強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第九十一話「交渉は人任せ」

「お前達がわらわに会いたいという者かえ?」

 

「ワシはただの付き添いじゃがのぅ」

 

 おろちの問いへ肩をすくめていった言葉に嘘はない。

 

「お初にお目にかかるであります。自分達はスーザン殿とヒミコ様が取り交わした交易網作成の担当者で――」

 

 未来の交易担当者三名がおろちに自己紹介し始めたのを眺めつつ、ただ黙し観察する。

 

(変な気は起こさないと思うけどね)

 

 念のためにいつでも呪文を唱えられる準備だけはしておくが、この場で戦闘になることなど無いと確信していた。

 

(確かおろちが倒された後は別の女の人が後を継ぐんだよなぁ)

 

 反面、頭の中で考えていたことはある意味穏やかではなかったけれど。

 

(ま、おろちと言うかジパングの方はあれで暫くもつだろうから、俺がやるべきなのは元生け贄のお姉さん達の強化で……)

 

 その後は風邪の治ったシャルロットとお忍びで、ダーマ神殿を探す。

 

(この時、クシナタさん達のレベル次第では、転職かな)

 

 特殊な立ち位置にいるクシナタさんが転職出来るかはちょっとだけ心配だが、ゲームで神殿にいた町娘とかが転職するつもりであることを語っていたし、何とかなると思いたい。

 

(それはそれとして、ライアスさんはどうしよう)

 

 パーティーバランスと男女比率の緩和で連れてきた戦士だが、この後の予定は全くの未定である。

 

(結果的に育成しちゃったけど)

 

 ひょっとしたら、ある意味で俺を追いつめたあの女戦士よりもう強いかも知れない。

 

(あっちは腐っても……というか、エロくなっても勇者の護衛を任されるほどの実力があったはずなのに)

 

 本当に残酷だと思う。長年の修練が、暴走してドラゴンになった爺さんについていっただけの元駆け出しに負けるというのだから。

 

(ま、身体能力だけだから、実戦……対人戦でぶつかり合ったらどうなるかはわかんないけどなぁ)

 

 何故か、途中で豪傑の腕輪がとれて、対人戦が別の戦いに変化する気もしたが、これは俺の気のせいだと思いたい。

 

(うーむ、育てた人材をそのままリリースするのは勿体ない気がするけど)

 

 パーティーメンバーはもう決まっているし、ライアス自身の意思を確認した訳でもないのだ。

 

「そもそも、まずはライアスを教会に運んで生き返らせるところから始めねばならんしのぅ」

 

「おぉい?! 何の話してる、勝手に殺すなよっ」

 

 交易網作成の担当者三人とおろちの話が進んでいたようなので席を外し、ヒミコの部屋を出た辺りで思わず独り言を呟くと何故か声が聞こえてきた。

 

「むぅ、心霊現象か。化けて出るとは余程無念じゃったと見える」

 

「化けてねぇ、生きてるってのっ!」

 

「ほう、つまりリビングデッドか」

 

 確かそう言う名前のアンデッドモンスターも居た気がするが、生ける屍とは生きてるのか死んでるのかややっこしい呼称である。

 

「なぁ、爺さん? 解ってて言ってるよな?」

 

「ほっほっほ、何の事やら? まぁ、咎人で遊ぶのはこれぐらいにしておくかの」

 

「咎人っ?!」

 

 からかってみると、ライアスという戦士、意外に面白い人物なのかも知れない。

 

「うむ」

 

 俺のキーワードに衝撃を受けたようだが、生け贄にされた悲劇の少女の下着を結果的に覗いた凶悪犯である、情状酌量の余地はない。

 

「ま、その辺はあっちの方で三時間ぐらい寝かせておくとして、ワシが考えておったのは、お前さんがこの後どうするかという話じゃ」

 

「これから? まだレベル上げとやらするんじゃねえのかよ?」

 

「その後じゃ。アリアハンに返らせた娘とそのお仲間を一人前になるところまで育てるのが本来の目的じゃったからな。その嬢ちゃん達と一緒にいるなら、お嬢ちゃん達が一人前になった頃には、お前さんも必然的に一人前になっておる筈じゃ」

 

 怪訝な顔をしたライアスに説明を付けたし、改めて問う。どうするのかと。

 

「一人前になったら、か」

 

「うむ。世界中のおなごの下着を見て回るとか、見るに飽きたらず手に取りたくなって捕まる、とかじゃな」

 

「ちょっ、下着から離れてくれ、頼むから」

 

「むう」

 

 過去の行動を鑑みて辿りそうなルートを挙げたというのに文句を言われた、不本意である。

 

「いやいやいや、文句じゃねぇだろ? お願いっつったぞ、俺?」

 

「はて、最近どうも耳の調子がのぅ」

 

「爺さん、喧嘩売ってンのか?」

 

 待ち時間が暇だったので、ついついからかってしまっているが、他意はない。

 

「スレッジ殿、お待たせしたであります」

 

「お話し終わったよっ」

 

 ただ、時間の方は見事に潰れてくれたようで、ライアスのジト目を受けていた俺の背中に女魔法使い二名の声がして、謁見の終了を知った。

 

「ふむ、それは何より。ならば、お前さん達ともしばしのお別れじゃな」

 

 誰かがおろち、もといヒミコとの話し合いの結果を報告しに行かなければならないのだから。

 

(一人に行って貰うと、その一人だけ弱くなるからなぁ)

 

 ここは予定通り、三人にアリアハンへ戻って貰い、戻ってきたクシナタさんを含む元生け贄さん達と合流してから再びレベルあげとすべきだろう。

 

(ライアスと二人っきりのレベル上げとか罰ゲームだし、誰得ですよねー)

 

 エミィとか名乗っていた腐った女僧侶のことは除外だ。あれは除外しなくてはいけない、全力で喜びそうだから。

 

(そっか ゆうしゃ ぱーてぃー に もどった ら おとこ と かけざん される ひび が ふたたび なんですね)

 

 嫌なことを思い出して遠い目をしてしまった俺を誰が責められようか。

 

「では、自分達はこれにて。ライアス殿、覗いたら攻撃呪文フルコースでありますよ?」

 

「だよっ?」

 

「なっ」

 

 アリアハンへの出発前、咎人に釘を刺す女魔法使い達を前にしても、思い出してしまった余計なモノは頭の中から消えてくれなかった。

 




ほぼ、ライアスさんを弄るだけのお話でした。

哀れ、ライアス。

次回、第九十二話「クシナタ隊」

スー様親衛隊ではきっと、ない。

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