強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第八十九話「エンカウント」

「ビンゴじゃ、いやぁ、幸先がいいのぅ」

 

 洞窟に入って一度目の口笛で呼べるとは予想外だ。

 

(かといって、見逃すのもね)

 

 溶岩の光を照り返すメタリックボディの主はまさに俺が求めていた獲物、出来ればなるべく沢山仕留めたいところでもある。

 

「お前さん達はようがんまじん、さっきの頭と腕だけを出した魔物が出たらヒャドで攻撃を頼むぞ? あれには炎が効きそうに見えんからのぅ」

 

「そ、それはどういうことであり」

 

「ドラゴラムっ」

 

 駆け出し魔法使いの問いかけが終わるよりも早く、俺は呪文を唱え、竜へと変わった。

 

「なっ」

 

「ひいっ」

 

「グオオォォッ」

 

 初見の同行者達が驚き、声を上げるが咆吼を上げた俺ニハドウデモイイコトダッタ。

 

(ニガサン、ニガサンッ)

 

 敵、燃ヤス。

 

「「ピキーッ」」

 

 灰色、火ノ玉ブツケテタ。少シ熱イ、イライラ。

 

「……ちょっ、あれ何なの?」

 

「竜に変身し敵を倒す呪文でする。ああなってしまうと、スレ様でも敵と味方を見分けるくらいの分別しかつかなくなるとか」

 

 仲間、シャベッテイル。生キテル、イイ。灰色燃ヤス。

 

「ガァァァァ」

 

「ピィィィッ」

 

「ピ」

 

 三、逃ゲタ。アト、燃エタ。

 

「ちょっ、何だよあれ? 攻撃呪文は効かねぇんじゃ無かったのか?」

 

「そうでございまする。ですが、あれは変身して吐く炎。例外的に効果があると」

 

「何というか、無茶苦茶でありますな……うっ」

 

 後ロ、五月蠅イ、ケド仲間。俺、次、探ス。

 

「ぬっ、動き始めたぞ」

 

「くっ、あの呪文は一度に相当の精神力を使いまする。おそらくスレ様は、変身していられる時間の限り敵を倒すとつもりであられましょう」

 

「……それで、さっきのいかにも溶岩で出来てますって魔物の対処を我々にと言ったのでありますな?」

 

 声スル、生キテル、ナラ俺、敵焦ガス。

 

「ま、まぁ何だ、俺達はあのドラゴンの炎に巻き込まれたりしないように後を追やぁいいんだな?」

 

「……はい、左様でございまする」

 

「そっか、って大丈夫? 何だか凄い汗だけど」

 

「き、気遣いは無用でする。へ、蛇や竜が少し苦手なだけでございますれば……」

 

 仲間、少シ変。ケド、俺、灰色探シテ燃ヤス。

 

「ゴア」

 

「ガァアァァ」

 

 熊、燃ヤス。

 

「「ゲ」」

 

 蛙、焼ク。

 

「これは、何と……」

 

「本当にとんでもねぇな、あの爺さん」

 

「死線をくぐると人は成長すると聞き及んでいるでありますが、果たしてこれを成長と呼んでいいのか微妙であります」

 

「うーん、けどさ。さっきから、身体がはち切れそうなほど力とか湧いてきてるよ?」

 

 後ロ、何カ言ッテル。生キテル、イイ。灰色燃ヤス。

 

「って、ああっ、また動き出したよっ」

 

「むぅ、急いで追いかけねば」

 

 ソレカラ、二回灰色焼イタ、後のことだったと思う。

 

(ん、俺は……って、そうか)

 

 ドラゴラムの時間切れで人の姿に戻って知性や理性が戻ってきたのだ。

 

「さてと、どうかの? そろそろルーラぐらいは使える様になったと思うのじゃが」

 

「言いたいことはそれだけかよ、爺さん……」

 

「むぅ……」

 

 振り返った俺にライアスが苦虫をかみつぶしたような顔をしたが何を言わんとしているかは、解る。

 

「昼飯の時間かの」

 

 解っていてすっとぼけた。

 

「おいっ」

 

「スレ様、幾ら何でもそれはあんまりでする」

 

「いや、すまんのぅ。ドラゴラムをフル活用するなどワシも初めてでな。かつ、変身中はそれこそ獣に近いレベルまで知性が低下する。自重や気遣いなどしようと思っても不可能なんじゃよ、すまん」

 

 謝る俺の周囲には、焼けこげた魔物の死体が散乱していた。どうやら、思った以上に暴走していたらしい。

 

「と、ともあれ。スレッジ様のお陰で我々は無事ルーラの呪文を会得することが出来たのでありますし」

 

「経緯はともあれ、感謝致す」

 

「えっと、ありがとうございました?」

 

「そうか、ノルマは果たせたようじゃな」

 

 覚えたのは、安堵。アリアハン国王から請け負った仕事もこれで終わりと見て良いだろう。

 

(ちょっと早まった気もするけど、のんびりしてる時間無かったからなぁ)

 

 こんなにあっさり人材を育ててしまって良かったのか、と心の何処かが問いかけてくるが今は無視する。

 

「では、いったん外に戻ろうかの。ジパングに寄って女王と面識を得ねばならんじゃろうし、ルーラで飛んで来られるようになるには、一度訪れておく必要もあるじゃろうしな」

 

「了解であります」

 

「はいっ」

 

「うむ」

 

 アリアハンとジパング間の交易ルートはこれで確保出来たと見て良いだろう。

 

(よしっ、これで毎日お米を食べる生活に一歩近づいたっ)

 

 まだアリアハン限定だが、交易網が広がれば他の地域の宿屋でだって食事について「パンorライス」と尋ねられる時代がやって来る筈だ。

 

「予定とちいっと変わってきたが、クシナタの嬢ちゃんはアリアハンへの報告を頼めるかのぅ?」

 

「はい、承知致しましてございまする」

 

「すまんな。ついでに勇者の嬢ちゃんやお前さんのお仲間さん達の訓練状況も持ち帰って来てほしいんじゃが」

 

 俺はそう依頼しつつ、クシナタさんにキメラの翼とお金の入った革袋を握らせる。

 

「そのゴールドは経費と小遣いじゃ、好きに使ってくれて構わん」

 

 おかゆを作った時も世話になったが、サマンオサではお米のご飯を炊いてくれたし、クシナタさんを初めとした元生け贄のお姉さん達には世話になりっぱなしだったのだ。

 

「スレ様」

 

「ほっほっほ、ワシに出来ること何ぞたかが知れておるがのぅ、お前さんには感謝しておるのじゃよ」

 

 協力者になることを承諾した時、俺は色々なことを明かした。それでもついてきてくれている。これだけでもいくら感謝しても足りない。

 

「ス……スレ様」

 

「それはそれとして……そこの三人。ルーラが使えるならリレミトの呪文も覚えたじゃろう? 誰か使って見せてくれんかのぅ?」

 

「はっ、では自分が」

 

 とはいうものの、第三者の前では打ち明け話も不可能。誤魔化すように元駆け出し魔法使いの三人に話を振れば、何故か軍人っぽい口調の女魔法使いが挙手し、詠唱を始める。

 

「リレミトでありますっ」

 

「あー、そこもその口調な」

 

 誰かの呆れたような声を途切れさせ、完成した呪文は俺達を一気に洞窟の外まで運び出した。

 

 




メタル狩りの効率、恐るべし。

3人の魔法使いにルーラを覚えさせた主人公は、3人をおろちとの顔つなぎをさせるべく、ジパングへと向かう。

次回、第九十話「ジパング再び」

お知らせにあるとおり、明日の朝の更新はお休みになる可能性が大です。


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