ここは、普段ウマ娘たちがレースで勝負してる世界の並行世界。元の世界と同じように、この世界のウマ娘たちも走るために生まれてきた……はずだった。どの国が最初に始めたかはわからないが、世界中の国々がウマ娘を戦争へと巻き込んだ。最初は、物資の運搬だけだったが、だんだんエスカレートし、ついには、前線で戦わせ始めた。人間よりも遥かに力の強いウマ娘たちは、100人の兵士と同じだけの力があり、ウマ娘同士の戦闘は周囲への被害がかなり多かった。そのため、ウマ娘のみで戦争で戦うことが暗黙のルールになっていた。人間はウマ娘をチェスの駒のように使い、まるでゲームをするかのように戦争をするようになってしまった。
世界はウマ娘たちにとって残酷だった。
しかし、そんな彼女たちを助けるために立ち上がった者がいた。秋川やよいを代表とした「TORESEN」という非政府組織だ。この組織が掲げる目標は、「ウマ娘たちの戦争からの解放」だ。ウマ娘たちを奴隷のように扱う各国に対し、ウマ娘たちは人間の道具ではないことを主張し、ウマ娘たちを戦争とは無縁の存在にしようとした。しかし、ちっぽけな組織の意見など通るはずもなかった。だが、このちっぽけな組織は諦めなかった。戦争の行われている中心部へと向かい、傷ついたウマ娘たちを癒し、食事を振る舞った。そのどこの国よりも良い待遇にウマ娘たちは、1人、また1人と「TORESEN」の仲間に加わっていった。そしてちっぽけだった組織は、だんだんと力をつけていった。もちろん国との争いがなかったわけではなかった。「TORESEN」に所属するウマ娘たちは、ほとんどが戦いを好まなかったが、自分たちの居場所を守るという目的のためなら戦いを拒むものはいなかった。
時は進み、ウマ娘を戦争で使う国は無くなった。1週間後に各国の首脳と秋川やよいの会談が予定されている。そこでウマ娘たちの自由が保障される条約が締結される予定……だった。この日、絶対に起こるはずのない悲劇の事件が起きてしまった。
そしてここから彼らの本当の戦いが始まった。
ボクの名前は、トウカイテイオー。ウマ娘を守るための組織「TORESEN」のなかで1番強い隊、第一小隊の副隊長をやってるんだ。
今はタイチョーに呼ばれて隊長室来たよ。タイチョーはボクの憧れなんだ。
強くてカッコいいシンボリルドルフさんみたいなウマ娘になります。
これは、タイチョーとボクの約束。今はまだタイチョーの背中に全然追いつけてないけど、いつかはタイチョーみたいになれたらいいな。
コン、コン。
あ、タイチョーだ!
「待たせたね、テイオー。」
「全然!今来たところだよ、タイチョー!」
やっぱりタイチョーはかっこいいな……。
「それで話って何?」
タイチョーが椅子に座ったタイミングで聞いてみた。
「まずは……怪我はもう大丈夫なのか?」
そういえばタイチョーには報告としてしか治ったの伝えてなかったな。
「うん、もう大丈夫だよ!ほら。」
そう言ってボクはテイオーステップをやって見せた。
テイオーステップって言うのは、ボクが考えた戦う時の足の運び方で、今のところはボクしかできてないんだ。つまり、ボクの必殺技ってやつだね。
「いや、いいんだ。私もこのところ忙しくしていたからね。」
そう言うと、タイチョーは嬉しそうに微笑んだ。しかし、タイチョーはすぐに真剣な顔になった。
「それとは別にもう一つ、テイオーに伝えなければならないことがある。」
ボクは、背筋を伸ばし、真っ直ぐにタイチョーの顔を見た。
「テイオーには、今日から第六小隊の副隊長をやってもらいたい。」
ボクは、聞き間違いかと思った。
「た、タイチョー?今、第六小隊の副隊長をやってもらうって言った?きっとボクの聞き間違いだよね。」
タイチョーは首を横に振って答えた。
「私は、確かにそう言った。これが部屋の鍵だ。」
そう言って引き出しから鍵を出した時、ボクはタイチョーに掴みかかろうとしてしまった。だけど、タイチョーは軽々と避けられ、腕を掴まれた。
「こんなものなのか、テイオー。隊を異動したくなければ力づくで私を納得させてみろ。」
「____ッ!」
タイチョーによってボクはドアまで投げ飛ばされた。ギリギリで受け身は取れたけど……
ボクは、言葉が出なかった。タイチョーは手を離してこう言った。
「テイオー。私を越えたければ、第六小隊の副隊長になれ。今の第一小隊……いや、私ではテイオーをこれ以上強くすることはできない。」
ボクは、なんとなくタイチョーが言いたいことがわかったかもしれない。
「つまり、ボクは第一小隊のお荷物ってことだね。」
「それは違___」
「大丈夫だよ、それ以上何も言わなくて。タイチョーもボクのことを思ってのことだろうから。」
タイチョーは何も言わなかった。ボクは鍵を取って隊長室を出ようとした。
「待ってくれ、テイオー!」
タイチョーはボクのことを呼び止めた。
「私はテイオーを信じている。」
ボクは、何も言わずに隊長室を飛び出した。
「本当に私はこれでよかったのだろうか……」
隊長室に残されたシンボリルドルフはもう一人の人物に向けて言った。
「いいんじゃないか、テイオーはとりあえず守れたんだからよ。」
そう言うともう一人はルドルフの頭の上に手を置いて言った。
「じゃ、元に戻すぜ。いいんだな、隊長?」
ルドルフは一度深呼吸をした後、もう一人の目を見て言った。
「あぁ、私の代わりにテイオーを頼む。」
もう一人はニヤリと笑って言った。
「あいよ。」
シンボリルドルフの意識はそこで途切れた。
ボクは新しい部屋に丸一日中籠っていた。何人かノックしてたけど、今のボクは部屋の外には出られなかった。部屋に入る前に取ってきた干し肉を食べながらベットの上で横になり、タイチョーの最後の言葉について考えていた。
「やっぱり、タイチョーにとってボクは邪___」
『全人類、全ウマ娘に告ぐ。』
ボクは、びっくりして干し肉をベットの上に落としてしまった。いきなりの大きな音にも驚いたが、何よりタイチョーの声であることに驚いた。
『私は、ウマ娘を保護するための非政府組織「TORESEN」に所属するウマ娘、シンボリルドルフだ。』
どうやらこの声は机の近くに置いてあったテレビから聞こえてくるようだ。
『私の指揮している第一小隊はこれより「TORESEN」から抜ける。』
ボクは、このテレビが言ってる意味が全くわからなかった。
「どうして…なの、タイチョー!!」
ボクはテレビに向かって叫んだ。
ボクの質問に答えるはずもなく、タイチョーは続けた。
『第二から第五小隊は、人質として捕らえた。「TORESEN」に残っているウマ娘は、第六小隊のみだ。』
ボクはタイチョーのことがよくわからなくなった。ボクならタイチョーにどこでも着いて行くのに、どうしてタイチョーはボクの見捨てるの。そんなに他のウマ娘の方が優秀なの……
ボクは、ベットから降りてテレビの方に向かおうとしていたけど、立ち上がれなかった。
『一週間後、私たちは人類を全て滅ぼす。』
その一言でボクの何かが壊れたような気がした。
「……違う……こんなのが……ボクの知っているタイチョーじゃない……」
動かなかった体が急に動き出し、テレビの前に向かっていった。
『もう一度繰り返す。私たちは一週間後、私たちは人類を全て滅ぼす。滅びたくな____』
「いつまでもタイチョーの声でしゃべるなああああ!!」
ボクはテレビを殴った。テレビが動きを止めたのと同時にボクは膝から崩れ落ちた。
テレビから出た煙に反応してスプリンクラーが作動したらしい。
ボクの頬は濡れていた。
「ああああああああああああああああああああああ!!」
ボクはもう一度叫んだ。だけど何もわからなかった。
「もう、わけわからないよ……」
ボクの目の前は真っ暗になった。