「あぁ、生き返りまする」
「さてと、涼しくなったところで今後の話といこうかの」
へにょっとしてるクシナタ隊のお姉さんを横目に、俺はそう切り出した。
「今後ってぇと、あの一人前になったらって話か」
「うむ、良く覚えておったのぅ」
「あんだけおちょくられて忘れるかよ」
「それはそれとしてじゃな……ふむ」
感心して見せたのに何故かジト目を向けてきたライアスから目を背け、数歩歩くと徐に黒こげの杖を地面へ突き刺した。
(ジパングがここで……たしかここが、こうなって)
武器としてはもう役に立たないであろう杖でガリガリ地面を削って描き出したのは世界地図だ。
(にしても、この杖なんて名前だったんだろうなぁ。ゲームじゃきめんどうしって武器は落とさなかった気がするけど)
武器を持っているグラフィックの魔物が全て倒した時に武器を落としていったら、武器屋も商売あがったりだろうが、実際に隠し持っていたアイテムも謎である。
(すごろく券、かぁ)
竜になって吐いた炎で良く燃えなかったな、と思う。
(そう言えば、すごろくのマスの中で魔物と戦闘が起きたりもするし、すごろく場から逃げ出してきた魔物……なんて事はないよな)
常識的に考えて、旅人から強奪したものと考える方が自然だ。
(うん、まだすごろく場の無いジパングでいったい誰から券を奪ったのか謎だけど)
きっと、考えたりツッコんじゃいけない部分なんだろう、そこは。
「待たせたの、これがワシのうろ覚えな世界地図じゃ」
「うろ覚えなのかよ」
「うむ」
「っ」
弄られていた反発か、ライアスがいきなりツッコんできたので、とりあえず力強く頷いて絶句させる。
「まぁ、だいたいが解れば問題ない。盗賊の嬢ちゃんもタカのめを覚えたことじゃしな」
いざとなれば、目的地の位置は呪文で確認して貰えばいいのだから。
「さて、何故地図なぞ描いたかなんじゃが、ワシはそろそろダーマ神殿を目指してみようと思っておる。前に説明したと思うので理由は省くぞ」
そもそもクシナタ隊のお姉さん達へのパワーレベリングはお姉さん達を一人前のレベルまで育て上げ、転職によって次の段階へ進ませる為のものだった。
(まさか、こんなにあっさり目的のレベルに達せるとは思わなかったけどね)
とりあえず、今は嬉しい誤算だと思っておこう。
「それで、本来ならすぐにでも旅立ちたいところなんじゃが、同行者を一部アリアハンへ帰らせておってな」
「向かうのは、その人達と合流してからと言うことですか?」
「正解じゃ」
こちらの説明に挙手して問うた僧侶のお姉さんへ俺は首を縦に振って肯定すると、焦げたきめんどうしの杖で、地図の一点を示す。
「ここはバハラタ。ワシがルーラで飛んでゆける最寄りの町じゃ。そして、ダーマはだいたいこの辺りだと思われる」
前回、東に直進してスルーしてしまったことを鑑みると、ダーマがあるのはもっと北東だったとしか考えられない。ならば、想定ルートは二つ。
「それで、バハラタからダーマ神殿があると思われる地点まで歩くということになるかの」
これが一つめ。
(いっそのことここから海を渡って目指すのも一つの手ではあるんだけど)
二つめは海を渡る手段が必要になる。
(大王イカみたいな大物にモシャスすれば何人か乗せて運ぶのは出来るんだよなぁ)
スレッジは魔法使いというふれこみなのでモシャスで魔物に変身しても問題はない、問題はないのだが。
(いか と おねえさん の くみあわせ って どう かんがえて も じらい じゃ ないですか)
胴のぬめりで滑って海に落ちたクシナタ隊のお姉さんを触手で絡め取る巨大イカ姿の俺。どう考えても人命救助の筈なのに第三者から見たら襲っているようにしか見えないんじゃなかろうか。
(これ以上風評被害にあってたまるものか)
李下に冠を正さず、である。
「この地図からすると相当距離はありそうね」
「まぁ、の。それがネックでもあるがのぅ」
ダーマに向かっている途中でシャルロットの風邪が完治することも考えられる。
(それが一番不味いんだよなぁ、バハラタ出てからダーマに着くまでルーラで合流出来るような場所はないし)
聖水で魔物除けし、馬に乗って行軍速度を稼ぐと言う方法もバハラタ側は殆どが森林だから難しい。
(ここまで育ってるんだから、クシナタ隊の人達にダーマ神殿探索は任せて俺だけルーラでアリアハンに戻るって手もあるにはあるけど)
それは最後の手段にしておきたい。第一、シャルロットの具合だってまだ解らないのだ。
(あの元駆け出し三人組が戻ってきてからだよな)
そして、今度こそダーマへ。
「何にしても追加報告をまってじゃな」
俺は少しもどかしい気持ちで空を見上げた。ルーラの移動時間やその他諸々を考慮すると、三人の帰還は早くても明日か。
「もうかりまっかぁぁぁぁぁ」
「ぬおっ?!」
自分の思考に沈んでいた俺は、突如声を張り上げた商人のお姉さんに驚き。
「ここは武器と防具の――」
「え、えーと……それじゃ」
「……あんなの、なんじゃな」
呼んでしまった手前、買い物するお姉さんを呆然と見つめたまま、ボソッと呟いた。
イカは駄目ですよね、ビジュアル的に。
そんな訳で、無難なルートへ。
次回、第九十八話「再会と出発」