強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百二話「せめてもの」

「……ほう」

 

 聞いて良い気分にならないことぐらい、覚悟していた。

 

「アッサラーム、のぅ」

 

 地理的にはこのバハラタからあまり離れていない、その町はまだ俺が一度も足を運んだことのない場所だが、原作知識というモノからある程度の情報は知っていた。

 

「確かベリーダンスで有名な町じゃったか」

 

「はっ、はいぃ。あの町にはそう言う店も多くて、売ればいい金に――」

 

 こちらが商品に興味を示すと値段をふっかけてくる怪しい商人の方がインパクトは強いが、ぱふぱふをしないかと持ちかけてくるお姉さんが居たりする町であることも鑑みると、そのテの店があっても不思議はない。

 

(と言うか、あってしかるべきだよな。ゲームの時は容量の関係で削られていたんだろうけど、あっちの世界ではそう言う店ってたいてい何処にでもあった気がするし)

 

 バニーさんもそんな店で働かざるを得なくなるところだと言っていたからアリアハンに存在するのは確定で、このバハラタにだって探せばあるとは思う。

 

(で、地元で売れば足が付くから隣の町へか)

 

 アッサラームまで行く為の抜け道が解放されていない今、どうやってあちらに行くかは謎だが、おそらく独自のルートを持っているのだろう。

 

(そうじゃなきゃロマリアに金の王冠を盗みに行く事なんて出来ないもんな)

 

 ともあれ、カンダタ一味が女性を掠って売り飛ばしているという事だけは判明した。

 

「で、売り物になるから女には手を付けて居ない、じゃったな」

 

「そ、その通りですぅ、はいぃ」

 

 せめてもの救いは、売られてしまうまでは手荒な扱いをされないと言うこと。

 

(シャルロットや俺がここに来る前から人攫いしていた、か)

 

 確かに、これから向かおうと思っている一味のアジトには牢が複数あった。

 

(そりゃ「イベントの為に牢を作りました」なんてことはないもんな)

 

 ゲーム状では掠われたこの町の黒胡椒屋の孫娘とその娘を助けようとした恋人だったか婚約者だったかが入れられる檻だが、何故アジトに牢があったかは想像がつく。

 

「最初に人身売買用目的があって牢屋つきのアジトを構え、人を掠っていた。黒胡椒屋の孫娘を掠ったのはたまたま」

 

 だいたいそんな感じで、原作にてカンダタ一味のアジトが勇者一行に踏み込まれたのは、手に入れてくるよう言われた黒胡椒売りの孫娘を掠ってしまったという偶然によるものだったと思われる。

 

「で、掠った娘達はまだアジトなのじゃな?」

 

「はいぃ」

 

 甲冑男によると信用の問題で、娘達を引き渡す時も商談もカンダタ自身が行っていたらしい。つまり、今急襲すれば、少なくとも売られる前の娘さん達に限っては助け出せると言うことだが。

 

(何で気づかなかった、町の人口が広さに矛盾しないように増えたなら犠牲者も比例して増えておかしくないのに)

 

 アジトに現在居るであろう女性だけでも既に十人を超えていると甲冑男は白状した。

 

「むぅ」

 

 助けに行くことだけなら既にこの時、俺の心の中では決まっていた。

 

(問題はこの男の処遇と、隊の皆をどうするかかな)

 

 女性を掠って売り飛ばす様な輩だ、情けをかけるつもりなどサラサラ無いが、ここで俺が消し炭に変えてもそれはただの八つ当たりでしかない。

 

(町の有力者に突き出して、裁いて貰うってところだろうなぁ、妥当なのは。実はカンダタがこの町に多大な影響力を持っていて、突き出したところで即解放されると言うパターンもあるかもしれないけど)

 

 それはそれで構わない。

 

(町の人が裁けないって言うならこっちにだってやり用はあるし、残りの一味の処遇を町の人に任せていいかの試金石にもなるもんな)

 

 預けた甲冑男は、訳を話して盗賊のお姉さんに見張っていて貰えばいいだろう。その間に俺はアジトを襲撃して、掠われた女性達を助け出す。

 

(ついでに既に売られた女性の売却先も聞き出して)

 

 アジトの金品は根こそぎ強奪、売却して女性の売られた先が第三者なら買い戻しに使う。掠われてきた女性だと知って買った確信犯なら、『盗賊』の襲撃にあったって誰も心を痛めないだろう、善良な人は。

 

「……はぁはぁ、スレ様ぁ! 薬草でございまする」

 

「おぉ、走って来んでも良いのに、悪いのぅ。さて……」

 

 色々考えている間にクシナタさんが戻ってきて、俺は差し出された薬草を受け取ると甲冑男の足下に放った。

 

「使うが良かろう。正直に話した褒美じゃ。ただし、人攫いをするような悪人は看過出来ぬ、おぬしの身柄はこの町の有力者に引き渡させて貰うがのぅ」

 

「あ、ありがとうございますぅぅ」

 

 メラゾーマの脅しがよっぽど堪えたのか、甲冑男はペコペコ頭を下げ。

 

「礼は要らん、か弱い老人ではその身体を引き摺って行くのも辛いというだけじゃ。さて、薬草を使ったならもういいじゃろう。武器と盾は預からせてもらうぞ」

 

 俺は丸腰になった男に立って歩くよう命じると、後ろに続く。

 

(鎧も回収して売りたいところだけど、それやっちゃうと見分けつかなくなるもんなぁ)

 

 ロープで縛ったりしないのは、逃げたら今度こそ呪文で消し飛ばしてやればいいかのなどと独り言を呟いてみたので甲冑男にも察して貰えたと思う。

 

「あれ? スレ様と隊長じゃないですか。その人は?」

 

「ああ、人攫いじゃよ。女性を掠って売り飛ばすタチの悪い犯罪組織の一員らしくてのぅ、これから突き出してくるところじゃ……ところで、自由時間は楽しんでおるかの?」

 

 偶然再開したクシナタ隊のお姉さんに軽く状況を説明し、世間話のふりをしながら俺はお姉さんへ徐に近づく。

 

「ここから話す内容は周囲に漏らせぬものじゃ、のでお前さんにはこの爺が猥談を耳元で吹き込んだとかそう言う反応の対応をしつつ聞いて貰いたい」

 

 最初に耳元で囁いたのは、そんなお願い。続いてこれから掠われた女性を助けに向かうことと、盗賊のお姉さんにこの甲冑男がどう裁かれるのかを見届けて欲しいことを伝える。

 

「ワシ一人では掠われた女性のケアは難しいのでの。念のため何人か僧侶も着いてきて貰えるとありがたい」

 

 もちろんまだ呪文が使える人員限定でだが。

 

「ただ、この町を一味の者が監視してる可能性もあるのでの、連れて行くのは、一班分の人数だけじゃ」

 

 俺はそこまで告げると、にやけきった顔で少し大きめの声を出す。

 

「ほっほっほ、なぁにを驚いておるのじゃ。まだまだここからじゃぞ? そしてその酔った女子はどうしたと思う? 実はのぅ――」

 

 一瞬驚いてしまったお姉さんの表情を誤魔化す為の台詞回しと、再び囁きモードに入る為の前振りだ。

 

「スレ様?」

 

「なんじゃ、お前さんも聞きたいのかぉ? よいよい、こっちに来い」

 

 事情を知らないクシナタさんが怪訝そうな顔をしたので、手招きして同じ説明をする。

 

「そんな、駄目でございまする……ほ、本当にその様な……あっ」

 

「あ、あの俺にも」

 

 クシナタさんへの説明中、寄ってきた甲冑男は手加減して尻を蹴り飛ばしておいたが、当然の処置である。

 

(と言うか、クシナタさん演技上手すぎ)

 

 何度か耳元で囁いたところ、顔は真っ赤になるわ挙動不審になるわで、甲冑男が思わずふざけた申し出をしてきたのもクシナタさんのリアクションによるところが大きい。

 

(これで二人が他のみんなに説明してくれれば、準備は完了かぁ)

 

 一応集合場所もきっちり伝えておいた。あとは甲冑男を突き出して待ち合わせ場所に向かうだけだ。

 

(ダーマ到達が遅れてもいい、これだけは)

 

 ぐっと拳を握りしめ、見上げた先にあったのは、立派な屋敷。この町の有力者のモノだった。

 

 




スレッジ爺さんの猥談?

書きませんよ、そんなもの。たぶんR18になっちゃいますし。

次回、第百三話「断罪時間へと」
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