「邪魔だっ」
「ギャァァ」
横に薙いだまじゅうのつめは、水でも切ったかのように殆ど抵抗なく青色をしたおおありくいもどきを両断する。
(何て名前だったかな、この魔物)
ゲームだとおおありくいのグラフィックを使い回ししていると思われる姿なのだが、生憎と名前の方は記憶になく。
「とりあえず、解ったのは、鉄の槍を持ってることぐらいか」
戦利品を弄びつつ、ちらりと俺は後方を見た。
「誰か、使うか?」
刃で出来た羽根をもつ穂先から石突まで完全に鉄で出来た槍は結構な重量があるが、割と多くの職業で装備出来る武器だった気がする。
(俺には装備出来ないみたいだけど)
必要ないなら売ってしまえばいいが、こうして魔物を倒しながら進むとなると武器を持った味方は多い方がいい。
(ジパングには武器屋無かったもんなぁ)
バハラタで装備を調えようにも、あの町で売っていた武器には装備出来る職業に偏りがある。
「あ、じゃあ私が貰ってもいいですかっ?」
そう、例えば今手を挙げている商人のお姉さんの装備出来る武器は無かったのだ。
「あぁ、受け取れ」
「はいっ、ありがとうございますスー様」
ちなみにこのパーティーに商人のお姉さんを同行させている理由は、襲撃したカンダタ一味のアジトから金品を根こそぎ奪い取る為である。
(盗賊の役割は俺が果たせるし、な)
ゲーム知識で何とかなるモノならいいが、それ以外にはド素人の俺では、美術品とか鑑定士の必要になりそうなお宝があった場合がらくたと見なしてスルーしてしまう可能性が否めない。
(金になりそうなモノは根こそぎとか、ゲームとは逸脱した方法だからなぁ)
ゲームの時はグラフィックの一部で引っぺがせなかった絨毯だっておそらくこの世界なら引きはがして手に入れることは可能だと思う。
(となると、原作には出てこなかった品が手に入る可能性もある訳で……)
それが呪われて居ることだって考えられる。
(アリアハンのバニーさんだって変な呪いにかかっていたし)
迂闊に触って呪われたら笑えない。故にアイテムを鑑定出来る商人の同行は必須だったのだ。
「気にするな、求めたのは俺なのだからな」
ましてカンダタ一味が尾行してくることを想定し、わざわざしのびあしや魔物除けの聖水を使っていない以上、護身用の武器くらいは持っておくべきでもある。
「はあっ! スー様、こちらも片づきましてございまする」
「あ、あぁ……」
ちなみにクシナタさんはこのバハラタ近郊の魔物で弱い者なら一刀の元に斬り捨てられる程度にまで急成長を遂げていた。
(武器がいいのも有るんだろうけどなぁ)
いけると思えばくさなぎのけんで斬りかかり、堅いと見なせば道具として使い、守備力を下げてから手数で押す。そう、手数で。
(本当にクシナタさんって何者なんだろうなぁ)
呪文が使えないならと、試しに俺がボストロールとの戦いで覚えた連続行動を教えてみたところ、中途半端ながら再現してしまったのだ、あの人は。
「やはりまだスー様のように全力で二度は斬りかかれませぬ」
何て言っては居たが、充分すぎる。
(才能か、才能なのか?)
ひょっとしてシャルロットやバニーさんにも手とり足とりみっちり教えたら習得出来るんだろうか、この技術。
(風邪が治ったら検証してみる必要がありそうだなぁ)
勿論、今は掠われた人達の救出が最優先だが。
「あの、スー様。私にもあれ、教えて頂けませんかっ?」
鉄の槍を手に、もの凄くキラキラした目で上目遣いに見てくる商人のお姉さんが至近距離にいて。
「気持ちは分からんでも無いが、後でいいか? 今は掠われた者の救出を優先したい」
そう断るのにどれ程の気力を要したことか。
「わかりました。すみませんっ、我が儘言って」
ポニーテールまで気持ちしおれたようにしょげつつ謝ってきた時に感じる罪悪感。
「いや……すまんな」
「いいんですっ、助けた後に教えてくださるんですし」
「ん?」
「えっ?」
やらかしたことに気づいた後、背中を流れる嫌な汗。
(あるぇ? ひょっとして、これってあれですか?)
教えると約束したことになったと言うことと。
「あの、スー様」
「わ、私も掠われた方達を助けたら教えて貰っていいですか?」
一人に教えるとなし崩しに自分も自分もと希望者が殺到する雪崩現象。
(うわーい、やっぱりぃ)
検証するつもりで居たから、教えるのはやぶさかではない。
(けどなぁ)
人数が人数であるし、そもモシャスで同じにスペックになり学んだから俺は習得出来た訳で、クシナタさんが異常なのだ。
(たぶんモシャス覚えるのが習得のほぼ必須条件だと思うんだよなぁ)
もちろん、同行してる魔法使いのお姉さんなら、レベルが上がればモシャスは覚えるだろう、ただ。
(それって、自分と同じ顔にずらっと並ばれて全員から見つめられることになるよね)
想像するだけで、何とも言えない気分になるのは気のせいだろうか。
(くっ、それもこれもみんなカンダタ一味のせいだ)
そう、カンダタ一味が悪さをしなければ、聖水振りまいて魔物の出ない森林を突っ走りダーマへ行くだけだったのだから。
「あ、あぁ」
俺は武器についた魔物の血の汚れをボロ布で拭き取ると、何とも言えない気持ちを悪党達に向けながらクシナタ隊のお姉さん達へ力なく頷いた。
ああ、クシナタさんまでチート化してゆく。
本当に、どうしてこうなった。
次回、第百五話「バハラタ東の洞窟」