強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第九十八話「再会と出発」

 

「うーむ。何というか、これは予定を変更してアリアハンに戻るべきかもしれんのぅ」

 

 いきなりこんな前言撤回をしたのには、理由がある。商人のお姉さんの精神力が尽きたのだ。

 

「あぅ……すみません」

 

「いやいや、ワシの想定が甘かっただけじゃ、気にせんでいい」

 

 恐縮するお姉さんに袖振って謝罪に及ばないと告げつつ、頭ではこの後のことを考える。

 

(宿屋かぁ。海を渡って向こう側にはあるけど)

 

 船のない俺達がそこに至るには、没にしたモシャスで魔物に変身して渡る案を使うしかない。

 

(やっぱり没だな、イカは)

 

 となると、残された選択肢はルーラで町か城に飛んでそこに宿泊するかこのままこのジパングで帰ってくる元駆け出し三人組を待つかになる訳だが、ジパングを動いては三人組と合流出来なくなる可能性がある。

 

(そもそもこうなることは少し考えればわかったじゃないか、俺)

 

 殆ど俺がドラゴラムで竜になって敵を焼き尽くしていたので表面化しなかったが、クシナタ隊のお姉さん達の精神力は僧侶や魔法使いのお姉さんまで尽きかけの状態だったのだ。

 

(合流を待ってバハラタへルーラ、バハラタで一泊するのが一番ロスのない方法だろうけど)

 

 こうなってしまうと、アリアハンも気になってくる。

 

(あっちは完全な私情になっちゃうからなぁ)

 

 シャルロットの様子が気にはなるが、これについてはあの三人組にも報告を依頼してあった。

 

(それに今の俺はスレッジだし)

 

 第一、師匠である盗賊の方ならともかく、その知人とはいえ魔法使いのスレッジがシャルロットを気にかける理由もないのだ。

 

「さて、どちらにしてもここからは移動した方がいいじゃろう」

 

「確かにそうね」

 

「ですね」

 

「うむ、ではゆくとしようかの」

 

 だから俺はごく常識的な提案をしてクシナタ隊のお姉さん達の同意を得ると、ジパングへ向けて歩き出した。

 

(ジパングに着けば食料や水ぐらいは手にはいるだろうし)

 

 元駆け出しの三名が戻ってきた時、ジパングの入り口に居ればすぐ気づけるとも思う。もちろん、ライアスにはジパングの中に居て貰うつもりだけれど。

 

「もう過ちを繰り返す訳にはゆかんからのぅ」

 

 ライアスが何か言いたげなら、そう言うつもりだったが、「爺さん、空から女の子が」事件で流石に懲りたらしい。

 

「おぅ、じゃあ俺は中にいるな」

 

「うむ、出発の時は呼んでも良いがお前さんはどうするかの?」

 

 到着するなり断りを入れてから去って行こうとする背に問いかけると、ライアスは返した。

 

「だったら呼んでくれ」

 

 と。

 

「爺さんの呪文見てたらまともに魔物と切り結ぶのが馬鹿らしくなっちまってな」

 

「成る程のぉ」

 

 レベル的に転職は可能だから魔法使いになるつもりなのだろう。

 

(ゲームだと男は誰でも老人になったけど、こっちはどうなんだろ)

 

 俺自身が転職するつもりはないが、気になるところだった。

 

(そう言う意味では、丁度いいかもしれないよな)

 

 自分から転職するつもりなら参考にさせて貰おう。

 

「一応言っておくが、ワシの様な使い手になりたければさっきのあれが生ぬるい程の修練が必要じゃぞ?」

 

 ただし、勘違いされてもあれなのでしっかり警告はしておく。

 

(玉手箱よろしく一瞬で爺さんになってしまうとしたら、代償大きすぎるもんなぁ)

 

 転職すれば元に戻れるかも知れないが、一人前の魔法使いにならなくては再転職できない。

 

 ゲームとして遊んでいた俺にとって転職はただ呪文を覚えたりする為だけのモノだったが、こちらの住人にとってはまったく別のもっと重要なモノだろう。

 

(こちらの住民、か)

 

 一瞬だけその単語に違和感を覚え、そして苦笑する。

 

(俺、戻れるんだよな?)

 

 この世界が滅んでしまっては帰還どころでないからと、シャルロットを鍛え、今はお姉さん達とついでにライアスを鍛えていたが、元の世界に戻る方法に関しては、まだ探してもいない。

 

(バラモスを倒して下の世界にいければ、ルビスと会う機会も会った気がするし)

 

 帰れる帰れないを決めるには、参考になる情報が少なすぎるというのも動かない理由にはあった。

 

(帰る、ねぇ)

 

 出会いが有れば別れは必ずやってくる。その日、俺は何とも言えない気分のまま過ごし。

 

「スレッジ殿ぉぉぉぉ」

 

「ぬっ」

 

 空から聞こえてきた声に慌てて地面を見たのは、次の日の朝方。

 

「我々三名、陛下への報告を済ませ、ここに復帰を果たしたであります」

 

「そうかの。それはご苦労さんじゃ……それで、じゃの」

 

「シャルロットさんならもう少しかかりそうだけど風邪自体は大したこと無いみたいだよっ」

 

「大事を取るとおそらく、あと二日は安静と見た」

 

 軍人口調な魔法使いのお姉さんを労いつつ、問いかけようとした俺の言葉にもう一人の女魔法使いが先回りし、最後を補足で締めくくったのは、唯一の男である老人だ。

 

「ならば、ダーマに向かう事自体は問題なさそうじゃな」

 

 方針は定まった。

 

「では、悪いが中にいるライアスを呼んできて貰えぬかの? ワシは他の皆に説明をしておかねばならんし」

 

「はっ、了解であります」

 

 俺が呼びに言ってもいいのだが、そうするとクシナタ隊のお姉さん達だけがこの場に残ることになってしまう。

 

(出かけようとするジパングの人に見つかったら面倒なことになるもんなぁ)

 

 クシナタさん以外は、もう死んだものと認識しているジパングの人々と接触させるのは不味い。

 

「……とそう言う訳で、ライアスが戻ってきたらバハラタに飛ぶのでそのつもりでの」

 

 有言実行の為にお姉さん達へ連絡しつつ、四人が帰ってくるのを俺は待ち。

 

「お待たせしたであります」

 

「うむ」

 

 声を聞くやいなや詠唱を始める。

 

「ルーラっ」

 

 慣れてきたか、もう悲鳴をあげる者も居ない。俺達の身体は、呪文の力に引っ張られ宙へと舞い上がったのだった。

 

 

 






次回、第九十九話「バハラタの」
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