気づいた時には、隊長室の前にいた。
(あれ?ボクはどうして隊長室の前にいるんだろう…?)
とりあえず、ノックをしてみた。
「どうぞ。」
タイチョーからの返事があり、中に入るとタイチョーはソファーに座っていた。
「テイオーか。座ってくれ。」
ボクが机を挟んで向かいにあるソファーに座ると、タイチョーは紅茶を入れてくれた。
「すまない。急に呼び出してしまって。」
「え、あ、うん。大丈夫だよ。タイチョーに呼ばれたなら、どこに居たってすぐに駆け付けるよ!」
そう言うと、タイチョーは笑った。ボクもつられて笑った。
「では、早速だが本題に入ろうか。」
タイチョーは立ち上がった。慌ててボクも立ち上がる。
「テイオー、君はあまりにも役に立たない。おまけに第一小隊のイメージにあまりにもかけ離れている。今すぐに隊を抜けてくれ。」
「…え…た、タイチョー…?」
ボクは、タイチョーの言っていることがわからなかった。いや、わかりたくなかった
「君が隊を抜けないなら、隊長権限で君を除隊する。」
ボクはめまいがして倒れてしまった。倒れた時に運悪くティーカップを倒してしまい、中身の紅茶がかかったが、暖かさは全くなかった。
「…ぼ、ボクは、タイチョーの側にいちゃいけないの?」
タイチョーはだめだなんて言わないはずだよね?
「あぁ、ダメだ。私の許可なく隊長室に入るな。」
「…ぇ…ぁ……」
もう僕はなにも言えなかった。
「わかったら今日中に荷物をまとめて部屋から出て行ってくれ。」
タイチョーはそのまま隊長室から出て行こうとした。
「ま、待って…!」
タイチョーに向けて伸ばしたはずの手の先にあったのは、天井だった。
「はぁ…はぁ…」
息を整えながら半身を起こし、辺りを見回すと、ここが休養室だとわかった。とりあえず、ベットから降りようとしたが、力が入らず、ベットから落ちてしまった。
「テイオーさん!」
丁度、入ってきた誰かが駆け寄ってくる。この声は確か…
「……キタちゃん?」
「…っ!…デ、デイオーざん……!」
キタちゃんは、泣きながら抱きついてきた。
「よがっだ…思い出じで…ぐれだんでずね…!」
「お、思い出した?私がキタちゃんのことを忘れることなんてないよ…?」
ボクがそう言うと、キタちゃんは安心したように離れた。
「タキオンさんが言うには、体に相当な負担がかかっているそうなので、しばらく安静にしていたほうがいいそうです。とりあえず、ベットの上に運びますね。」
涙を拭いた後、キタちゃんは僕のことを抱えてベットにはこんでくれた。
「りんごでも食べますか?」
「うん、食べる。ありがとうね、キタちゃん。」
「え…あ…いや…は、はい…///」
キタちゃんは顔を赤くしながら答えた。
しばらくキタちゃんにお世話してもらっていると、ノックとともにドアが開いた。
「失礼するよ、テイオー君。」
入ってきたのはタキオンさんだった。
名前は、アグネスタキオン。保健医をやっているウマ娘で、ボクも足を怪我したときにお世話になった。
「ルドルフ君のことで少し聞きたいことがあってね。」
「…タイチョーにとってボクは邪魔な存在なんだ。今更、ボクに聞いても何の意m__」
「それは本当にルドルフ君が言った言葉なのかね?」
「……言ったけど。」
ボクの言葉を遮ったタキオンさんの言葉に、ちょっとイラっとしながら答えた。何も知らないのに知ってる口調に腹が立った。
「ルドルフ君の先ほどの放送も彼女らしい放送ではなかった。例をあげるなら、全ての人類を滅ぼすとかね。」
「……そうだったけどそれがタイチョーがボクをおいていったのと何か関係があるの?」
正直、タキオンさんが言いたいのは、ボクが何かしたと思っているのだろう。だが、現実は違う。ボクは、被害者なのだ。
「ふむ…そう来るか…なら結論から言おう。私が思うにルドルフ君は、何者かに操られている可能性がある。」
「…え…?タイチョーが操られてる?タイチョーに限ってそんなこと…。」
正直タキオンさんの言う通り操られている可能性は考えていない訳ではなかった。だが、あの強くてかっこいいタイチョーなのだ。そう簡単に操られるとは思えない。
「…もし、君の能力についての情報で脅されていた…としたら?」
「ぼ、ボクのせいで…?だからタイチョーはボクをおいていった?」
ありえない。ありえないはずなのに、あり得るのではと思ってしまう。
「まぁ、流石に今のは冗談だが、君がかかわっている可能性は否定できないだろう。」
ボクは、どうすればいいのかわからなくなった。
「テイオーさん!」
突然、キタちゃんに抱きしめられた。
「…き、キタちゃん?」
「大丈夫です、テイオーさん。私は、テイオーさんの味方です!大隊長さんを操っている黒幕も一緒に倒しましょう!そして、大隊長さんを助けましょう!」
「…っ……!き、キタちゃん!…う…うぅ……」
ボクは、キタちゃんに抱きしめられたまま泣いてしまった。
「君もよくこんなことが思いつくね、キタ君。」
テイオーさんが泣き止んだ後、脱出のために格納庫に向かって移動している最中、あたしはタキオンさんに耳打ちされた。
「別に私は何もしてませんよ?」
とぼけてみたが、どうやら全部ばれているようだった。
「上げて下げてまた上げる…そうやって頼れるのは自分だけだと思わせる。全くすさまじいほどの話術だったよ。」
「…流石にごまかせなかった…ですね。」
実は、テイオーさんに私たちと一緒に来てもらえるかのアプローチの方法を考えたのは私だ。タキオンさんにお願いしたことは二つだけ。架空の黒幕のでっち上げと、それにテイオーさんがかかわっている可能性の提示だ。実際、私はテイオーさんの能力については何も知らないが、いい感じに信憑性が高まった。
「わかっているとは思いますが、くれぐれもテイオーさんには内緒でお願いしますね。」
「はいはい。頼まれる代わりと言っては何だが、きみのことを2つ教えてくれ。」
この人にはあまり情報を渡したくないけど、ここで断ったら変な風に思われそう。
「…私が答えられることなら。」
私がそう言うと、タキオンさんは、ニヤリと笑った。
「一つ目は、この話術どこで習った?」
「…昔、友達に教わったんですよ。」
これは噓ではない。ダイヤちゃんが教えてくれた。
「そうか…なら二つ目だ。君は黒幕ではないんだよな?」
何だそういう質問か。
「当たり前じゃないですか!私は、テイオーさんの泣いている所なんか見たくありませんよ?」
テイオーたちが格納庫に到着した頃、格納庫にいた第六小隊のメンバーは「フランシール」に荷物を積み終えていた。フランシールとは、第六小隊専用移動型要塞の名称だ。陸海空全てで移動が可能であり、現在は宇宙に行くための改造案が出ているとか?ちなみに第六小隊のメンバーは長いのでフランと呼んでいる。
テイオーたちがフランのコントロール室に入ると、やよいさんがキャプテンシートに座っていた。
「おお!タキオン、キタ君、お疲れ様。道中大丈夫だったか?」
「問題ありません。誰にも会いませんでした!」
キタサンブラックがそう言うとやよいさんはほっとした。
「え!誰か敵がいるの!?」
「そうか、テイオーは何も知らなかった。それも含めt__」
やよいさんがそこまで言った時、急にターボとファル子がコントロール室に駆け込んできた。
「「今すぐフランを出して!!」」
話は少し前のファル子のライブステージ付近に戻る。
「ターボとウララを見つけました、マスター!」
「本当か!」
これはありがたい。
「ここは二手に別れよう。僕はファル子の方に行く。」
「了解しました。私はこのまま2人を追跡します!」
そう言ってブルボンは観客席の後ろの方へと向かった。僕はステージ裏へと急いだ。
『今日はみんなありがとう〜!!』
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
そんな感じのやり取りが終わりファル子がステージ裏へと降りてきた。
「あ、カケルさん!見に来てくれたんですか!」
「ごめん、見れてないんだ。今は緊急招集がかかってるから呼びに来た。」
僕がそういうとファル子は少し残念そうな顔をしたがすぐに真剣な顔になった。
「今すぐ出れる?」
「うん、大丈b__」
「「「「アンコール!アンコール!」」」」
突然、観客席から盛大なアンコールが聞こえてきた。
「ど、どうして…?今日はもう終わりなのに…」
「もう一曲歌ってる時間はないよ!」
「わかってる!」
そう言って、ステージ裏から出ようとした時、出口に1人のウマ娘がいた。
「ファル子さん。アンコールには答えないんですか?」
「フラッシュさん…」
名前はエイシンフラッシュ。ファル子のマネージャー的存在のウマ娘だ。ファル子の同期でもある彼女は夢に向かって進む彼女の背中を押し続けてきた。
「アンコールには答えるのがアイドルの常識ですよね?」
「私は、アイドルじゃない!ウマドルだよ!どうしちゃったのフラッシュさん!」
ウマドルはアイドルとは違う。アイドルはみんなの憧れの存在だが、ウマドルはみんなの夢を叶える存在だ。僕だって知ってることをフラッシュさんが知らないはずがない。
「……
フラッシュさんの右手に剣、左手に盾が現れた。
「どうして…どうしてなの、フラッシュさん!」
そう言うファル子に対し、フラッシュさんは剣を向けて言った。
「ファンの皆さんのため、そしてファル子さんのためにも、ファル子さんをここから先に行かせる訳にはいかない!」