く。

他の艦娘が市民に危害を加えることが平気なら、同じく強制転移されてらんじゃないのかも。

 

「無人島にずっといた摩耶とか、五十鈴とか、朝潮とか、浜風も…大丈夫だと思いたい。特に提督から虐げられた艦娘は、提督と同じ人間っていう人種を憎んでる。

人間にだって良い人もいるけれど…それが割り切れずに襲うことだってある。襲ってきた艦娘達までも私達と同じ状況だとしたら、私の知らない何処かでこの世界へ転移され、誰かを無差別に襲うか…意味も分からずにあの無人機達に襲われて犠牲になってるかもしれない」

「なるほどな…あの無人島で起きた強制転移で他の艦娘達が知らない世界に放り出されて、訳も分からないまま蹂躙されて殺されたり、街の人間を襲うって心配してるのか」

「少なくともあの場で襲った人全員に、余裕が無かったわ。もし私達と同じ境遇なら当然…正常な思考はできるわけがない。

 

提督と同じ人間を敵視してるなら、手当たり次第に攻撃して加害者になることだって」

「…艦娘じゃなくとも、無人島には人間もいただろ。追い詰められたアイツらでも何ら変わらないんじゃないのか?」

「それもそうだけど…艦娘の方が艤装って兵器を持ってるから被害は大きい筈よ」

「仮に暴れてんなら、とっくにニュースになってるか、俺達みたいに結界に閉じ込められて何処かで戦ってんだろ。

んで、今頃は暴れた痕跡を抹消されてる。

 

知り合いの艦娘か、或いは無人島を衝撃した艦娘達が消されたかまでは分からねぇよ」

 

それを聞いた不知火は、青ざめた顔をする。

ニュースになってたら今頃各地で大騒ぎになっている。街の人達は何気ない日常を暮らしており、艦娘の情報は一歳出てきていない。

無人機に異端扱いされ、消されてる可能性の方を思い浮かんでしまった。

 

「そう…分かったわ。

知り合いだけとかなら、正輝に聞いたら分かるかもしれないかもね」

「ま、それはアイツに聞けばいいだろ。

正輝も深く関わってたんだ。

仲間だけじゃなくて、知り合いの安否のことも考えてるだろうよ」

(レイナーレと一誠のような堕天使と悪魔の一件もそうだが…艦娘のことも確実に絡みそうだなこりゃあ)

「なら、艦娘のことじゃないけど…街中に入って少しずつ落ち着いたけど、それが順調過ぎてて逆に嫌な予感がするの。

 

 

敵や罠もあったけど、問題なく突破できるものばかり置かれてる。私達を監視してるなら誘導されてるかもしれないって頭が過ぎてて。

私達はホテルに2回宿泊してたのに全く襲撃、してこなかったし…邪魔ばかりしてくるアイツらは一体何がしたいの?

 

 

合流を阻止したいなら、気が抜いてる所を叩く機会なんて幾らでもあった。私達を監視して、正輝達と合流したところを一気に狙おうとしてるの?」

 

不知火の質問にランサーが上を見上げつつ少し考え、彼女の質問に答えた。

 

「あー…そうだな。無人機を置いている奴は、もしかしたら対して難しいことは考えてねぇと思うぞ」

「え?」

「奴が策士なら、幼少まで危険に晒すような罠の設置もあるか徹底的に調べるんじゃねぇのか普通?さっきの魔物の罠だって、幼少を守ることが前提で動いてるなら看過できないだろ。

一時的とはいえ八江って子まで麻紀って男に襲われそうになった時、無人機が味方側になったくらいだ。

 

大体、集まった所を一気に叩くっつー考えなら、俺達が宿泊してる時点で襲われている。

確実に殺すことが目的なら罠に入ってきた連中の進行を邪魔して消耗させるより、刺客を何人か用意して安息の場を襲撃した方が、一番手っ取り早いからな。

それをしなかったってことは、下水道も路地裏も、館内のような狭い場所を仕掛けるとなると都合が悪いとか、敢えて俺達を泳がせてるってことはその気になればいつでも潰せるってことで軽く見られてるか、見下してるんじゃねぇのか?

 

俺達を羽虫と例えて、蜘蛛の巣を何重に用意しておけば悶えて苦しんで勝手にくたばるって。 

自ら出向く事なく、くたばってくれればな。

 

さっきマスターが言ったような、合流してから潰すってことはありそうかもな」

「相当舐められてるわね…」

「無人島みたいに追い詰められて弱った人を使わなっただけ、幾分かはマシだが」

 

正輝達に嫌がらせしたいだけで考えが浅いのか、それとも力を温存したい為に街の至る所へ適当に罠を張って害虫駆除したみたいに勝手に倒されるのを期待しているのか。

そこまで考えてないのだとしたら、その両方の意味を込めて邪魔されないように何重にも罠を設置したこともあり得る。

 

「ランサーは…明日のこと、どう思ってるの?」

「明日が慌ただしくなるって事だけだな。

考えることは、何が起きても心の準備くらいはしなくちゃいけねぇくらいだ。

明日以降の事も考えるってなると、仮に無事に合流したとしても今のやばい状況を終わらせない限り、安住の地は無いと思った方が良さそうだしよ。

当分、戦うことは避けられねぇ。

なるようになるしか言えんし、その場で起きたことに善処して最善を尽くすしかない。

 

ただまぁ目先に荒事が起きる可能性が高いって事が分かってるなら、それなりの心構えができる。その為にレイナーレって女が、もう一泊家近くに泊まろうって話をしたんだ。

 

堕天使の二人だけならともかく、俺があの坊主と知り合いだったのもある意味運が良かった。

 

俺が坊主を知ってなかったら、まだ状況だって変わってたかもしれない。一誠とアーシアだったか…?アイツらとのいざこざどころか、協力し合えるかどうかで、ここまで順調に合流することすら容易じゃなかったんじゃねぇのか?

 

最初は敵味方の区別がまだハッキリしてなかったからな。

下手したら俺達とあの堕天使の間に溝が出来て、もっと拗れていたかもしれなかっただろうしよ。

 

マスターも、正輝達と衝突してまでってのは考えてないんだろ」

 

二人が長々と話している途中に、誰かかの足音が聞こえる。話し声が聞こえ、ミッテルトとさやかが喋りつつ、ランサー達の元へ向かっていた。

 

「おーい二人とも、私達もう疲れたから寝るからね〜」

「ふわぁぁっ…レイナーレ姉様から今日の散策は絶対しちゃダメだからすぐに寝ることっすよー!」

「おう、お疲れさん」

 

ミッテルトが欠伸をし、さやかが遊びすぎて疲れた声を出して伝えていた。ランサーが返事をして、聞いた二人は部屋に戻っていった。

 

時計を確認すると既に夜の11時になり、もう寝ないといけない時間帯になっている。

 

「…そろそろ、寝ましょうか。

色々と考えるのも疲れた」

「そうしろ。俺はまだ起きておくから、マスターは明日に備えて寝とけ」

「うん…」

 

不知火は布団に潜り込み、そのまま深い眠りにつく。ランサーはもう1時間窓から外を見張り、問題がないことを確認をしてから眠りについた。

 

*****

 

12/4 11:00

 

麻紀は、1stにある提案を持ちかけようと電話していた。彼が綺羅と取引しているのなら、彼女を騙して加担してくれないかとお願いをしていた。

 

『どうしてアイツらを助けたのか知りたい?

しかも、綺羅じゃなくお前に加担しろって?

 

お前…僕に喧嘩売ってるの?君達は美樹さやかだけじゃなく、あの小さい幼少にまで銃口向けて、その上撃ってたでしょ。

撃ち殺そうとしてた時点で、お前と取引なんて論外なんだよ』

 

しかし、1stはキレ気味に麻紀の提案を断った。

街中へ逃げているレイナーレ達と、それを追っている麻紀達の一部始終を見ており、聞く耳を持つことはない。

 

八江を抱えているレイナーレごと殺そうとしていたことも、既に知られていた。

 

『そういうわけだから、手を組むなんて絶対に御免被るよ。

 

何処に隠居してるかは知らないけどさ、見つけたら叩き潰すから隅でビクビク震えながら待ってろよ、この命知らずが。

 

今こうして僕と連絡してる時点で、君のことを逆探知してるんだ。

この電話が終わったら、すぐ特定して潰してやるからな?』

 

自慢げに挑発されても麻紀は恐怖せず、動じない。麻紀は諦めたようなため息をつき、1stとの手を組むことを断念する。

 

「…なら、君は誠司って人を覚えている?」

『は?誰そいつ?なのはちゃんとか、まどかちゃんのような少女とかは結構覚えるんだけど。

 

ソイツが綺羅に殺されて、それで恨んでるなら勝手にやってくんない?

名前からして男だよね?

てゆうか、最期の遺言がそれでいいの?

どーでも良い奴の名前なんて、一々覚えてられな』

 

死んだ親友のことを聞いたが、久野は無関心だったから返事の途中で電話を切った。麻紀が電話している場所は公園であり、その周囲には誰もいない。

 

「あぁ誠司…彼も駄目だったみたいだ。

頑張って準備しないといけないね」

 

麻紀は立ち上がり、公園近くにあった電柱に触る。その柱には大量に張られていたバーコードを眺めながら不気味に笑っている。

 

ーーーーたとえ1stに逆探知されたとしても、特定することは絶対に不可能だ。

【なぜなら、本物の海鳴市に彼はいないのだから】

 

 

 

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