Justice中章Ⅱ:蠢き轟く脅威と去り逝く者達   作:斬刄

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正輝の他に分岐ルートがあります。
正輝ルートの話も、調整の為にもしかしたら修正するかもしれませんので、悪しからず。
それではどうぞ。


1話一触即発[前](レイナーレ・士郎ルート)

 

12/2 午後20:30

 

「これは…見事に、分断されたわね」

「うぅっ、ここどこっスか?

波の音が聞こえるけど」

 

レイナーレとミッテルトが目を覚まし、あたりを見渡していく。まず月が見え、近くの灯台の光が港周辺を照らしている。

夜に港のような場所に寝転んでおり、耳を澄ますと海辺の音、空を飛んでいるカモメの声が聞こえる。

 

「んっ、つっ…」

 

そんな二人の側にもう一人、衛宮士郎が地面に仰向けで眠っていた。

 

「ちょっと起きなさい。起きてもらわないと…私達、ここがどこなのかも分からないのよ」

「あ、あれ…二人ともどうして外に出てるんだ?船に待機したはずだったろ」

 

士郎は、レイナーレとミッテルトの困った顔を見てゆっくりと起き上がっていく。

 

「確か、あの島で戦ってたはず」

「港なのかしら…転移されたみたいね」

「あ、3人とも起きたよー」

 

レイナーレ達よりも先に起きていたさやかが、誰かに伝える。

その声で、二人ほど近づいてくる足音がした。

 

「おう、待ってたぜ」

「ランサーか…その隣にいる子がマスターなのか?」

「はい、私が彼のマスターです。起きた時には皆さん気絶してたみたいで、私達二人はあそこの自動販売機にあるベンチで待ってました」

 

その証拠に、彼女は手袋を外して令呪を見せる。ランサー達は一緒に転移された彼らを移動させ、ずっと見守っていた。

 

「そこのさやかって青い子に色々と聞いたが、コイツらは味方ってことで良いんだよな?」

「ここにいる全員、正輝の仲間だ。

さやかちゃんも俺達のことを伝えてくれてありがとう」

「まぁこれくらい良いって、士郎さん」

 

三人が起き上がる前に、既にさやかがランサー達に諸々の事情を説明していた。不知火達の二人は、正輝側の事情をよく知らない。

 

「それでランサー、結局無人島にやって来たあいつらは結局何者だったの?

全員目覚めたのだから良い加減説明して頂戴」

「わーってるよ。

連中の目的は索敵と略奪、入ってきた連中はマスターと同じ艦娘…他は無関係な民間人か。

腰につけてあるベルトを身につけて変身させつつ、それを兵力にさせてたみてーだが…初っから真面に戦える状態じゃあねーなありゃあ。

襲って来た連中の一人から聞いた話だと、仕向けたのは正義側っつて言ってな。

その後に黒獅子ラルゴって野郎が急に割り込んできやがったから話の続きが聞けなかったが」

「それじゃあ、正義側の誰かが…あれをやったっていうのか」

 

民間人を利用して島を襲撃したことに士郎は右手を強く握りしめ、怒りを露わにしている。無関係な人達の弱みを握って、自分の利益だけの為に利用している。

 

「黒獅子ラルゴって何者なの?」

「あの連中の味方をしていたわけでもないが、俺の槍捌きを凌ぐほどの技量を持ち合わせている大鎌使いなのは確かだ。

 

 

で、話は逸れるが…そこでコソコソ隠れ見てるあの二人組はどうすんだ?

まだ気づかれてねーが」

 

二人は気配を隠しているつもりでいるのか、素人の隠れ方だったためにランサーにはすぐバレていた。物音を立てて気づかれたくないのか、二人はその場所から動こうとしていない。

 

「え、うっわぁ…マジ?」

「…これ、悪魔の気配ね」

 

ランサーの一言に、レイナーレとミッテルトはすぐに探知し、反応を確認して少し嫌な顔をしていた。

 

特に麻紀絡みでグレモリーとその眷属と毎度鉢合わせていたことが何度あったことか。

 

「悪魔?」

「ハァ…まぁ初めてだとそう言う反応をするわよね。

 

それ以上は話すのも長くなるから後にして頂戴。とにかく今は敵か味方で判断して」

 

レイナーレが自分達の事情を簡潔に伝え、不知火は納得する。

 

船内にいる仲間達はレイナーレ達の事情を知っているが、無人島組は何も知らない。

かといって、こんな場所で今までの事情を長々と説明している時間もなく、急いで正輝達と合流しないと危険だということは理解している。

 

「なら隠れ見ているのは敵ってことで良いのか?」

「少なくとも私達が感じ取れている悪魔なら、敵対しているグレモリー家の可能性が高いわ。

様子見してるっていうのなら、構える前に一気に畳みかけた方が良さそうね」

「アタシも賛成…かな。ただでさえ離れ離れになってるのに、そんな話し合える程の余裕は」

「正輝達と合流するのが最優先だけども、付けられたりでもしたら厄介よ」

 

レイナーレ達の感じた悪魔がリアス達だというのなら、すぐさま戦闘になる。

ここを離れるよりも、仲間を呼ばれる前に隠れ見ている者達を始末する必要があった。

 

「…で、でもリアス達って確か5人組だったはずだよな。

なんで二人しかいないんだ?

そのうちの誰かが何か事情があって抜け出したんじゃ…だったら話を聞くだけでも」

「無理よ。話自体も嘘で襲ってくる可能性だってあるわ。裏では目的の為に眷属が散り散りに動いてるのなら、馬鹿を見るのは私達の方よ。

 

それに正輝達の元に急いで合流しないと、いつどこで誰に狙われてもおかしくないもの。

今の私達に、そんな悠長なことをやってられない。

 

私達の敵だったのなら始末すること。

増援でも呼ばれたら尚更危険よ」

 

レイナーレが敵対している悪魔のことを説明している一方、ランサーだけが不可解な顔で釈然としていない。

 

「…まぁあの二人がオメーらの敵なのは納得した。が、増援つっても全く動いてないのは一体どういうことだ?

俺達を付けながら仲間を呼ぶにしたって、発見した事をすぐ呼び出さないのはどうにも引っかかるんだが」

「私達が気づく前から、もう既に報告しているのかもしれないわよ」

「だったら俺達がこうして話してる時間の間なら、とっくに仲間が到着してるんじゃないのか?

現に二人はその場に留まったままだ俺達を様子見て全くその場から動こうとしてないだろ」

 

赤の他人なら無視すれば良かったのだが、レイナーレ達が悪魔の気配を感じ取ったのなら一誠達でなかったとしても彼女達のいる世界の悪魔の可能性が高い。

 

「なぁ…どうしても話し合い、ってことは出来ないのか。

隠れてるのがリアス達ってわけでもないだろ」

 

士郎の提案に、まず最初に嫌そうな顔をしていたミッテルトが主張する。

 

「…ウチはレイナーレ姉様と同意見っス。

仲間呼べないなら留まるよりはさっさとウチらが逃げれば良いと思うし。

レイナーレ様とウチだけしかいないのならさっさと始末する方向で動いてるっつーの。

そもそもの話、なんでウチらが下手にでなきゃいけないわけ?」

「し、始末って…流石に早計過ぎないか。聞き出せば何か俺達に知り得ることもあるかもしれないだろ。

さやかちゃんも何か言って」

「残念だけど…今回ばっかりはレイナーレさんの言うことが正しいかな。

まどかやマミさん…他のみんなのことだって無事なのかも心配だし、そもそも私達にそんな余裕は無いと思う。

 

でも、アタシとしては捕縛してから後のことは考えて良いと思うかな…」

「…貴方達の判断に任せるわ」

「俺もマスターも、この通り二人が敵かどうかって話を聞いてもイマイチピンと来てない。

だが、いざそいつらと接触して俺達に攻撃するってことになったら…その時はマスターの命を最優先にさせてもらう」

 

始末するか、生捕にしてから後のことを考えるかで大半の意見が分かれた。

不知火はどっちつかずのまま他の全員に判断を任せ、ランサーもマスターの不知火と同じ意見であるが場合によってその二人がマスターに危害を加えることになれば、その時点で矛先をその悪魔二人に向けて構えることになる。

 

武器を納めて話し合いを設けるのは、士郎以外誰もいない。

 

「全員が全員、始末しなくちゃいけないってわけでも無いけれど…少なくとも隠れ見ている二人が危険だということが殆どよ」

「…それはそうだけど」

「正輝がここにいても、彼も私と同じ判断をしてると思うわ」

 

本当なら士郎が他を取りまとめなければいけないはずだったのに、正輝の側近であるレイナーレが士郎以外の全員の舵を取り仕切りつつある。

 

皆が押し黙り、レイナーレが溜息をついた。

 

「…もういい。美樹さん、ミッテルト…私達三人で確実に捕らえるわよ。

始末するのはその後でいいわ」

「なっ…⁉︎おい待てって‼︎何を」

「確かめにいくだけよ。

そいつらが敵かどうかちゃんとこの目で…」

 

士郎だけ置いてけぼりにされ、他の全員が別方向へ散る。敢えて隠れてる二人の元へ真っ向から行かず、正輝の教えの通りに3人は慎重に動いた。

 

*****

 

 

「はぁはぁっ…‼︎」

「な、なんとか無事逃げ切れましたね」

 

ブロンドの金髪色の少女と高校生の男子が二人手を繋いで走っていた。

アーシアは平気だっが、一誠は遠い距離を走ったマラソン選手のように息切れを起こし、落ち着くまで深呼吸を繰り返していた。

 

「…あぁ。ここまでくれば、もう大丈夫だろ」

 

そう言った瞬間に二人は、急に身震いが走る。

覚えのあるこの悪寒に、嫌な予感をしてしまう。

 

(堕天使っ…しかもこの感じ、まさか⁉︎)

 

一誠は壁傳に覗き見ると、忘れもしない黒髪の女に聞き覚えのある声。前にアーシアの神器を奪おうとした堕天使レイナーレがそこにいた。

 

(堕天使の二人だけじゃない。見知らぬ顔が二人も、そいつらも堕天使の味方か…⁉︎)

 

レイナーレと子生意気な金髪のツインテールに

赤髪の青年と水色髪の中学生くらいの女子の四人には以前見覚えがあったが、また新たにポニーテールのピンクの髪をした少女と青髪のアロハシャツの男がいる。

 

「レイナーレ様っ…」

「よりにもよって何でこいつらが…くそっ!」

(しかも、前に会った時よりも数段空気が重くなってやがる⁉︎)

 

悪寒がより増していることから堕天使の二人とは出会った時よりも強くなっていると実感し、一誠は冷や汗をかいていた。

彼らに、構っているほど余裕は無かった。

 

二人は麻紀達の元から離れ、彼の追っ手から逃げている、そうなった経緯は二人と麻紀以外誰も知らない。

 

「おい!待てって‼︎」

 

士郎の叫び声に反応し、再度隠れ見ると既に士郎含む3人が取り残されている。人数が減っていることに気づき、一誠は周囲を見渡す。

 

(目を離してる間にレイナーレがいねぇ…!

一体どこに行った⁉︎)

 

赤龍帝の籠手を出現させ、上を見上げる。

感じていた空気は更に重くなり、一斉の見上げた先には堕天使の二人が頭上を飛翔している。

 

「やばいっ…アーシア!早くここから逃げ」

 

声をあげて逃げるようにしても、すでに遅過ぎた。

視線をアーシアに向けたことで、レイナーレは光の槍を投げていく。

槍を破裂させ、二人を吹き飛ばしていくとさやかが魔法で水分身を何十人も出現させた。

 

「…悪いけど、声を出さないでね」

 

捕まえられて叫ぼうとしたアーシアはさやかに口を押さえられ、怯えながら素直に頷く。

 

「よりにもよって、また貴方なのね。

本当に…嫌な縁ね」

「レイナーレっ…!」

 

レイナーレと一誠の視線が合い、お互いを睨み合っていく。レイナーレが光の槍を爆発させたことで、その爆音の方に士郎達が集まった。

 

「3人とも、ちょっと…待てって言ってるだろ!」

 

走ってきた士郎が止めに入るが、3人は一誠達の拘束を解こうとしない。

 

「これって…敵ってことなの?」

「下がってな、マスター」

 

不知火は隠れていた二人をレイナーレ達が抑え込んでいる状況に困惑し、一方のランサーは前に出つつ私服を戦闘服へと変え、警戒する。

 

「…動かないでちょうだい。妙な動きをしたら、今度は至近距離で槍を爆発するわよ」

 

一誠とアーシアは、そのまま大人しくレイナーレ達の言う通りにするしかなかった。少しの間だけ睨み合いが続き、なんとも言えない空気が漂っている。

 

「えーっと、それで…取り押さえたのはいいけど、ここからどうするの?」

「情報を吐いてもらうわ。

何が目的で私達を隠れ見てたのか」

「ならその後は?

この二人を逃すってのはやっぱり…」

「絶対にダメ。特にコイツは赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)で倍化させるなら、尚更生かしておけないもの」

『Boost!!』

「5秒数えるから、今すぐそれをしまいなさい。抵抗するなら、右腕を貫かせてもらうわ」

レイナーレとミッテルトは念入りに何本か光の槍を出現させ、それを二人の周囲に突き刺している。

 

 

が、光の槍を消しつつ正輝に電話していたのが一人いた。

 

「それでいいわねミッテ…ちょっと、一体何やってるの貴方」

 

電話画面には、岩谷正輝と表示されている。

何をどうするかまだ目的が定まっていない状況で、士郎もミッテルトからしたら頼りがない。

 

だから、正輝にどうしたらいいか聞こうとしていた。

 

「…な、何って正輝に連絡を。

離れ離れの状況だし、あたしらが独断で決めても結局揉めちゃうし…コイツらもどうすれば良いかって」

「ハァ⁉︎なんで勝手に電話してるの⁉この状況をそのまま話したら、一体どうなるか聞かなくても分かるでしょ!」

「でもウチらさ…困ったことがあったら正輝に連絡するようにって」

「だったら、せめてアーチャーか士郎に相談し…そうだったわね」

 

困ったことがあるといっても、この状況をそのまま電話で報告するのは悪手過ぎる。士郎にも兼まとめ役に任せられることもあるが、一誠達を甘やかしてる時点で頼りづらかった。

 

「正輝に連絡してるのか?だったら俺に」

「士郎…貴方、上手いこと2人のことを伏せながら説明出来るの?」

「そりゃ説明くらいなら、俺にもでき」

「ただでさえ優柔不断で判断が遅かった貴方が…正輝に電話を代わったところで2人の事を伏せないどころか余計なことを言うでしょ。

 

正輝の側にいた私が対応するわ。彼も私の言葉を疑わずに信用させることもできるから」

 

本当ならこの状況でするのはアーチャーと凛の方が適任ではあるが、こうして正輝に連絡しているのならもう遅い。ミッテルトが士郎に交代しても、うっかり言いかねない。

彼が正輝に嘘をついて報告したとしても、信用できるかどうかも五分五分になる。

かといって、誰一人ミッテルトの携帯を取り上げようとしなかったのも落ち度があった。

 

側近だったレイナーレが代わりに電話をとることとなる。

 

「あのさ…このことを正輝に連絡したら絶対に不味いよね」

「間違いなく血眼になって私達を探すわよ。

美樹さんも…その二人が余計なことを言わないように口と体を縛り付けて頂戴」

 

二人の声が携帯の連絡で漏れないよう、口を塞いだ。2人とも暴れたりするが、さやかが謝りながらも水分身で押さえつけていた。

 

「んぐっ…⁉︎」

「ごめん、電話中はじっとしてて」

「押さえつけたわね…さっさと電話に出なさいミッテルト。

出なかったら逆に正輝に怪しまれるわよ」

 

ミッテルトはレイナーレの言葉に頷き、恐る恐る電話に出た。

 

『…もしもし、ミッテルトか。

無事だったんだな。

そっちが、かけてくれて助かったよ』

「ち、ちょっとレイナーレ様から話があるって、変わるっスよ」

『…?連絡用に携帯電話を持ってないのか?

まぁいい、俺の方も離れ離れになった全員に連絡したかったところだ。

レイナーレもいるのなら変わってくれ』

 

ミッテルトは、自分の携帯をレイナーレに手渡していく。一誠とアーシアが暴れている中、4人が喋らずに待っていた。

 

「今変わったわ…」

『レイナーレか、今そっちに誰がいるか教えてくれないか?』

 

レイナーレは転移されて以降の大まかな事情を説明していく。

港に転移されて、誰と合流したのかを話した。

そしえ電話する前から全員、港から出ることもなくその場に止まっていることを伝えている。

 

「…以上よ。

それで、私達はどうしたらいいのかしら?」

『とにかく今日は泊まれる場所を探せ。

俺含めて響とクリス、浜風の四人はフェイトの家にいる。

 

フェイトの家は引越しして変わっているみたいだし、敵に特定されるのは不味いから、とにかく家近くにあるバス停付近に移動すること。

まず、なのはの家に近いバス停を調べてほしい。暫くはそのバス停付近に俺のシャドーで散策させるつもりだ。

お前らを見つけたら、家に案内させて合流ってことにする』

「その方針で私達は動けば良いのね…そう」

『…おい、どうした?

随分声色が変だが、何か困ったことでもあったか?』

 

レイナーレは電話を切ろうとしない。彼女は横目で一誠とアーシアを確認し、報告するかどうか迷っていた。

 

瞼を閉じて、少し置いて返事を返す。

 

「……いいえ、ごめんなさい。

何も問題無いわ。

他のみんなにも、家のことを伝えるわ』

(なっ…⁉︎)

『そうか、じゃあ頼んだぞ』

「えぇ」

 

レイナーレは電話を切り、一誠が驚いた顔でレイナーレを凝視していた。

電話を切るとさやかは塞がれた口を解き、2人は息付きしていく。

 

「ゲホッゲホッっ…‼︎おい、一体どういうつもりだよお前らっ…!なんで俺達の事を隠して」

「…勘違いしないで。

正輝が暴走すれば、只事じゃ済まないわ。

私達はそうなって欲しくない…前の時のようにまたブレーキが効かなくなるのは」

「そんなのアイツが勝手にキレ散らかしただけじゃねぇか!テメェらの都合だろ!」

「…その都合で貴方達は生かされてるのよ? そもそも散々貴方が贔屓していたグレモリー家の娘と眷属が一緒にいないのは不自然なのよ」

「つっ…!」

 

特に一誠は、何があったのかを頑なに喋ろうとしなかった。ずっと睨んだまま、レイナーレの不可解な行動に思考を回している。

 

「…それで、これからどうすんだ。始末しないなら二人はこのまま置いておくのか?」

「そいつらは後回し。

家近くのバス停に合流するって話だったから、そのことで話しましょ」

 

正輝から指定した場所へ向かい、移動するだけだったはずが、面倒な2人と接触したことでこの場に留まっていた。

 

堕天使の2人のみの判断なら正輝の為に即切りするのは簡単だが、さやかや士郎、事情を知らないランサー達がいる以上は時間をかけて全員の納得できる対処を模索する必要がある。

先制攻撃をされたのならともかく、一誠とアーシアの2人はただ隠れ見てただけで、リアスの元から何故抜け出したのかも聞かされていない。

 

まず一誠達のことを省き、正輝の言っていた合流のことを考えていく。

 

「まず私とミッテルトが上空を飛んで移動なんてしたら…アーチャーに指摘された通り狙撃か、囲まれたところを滅多撃ちにされる。

 

だから、飛行はできても周辺を偵察するのは絶対に狙われるからアテにしないで。

私達が結界を張っても、感づくでしょうし」

 

空を飛んで合流地点へ辿り着けることは可能だが、移動中に狙撃されるのは目に見えている。

 

(警戒網が張られてなくて、堕天使の翼ができるのなら。

こんな2日かからずで合流できるのに…)

 

レイナーレは、通路毎の弊害がある所為で少し苛立っていた。

新しく入ってきた二人はともかく、それ以外は姿が割れているのだから、少なからず邪魔が入ってくるのは目に見えている。

 

「方針を変えて正輝とフェイト達に迎えに来てくれるよう連絡するとか?」

「それが出来ないから、正輝から来てほしいって言ってるんでしょ?もう一度連絡したとしてあんまり詳しく話したら通信を傍受されて、敵に待ち伏せされるから却下よ」

「タクシーとか、交通機関を移動するのは?

それならバス停まですぐに移動できるだろ。

流石に街のど真ん中で暴れるなんてこと」

「論外よ。1stって人の能力で交通整備を支配されたら、一瞬で囲まれるわよ。

 

大体、敵だって結界を張ってくるんだから車ごと巻き込まれて逃げ道を塞がれて不利よ。

敵組織にも敵味方問わず正義側を潰す為なら手段を問わない連中もいるのだから自分達が不利な状況を作ってどうするの」

 

今まで結界を張ってから襲撃してきたのは良く覚えている。違いは民間人を巻き込むか、巻き込まないかだけで結局戦闘になることに変わりはない。

 

「…じゃあやっぱり」

「徒歩で、バス停に向かうしかないわね」

「マジっすか、えぇ……まぁ姉様がそうするなら仕方ねーっすね」

 

ミッテルトがジト目で面倒くさそうな顔をしつつも、納得していた。かなり遠いわけでもないが、道中に邪魔が入ってくるのは間違いなかった。

 

「言っておくけど…二人を生かしたとしても、絶対に連れて行けないわ。

こいつら信用できないもの」

「そんなの、こっちが願い下げだ!

誰がお前らと一緒になんて!」

 

レイナーレがそう発言すると、一誠は嫌悪感を抱いて拒絶する。危なげな2人(特に一誠)を守りながら移動ようとすれば、いつ気が変わって騙し討ちをしてくるか分からない。

 

「な、なぁあんた達…何が理由があって逃げ出したんだ?そっちにいた当麻は、今どうしてるかも知っているか?

…船で起きたこと俺達に教えてくれれば、もしかしたら二人の力になれるかもしれな」

「話しかけてんじゃねぇっ‼︎」

 

今度は不安そうに士郎が一誠に話しをかけようとするが、一誠はレイナーレと組んでいる連中とみなして敵意を向けていた。

士郎が事情を聞こうとしても、聞く耳を持とうとしない。

 

「レイナーレと徒党を組んでるお前らなんかに話す事なんかねぇんだよっ!俺達を敢えて生かしたのも、悪巧みを企んでるんじゃねぇだろうな‼︎」

「そんなこと思ってない!俺達はただ上条達のことで」

「やめておきなさい…そいつらに何言っても無駄よ。あの日、火蓋を切った時点で話し合うことなんてもう不可能なのだから。

 

それに、このまま二人を正輝の元に連れて行けばどうなるかことぐらい分かるでしょ。

確実に正輝の逆鱗に触れることになるわよ」

 

一誠を連れてきたってことになれば、正輝の堪忍袋の尾を切ることになる。今の状況を収めるのも大変なのに、その上敵認定されてる二人を連れてきたとなるだけでも頭を抱えるのは今まで正輝達の船にいたレイナーレ達は目に見えている。

 

「それなら二人は置いていくのか?

ここにずっと長居しても仕方ねーが…もう二人は正輝んとこの電話で合流場所を聞かされている」

「…」

「このまま生かしたとしても、この二人が俺達の事を言わない保証だってない。寧ろ、怪我したフリをしつつ実は囮だったって可能性も十分あり得る。

 

これが聖杯戦争だったのなら二人から情報を引き出すよりは、俺達を目撃した以上は刺し殺すのが妥当だと思うが」

 

揉め事を黙って見聞きしていたランサーが口を開き、二人をどうするのを聞いていく。正輝から電話である程度の目的地を聞いただけで、まだ港を移動していない。

 

「この気配…まさかもう私達を探って」

 

そうこうしている間に、悪魔の気配が強くなっているのを感じた。

 

「アーシアを追いかけて来てみれば…堕天使レイナーレ。貴方もいるとは思わなかったわ」

「部長と朱乃さんに、子猫ちゃん!

俺達を助けに来てっ…⁉︎」

 

レイナーレ達は一誠達の事情をまだ聞き出せておらず、話に区切りをつける前に二人の追っ手が港に辿り着いてしまった。

 

三人からはレイナーレ達の他に、一緒にいる士郎達にも敵意を向ている。しかし、教会や試練編後でのいざこざの時は一誠達を含めて4人いたはずなのに一人、剣を持っていた金髪の少年が見当たらない。

 

その一方で、喋ってた一誠が途中で黙ったままなのは、麻紀も同行していたことに驚いている。

「…貴方、ナイトの子はどうしたの?」

「懲りずにアーシアを狙っていたのは本当だったみたいね…はぐれ悪魔を潜伏させて、連れ出そうなんて。

 

レイナーレと、他もいるなら生け捕りにするように言われたけれど。そうよね麻紀」

「そうだよ、感情に任せちゃいけない。

レイナーレと彼女率いる堕天使、その取り巻きは【今は生け捕りのみ】なんだから」

(…え、生け捕りのみ?)

 

レイナーレ含む事情を知っている士郎達は麻紀の言っていることに疑問を抱いていた。

 

前まで散々リアスの領地で暴れ、教会ではアーシアの神器を奪おうとし、彼女達に敵意を向られていたはずだというのに、生け捕りで済まされているのだろうかレイナーレ達だけではなく聞いていた一誠にも理解できなかった。

 

「麻紀、当麻達はどうしたんだ!」

「彼らに耳を貸しちゃダメだ。僕と神羅はあのはぐれ悪魔をやるから、他は好きにやってね。

 

二度大事なことを言うけど、生け捕りだから殺しちゃダメだよ」

「…私達を生け捕りして、どうするつもりなの?それとさっきからナイトの子はいないのって聞いてるのだけど?」

「君達も、もし気が変わって命が惜しいって思うならアーシアを引き渡してくれないかな。

両手をあげて、大人しく捕まってもらえたら嬉しいんだけど」

(私達の質問を返す気は無さそうね…)

 

レイナーレがいくら麻紀に質問しても聞く耳を持とうとしない。

お互い睨み合いを続けてる中、麻紀とリアス達の話を聞いていた一誠は納得できない様子で震えている。

 

「何勝手に話を進めようとしてんだよ…さっきからはぐれ悪魔を潜伏させたとか、レイナーレ達を生け捕りにするとか…!

 

そいつは俺を騙して、アーシアに酷いことをしてたんだぞ‼︎

部長達だって知ってるだろ!

何みんなして納得してるんだよ⁉︎」

 

一誠の言葉を聞いてもリアス達は視線を向けるだけの様子で、明らかに様子がおかしかった。ボロボロの姿をしているのに、助けに来たという感じでもない。

 

「おい、麻紀…部長達に何しやがった‼︎」

「はぁ…しょうがないなぁ。レイナーレ達を確保する前に、そこの喧しい偽者は消そうか。

それもここに来た目的だったし」

「そうね」

 

リアスが一誠に向かって滅殺の魔法を放つと、咄嗟の判断でレイナーレが光の壁で防ぐ。

呆然としていた一誠は、リアスが攻撃するだなんて思ってもない。

 

「貴方…自分の眷属を攻撃してるのだけど?」

「予想外だわ、まさか堕天使がはぐれ悪魔を庇うだなんて。

それに、その子を眷属にした覚えはないもの」

 

滅殺の魔法で、一誠を消し飛ばそうとしていたのだから。どうして一誠をはぐれ悪魔と認識されているのか、先程の攻撃で思考を巡らせる。

 

馬鹿な一誠でも、麻紀が何をしようとしたかすぐに分かった。

 

「なんだよそれ。ふざけんなよ、おい…俺とアーシアが逃げてる間に…部長達を」

『清き親友から聞いたよ。君の家族をリアスが暗示で操って、無理矢理納得させたじゃないか。

逆にこうなることも、承知の上なのかなって』

「嘘だ…嘘だぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

リアス達は都合の悪い時は誰かの記憶を洗脳しようとしたが、自分達がされるのはごめん被るなんてのは通らない。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

「がっ…⁉︎」

 

感情に任せて麻紀の元へ殴ろうとするが、別の方向から機械音が鳴り、もう一人が一誠を殴りつけられる。

 

「なんですって…⁉︎」

 

レイナーレが驚いたのは、二人の赤龍帝がいたことだった。一誠を殴った者の姿は赤龍帝の鎧を纏い、彼の立ち塞がる。

 

「ち、くしょう…なんで殴られ。

誰だよソイツ、なんで俺と同じ力を」

「本物の赤龍帝に決まってるじゃないか。

君は…まぁ偽者だったからね」

「…外野はすっこんでてろ、偽者野郎」

 

リアス達の言っていた神羅という男が、一誠同様に赤龍帝の籠手を所持している。

禁手化の姿で、その男は一誠を見下していた。

 

「一誠。リアスを、他の仲間のことを思っているのならその必要はないさ。

彼女達の幸せは、保証しよう」

「嘘だっ…嘘に決まってる‼︎」

「みなさんの記憶を元に戻して下さい!」

「あぁそう言えばアーシアもいるんだっけ。

安心してよ、今までがおかしかったんだ。

彼を始末したら…君にも調整させてあげるからね?」

 

狂気じみた言葉に、アーシアは青ざめる。

赤龍帝を代わりを用意し、今度は麻紀に刃向かった兵藤一誠の存在を抹消しようとしていることに。

 

「麻紀っ…テメェだけは絶対に‼︎」

 

殴られてもなお一誠は立ち上がり、再度麻紀を突っ込む。偽者は麻紀を助けようとはせず、そのまま一誠の邪魔をせずに通した。

そのことに不自然に思わなかったのだろうか、考えなしに赤龍帝の籠手で力を倍化させ、よろめきながらも麻紀に殴ろうとーー

 

「なんでだよっ…⁉︎」

 

するはずだった。

直前に、12歳児の子供を強制転移させていなければ。麻紀は幼い子供を盾代わりにしようとしている。

 

「あぁ…【三度目】は、流石に止められちゃったか」

 

三度目が起きる前に、こんな事になってしまったのも。

 

「こんな風に子供の命は守れるのに、何で誠司を見殺しにできたのか…君にとっては無関心だったからだろ。

良いよ、君はそうやって前進したんだから。

君と君の関係者が無問題なら何をやっても心は傷まないんだろうね。

今更一般市民だろうが、部長達を守るために、その拳にある神器でぶん殴っても平気か。

生身の人間である普通の神父も、リアス達の敵だったからって理由で殴り飛ばして進んでたんだ。

ずーっとその神器で敵を殴り通して来たんだから…たとえ相手が幼い子供だろうが、赤子だろうが【自分の障害】なんだから殴ってもそれは無問題だ。

 

僕も誠司も、弱くてどうしようもなかったから切り捨てたんだろ。

それなら自分達の敵だからと切り捨てて先に進めば良い。殴られた側は普通に死ぬかもしれないけど、心は痛まないよね」

「……おい、やめろ」

「リアスを利用している僕を許せなくて、強化させた赤龍帝の籠手で殴ろうとしたよね?

 

その時、僕が強制転移された罪のない子供の頭を容赦なく脳天をかち割っ」

「それ以上、言うんじゃねぇ‼︎

やめろやめろやめろっ‼︎‼︎

テメェいい加減にしやがれぇ‼︎‼︎」

「赤龍帝の拳で人間をサンドバック扱いにしてぶん殴った気持ちはどうかな。

さぞ心がスカッとして、気分が良かっただろう。

 

 

前に殴った時の1回目で…子供は死んじゃったけど、まぁ仕方ないよ。最初は急に止められなかったんだ、何も悪くない。

誠司と同じく、この子も事故死したようなものだからね。

子供を殴った程度で、良心は痛まないでしょ。

 

 

外見だけ装って、蓋を開けたら醜悪だったって事はザラだったんだから。でも君が僕を殴ってさえなかったら、あの子は死んでなかったろうに」

 

一誠は何かを思い出したかのように顔面蒼白になっていき、立ち向かう気力を徐々に無くしていく。

 

一歩足を引いて、麻紀を恐れていた。

 

「リアス達…このはぐれ悪魔は最低だ。

子供を人質にしてたのは、本当だったみたいだね」

「ふざけんな、それはお前が…」

 

そう言い切る前に彼の腹部と右足に2発ずつ撃たれ、転倒する。盾にされていた子供は落下して膝を擦りむき、ずっと泣き喚いていた。

 

「まきっ…テメェ」

『Reset!』

 

幻想殺し・武器化の効力で倍化させた力は消され、初期状態に戻っていく。銃を何発も受けた一誠は目眩がし、瀕死になりかけていた。

 

「…どこまでも馬鹿な奴だよ、君は。

誠司が死んで以来、僕のやることと言うことには一切気にするな。その感情を捨てろ、そう散々教えてやったのに、あの少女達を使うのでさえも嫌そうな顔をして…いつまで経っても中途半端だったんだよ君は。

 

そんなんだから、僕の親友を見殺しにしても平気だったんでしょ。

無能な奴は、結局側の奴の足を引っ張る。

神器が優秀でも、君自身が無能じゃ宝の持ち腐れだった。この決戦編前までは、心機一転してもらいたかったのにね。

 

 

 

一誠、お前のような間抜けはその辺でくたばって当然って思ってるよ…」

 

麻紀は拳銃を引き金を引こうとしたその時に、見てられなかったさやかが、レイピアを投げつける。レイピアは麻紀の肩に的中したが、刺さった箇所からは血は流れず、麻紀本人ではなく分身体であることがわかる。

 

魔法でできた刀は、刺さったと同時の破壊された。

 

「…なんで彼を助けてるんだい?」

「さっきから黙って聞いてれば…子供を盾にしたのはアンタでしょうが!」

 

彼女は嫌厭な顔で、麻紀を睨んだ。

一誠がかつての敵だっだとはいえ、こんな胸糞悪いものを見れば、さやかのようにレイナーレ側の内の誰かが行動に出ている。

 

「あんた達だって、今さっき目の前で見てたでしょ!人質を盾にしてたのは麻紀な事ぐらいこうして分かるのに、どうしてなんとも思わないわけ⁉︎」

「やれやれだよ…参ったなぁ。

責任転換なんて酷いじゃないか。

しかも、人に向かって凶器を投げつけるなんて。

今だって人質にされた子供が目の前にいるのに…僕が分身だから良かったのに、流血沙汰にしようだなんて君達に人の心はないのか!」

「…嘘でしょ、本気で言ってんの?」

 

さやかは麻紀の言い分に絶句し、士郎も声をあげて言及する。投げられたレイピアで流血したのなら彼の言う通りなっただろうが、一誠を殺すために人質にした子供の目の前で銃の引き金を引こうとした麻紀の方がよっぽど冷酷無慈悲ではないのかとドン引きしていた。

 

「おいお前っ…!

言ってる事とやってる事が滅茶苦茶だぞ⁉︎」

(あぁ…なるほどな)

 

二人は納得してない様子だったが、ランサーは麻紀とリアス達を洞察し、何を考えているのか察した。たとえ言動が矛盾してても、絶対に悪者へと捏造しようとしているという魂胆に。

 

「ダメよ…あいつら強力な暗示を掛けられてるわ。目の前で不都合なことが起きても問題無いように…これじゃ話にならない」

「もう無駄話は済んだかしら…アーシアを返してもらうわよ。

貴方達も捕まえて、要件が済んだら消えてもらうわ。堕天使と、その協力者共々ね」

 

リアス達の戦力だけならランサーや固有結界が使える士郎がいるならこのまま返り討ちにすることも可能だが、一番の問題は一誠を踏み台にした神羅の実力と麻紀の持っている手札がまだ見えていないことだ。

 

「もうウチらでやるしかねーっすよ…あいつら逃す気なんて微塵もないし」

「くそっ…こんな場所で戦ったりでもしたら、子供まで巻き込まれてしまうのに‼︎」

 

麻紀が子供を盾にして強制転移させた仕組みがまだ分かっていないことと、彼がリアス達の他に新たな戦力を手にしている事も十分あり得る。

 

ミッテルトは光の槍を出現させ、3人が巻き込まれることに苦い顔をしている士郎は干将・莫耶を投影していく。

 

「ランサー…お願い」

「あいよ」

 

不知火は艤装を、ランサーは魔槍ゲイ・ボルグを構えていく。

 

神羅という偽の赤龍帝に宝具を放っても良かったが、膨大な魔力を必ず使用する事とリアス達に自分の真名(クー・フーリン)を曝け出すことなる。

 

この状況を脱する為に宝具を使うのは、あくまで最後の手段ということだ。

 

一誠は倒れ伏せ、アーシアは身体が硬直して動けていない。麻紀の盾代わりされた子供はそのまま置いてけぼりにされ、訳の分からないままこの戦闘に巻き込まれてしまう。

 

『ちょっと待った!今戦うのは不味いと思うし、私達の最優先の目的は合流だから…こいつらと戦ってる場合じゃないと思う。

 

あたしに考えがあるの。

アーシアと一誠って二人と、その子供はあたしがなんとかするから、士郎さんとレイナーレさん、ミッテルトは手順通りに時間を稼いで欲しいの。

今は戦わずに、こいつらを撒こう』

 

その時に、さやかが念話で作戦を提案した。

この場を戦わずに切り抜く為に一誠と麻紀のいざこざをしている間に水分身を密かに何十体か潜ませていた。

 

まずレイナーレが、硬直してたアーシアの腕を無理矢理掴んで前へ出る。

 

「ねぇ…大人しく二人を引き渡しても、私達を見逃してはくれないのでしょ?」

「私の眷属を貶した貴方を、見逃すと思っているのかしら?」

「…そう、そう言うと思ったわ。

だからこうするのよ!」

 

レイナーレは、アーシアの首筋に光の槍を押し当てていく。攻撃体制に入っていたリアス達が、血が流れているのを見て躊躇する。

 

「なっ⁉︎アーシアを離しなさい!」

「この子の命が惜しくないなら、貴方達の方のこそさっさと下がりなさい。

大事な仲間なのでしょ?」

 

命を握られたアーシアは、今度はレイナーレを見て怯えている。神羅は拳を震わせ、レイナーレに指差して批判した。

 

「お前!アーシアの神器を欲しがってたんじゃないのか‼︎」

「ええ、確かに欲しがってたものよ?

このはぐれ悪魔は本当によく働いてくれたわ。

アーシアを連れてきてくれたのだから?

 

でも私、神器を得ても貴方達に勝ち目が無いって思ってしまったわ。

まぁ、死なばもろともってやつよ」

「死ぬんなら、勝手にテメェ一人で死ね!

アーシアを巻き込むな‼︎」

「保身だというのなら勝手にそう思って頂戴。

下手に粛清しようものなら、この子の命を奪うことにもなるわ。」

「なんて酷いっ…子供を人質に使うだけじゃなくアーシアまでもっ‼︎」

 

麻紀の言葉が、レイナーレ達からはしてみればいちいち感に触る。強力な暗示を使ってリアス達を騙そうとしているお前に言われたくない、と麻紀に対して反論したいくらいだった。

リアス達が慌てている中、もう一方の赤龍帝は様子を伺っていた。

 

「レイナーレ、様…どうして。黙っていたのも私達を助ける為に嘘をついたのでは…」

 

さやかが、助けてくれたはずのレイナーレが裏切りで軽くパニックになりかけているアーシアに念話をかける。

『私らに考えがあるから、一誠って人を助けたいのならまだ黙ってて。

 

無理なら、そこの一誠って子に助けを呼ぶくらいにして』

 

さやかが念話でアーシアに伝え、言う通りに黙ろうとしても疑心暗鬼で戸惑ってしまう。

 

「アー…シアっ」

「い、一誠さん…!」

 

力を振り絞ってアーシアの名前を口にした彼に、アーシアは涙ながらに彼を叫んでいる。彼女がリアス達ではなく一斉に助けを呼ぼうとしないことに少し違和感を持った。

 

「妙ね…アーシアが必死になって、そのはぐれ悪魔の名前を懸命に呼んでいるのはどうしてなの?」

「彼らが何かさせたんだろ。泣いているとならば…彼の名前を無理矢理言わせようとしてるんだ。

堕天使の茶番に付き合わされている。

言葉で彼に助けを求めても、心の中では悲鳴をあげているんだ。とにかくアーシアを助けて、レイナーレ達を退治するよ」

「無理矢理言わせようとしているだなんて…やることが狡猾ですわね」

「アーシア先輩、すぐ助けます」

 

脅されても、リアス達はアーシアを助けようと試みようと探りを入れていた。

 

「そっちがその気なら、こっちだって手があるんだ!」

『Boost!!』

(…まだかかるのっ⁉︎)

「プロモーション、ナイト‼︎」

 

さやかが準備し、レイナーレはリアス、麻紀と神羅の3人を注視していた。平静を装いつつも、無言で後退りに下がっていく。

神羅はプロモーションで素早さ向上の能力を手にし、そのままレイナーレを殴り飛ばそうとする。

 

「な、にっ…⁉︎」

「神羅‼︎」

 

ランサーがレイナーレを守り、神羅の拳を槍で防御しつつ、そのまま薙ぎ払われていく。

あの場で神羅だけが動き、リアス達と麻紀が全く動かなかった。その、ほんの少しだけ時間を空けてくれるだけで逃げる手筈は十分出来た。

 

『よしっ!これで十分時間が…稼げたっ!』

「うん、みんな逃げるよ!」

「投影二連っ‼︎」

 

さやかの呼びかけと同時に、水分身で子供と一誠を回収していく。

それと同時に、士郎が干渉・莫耶をリアス達に投げ、すぐに壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆発させていく。

 

「ミッテルト!」

「了解っす!」

 

爆発で生じた煙から今度はミッテルトが拡散式の光の槍を飛ばし、線香花火の如く光の針を噴出させた。

 

「つっ…部長達がっ‼︎」

 

リアスと朱乃は咄嗟に防御魔法を展開して士郎の攻撃を防いだが、魔力暴発による破壊力は防壁を崩し、二人を吹き飛されている。

 

「大丈夫ですか!」

「ええっ…でも、堕天使の一人があんな姑息な能力を隠し持っていたとは思わなかったわ。

それと、あの青いタイツの男も何者なの…ナイトの速さに追いつているだなんて」

「眩しいっ…!」

 

兜を被っている神羅は光の針を弾き、リアス達を助けている。麻紀は大型の折りたたみ傘を取り出し、幻想殺しの効力で降り注がれる針を打ち消していく。

 

「神羅、これをリアス達に渡す!

あの針の放出は僕が止めるから、君はあいつらを!」

「あぁ分かった!」

 

麻紀が傘を使用してリアス達を守り、一目散に逃げていくレイナーレ達を神羅が追う。

ミッテルトが放射させた光の槍を他の分身体で狙撃し、槍を破壊したことで噴射が止まった。

 

「逃すか‼︎」

 

神羅はこのままレイナーレ達を追いかけようとするが、火災消化器が投げ込まれるなんて思いもよらない。

既に目を眩ませた数秒間に、今度は火災消化器を投影し、斬り傷をつけた消化器を転がせていく。

 

 

斬られたところから噴射され、神羅の鎧や顔中に付着してしまう。

「あぁっくそっ‼︎こっちも視界がっ…あいつらぁ‼︎」

「この場から逃げても血痕だって残っているのなら、そんなに遠くへは行けない!

 

焦る必要は全然ない!

リアス達も無事だし、一度体勢を整えてから彼女達と一緒に周辺を探すんだ‼︎」

 

リアス達は低空飛行で、麻紀はすぐさま携帯で船からの増援要請を指示する。

 

(リアス達と真っ向から潰しあって、その後に袋叩きにしても良かったけど…まぁいいか。

二人を送ったのなら好都合だよ)

 

リアス達がアーシアを助けるために焦っている一方、麻紀はレイナーレ達が逃げられても平気な顔をしていた。

 

*****

12/2 21:00 廃ゲーセン2階

 

無事、レイナーレ達は一誠とアーシアを連れ、逃げることに成功する。港から離れ、なるべく人のいない場所を見つけて止まった。

 

誰も寄り付かない小さな店を発見し、そこへ入っていく。

 

扉は開きっぱなしで、店を管理する人は誰もおらず、クレーンゲームの商品には何も置いていない。

レトロゲームの画面も画面は暗いまま電気は通っておらず、壁には何年前の古いポスターが貼られていたままだった。

 

「貴方…私を助けてくれたの?」

「そこのさやかって嬢ちゃんに、レイナーレをフォローして欲しいってのも頼まれてな。

個人的に俺も、女の顔面を殴るような場面は気乗りしなかったからな」

 

転移されてから早々に二人のことで揉め、その二人を追ってきたグレモリー達と対峙し、麻紀が一誠を見捨てたりと色々と整理したいことが山ほどあった。

 

「そうっ…でも危なかったわ。

よりにもよってリアス達と会うとは思わないもの。しかも一誠を裏切って、赤龍帝の代役とか用意していたなんて」

「いいや、麻紀の野郎も…どういうつもりか分からないが黙って伏兵を用意してやがった」

「なんだって⁉︎」

 

士郎だけじゃなく、他のみんなも驚いていた。

ランサーは口には出さなかったが、周囲に誰かいるということは勘づいている。

 

「…お前ら、全く気づいてなかったみたいだな」

「仕方ないじゃない!

逃げの一手を考えるので精一杯なんだから!」

 

殆どがリアス達と麻紀の衝撃的な言動に意識が向いており、ランサーだけが周囲を見渡しつつ、麻紀の目論見を見抜いていた。

 

時間を稼いでいたのはさやか達だけではない。

 

「一誠ってガキが撃たれて辺りからか?聞き耳で他の足音がしてな…20人くらいが駆けつけて、俺達を囲もうと動いてたからな。

 

レイナーレがアーシアを人質にしようとした瞬間、足音が止んでたが」

「えぇっ…それじゃあ、私の案が不味かったり、逃げるまでの待つ時間が長すぎたら」

「今頃、リアス達を陽動させて潰し合った後にでも麻紀のやつが兵隊を大量投入して、そのまま疲弊した俺達を取り押さえて確保してきただろうな」

「全く気づかなかった…でも、なんでランサーは麻紀だって分かったんだよ。兵隊を呼んだのだってリアス達かもしれないだろ?」

「レイナーレがアーシアを人質にしても、その男だけ全く動揺しなかっただろ?

そういうことだ」

 

麻紀がリアス達に内密で、伏兵を用意していることにランサーだけが気づいていた。さやかが身震いして、うまく行って良かったと安堵している。

 

「でも、麻紀がアーシアを助けることだって出来た筈だろ?」

「…流れ弾がアーシアに当たるから?」

「俺が投影魔術で色んな剣を投影できるように、麻紀だって銃を作り出せるなら、使いこなせるように準備するくらいのことはできるんじゃないのか?

 

例えば、早撃ちが可能性なリボルバーとかで」

 

麻紀も、正輝と同様に成長したというのならここまで来るのに様々な銃に慣れてもおかしくはない。

士郎が投影した火災消化器をばら撒きながら撤退させたとしても煙の中で見えなかろうが滅多撃ちを指示するのも出来たはずだった。或いは、誤射してアーシアを殺してしまうのは不味いと躊躇していたからかと深く考え込む。

 

「それでも本当に運が良かったわよ…人質にしてた時に麻紀がアーシアに対して命令権を使えることだって可能よ。

 

まぁ動いたら、アーシアの首を槍で掻っ切る事になりそうだけど」

「あーそう言えば…その線は全く考えてなかった」

「貴方ねぇ…唐突に案を考えて、本当に上手くいくかどうか疑わしかったわよ。

念話で聞いても、かなり杜撰だったもの。

 

少しの間を稼ぐよりは、投煙球でさっさと逃げれば良いじゃない」

「でも…そしたら、助けることもできなかったし」

(二人に話すことなんて、麻紀が殆ど言ったのだからそんなにもうないはず…まだ生かす気なの?)

 

さやかの案通りに救出も逃走も成功したから、これ以上は何も言わなかったが、一誠とアーシアを生かす考えがレイナーレからしたら半々理解してなかった。

 

「…麻紀は本気でアーシアを助ける気が無いんじゃないのか?

さっきのリボルバーとかの早撃ちをしなかったにしても、こんな回りくどい事をしなくても強制転移で船に転送させれば良いだけだろ」

「なら、アーシアを助けようとしてるあの状況は麻紀からだと、ただの茶番だったってこと?

見逃してたのが本当だっていうのなら…敢えてアーシアを泳がせてるってことになるわよ。

獅子身中の虫にでも目論んでたわけ?

もしそうなら戦闘になることも不本意だったとか、私達が二人のことを守っているから同情して保護することまでも計算に入ってるの?」

「…いや、そこまでは流石に分からないけど」

「多分、アーシアを死なせてもリアス達が全滅してもなんとも思わなかったと思う。

あくまで仮の話だ。

もし俺達があの場でリアス達と分身の麻紀を倒したとして、位置がバレした俺達を移動させてくれる余裕を与えるとは到底思えない。

 

麻紀は他にも兵力を増やして、俺達の誰か一人でも確保しようするんじゃないのか?」

「なら、人質ごと撃ち殺した可能性もあるんじゃないのかしら?」

「そしたらリアス達が黙ってな…まさか暗示でアーシアごとレイナーレを撃ち殺したことも捏造して、彼女の代役まで用意する気なのか⁉︎」

「一誠の代役もアーシアを助けるとか言ってたのだから、そいつにも暗示をかけそうね」

 

いずれにしても、麻紀はリアス達を利用している事には変わりない。誠司と麻紀を見捨てた彼らが、急に麻紀が友好的に手を組んでいるかは分からない。

 

「リアス達はアーシアを連れて帰りたいって目的があるけれど、仮に殺したとして一誠と同じように代役を用意させる可能性も十分あるわね。

でも麻紀に関してだけは本当に謎だらけで分からないわ…目的も、何を、どうしたいのかも」

「…でも、私らは逃げて正解だったんだよ。

戦ってピンチになるよりはずっと良かったんだ…」

「それにしても念話が可能なさやかがいただけでも助かったよ。そうじゃなきゃあのまま戦うことになっていただろうし」

「逃げ切れたのは良いとして…結局コイツらも助けてどうするつもりなの?

 

しかもウチら、待ち合わせの方向と逆に逃げてるし…」

 

麻紀がリアスの記憶が捏造され、更には偽者の赤龍帝がいることにも困惑している。

 

「貴方達が麻紀と敵対したことも、赤龍帝の代役がいるだなんてのも初めて知ったわ。

追われてたのは本当のことだったみたいだけど、厄介事を押し付けてくれたわね。

しかも、禁手化までしてくるだなんて…余計に不味いわ」

 

偽物の神器とはいえ進化させた赤龍帝の力が一誠持っている本物の神器とほぼ同等だとするのなら、危険だということを理解している。

 

倍化させる力も、力を譲渡する能力も手にしている。

 

偽者の力量は一誠よりも確実に上回っており、上級悪魔と同等の力を持ち得ている。一誠は代償込みで禁手化させたのに対し、敵は制限なく禁手化を使ってきたのだから。

 

逃げていく道中で一誠の血痕を思い出し、余計に気分が悪くなる。今は止血させているが、道に血の痕がある以上港にも引き返し辛くなっていた。

 

「話を変えるけど…そいつの血は止めたの?

流れたままじゃ血痕を辿って追ってくるわよ」

「私がなんとかしたから大丈夫。

魔力で水を赤に添加させて撒き散らしてるから、私達を探すのも時間がかかると思うし」

「そういうところは周到なの…まぁいいわ」

 

さやかがフォローしてくれたおかげで彼の流した血をたどって追ってくることはないが、港に戻ろうとすれば麻紀達が罠を張り巡らせつつ、待ち伏せて襲われてしまう。

 

「あと盾にされた子供まで助けたのね。

一誠とアーシアの二人を助けた事といい、どこまでお人好しなのかしら。散り散りにされたのに、また更に厄介事を増やして…麻紀が用意した子供を何度も助けて保護するとかだったら、キリがないわよ。

 

そもそも、その子を助ける理由がないでしょ。

たった今会ったばかりの、なんの事情もわからないのに。

この子が仲間として契約されてるのなら、麻紀が強制転移して、助けたことも徒労に終わるわよ」

「おかーさん、おとーさんっ…ひっく」

子供の方は麻紀に無理矢理連れてかれて訳の分からない場所に飛ばされて、不安に駆られている。

 

「マミさんや正輝さんでも、理由が無くても助けてたと思う…盾にされた子供を見捨てて、自分達さえ良ければ逃げてもいいなんて思えないからさ。

 

あんな子を見殺しにするなんて、私には出来ないよ」

「たとえさやかが動いてなくても、俺が動いていた。

レイナーレの言い分だって勿論分かってる。

それでも、助けたかったんだ」

 

殴られそうになり、死にかけた彼女は安心できなくなっている。助けてくれたレイナーレ達も何者なのか、信用するのも怖くてずっと泣き喚いている。

 

「ハァ…もういいわ。子供を助けたのだから、最後までちゃんと正輝達のところまで送りなさいよ」

 

レイナーレは呆れながらも子供のことは士郎とさやかの二人に任せつつ、一誠とアーシアの所へ向かっていく。

 

「大丈夫、大丈夫だから…私達は、貴方の味方だからね」

 

一番怖い思いをしている子供に、さやかが抱きしめて落ち着かせようとしている。背中をさすり、縮こまっていた少女は心を開かせていく。

 

「名前は?」

「か、甘露寺…八江」

 

少女は恐る恐る、抱きしめてくれたさやかに自分の名前を声に出して返事を返した。

 

*****

 

12/3 午後21:15 廃ゲーセン1階

 

一方のアーシアは、死にかけてた一誠を聖母の微笑(トワイライトヒーリング)で懸命に治療している。

 

「大丈夫ですかっ、一誠さんっ…!」

 

麻紀達と鉢合わせし、衝撃的な事実を知って休みたくなる気持ちばかりで寝込みたくなる。

それでも、悪魔が活性化するこの時間帯ではのんびりなどしていられなかった。

 

「れ、レイナーレ様っ…まだ一誠さんの身体を完治できて」

「駄目よ、彼にはまだ聞きたいことがあるもの。

無理にでも起こすわ」

 

レイナーレは、傷が癒えて寝込んでいる一誠を叩き起こしていく。

 

「いつまで寝てないで、さっさと起きなさい。

もう怪我は治ったでしょ」

「つっ…俺は」

 

目を開けた一誠が起き、自分の撃たれた箇所を確認する。治療された事を確認した後に、レイナーレ達の顔を見た。

リアス達を相手にアーシアを人質のことを思い出し、赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)を出現させる。

 

「なっ⁉︎レイナーレ‼︎やっぱりテメェら…アーシアを利用するつもりでっ‼︎」

「大丈夫です、一誠さん。

私は何もされてません…」

「…どういう事だよ」

「あの場から脱するためにも、仕方なかったわ」

 

レイナーレが人質にしたのも、時間稼ぎを提案したさやかの案で動いていたという事を明かしていく。

 

「どうして、彼らは貴方達にまで敵意を向けてた説明してもらうわ」

「…俺から言うことは何もねーよ」

「貴方の眷属なら貴方を生きて連れ戻せって指示が飛んでくるはずよね?大事なら尚更、二人のことで攻め込んで来る前に、内輪揉めになってもおかしくない。

 

…貴方、麻紀だけじゃなくリアス達にも追われてるのよ。討伐という形で」

「黙れ…!」

「なんで貴方が足と腹部を撃たれても何も思わなかったのかしら?

そうじゃなかったらグレモリーの娘が黙ってるわけないもの、こんな作戦。

もう分かったでしょ。

今のグレモリーの娘達全員が、貴方を助けることはないわ」

「黙れって言ってんだろ‼︎

部長がそんなことするわけねぇだろうが‼︎

これ以上テメェが部長達のことを語るんじゃ…つっ」

「一誠さん、落ち着いて!傷は治療しても…まだ麻紀さんに撃たれた痛みが」

 

レイナーレに本当のことを言われても、一誠は納得しない。怒りながらも、痛みでお腹や足を手で抑えている。

 

「そんな馬鹿な話が信じられるかよ…!

そうだ…神羅って奴を倒してみんなの暗示を」

「…倒して暗示が解く保証でもあるの?」

「うるせぇよ!

そんなのやってみなくちゃわかんねぇだろが!

堕天使のお前に言われたところで」

「なら、やってみれば良いじゃない。

愛しのグレモリー家の娘…リアス・グレモリーの目の前で」

「お前に言われなくてもやってや「今のリアスにそれをやったら、確実に消し飛ばされるわよ」なっ…」

 

倒せばいいといっても、それは暗示をかけたのが代役だったらと言う話だ。リアスと一緒にいたのだから大事な眷属を殺されたりでもしたら、彼女がどういう反応をされるのか。

 

「もう分かってるんでしょ。

貴方の頭でも、どうなるかことぐらいは。

確かに記憶が戻れば貴方にとっては万々歳ね。

でもその逆だったら…間違いなく悲惨な末路を辿るわね。

よくも可愛い下僕をって言われてグレモリーの娘とその眷属に目の敵にされて殺されるのがオチ。

 

最強のポーンにしたはずが、偽物のポーンの為のために始末される。

最高の皮肉だこと。

 

大体、あの男が倒せばいいってだけで都合良く解決すると思う?書き換えた相手がその代役じゃなく麻紀って可能性もあるわよ?

 

 

だから神羅を倒してもダメなら、麻紀って線もあるわよね。彼を倒す解決策がないのなら、その時は何度も何度も女子供を殴殺してでも倒さないといけなくなる。

 

あぁでも愛しの紅髪姫とその愉快な仲間達を取り戻す為なのだから殺害も致し方のないことね?

今となっては女子供を殺した悪党って思われてるんだから助けるためにはいっそのこと開き直って殴りに行っても仕方がな「幾ら何でも言い過ぎだ…!」」

 

二人の様子を見に来た士郎が、レイナーレの言葉を遮る。彼女にはリアス達のことで認められない一誠に嫌味を言っているが、レイナーレは反省の顔をせずに話を続けていく。

 

「…私は本当のことを言ったまでよ。

あの麻紀って男がこんな手段で防御している以上、私達も他人事じゃないのは確かよ」

「だからってっ…!」

 

麻紀を相手取るのなら、正輝達も子供を盾にしてくる対策を考える必要がある。麻紀を力づくで止めようものなら、いずれ一誠と同じ状況を強いられることになる。

 

「ならもう、貴方達は用済みよね。

私達と一緒にいてもお荷物なだけだったみたい。二人仲良く消えなさい」

「私達を…殺そうとするのですか。

でも、助けてくれてたのは」

「もう考えが変わったのよ。

貴方達を敢えて生かしたのも何かあるんじゃないのかって。

でも麻紀が知りたいことを殆ど言ってたのだから不要よね。私達が同情して、そのまま正輝の元に潜伏させるって線も言ってたもの。

 

最初は貴方達のことを黙ってたけど、やっぱり生かしても危険だと思えるわよね?」

「まさか…二人を殺すつもりなのか⁉︎」

「だったら、どうするつもりなの?

こんなこと私だけじゃなくて正輝だって見過ごせないわよ」

 

レイナーレは仕切り直して光の槍を生成させ、二人を始末しようとする。レイナーレが一誠に近づくと、アーシアが前に出て庇おうとする。

 

「ま、待って下さい…私はどうなっても構いません!

一誠さんだけでも助けてもらえませんか!」

「…いや、流石に無理っすよ。今はリアス達と敵対しても、またソイツらが記憶が戻ったら調子に乗ってウチらと敵対するだろうし。

結局、恩を仇で返してくるしか何も思い浮かべねーっすよ?」

「アーシアを人質に脅迫をしてたとしても、麻紀本人には全く効果がなかった。

そして…貴方達がどれだけ善意のつもりで私達のことを庇ったくれたとしても、結局暗示やら洗脳されてるといって聞く耳を持たないわ」

 

降りてきたミッテルトが、レイナーレに賛同している。リアス達が正気に戻っても、レイナーレに懐柔されるから騙されてるんだと麻紀と同じような事を言われるのが目に見えている。

 

「ひっ…‼︎」

「な、何やってんの⁉︎」

 

さやかは八江と手を繋いだまま、不知火も二人の様子を見に行こうと降りていくと、レイナーレが光の槍で刺し殺そうとしている場面に愕然としていた。

手を離し、レイナーレを止めようとする。

 

「ち、ちょっと待ってよ!レイナーレさん!

二人を連れていくのは無理だとしても、流石に殺すのは」

「…止めないで頂戴。今この場で二人にトドメをささないと、いつ横やりが入って邪魔してくるか分かったもんじゃないわ。

 

連れて帰るにしたって私達は外敵だけじゃなくてコイツにも襲われる危機感を強いられないといけなくなる。無事に到着したとしても下手をすれば正輝が本気で怒るわよ。

 

またあの時みたいに仲間同士で大喧嘩を起こして、内輪揉めにしたいわけ?そもそも正輝が、こんな馬鹿なことを看過してくれると思う?

 

…この二人をいつまでも過保護にしてたら、もっと酷い事になるわよ。本当なら時間が経てば強化される神滅具(ロンギヌス)を持っているのだから今すぐにでも」

「だから、ちょっと待ってってば!

アタシも連れて行ったらヤバいことぐらい分かってるよ!」

「…じゃあ何が言いたいわけ?

幾ら彼に問い詰めても、もう何も出てこないと思うのだけれど…それならアーシアが代わりに言ってくれる?

 

それとも、一誠が全部知ってることを言ったのかしら?」

 

アーシアに聞いても、彼女も彼と同じことしか把握していない。レイナーレは一誠を殺そうとするのをやめず、なんとか抑えるためにさやかが落ち着かせようと聞いていく。

 

「殺すのはダメっ。せめて、もう一度話を聞くだけでも…冷静になろうよ」

「私とミッテルトは試練編の時に一度この男に殺されて、蘇ったのだけれど?

 

コイツの私情で、話を聞く余地もなく襲われた私達の事を考えたことある?」

「…うっ」

 

しかし、本当のことを言われてさやかは言い返せない。

 

蘇生機能のあるシステムがなかったら、今頃は正輝がレイナーレ達の仇を討つためにリアス達を滅ぼした可能性もあっただろう。

同時に、試練編の時に正輝と響の関係が悪化するどころか彼女に対して激しい憎悪を向けることになったかもしれない。

 

「やり返してやり返されてなんて今に始まったことじゃないのだけれど。言っておくけど…私達、アイツらの良いなりになるつもりは微塵も無いわよ。

 

…正輝に勧誘される前に、私の仲間がグレモリー家の娘に二人消し飛ばされたのだから。

 

貴方のお友達まで、リアス達に殺されることになったとしても庇うことができるの?」

 

今度は士郎が横から割って入り、止めようとしたが無駄だった。彼女が彼の主人の手によって仲間を消されたという言葉に、士郎とさやかは返す言葉が見当たらない。

 

さやかは止めようとしてた手を離してしまった。行き詰まってた二人に、もう一人レイナーレに尋ねる。

 

「あの…レイナーレさん。

私からも、今は槍を納めてくれませんか…」

「判断を任せるって言ってた貴方まで止めてくるとわね…どうして急に気が変わったの?」

 

二人が言葉に行き詰まっていたその時に、不知火が止めに入った。

 

「私は…二人のことは知らないし、どう揉めたのかのは分からない。でも最初に殺された貴方の仲間だって、彼自身の手で殺したわけじゃない。

 

麻紀の元から逃げる前のことも、過去に仲間を殺されことに何があったかも。まだ私達は二人のことについて断片的なことしか何も知らされていない」

「…あのいざこざを見てまだわからない?

何度も説明するけれど、二人に付き纏われても邪魔、一緒にいたところで寝首を狙われてもおかしくない。

このまま生かしておいても、私達の障害になるだけなの。

 

いいから貴方は引っ込んでなさい」

「いいや、引っ込むのはお前の方だ。

レイナーレ」

 

今度はランサーが赤槍を取り出して、レイナーレに向けていく。レイナーレが彼を殺したい気持ちもわかるが、不知火のサーヴァントであるランサーはマスターとの主従関係である以上、不知火の意思が最優先される。

 

「ランサー⁉︎」

「…何のつもり?私を守ってくれたことは一応感謝してるつもりだわ。

 

でも槍を引けってことは、この二人に肩入れするつもりなの?」

「そう言うわけじゃねぇよ。マスターも、二人

を肩入れしたくてあんな事を言ったのなら、初めっからレイナーレを守るようなこともしてないからな。

 

かといって俺とマスターは、お前らのいざこざに水を差す気もねぇよ。寧ろ殺しても仕方ねぇっていう判断は正しいだろう。

だがマスターが納得できないってならその意思を聞くのがサーヴァントである俺の役目だ」

「だったら、武器を納めるのはそっちっすよ。

レイナーレ姉様に一回でも傷つけたら、その時点でウチらの敵として始末するから」

 

ミッテルトも、不知火の首に光の槍を押し当てていく。八江は今度は四人が戦うんじゃないかと恐怖し、さやかの手を握りしめていく。

 

「…ここで私を殺すことになったら、そこにいるミッテルトや、正輝だって絶対に黙ってないわ。

貴方とマスターの不知火も、殺害対象になるわよ」

「だろうな。でもそうなっちまった時は私刑を容認できないマスターからのお願いに聞く耳を持てなかったから、アンタらレイナーレ達の器量が小さかったことが原因で俺達とも殺し合う事になるだろうよ」

「止めろ!ランサーも、ミッテルトも!

俺達まで潰し合いをしてどうするんだよ‼︎」

 

睨み合いの中、沈黙が続いていく。

一誠達を生かして連れ帰ったのも何か有力な情報があると思ったから黙っていたのに、それでも助けたせいかこうして意見が噛み合わない事態になっていた。

 

それを二人を可哀想だという気の許しがトロイの木馬みたいに内側から破壊することを許す事になる。

 

「ほんと、馬鹿馬鹿しい…ミッテルト」

「わ、わかったっすよ。

レイナーレ姉様が引くなら」

 

レイナーレは少し苛つきながらも槍を収め、ランサーも宝具を収めた。ミッテルトの方に顔を向き、ミッテルトも光の槍を解いていく。

 

「…あっちで何があったの?

彼の言っていた三度目ってどういうこと?」

「い、イッセーさん…」

「話してくれれば、今のところは光の槍を収めるわ。

私もミッテルトも腑に落ちないけど、貴方達と鉢合わせしたことは一度正輝に黙っているのだから。

私達はまだ何も肝心な事を良く知ってない。

さっき見た麻紀の豹変ぶりの真相を、今後の事を考えるなら…ちゃんと知る必要があるわ。

 

全てを話せば、もしかしたらアーシアの命だけは助けられるかもしれないわね」

 

ミッテルトは納得しないまま光の槍を消し、ランサーも槍を収めて、壁に横たわっていく。

士郎とさやかは、四人が殺し合わない事に安堵した。

 

「…二人して何ホッとした顔してるのよ?

ランサーは、私を殺す気なんて無かったのでしょうし」

「えっ、どういうことなの?」

「正輝達とも本気で殺し合う事まで覚悟してるのなら、間違いなく魔力切れを起こして死活問題になるわ。

そのまま私とミッテルトを気絶させて、その間に残った人数でさっさと二人の処遇を決めるつもりだったのでしょ?」

「…本当なのか?ランサー」

「あぁ。マスターから殺してでも止めろ、なんて命じられてなかったからな。

大した女だ。

 

矛先を突きつけられても、ちゃんと見る目を持ってるじゃねぇか」

 

二人が逃げ出した事情もまだ聞いておらず、何も知らずに巻き込まれてしまった。

それでも言わなかったら一誠を殺害されかねないと、彼の口から言えないのならアーシアは彼を守る為に話そうとする。

 

「その…私達、実は「良いんだアーシア…俺も血が登ってたんだ」」

 

が、釈然とはしなかったが諦めた表情で今まで何があったのかを彼は話していった。船を出ていく前のことを話し、せめて僅かながら生き残れる可能性があるならと。

 

「俺は麻紀に、リアス部長をみんなを解放しろって麻紀を脅したんだ。でも、麻紀は挑発して自害させることだってさせることも可能だぞって言われたよ。

 

ああ言われて、俺はコイツを野放しにしたら危険だと思ったんだ。でも、完全に殴られる事を対策していたんだ…俺は余りに大馬鹿だったんだ。

直前まで、止められなかったんだ。

子供の頭を神器でぶん殴ったら、どうなるかことぐらい…俺でも分かりきったことなのに。

麻紀は、とっくに殴られることを予測したから強制転移を用意してたんだよ。

分かってた上で挑発してきやがったんだ。

その挑発にまんまと乗ったせいで、殴る直前で子供が急に目の前に転移して…そのままその子達の顔面に」

「殴殺…してしまったのか。

麻紀が無関係な子供を転移させて、その手で」

「畜生っ…!」

 

上条のようなごく一般人の殴りならまだしも神器を備わった拳で未成長の頭蓋を破壊するなど雑作もない。たった一撃、重い拳で悲鳴を上げることもなく絶命する。

 

一・二回目は二人きりだけの時だったが、三度目でもリアス達の目の前で強制転移させて保身したことに驚いている。

一誠はリアス達がいるのに子供を盾にするなんてできるわけがないと考え、特攻しようとしたが、麻紀はリアス達の目の前だろうと容易く女子供を盾にして実行した。

 

「命令権って…そんな事まで可能なのか」

「端末を押しただけや、条件で強制転移できるのなら、そういう芸当も可能みてーだな。

暗示をどうかけたかは分からんが」

 

殴打で脳震盪を起こすことも、激痛で叫ぶこともなく一瞬で子供の命を奪う。

 

善良な心を持つ人を相手にするなら人質を盾代わりにして少しでも動揺させれば、その隙をつかれることになる。

逆に、盾代わりにされた人質を誤って攻撃してしまったというのなら、その場に誰かもう一人無実を証明してくれる人がいないと一誠のよう周囲の人達からは【女子供に暴行した】という理由だけで一方的に敵視されてしまうことになる。

 

どちらに転んでも、人質にした側が得をする結果にしかならない。

 

「…まぁ、そいつは甘い汁を吸えるだろうな。

踏み絵みたいに反抗してきた奴を悪党にできる。

 

理由付けなんて、さっきのを見ればどうとでも言える。レイナーレの言う通り、今のコイツは子供殺しの悪党ってことにされてるからな」

「違います…!一誠さんはそんな人じゃ!

あれは…あれは、本当に不幸な事故だったんです。

 

一誠さんは何も」

「別になんとも思わないわよ。

アーシアを連れておいて、理由もなく好き好んで子供の顔面を神器でぶん殴るほど性根は腐ってないでしょうに。

 

大体…その子がどうとか責める気は微塵もない。そんなの私達には知ったことじゃない。

でもこうして裏切られたのなら、丁度いいわ。

 

それなら次は、麻紀の戦力を全部教えて」

「言っただろ…麻紀が一体何してるのか俺にはもう分からねぇよ。誰を仲間に引き入れたとか、何を企んでるとか。

 

もう俺達が知っている事は全部話したんだ‼︎

仮に麻紀のことまで知ってたとしても…今度はお前らが部長達を始末するつもりなんだろ!」

「そう…全部話した、ねぇ。

なら質問を変えるわ。

麻紀は三度目は防がれたって言ったのなら、少なくとも二人も殴ってたのよね。

一体誰を殴ったっていうの?」

「殴った相手のことまでいちいち覚えてねぇよ!俺だって必死だったんだ‼︎」

「…三度目まで拳を止めれたのなら、鮮明に覚えてるはずよね?」

 

レイナーレは、彼に対して怒りを通り越して呆れていた。隠していようがいまいが、もうこの二人から知りたい情報を吐くこともない。

 

「私達が無理して守ったお陰で貴方もアーシアも命拾いしたのに、これでも言いたくないのかしら?」

「お前らに助けを頼んだ覚えはねぇ…!」

「見捨てられても、かつての仲間は売らないってわけ?」

「当たり前だろうが、お前なんかにっ…‼︎」

 

結局は平行線だった。

後の判断は、彼と関係のあったレイナーレがケジメをつけるしかない。話しても、彼への対応を変えることはできない。

 

「あっそ…なら、もう良いわ。

ここから後の事は、私達の問題よね」

 

レイナーレは不知火に目を向け、ランサーもアーシア達を守るのを止める。元々彼は正輝の敵として相対していた関係であり、会ってから生かすかどうかも定まってなかった。

 

「…マスターが、どうしてもその二人を助けたいとかなら話は別だがな」

「なら、彼を殺す事に異論がある人は?

士郎とさやかだけ?」

 

二人は口籠もってしまい、レイナーレは光の槍を出現させていく。

不知火も止める様子もない。

ただ、三人は気が引けて暗い顔をしていた。

 

「そんなっ…お願いします!

どうか一誠さんを見逃して」

「…ごめん」

 

今度こそ殺すつもりだと危惧したアーシアは一誠を庇おうとするが、さやかは水分身で羽交い締めにしていく。

 

「八江ちゃん…あの人達は大事な話があるみたいだから、私達は少し離れようか」

「え、でもっ…」

「レイナーレさん…ここから先の判断は、任せるよ」

 

さやかは少なくとも八江が殺害現場を見てトラウマにならないよう、2階へと移動させていく。ランサーはため息をつきながら腕を組み、邪魔をせずレイナーレを黙って見ているだけだった。

 

「やっぱりこんなのはダメだ、レイナーレ!

俺から正輝になんとか説得すれば‼︎」

『止めちゃダメだよ…こればっかりはちゃんと決断しないといけないことになりそう。

…私達が割って入れるのは、もうここまでだと思うから』

 

念話をかけて、士郎を論する。

一誠が言えることは全て吐いてくれたが、そもそも二人の生殺与奪までは決断していなかった。

 

そもそもの話、殺さずに生かそうとズルズル引きずっていたことが甘えであり、アーシアと子供を守りながら合流すること自体堕天使の二人組にとって神経質になることは確実になってしまう。

 

彼等のせいで前に仲間の二人を殺された事、試練編でレイナーレとミッテルトを奇襲して殺したという事実は変わらない。たとえ船の蘇生機能があったとしても、堕天使だけじゃなく正輝の仲間を襲うかもしれない危険人物を野放しにするのがどれだけ不味いかということも、さやかには少しわかるような気がしていた。

 

だから、ここから先のことはレイナーレが一誠に対してどう後始末をつけるかだけ。

(二人がレイナーレ達に因縁がなかったら…また違ってたかもしれないけど)

 

中途半端に二人をフェイトに連れて行こうとすれば試練編の時みたいに仲間同士の拗れ合い、それどころかフェイトの家に危険人物を入れようとした時点でレイナーレ達に正輝の怒号が飛んでくるのは目に見えている。

このまま一誠達を庇い続けることとなればリアス達を贔屓してると見做して、レイナーレ達は士郎やさやかの言うことも聞かなければ、嫌悪されるだろう。

 

生きていく為とはいえ、さやかも魔法少女だった魔女を退治(殺害)している。

その上、初対面だった杏子と殺し合いをした事だってあった。

そんな自分が、レイナーレ達にだけ一方的に理不尽な目にあって、その上で殺しちゃ駄目だと押し付けるのは余りにも虫が良すぎると思っていた。

だから、二人には本当に悪いと思っていながらも、レイナーレの決断に委ねるという大きな決断をした。

 

一誠は、麻紀に撃たれた痛みはまだ残ったままで碌に動けそうもない。

なんとか赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)も出すことは出来たが、タイミングが余りに遅すぎている。

 

「これ以上聞くのは意味がないみたい。

聞きたいことはもう十分に聞けた。

死ぬ覚悟が出来てるなら、これ以上は不毛…それなら、しょうがないわね‼︎」

 

レイナーレが、一誠に向けて槍を振り下ろす。

取り押さえられたアーシアからは、助けることもできずにただ悲鳴を上げることしかできない。

 

 

(くそっ…またか。

また、レイナーレに殺されて)

 

彼自身、船から出て行く前に麻紀に始末されてもおかしくは無かった。

レイナーレ達と出会って、その寿命が少し伸びただけのこと。

 

光の槍は悪魔にとって猛毒であり、刺さた激痛とその刺された箇所を焦がしたのは忘れもしない。

彼は目を閉じて、身を守ろうとする。

しかし、しばらく経っても刺された感触も痛みも感じない。

一誠はゆっくりと目を開くと、身体は無傷で光の槍は顔の真横に刺さっただけだった。

 

「八江ちゃんは二階に残し…あれ、もう終わったの?」

「えぇ、終わったところよ」

「…そっか」

 

レイナーレが生かした事にミッテルトは驚いた反応をする。

さやかは一誠の姿を見て、彼が生きていることを確認した。

一誠を生かしたレイナーレには質問せず、水分身を解いてアーシアを解放していく。

 

「えっ…⁉︎

ち、ちょっと良いんすかレイナーレ姉様!

コイツらグレモリーの連中が元に戻ったら絶対に調子乗るっすよ‼︎

 

私らの手で終わらせないと、また報復されちゃうかもしれないし…それに他の仲間にまで手を出すかもしれないって言ったじゃないっすか⁉︎

今コイツらを逃したらまた」

「二人は適当な所にでも放置してなさい。もう別に放っても良いわ…麻紀って男に恨まれて、グレモリー家にまで命を狙われてるのなら私達の障害にはならないでしょう。

いくら構ってても、時間の無駄よ。

 

私直々にトドメを刺さなくても、コイツらが暗示を解く前に勝手に野垂れ死ぬだけよ」

「…俺はてっきり殺された仲間の無念を晴らすために、敵討ちかと思ってたけどよ、まさかこんな決断をするとは思わなかったぜ。

でも、本当にそれで構わねーんだな」

「…」

 

ランサーはそう聞かれても、レイナーレは返事を返そうとしない。ミッテルトはレイナーレの言葉に納得はしつつも、一誠とアーシアを見て少し嫌そうな顔をする。

 

一誠は何とかして起き上がり、咄嗟に問いかける。

 

「お、おいっ…ちょっと待てよ!

俺のこと殺すんじゃなかったのかよ!」

「…煩いわね、理由なんて別にいいでしょ」

「はぁっ⁉︎別にって…信用できるかよ!

俺を騙して殺して、アーシアに酷い事をした時だって自分は何も悪くないように否定してただろ!

俺がお前らを襲った逆恨みだってあっただろうが!

それが…それが何で今になって俺達を助けた!

 

 

麻紀だけじゃねぇ…お前もお前で、一体何がしたいのか全然訳わかんねぇよ‼︎」

「ならどうするの、もう一度戦いたいの?

私達と殺し合いたいわけ?」

「お前の答えを聞いてからだ!

またデートの時みたいに冗談でからかったつもりか⁉︎」

 

レイナーレの返答を聞いても、一誠は納得してない。あれだけ一誠とアーシアを殺すことに懸命だったレイナーレが、いざ実行しようとしたら気が変わったなんて事を言われても信じていない。

 

「二人も死体を出して処分するにも、面倒だから…さっきそう思ったから、それだけよ」

「んだよそれ⁉︎全然理由になってねぇだろ⁉︎」

「なら、本当に殺されたほうが良かったの?

アーシアの目の前で?」

「そう言うわけじゃ…ねぇけど」

「あんな態度しておいて、何動揺してるわけ?

ハッキリしなさいよ」

 

一誠は腑に落ちず、レイナーレの反論に言い返せない。

それでも面倒臭いからという気が変わっただけじゃ納得がいかなかった。

 

「麻紀のせいでリアス部長達を居場所を奪われた、ね。その程度で済んで良かったわね」

「その程度って…お前、喧嘩売ってんのか‼︎」

「一番最悪のは命令権でリアス達全員に虐殺させることでしょ?下手したら復讐の為には手段を選ばないでしょうに。

 

そうなったら、貴方はリアス達のことを本当に信頼できるのかしら?

尊敬できる自信があるの?」

「……何が言いたいんだよ」

 

あんな状態の麻紀がどういう行動を取ってくるのか、馬鹿であろうと大まかな予想をつくことをしてないことに、レイナーレが助言していく。

 

「麻紀が今後の方針で、最悪の手段を取ろうものなら…もっと大勢の人間が地獄を見ることになることを一度は考えたの?

 

一番最悪なのは民衆を虐殺すること、しかも平常心のままリアス達が執行することよ。

さっきの暗示みたいに。

事故で子供を殴り殺して、その上にアーシアを連れて逃げたのでしょ。

 

でも結果的に良かったわね?貴方達に大量虐殺を命じられてないだけ幾分かマシだったわ」

「それは、っ…俺だって部長達のことを考えて‼︎」

「そうなってたら、最悪子殺しだけじゃ済まなかったわよ」

 

一誠は今の麻紀がそんな事を命じるわけがないと、否定できなかった。最悪なケースを考えようとはしない楽観的な為に、レイナーレからそう言われて気づく。

それをなんとかしようと防ごうと動いたが、彼の考えが麻紀よりも甘かったことと、彼自身の心が弱かったからだ。

 

一誠は麻紀の凶行を止めることができなかった。

 

「いい?一つだけ言わせてもらうわよ。

 

もし麻紀とグレモリー家の娘と眷属が私達だけじゃなくこの街と市民全員にまでも蹂躙することになったら正輝は一体何するか分からないから。

そうなったら逆恨みしないでよ。

 

貴方達も麻紀に加担する形になったら、もう私達は今みたいに貴方を助けることも勿論できない…とゆうより、ここで命を取りたいくらいよ。

 

貴方が私達のいざこざのことで無関心なように、貴方がリアス達に殺されようが私達だって知ったことじゃない。

この騒動は貴方達のしくじりと、麻紀の暴走が原因で起きたトラブルだってことよ。

 

分かったなら…今後は私達の動向に干渉しないで、本当に引っ込んで頂戴。

そこのアーシアが本当に大事ならね。

また私達に突っかかってくるなら、今度こそ心臓を突き刺さすわ。

 

 

分かったなら…ここから、出ていきなさい。

貴方達のすることは、私達の目の前から消え去ることよ。

もう、お互い時間がないのだから」

 

一誠は立ち尽くしたまま黙ることしか出来なくなっている。

 

レイナーレがあの時はどうして殺さなかったのかと問いただしても、レイナーレ達と共に動こうとすれば警告通りに殺されることになる。

一誠達から先に、この廃ゲーセンを出て行かなければならなかった。

 

「…俺はっ」

 

この場で一誠から騙してレイナーレを殺す事になれば、この廃ゲーセンにいる他の四人とも戦うことになるだろう。

 

それだけではなく、アーシアを確保するリアス達と麻紀を相手にしなくてはならない。

二人だけで頼れる相手もおらず、自分達が原因で起こした問題なのだから当麻達も呆れて助けてくれるかどうかも分からない。

 

一誠は廃ゲーセンのドアノブを掴み、この建物から出ようとする。その時点で赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)の力は既に最大まで溜まっているのを感じとっていた。

 

(このまま出ていくのは簡単だ。でも…)

 

せめて離れていても、僅かながらにレイナーレ達が麻紀を押さえ込んでくれるのならと。

気を許して、またデートの時みたく殺されるかもしれないと恐れていた。彼なりに必死に考えて、出ていこうとする足を止めていく。

 

貯めていった力を、振り上げた拳をどう使うのか

 

「レイナーレぇぇっ‼︎」

「なっ⁉︎

やっぱりコイツ、レイナーレ姉様を!」

 

一誠は振り返って赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)を握りつつレイナーレの元へ走っていく。ミッテルトは一誠の反応に光の槍を取り出し、レイナーレの前になって守ろうと前に立つ。

 

『Transfer!』

 

一誠は拳を突き出し、赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)でレイナーレを強くさせた。

 

「貴方っ…⁉︎」

「俺は、お前のことを許しちゃいねぇ…でも。

もう自分でも何してんのかよく分からねぇんだ」

 

誰の指示に従われることもなく、悩みに悩みきったが故に憎むはずのレイナーレに力を与えた。

リアス達と一緒にいた頃なら、絶対にしない行為だった。

 

「…誠司を見殺しにしたのは本当のことだったんだ。部長達が無事で心底ホッとした事も。

でも俺達が裏切って、誠司が死んでからアイツは余計に悪化してしまった。

 

木場は復讐心に駆られて、子猫ちゃんは豹変した麻紀を恐れるようになって、部長と明乃さんは仲間に命令権を下されたら不味いから逆らえずに黙認するしかできなくなったんだ。

麻紀自身は俺達の知らない間に新しい戦力を次から次へと船に引き入れて、もうアイツが何考えてるのか知る事すら出来ねぇんだ…部長達は無事だけれど、みんなして暗い顔をしてるんだよ。

 

もし麻紀に逆らったってなったら、今度は俺達の誰かが誠司みたいな犠牲が出るかもしれない。

そうなる前に、俺があの携帯で部長達に酷い命令をする前にぶっ飛ばして、権限を取り上げようと動いたんだ。

 

でも俺は…俺は…麻紀を殴ろうとしたら、転移した目の前の子供を殴り殺したんだ。

強制転移させて自分の身を守りやがったんだ。

 

だから俺は目の前に転移させないように麻紀を掴んで殴っても、今度は死にかけだった艦娘と入れ替わって…その子まで殴り殺して。

麻紀は安全な所にいて、麻紀が引き連れた連中が一斉に憎悪の目を向けてくるんだ。

 

…逆らったらどうなるか、もう検討をつけてたんだ。

反抗する時期が余りに遅すぎたんだ。

今度は俺が、罪の無い子供と女を殴り殺した畜生だって。何回も抵抗しても、アイツらは立ち上がって死ぬまで弾圧しようとしてきたんだ。

 

抵抗する度に勢いは全然止まらなくて、もうどうにもならなかった。

俺はアイツらに恐怖したんだ。

鳥肌が立って、酷く震えて、上手く息もできなくなって…もう嫌になって逃げ出したんだ。

耐えられなかったんだ。

そしてアーシアを連れて、無我夢中で必死に逃げ出した。

 

もう怒るべきか、悲しんで良いのか、俺自身…頭ん中ぐちゃぐちゃで、自分ですら何がしたいのかよくわからねぇんだ…」

 

 

今度は詳細に、逃げる前のことを明かした。

悪魔になる以前の彼は、ただ根っからエロいだけの男子高校生だ。

 

レイナーレのようにリアス達に相対する敵が目の前に現れたのならば、容赦なく殴り飛ばしていただろう。

しかし、一誠自身が徹底して相手の息の根を止めて殺すような残虐性までは持ち合わせていない。それ故に、事故とはいえ二人の女性を手にかけて殺害したことに酷く動揺している。

 

力で抵抗しようとする度に殺した事への怒号と殺意は止まないどころか増していき、彼の精神は恐怖で蝕まれていそうになっていた。

 

彼は、心が壊されてしまう前にアーシアを連れて麻紀の船を出て行った。

 

【部長達の解放を放棄する程、それほどまでに兵藤一誠は疲弊して追い詰められていた】

 

そうでなければあの場でレイナーレ達と接触した時に、すぐさま逃げる判断もできていた。船を出てからの彼は、もう心の安息が取れずに憔悴状態になっている。

 

「だから一回だ…一回だけ、助けてもらったテメェらには借りを返す。

今の部長達には手伝わない、お前らの邪魔はしない、もう麻紀には二度と手を貸さない。

これで、これで本当に…終わりだ」

「ふざけるなっつての…そんな話。あんな挙動しておいて、信じろって虫が良すぎでしょ。

そんなの無理に決まっ」

 

ミッテルトはレイナーレが許した事に少しでも我慢しようとしたが、彼の突発的な行動に口を出さないわけにもいかなかった。

 

「お願いします。

どうか、一誠さんを信じてもらえませんか。

さっきので驚かせてしまったことは謝ります。

それでも子供の目の前で争うことも、関係のない人達まで襲うような人じゃありません!

 

一誠さんは私を守るだけで本当に精一杯なんですっ…だから、お願いします」

 

そう言って、疑わせるような事をさせてしまった事に対して代わりに許して欲しいと震えながらアーシアが頭を下げていく。

ミッテルトはかなり苛つきながら光の槍を持っているままだったが、それをレイナーレが手を差し出して抑える。

 

「…もう良いわ、頭を上げなさいアーシア。

私達は何もしないから。

貴方にはちゃんと謝ないといけないわね。

利用しようしたこと、本当にごめんなさい」

 

レイナーレが同情した顔でそう言い、アーシアは彼女の言う通りに頭を上げていく。レイナーレはアーシアから一誠に視線を変え、彼の顔を見つつ今度は冷静な表情を切り替える。

 

「それと一誠…貴方には、謝らないわよ。

お互い、一度は殺し殺されたんだから」

「…お前なんかに、気休めの言葉なんていらねぇんだよっ」

 

一誠は暗い顔のままレイナーレの目を見ようともしなかった。二人はこの廃ゲーセンを出ようとするものの、アーシアだけが扉の前で振り向き、レイナーレ達に頭を下げていく。

 

「レイナーレ様も…皆さんも。

ここまで私達を守って下さって、ありがとうございました」

「本当なら、二人にはもう二度と会わないことを願いたいわ。

だからせめて、遠い場所で生きて」

「…行こう、アーシア」

 

二人は廃ゲーセンを出ていった。廃ゲーセンを背に向けて、遠くにある街の方へととぼとぼ歩いて行く。

 

『良いんだな相棒』

「…何がだよ、ドライグ」

『奴の持っていた神滅具はシステムと酷似させたものだが、俺のように意思は待ち合わせてない。

贋作なのはアッチだってことも証明させることが可能だ。

 

だが、まさかお前があの堕天使に力を与えるとは、大きく出たものだ。予想通りにあの連中が俺達の追っ手を殆ど請け負うことになるかもしれんな。

実際にあの堕天使達も逃げるのに精一杯なのだから、力を与えたところでお前の眷属達をすぐに始末するなんてこともまずない。

 

それを分かった上で』

「知るかよ…いままで俺を散々騙した罰だ」

『本当にそう思っているのか?

心の底じゃかなり複雑な筈だろうな。

憎むはずだった相手は改心し、リアス・グレモリーとその眷属は今でも麻紀の手駒にされていることに』

「…くそっ」

 

ドライグの言う通り、一誠は素直に喜べなかった。騙した女に命を奪われ、今度は助けてもらったことが今でもかなり困惑している。

 

「あの一誠さん、もしかしてレイナーレ様のこと」

「…それ以上は言っちゃダメだ。アーシア」

 

ただ、助けられたとしても間違っても一誠の口からレイナーレを許すという言葉は絶対にしたくなかった。

アーシアに許した事を聞かれるが、それを遮る。

彼女への本心は、わかっていても誰にも打ち明けずに彼自身の心に留めておく事にした。

 

レイナーレは自分をちゃんと見て欲しい人を望み、一誠は彼女を見てたと思い込んでいた。

だが、彼が見ていたのは【自分の彼女】でレイナーレ自身のことを知る機会も努力も出来なかった。

 

ーーー彼は最後まで彼女のことを深く知る機会もないまま、縁がなかった。

たった、それだけの話。

 

「俺達は俺達で、アイツらの抗争に巻き込まれないように安全な場所に移動しよう。

「…はい」

(グッバイ…俺の恋)

 

一誠は廃ゲーセンの方を振り返ると、寂しそうな顔をしつつ少しだけ眺めていた。

 

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