強くて逃亡者   作:闇谷 紅

113 / 554
第百一話「尋問」

 

「成る程のぅ、ただのごろつきじゃったか」

 

「は、はいぃ」

 

 最初に絡んできた時とは雲泥の差で、甲冑男は俺の質問に答える。

 

(本当に何も知らなかったら、きっと鵜呑みにしていただろうなぁ)

 

 原作知識があるからこそ目の前の男がカンダタ一味であること、つまり男が嘘をついていると解るが予め知っていなかったらどんなことになったやら。

 

「ふむ、ならば仕方ないの。天と地をあまねく精霊達よ……」

 

 少しだけ考え込むふりをしてから俺はことさらゆっくり片腕を甲冑男に向け、呪文の詠唱を始めた。

 

「な」

 

「嘘をついたら罰が要るじゃろ? 易々騙されると思うてか! ふんっ!」

 

 驚きと恐怖で顔を強ばらせた男に一喝し、脱いで脇に置かせておいた男の兜を力任せに踏みつけ、粉砕する。

 

「ひえええっ」

 

「次に嘘をついたら、おぬしの四肢の何処かを踏む。まぁ、か弱い老人がちょっと踏むだけじゃ、大したことにはならんじゃろうがのぅ」

 

 忠告しつつ、俺はゆっくりと甲冑男へ近づいて。

 

「スレ様、何事でございまするか?」

 

「む」

 

 何処かからクシナタさんの声が聞こえてきたのは、そんな尋問中のことだった。

 

「言っておくが、あの声の主はおぬしより強いぞ? よからぬ事は考えんことじゃ」

 

 やって来た女性を人質に逃げようとするなんてお約束パターンを甲冑男が踏み抜きそうな気がして、釘を刺し。

 

(うーむ、まぁメラゾーマなんてぶっ放せば、気づくよなぁ)

 

 こちらにやって来るのが事情を知っているクシナタさんだったこともあって、俺は放り投げた。このカンダタ子分の処遇を一人で決めることを。

 

「……と言う訳で、不審者を見つけたワシは色々問いただしておったんじゃが、こやつが嘘をつきおってな」

 

「うぐっ……す、すみませんでしたぁ! どっ、どうぞお許しをぉぉぉっ」

 

「と、謝られてる訳じゃよ」

 

 殴られたところが痛むのか、時々呻き声を上げつつも必死に土下座する甲冑男を横目にクシナタさんへこれまでの経緯を説明し、肩をすくめる。

 

(お忍びでもシャルロットがここを訪れたからイベントフラグが立ったとか?)

 

 あるいは原作に出てこなかっただけで前々から悪事を続けていたのか。

 

(俺の考えすぎならいいけど)

 

 こんな所を悪党がうろついていた理由については確認しないといけない。

 

「ところでスレ様、この者がついた嘘というのは何でございましょう?」

 

「おお、言っておらんかったのぅ……少々こっちに来て貰えぬかの?」

 

 一匹いれば三十匹ではないが、他にも様子を伺っているカンダタの部下が居る可能性がある。

 

「は、はい」

 

 手招きに重要な話があると思ったのか、少し顔を強ばらせ急いで寄ってきたクシナタさんの耳に俺は囁く。

 

「こいつはカンダタの手下だ」

 

 と。

 

「っ」

 

 うろ覚えの原作知識はクシナタさんを始めとする隊のお姉さん達にも話してある。当然、この甲冑男の親分のこともだ。だからこそ、俺の発言にクシナタさんも息を呑んだのだろう。

 

(もし俺が気づかなかっただけで、被害者が出続けてたなら、これは俺の失態だ)

 

 サマンオサとジパングの被害を減らせたことでもう安心だと思っていた。だが、思い違いだったかも知れないのだ。

 

(カンダタはバラモスの部下じゃない、人間の犯罪者だ)

 

 だが、だからといって、犠牲を出すなら放置なんて出来るはずがない。

 

(金の王冠を盗んだだけなら、窃盗だけなら放置しても良いかとも思ったけど)

 

 人攫いとなると話は別だ。

 

「さてと、待たせたの。内緒話は終わりじゃ、では知っていることを、全て正直に話して貰えるかのぅ?」

 

「はっ、はひっ、な、なん、ぐぅ……何なりと」

 

 すごみをきかせて睨むと、甲冑男は再び呻きつつも叩頭し。

 

「いちいち呻かれては聞きづらいの。すまんが薬草を買いに行って貰えんかのぅ?」

 

 ラリホーを使ってしまった時点で今更な気もするが、回復呪文でこの男を癒す気にもなれず、俺は男から視線を外さぬまま、クシナタさんに買い物を頼む。

 

「わかりました、行ってきまする」

 

 そう、応じてくれたクシナタさんは気づいただろうか。

 

(男しか居ない犯罪者達が若い女性を掠う、となるとなぁ)

 

 女性にはとても聞かせられないような話が飛び出してくる可能性がある。ぶっちゃけ、胸糞悪くなるような話が飛び出してきそうで、俺も出来れば聞きたくないのだが、それでも聞かなくてはいけない。

 

(俺のせい、だもんな)

 

 やまたのおろちによる犠牲は止めなければいけなかった。だが、おろちに生け贄を止めさせて安心した俺は、ここでこの甲冑男と遭遇しなければ、カンダタ一味がこの町で悪事を働き続けていることにも気づかずに居た筈だ。

 

(ダーマに着いたら、一部の人が転職して再びジパングに……シャルロットの風邪が治ったとして、ロマリア、カザーブ、ノアニール、アッサラーム……イシスをスルーしたとしてもバハラタに再び訪れるのは――)

 

 どれだけ先のことになることか。この間、犯罪者達が野放しになっていたかも知れないとすると、ぞっとする。

 

(悔やむのは後だ、現状を確認して、一人でも助けられるようなら助けないと)

 

 そもそも、今の内に聞いておかねば、クシナタさんをお使いに行かせた意味がない。

 

「単刀直入に問おう、この町で何をした?」

 

 おそらく後悔するだろうなと思いつつも、こうして俺はパンドラの箱に手をかけたのだった。

 




その先に待つのは、救いか奈落か。

次回、第百二話「せめてもの」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。