さよならを言わせたくない 作:残酷なまでに平等で不平等
『もしもーし?もう聞こえてる?』
「……うん、聞こえてるよ。あんまし大きな声出せないけど」
『じゃあ今日のっ雑談たぁ〜いむ!てれん』
「その効果音何」
何事も無い平日。大体夕方頃。やっぱりそんなこと無かった。大体15時半くらい?
『───それでね?あの時のすずちゃんすっごくかわいかったなぁって!』
「えぇ、何その話題はっず……って、まずそれいつの話?」
スマホは左手。頬に当てて、最低限周りの人の迷惑にならない程度の声量で声を出す。
最近、帰り道に電話で話しながら帰るのが日課になりつつある。部活?私とボールは対立する運命にあったので。でまぁ、歩きながらってわけじゃないんだけど、制服着たまま街中で友達と電話してるのはなんか背徳感。
『んー…?あっ、あのパックのジュース落としちゃった日だよ!ほら、いちごのやつ』
「あぁ…よく覚えてるね。もー、それどんだけ前だと思ってんの」
彼女の声は楽しそう。受話器を片手にニコニコしてる彼女を思い浮かべるだけで、なんだか少し救われたような気分になる。それと、ちょっとの自己嫌悪。
思い出したら止まらない。私はまだ彼女に依存してる。笑顔が愛らしくて、おっちょこちょいで、怒るとちょっぴり早口になる。でも多分ほんとに怒ってなんかなくて。毎回最後には「もー!!」なんて声を上げて、それでも結局笑顔になっちゃう優しい子。
だから───
『だから、明日は来てよー!1人でじーっとしてても退屈だし、すずちゃんが来てくれたら私はすぐに元気になっちゃうよ!』
───あ、もうこの話か。
彼女の電話は10分までだから。それで最後には決まって、「私に会いたい」って旨を伝えてくれる。それが擽ったくって、なんだか笑いが漏れちゃった。
「もー、うそつき」
『えぇ?大人しく寝てなって?はーいわかってまーす!それじゃ、すずちゃんまた明日ね!』
「うん。またね」
素早く赤いボタンをタップして通話を切る。声を出しながらだから、実際だいぶフライングぎみ。
一旦画面を落として、少し伸ばした袖でフィルムの上から液晶を擦る。ぐりぐり。電源ボタンを押して画面をスワイプ、指を滑らせてパターンをすいすいっと一筆書き。少し面倒な図形にしてるから、一発で通ると胸がすくような気分。ちょっと得意げ。
もう電話してた時間が名残惜しくって通話履歴に手が伸びそうになるけど、ふと今の時間が目に入った。
いやもうお母さんがおゆはんの調理終わらせてる時間なんですけど。私今の場所で大体通学路半分くらいなんですけど。家から学校まで20分くらいかかるんですけど。
私はそのまま履歴からお母さんの名前を呼び出して電話をかけながら、慌てて駆け出した。
公衆電話って不便ですよね。
携帯を持っていれば後からかけ直してもらえたりだとか、場所を選ばなかったりだとか。
少し羨ましい。