エイシンフラッシュとスマートファルコンの出会いは入隊当初に行われたレクリエーションだった。
【標高約800mのハルテイ山を登ること。】
改めてレクリエーションの内容を確認したファル子は、小さなため息をついた。日々のアイドル業のおかげで体力自体はあるのだが、それでも山登りはあまり気が進まなかった。気分を変えようと、同期の隊員のプロフィールに目を通していると気になる娘を見つけた。
「エイシンフラッシュさんか…どこかで見たことがあるんだよな。経歴は半年前までアイヅの軍にいて…あれ、真っ白?」
気になったので全世界共通のSNS「スイッテ」やウマ娘が多く利用しているSNS「ウマッター」などで検索をかけてみたがフラッシュさんらしき情報は一つもなかった。
「謎が深まるばかりだね…。とりあえず、明日の山登りの時にでも聞いてみようかな?」
少しだけ山登りが楽しみになった。
翌朝、集合場所に行ってみると既にフラッシュさんがいた。声をかけようと思い、近づこうとしたが、一昨日お世話になったブルボン先輩がいたので先に挨拶に行った。
「ブルボン先輩、おはようございます!」
「ファル子さん、朝からいい元気ですね。確か、今日はレクリエーションの日でしたね。」
「はい。ハルテイ山を登ります!」
「ハルテイ山ですか。あの山はマフジン山やへブレス山などの世界最高峰の山よりかなり低いからと言って侮ってはいけません。一番多いのは下山途中の転落事故です。怪我はしないように気を付けてくださいね。」
「は、はい!頑張ってきます!」
先輩からの激励の言葉に私はめっちゃテンションが上がった。少し話して先輩に別れを告げて戻った頃には、フラッシュさんの姿は見つからなかった。
「もう出発している人がいるんだな…。私もそろそろ行こうかな。」
今日の登山は、決められた時間内なら好きな時間に出発して好きな時間に帰ってくることができる。ちなみに山の麓と頂上にチェックの係がいるためズルはできない。私は、お昼の時間までには頂上につきたいなと思い、麓でのチェックを済ませて登り始めた。
登りは難なく登りきることができた。頂上でのチェックを済ませ、持参した惣菜パンを食べながらそろそろ降りようかと思った時ふと視界にフラッシュさんの姿を見つけた。朝声をかけられなかったから、今度は声をかけに行った。しかし、タイミング悪く下山するウマ娘たちの波に飲まれて行ってしまった。
「早く追いかけないと…!」
ペースを上げて追いかけ、半分くらい山を降りるとやっとフラッシュさんが見えた。
「フラッシュさ___きゃあああああああああ!」
声をかけかけようとしたとき、私は崖から足を踏み外してしまった。先輩からあんなに注意されてたのになど後悔ばかりが頭に思い浮かぶ。これくらいの高さなら落ちても死ぬことはないだろうがとても痛いだろう。
地面に打ち付けられるはずだった私は、誰かに受け止められた。落下の最中に無意識につぶってしまった目を開くと、私を受け止めてくれていたのはフラッシュさんだった。
「怪我はなさそうでよかったです。立てますか?」
「は、はい!」
フラッシュさんは私のことを降ろして、辺りを見回した。
「上に行くのは無理そうですね。」
エイシンフラッシュさんはパカフォンを取り出し何かを調べだした。パカフォンというのは入隊時に支給される携帯端末だ。普通のスマートフォンよりかなり頑丈になっていて、ウマ娘がかなり力を入れて握りつぶそうとしても壊れないらしい。
「少し遠回りですが、安全なルートを通って帰りましょう。ついてきてください。」
「へ?あ、うん。わ、わかった。」
パカフォンを見ながら言われたので返事をするのが一瞬遅れた。
返答をしてすぐにフラッシュさんはパカフォンをしまい、歩き出した。私も迷惑をかけないように後ろをついていった。
「え、えーっと、助けてくれてありがとう。」
「…どういたしまして。」
「あー、き、今日は晴れてよかったですね。」
「そうですね。」
いつもアイドル活動でトーク力は鍛えていたはずだったが、いろいろありすぎてうまくフラッシュさんと会話できなかった。
しばらく歩いていると、フラッシュさんの歩き方が右足を引きずってるように見えた。
「フラッシュさん、少し休憩しませんか?」
「でも、早く帰らないと。」
「歩くペースが落ちたら元も子もないよ。」
「…」
フラッシュさんは何も言わずに立ち止まった。私は、それをOKのサインだと思い、背負っていたリュックサックからレジャーシートを取り出して広げた。
「フラッシュさんもどうぞ。」
最初は座ろうとはしなかったが、しばらく待っていると座ってくれた。
「右足を見せてください。」
「……やっぱり気づいていましたか…。」
そう言うと、フラッシュさんは右足を出して裾をまくってくれた。フラッシュさんの右足首は、少し赤く腫れていた。
「軽い捻挫なので大丈夫ですよ。ほおっておけば治りま___」
「ダメですよ!もし癖とかになったら戦えませんよ!とりあえず、応急処置で冷やしますね!」
捻挫の時の処置は確か、RICEだったと思う。Rは安静、Iは冷却で…CとE何だっけ?テーピングや包帯で固定してた気がする。とりあえず私は、リュックサックの中からコールドスプレーと包帯を取り出した。
「多分、私のことを助けてくれた時ですよね。本当にすみません。」
フラッシュさんは何も言わなかった。コールドスプレーをかけた後、いざ包帯を巻こうとしたら、フラッシュさんに止められた。
「…包帯の巻き方わかりますか?」
「包帯くらい巻けますよ。」
そう言って2,3回巻いてみたら巻けなかった。
「…すみません、教えてもらっていいですか?」
「わかりました。」
包帯を巻き終えるとすぐに立ち上がろうとしたので慌てて止めた。
「ダメですよ!安静にしないと!」
「でも、急がないと…」
「あくまでも応急処置なんですから!私がおんぶしていきます!」
「でも___」
「私も恩返しをしたいんです!」
つい、大きな声が出てしまった。
「…わかりました。危険な道、日が暮れたときは私も歩きます。あと、疲れた時はすぐに言ってください。いいですか?」
「はい!」
「そう言えば、どうして助けてくれたんですか?あの高さなら落ちても少しの怪我で済むとおもうし、実際助けに行ったほうが危険でしたよね?」
おんぶして歩いている最中、気になっていたことを聞いてみたが、返事が返ってこなかった。
「あ、別に 否定している訳では___」
「ファル子さん。少し聞いてもらってもいいですか?」
「は、はい!」
いきなりの返答に驚いてしまった。
「ありがとうございます。プロフィールにかいてあった通り、私は半年前までアイヅの軍にいました。それ以降の記録がないのは私が軍から脱走したからだと思います。」
なるほど。脱走しているならSNSに情報がないのもうなづける。軍が何も言わなかったのも自分たちの戦力がかけていることをばらしたくなかったからだと私は思う。
「脱走した理由は…大切な親友を戦場で失ったから…です。」
「それで私が崖から落ちた時も助けてくれたんだね。」
「それもあるんですが…実は私、ファル子さんの大ファンなんです。」
「そうなんだ、私の大…ファ…ン?え!ファンなんですか!?」
心底驚いてしまった。確かにファンなら見たことあるのもわかる。しかし、握手会などで一度見た顔は覚えてるはずなのだ。最近ファンになったか、握手会などに一度も来ていないのかのどちらかだろう。
「実は亡くなった親友があなたの大ファンだったんです。何回か誘われてはいたんですが、私はあまり興味がなくて行かなかったんです。あの子が
死んでしまった時、せめて一度くらいはと思い、あなたのライブに足を運んだんです。あの時は「リベルンの床」でライブしてましたね。
「あーあの時…」
「あの時は、本当に大変だった。」
半年くらい前に突然、有名なところでライブをしたいなと思い、アイヅの観光名所であるリベロンの床が近くにあったのでそこでライブした。
「あの時は本当に大変でしたよ。あの後、アイヅから出ていかないと行けなくない羽目になって…」
「知っています。あのライブで私はファル子さんのファンになったんです。はじめこそあの子の代わりだと思っていましたが、今は違います。ファル子さんは今の私の目標なんです。ファル子さんみたいに私も他のウマ娘たちに夢を与えたい、自由になっていいんだって伝えたい。」
「…っ!わ、私…夢を…。」
私は、ウマ娘でもアイドルができることを証明し、世界中のウマ娘に希望を与えたかった。しかし、現実は「普通の人間がやっているアイドル」と扱いは変わらなかった。ウマ娘にとっても、人間にとってもだ。今まで出会ったファンの人は、「可愛い」とか「元気になった」とかしか言われなかった。それでもうれしかったけど、フラッシュさんのはもっと嬉しかった。
「ファル子さん?どうしたんですか?」
私は、嬉しさのあまり足を止めてしまっていた。
「私…夢を達成…できていたんですね。」
いつのまにか泣いていた。
「…ファル子さん。降ろしてもらっていいですか?」
私は、フラッシュさんを降ろし、涙を拭った。
「すみま___」
「ファル子さん、私一人だけで夢を達成したことにしていいんですか?」
フラッシュさんの言いたいことがいまいちよくわからなかった。
「最初の一人だったから…」
「そういうことじゃないんです!あなたの夢は、私一人だけで達成できるものなのか聞いているんです!」
フラッシュさんの言いたいことがようやく理解できた。確かに私の夢は一人のウマ娘の希望になるだけではない。そういった意味では、私の夢は達成されていない。
「私は、この半年間、あなたをずっと見てきました。アイヅでのライブから始まり、アトランテでの水上ライブ、一ヶ月でミリタリカ一周路上ライブなど世界中の様々な場所で見てきました。あなたの夢の内容まではわかりませんが、夢の規模ならわかります。世界中の人々に伝えたいことがあったんですよね!」
凄い、私のライブを見てここまで私のことをわかってくれる人がいるとは思っていなかった。
「涙は世界中の人にあなたが伝えたいことを伝えられるまでとっておくべきだと思いますよ。」
「うん…わかった。私の夢が本当に叶うまで私は泣かないよ。…でもね、私が泣くときはフラッシュさんも隣にいて欲しい。」
「わかっていますよ、私もファンとして、あなたを支えていきますから。」
フラッシュさんはいかにもという感じでそう言った。
「違うの!フラッシュさんさんには、ファンよりももっと近い場所で見てて欲しいの!」
「…?」
「フラッシュさんさえよければ、私のパートナーになってください!」
「えっ…///」
フラッシュさんは、赤面していた。何か間違えたこといったかなと思って言ったことを振り返ってみた。
「フラッシュさんさえよければ、パートナーになってくださ…あ!ちちち違うの!いや、違わないんだけど、なんだっけ!えーっと、あの、その…そ、そう、マネージャー!マネージャーになってもらいたいの!」
今度は私が赤面する番だった。パートナーになってくださいって完全にプロポーズしてるじゃん!?
「そ、そうですよね。マネージャーですよね。一瞬プロポーズされたのかと…///」
「ああああああああ!!」
「お、落ち着きましたか?」
「は、はい…もう大丈夫です…」
私は、しばらく発狂して木に八つ当たりしてしまった。
「さっきの話ですが…」
「うっ…」
「ほ、本当に大丈夫ですか?」
「う、うん。」
やっぱりどうしても思い出してしまうなぁ…
「マネージャーの件ですが、私もいいですよ。」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。ですが…」
そこでフラッシュさんは1度言葉を区切った。
「目指すのは頂上のみです。妥協は許しません!」
「私もそのつもり!やっぱり1番がいいもんね!」
アイドルを始めた時から私は1番になるのが目標だったので何も問題はなかった。
「では、未来の計画でも考えましょうか。まず、今年中にグレートアイドルフェスの参加券を取りましょうか。」
グレートアイドルフェスとは世界中のアイドルが集まる年に一度選ばれたものだけが行けるライブのことだ。
「そうだね。もう2年くらいはアイドルやってるからそろそろ出たいね。」
「それと、ただのアイドルではなくウマ娘のアイドルなので『ウマドル』と呼ぶのはどうでしょうか?」
「それすごくいい!これからはアイドルではなくウマドルとして活動するよ!」
「それから……」
こうして私たちは頂上へ駆け上がるための設計図を考えたのだった。
ちなみに設計図の完成後、レクリエーションの制限時間オーバーで補習を受けさせられたのは言うまでもない。