「__ル。カケルってば。話聞いてる?」
「あ、ごめん。少しぼーっとしてた。」
ネイチャに呼ばれ、ふと我にかえった。ぼーっとしてしまうなんて気が抜けてる証拠だなと思い、軽く頬を叩いた。
僕の名前はカケル。ここ「TORESEN」の第六小隊隊長をやっている人間だ。
「もう、いくら前夜祭だからって気を抜きすぎないでよね。一応、ここ隊長室なんだしさ。」
「ごめん、気をつけるよ。」
今日は、明日行われる首脳会談で決定するはずの「ウマ娘安全保障条約」を祝した前祝いの最中だ。
そして先ほどから話している彼女はナイスネイチャ。第六小隊の初めての隊員で、二年以上の付き合いだ。ポジションはソーサラー。バフやデバフなどを操って他のウマ娘をサポートする役割だ。世話焼き上手で、料理も美味しい。ずっと一緒にいたせいかこの前なんて間違えて「お姉ちゃん」って呼んでしまった。
「それにしても第六小隊がここまで強くなるとは最初の頃にはつゆにも思わなかったよね。かけると2人の時が懐かしいよ。」
「そうだな。あの時は本当に忙しかったな。」
「私の能力がこんなんだから全然勝てなくてね…」
能力というのはウマ娘たちが一人一つ持っている特別な力のことだ。ネイチャの能力は「他の物体の情報を上書きする」だ。最初の頃は効果がどのくらい出るのかや上書きできないもなどがわからず、苦戦していた。今はもうバッチリ使いこなしているのでいつも本当に助かっている。(洗濯の時もかなり重宝してる)
「そんなことないよ、ネイチャの能力だったからこそ僕もたたかえたんだよ。本当にいつもありがとう。」
本心を改めて伝えてみた。いい終わってから思ったけどこれはめちゃくちゃ恥ずかしい。ネイチャも顔を真っ赤にしていた。
「___ッ!あ、うん、えーっとこちらこそありがとう……」
そこからしばらく沈黙が続いた。
そんな沈黙を破ったのはノック音だった。
「ど、どうぞ。」
「失礼します。」
部屋に入ってきたのはブルボンだった。
フルネームは、ミホノブルボン。彼女と初めて出会ったのは戦場のど真ん中だった。あの時は人間のウマ娘に対する酷い扱いによって戦う意味をみうしなてしまった状態で敵味方関係なく攻撃していた。ネイチャの支援と半分暴走状態だったから勝てたものの万全の状態で戦ったら今も勝てる気がしない。役職はアタッカー。彼女の能力である「機械を触らずに動かす」によってアーマーを変化させながら自由自在に戦う事ができる。(彼女とテレビを見るときは確実にチャンネル決定権をとられるので注意しよう)
「……お邪魔でしたか?」
部屋に入るなり僕とネイチャが二人でいるのを見てブルボンが言った。
「いや全然大丈夫だよ。それより外の前夜祭はもういいの?」
ネイチャに睨まれたような気がしたが気のせいだろう。
「はい、予定通り全ての出店をコンプリートしてきました。」
「そ、そっか…」
自信たっぷりで答えるブルボンに少し戸惑ってしまった。
「ここにきた要件ですが出店を回っている最中に新しい戦術を考えついたのでぜひ手合わせをお願いできないでしょうか?」
「あーそういうことなら前夜祭が終わってからにしないか?多分だけど修練場も今はお祭りの最中だろうし。」
「わかりました……」
(めちゃくちゃわかりやすくしょげてるよ…。ちゃんと後で時間作ってあげなきな…。)
「はい、お茶どうぞ。それにしてもカケルってよく人間なのにウマ娘と戦えるよね。」
ブルボンにお茶を入れながらネイチャが言ってきた。ネイチャの言う通りなぜか僕はウマ娘と渡り合える。普通の兵士たちが100人くらい束になって戦い、ギリギリ倒せるか倒せないかなのだ。専門家が言うには、僕の筋力はウマ娘の4分の3くらいまで発達しているらしい。昔から力はかなり強かったが、ここ三年でさらに発達したような気がする。身長も伸びたし……。
「詳しい理由はわからないけど、僕はこの力があって本当に良かったと思うよ。実際何人ものウマ娘を戦場から救えたし。」
「まぁ、他人の命も大切だけど自分の命も大切にしなさいよ。カケルが死んだら助けられたウマ娘たちが悲しむでしょ。」
ネイチャがあきれるように言った。
「そうですよ、マスター。」
「善処します。」
やっぱりネイチャはお姉ちゃんだよな。
他の第六小隊のメンバーの話や、新しく隊に入ったウマ娘たちの話をしているとまたしてもノック音が鳴った。
「どうぞ。」
「失礼するよ、カケル君。」
入ってきたのは第一小隊隊長兼「TORESEN」の全ての隊を指揮する大隊長であるシンボリルドルフさんだ。
「大隊長でしたか。すみません、気づかなくて。」
慌てて立ちあがろうとしたところを大隊長に止められた。
「今日は、無礼講だ。それに私も尋ねると伝えていなかったのだから堅苦しいのはなしにしようじゃないか。」
「そ、そうですね。では、お言葉に甘えて…」
実を言うとこの大隊長の行動は全てがおかしかった。そもそも大隊長が用がある時は必ず大隊長室に呼ばれるのだ。さらに部屋に入った時の敬礼は緊急時以外は必ずしなくてはならないという決まりを作ったのも大隊長だ。極め付けに大隊長は僕のことを”カケル君“ではなく、”カケル“と呼び捨てにする。これは僕が大隊長にお願いしたことなので忘れるはずもないだろう。
「それで要件は何でしょうか?」
大隊長が席に座ったタイミングで聞いてみた。
「実はな、先ほどから秋川やよい組織長の姿が見えなくてね。君たちは知っていないかい?」
組織長である秋川やよいさんに一体何の用があるのだろうか。もしかしたら本当に用があるだけなのではないだろうか。そんなことを考えていても埒があかないので本当のことを伝えった。
「組織長なら、フクキタルさんのところのマジックショーのにゲスト出演するって言ってましたよ。」
これは朝僕と大隊長に理事長が伝えたはずなのでもちろん知っているはずだ。
「そうだったのか。情報提供感謝するよ。」
やっぱりこの人は本物の大隊長じゃない。今の一言でより確実性が増した。
「では、失礼するよ。」
そういって部屋から出て行こうとした大隊長に向かって僕は言った。
「あなたは誰ですか?」
その言葉に対する大隊長の返答は拳だった。
「___ッ!!」
僕は、ぎりぎりで回避した。少しでも気を緩めていたら今ので殺されていた。
「カケル!?」「マスター!?」
ネイチャとブルボンが駆け寄ってくる中、大隊長は小声でこういった。
「今から十分の猶予を作る。その隙に組織長を連れてスペシャルウイークたちがいる海上都市「アトランテ」に迎え。頼んだぞ、カケル。」
そういうと扉の方に向かって歩いていった。
「ちょっと!いくらなんでも理不尽すぎませんか!
途中ネイチャが大隊長へ向かっていった。すると、大隊長は振り返ってこういった。
「それは私にではなく人間たちに言う言葉ではないのか?」
「そ、それは…」
大隊長の言葉にネイチャは何も言い返せなかった。
「組織長やそこにいる人間だってそうだ。」
「それは違__」
「いいや何ひとつ違わない。一人でも人間が生き残っているならいつかまた私たちウマ娘に対し、理不尽な扱いをするだろう。だからこそ、私はここに人類殲滅を宣言する。」
その言葉に僕たちは息を飲んだ。
「カケル君、君は1番最後まで取っておく。死にたくなければ私のことを止めて見るんだな。」
そう言い残して大隊長は行ってしまった。