強くて逃亡者   作:闇谷 紅

106 / 554
第九十四話「爺さん自重」

「ドラゴラムっ」

 

 出てくる敵が何であろうと、対応は変わらない。魔物を確認するなりまず呪文で竜になる。

 

「うぉっ」

 

「ひっ」

 

「あ、あぁ……」

 

 突然の変身にクシナタさん以外が驚クガ、モウ気ニシテ居ラレナカッタ。

 

「グオオォォッ」

 

 吼エタ俺、炎吐ク。

 

「ギャアア」

 

 腹ニ顔アル赤イノ燃エタ。

 

「相変わらずとんでもねぇな」

 

「皆、落ち着いて下さいませ。あれはスレ様、味方でする」

 

 後ロ五月蠅イ、ケドイイ。俺、モット敵燃ヤス。

 

「ゴ」

 

「ガァァァァッ」

 

 岩ノ影、飛ビ出シタ熊燃ヤス。溶岩カラ顔出シタ頭ト腕ダケモ燃ヤシタ。

 

「な、何と……」

 

「はぁ、二度目でも慣れねぇな。つぅか、色々反則だろ、ありゃあ」

 

 五月蠅イ、変ワラズ。生キテル、俺、進ム。

 

「グオォォォン」

 

 敵、出テコイ。

 

(燃ヤス、燃ヤスッ)

 

 俺、敵倒ス。

 

「グルルッ、ガァ」

 

「ガッ」

 

 尻尾痛クテ横見ル。

 

「ガアアアアッ!」

 

「ゴオッ?!」

 

 熊居タカラ、燃ヤス。

 

「ま、魔物が次々と一瞬で炭に……」

 

「皆様、足を止めてはなりませぬ。今のスレ様は敵見方の区別しかつかぬ状態、そして己の傷を直すことも出来ませぬ。僧侶の方はホイミでスレ様の傷をっ」

 

「は、はい。ホイミっ」

 

 後ロ、マタ五月蠅イ。ケド尻尾、暖カクナッタ。

 

「おっ、尻尾の傷が」

 

「続いてピオリムを。巨体になったことでスレ様は動きが鈍っておられまする。効率的に魔物を討ち果たすには呪文による補助は不可欠」

 

「わかりましたっ、ピオリム」

 

「グオ?」

 

 身体、軽クナッタ。理由解ラナイ。

 

(ケド、コレナラ敵逃ガサナイ)

 

 俺、進ム。

 

「グオオォォォォォ」

 

 敵、燃ヤスッ。

 

「おいっ、また動き出したぞ……」

 

「あ、ちょっと待って下さい。まだ、魔物の隠し持っていたゴールドが」

 

「この種、焦げてるの外だけだし食べられるわよね?」

 

「って、何やってんだお前ら?」

 

 後ロ、ヤッパリ五月蠅イ。

 

「「見てのとおり」よ」

 

「いや、商人と盗賊ってコンビの時点で解るけどな、順応早すぎだろ!」

 

「何言ってるんですかっ、ゴールドは重要なんですよ!」

 

 五月蠅イ。

 

「グォ?」

 

 尻尾、変。気ヅイタラ、箱巻イテタ。ヨク解ラナイ。箱、離ス。

 

「あっ、あんなところに宝箱が」

 

「ん? けどよ、こんな所に宝箱あったか?」

 

「魔物が落としたものだと思いまする。今のスレ様は宝箱を見つけてもそれが何か理解する知性が残っていない様子」

 

「そっか、それでこいつらが魔物の死体漁ってる訳か」

 

「はいっ、ここまでしてくれるスレ様の為にも、一ゴールドだって見落とせませんから」

 

「その通りよ。ところで、この焦げた力の種、誰か欲しい?」

 

 後ロ変ワラズ。生キテル、イイ、思ウコトシタ。

 

「グオオオオオオッ」

 

 俺、敵燃ヤス。

 

「ム?」

 

 ソレカラどれ程の敵を屠っただろうか。

 

「どうやら、時間切れのようじゃな……お前さん達、無事じゃったかの?」

 

 元の姿になって知性の戻ってきた俺は、すぐさま後ろを振り向いた。

 

(気にしてられなかったもんなぁ)

 

 脱落者を出すような真似はしていないと思いたいが、半ば暴走するようにひたすら敵を燃やしていた記憶と、時々回復や補助呪文をかけて貰っていた記憶がある。

 

(ありがたくはあったけど、負担になってないかなぁ?)

 

 僧侶と魔法使いの比率は多いはずだが、ここに来るまでレベル1だった面々である。

 

「お、お気遣いありがとうございます」

 

「私達なら大丈夫でありまする」

 

「そうか、それを聞いて安心したわい」

 

 だからこそ、言葉に偽りなく、俺は胸をなで下ろした。

 

(とはいうものの、突っ走りすぎだったかも知れないし、そろそろ自重すべきかな?)

 

 ここは溶岩が煮える洞窟なのだ、歩き回るだけだってかなり消耗する。

 

「じゃがの、無理をし」

 

 だから、この後はもうちょっと緩いレベルあげにしようと思い始めていたのだが。

 

「あー、スレ様ぁ、ものは相談なんだけどさー」

 

「ぬ?」

 

 俺に声をかけてきたのは、黒髪のバニーさん。呪われていた勇者パーティーのミリーではなくクシナタ隊に所属する元生け贄のお姉さんだ。

 

(訓練所恐るべしと言うか、すっかり変わっちゃったよな)

 

 俺が何人かは遊び人なる様にと指示をしたので、これは間違いなく俺の罪。

 

「スレ様に跨っていい?」

 

「はい?」

 

 ただ、次の瞬間遊び人のお姉さんが出してきた提案に俺が感じ始めた罪悪感は何処かへ吹っ飛んでいってしまった。

 

「跨る……じゃと?」

 

「そーそー、あたし、口笛覚えたの。だからー、ドラゴンになったスレ様に跨って口笛を吹けば、わざわざ敵を探して歩き回る必要無いんじゃない?」

 

「むぅ、確かに効率的かもしれんが……」

 

 跨るとか、字面的に一歩間違ったらとんでもない誤解されそうなのは、気のせいだろうか。

 

「気分はドラゴンライダー? それともドラゴンロデオ?」

 

「いやいや、その辺はどうでも良いがのぅ、鞍がある訳でもないんじゃぞ?」

 

 ドラゴンになれば身体も大きくなる。落馬ならぬ落竜してしまったら怪我をしかねない。ましてや、周囲には煮えた溶岩もあるのだ。

 

「だいじょぶ、だいじょぶ。ちゃんとその辺も考えてるんだから、あたしちゃんってば」

 

「しかしのぅ」

 

「大丈夫、責任とってなんて言わないからさー」

 

 渋ってみたが、ヒラヒラ手を振る女遊び人のお姉さんは退く気がないらしい。

 

「仕方ないのぅ」

 

 結局俺は根負けし。

 

「じゃあスレ様。身体を低くして?」

 

「……うむ」

 

 言われるがまま、俺は四つん這いになる。

 

「時に、一つ尋ねていいかの?」

 

「なにー?」

 

「何故ワシの前に居るんじゃ? それにその格好は」

 

 何というか、酷い絵面だった。四つん這いになった俺の前で女遊び人の姉さんは空気椅子みたいな格好をしていたのだ。当然、俺の顔の前には、お姉さんのお尻がある。

 

(何かもう嫌な予感がするんですけど……というか)

 

 たぶん、これが「その辺も考えた」結果だと思うのだが、周りの視線が痛くて仕方ない。

 

「いいからドラゴラムしてよー」

 

「その前に説め」

 

「スレ様、こっちに魔物がっ」

 

 せめて、どう言うつもりか明かして欲しかったのだが、何故モンスターはこうも空気を読まないのか。

 

「ええい、どうなっても知らんぞ? ドラゴラムっ」

 

 半ば自棄になって呪文を唱えた直後。

 

「えいっ」

 

 竜へ変貌し始めた俺の視界をバニースーツへ包まれたお尻が塞いだのだった。

 




と言う訳で、その他大勢になってしまいそうなクシナタ隊の皆さんに焦点を当ててみました。

隊の皆さんは、ジパング人なので職業にかかわらず全員黒髪だったりします。

次回、第九十五話「変身解けた後ワシはどんな顔をすればいい」

なお、この回の相談者は住所不定の自称魔法使いスレッドさんです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。