強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第十話「守りたい、その……(性的描写注意)」

 

「お前達が為すべき事は二つだ」

 

 とりあえず服が濡れていたのでそれを口実に勇者を着替えさせた俺は、バニーさんと勇者を前にして修行の説明を始めていた。

 

 経緯は聞いていたので修行を始める前にモンスターと戦わせて実力を見、あわよくばその経験値で勇者がレベル2に上がるかなと思ったところでのトラウマ発覚である。始める前から内容を変更せざるを得なくなった訳だが、是非もない。

 

「一つは二人共通で生き残ること。とは言っても、お前達に近寄る魔物は全て俺が片付ける」

 

 故に心配は要らないと二人を安心させ、本題へと入った。

 

「先程追いかけっこをして貰うと言ったな?」

 

「は、はい。ボクが逃げて……」

 

「わ、私が追いかける」

 

 俺の問いかけに答えた二人へ、俺は満足そうに頷く。

 

「その通りだ。よって二つめは、シャルなら『追っ手に捕まらない』こと」

 

 バニーさんなら、勇者を捕まえることである。

 

「言ってみれば足腰を鍛えるトレーニングだが、もしシャルを捕まえたなら好きにして構わん」

 

「「え」」

 

 続けた説明に二人の声がハモる前で俺はポーカーフェイスを崩さず、言う。

 

「課題を果たせない者にペナルティーは必要だろう? その方が真剣に取り組めるというものだ」

 

「け、けど……そのっ、い、いいんですか?」

 

「ああ」

 

「お師匠様?!」

 

 追いかけてる最中手が届けばお尻を触ることも許可を出したら、バニーさんはまごつきながら確認してきたが俺は心を鬼にして首を縦に振った。

 

(というか「いいんですか」とききつつ「てをわきわきさせる」のはやめてください)

 

 バニーさんの本心はどっちなんだろうか、本当に。

 

「やったぁ、ご主人様話がわかるぅぅっ!」

 

 とか大喜びされたら、全力でヒいていたとも思うけれど。

 

「お師匠様、どうして……」

 

(うう、何だか罪悪感が)

 

 勇者がショックを受けているが、これも勇者の為なのだ。水色生き物と遭遇して放心状態だったシャルはバニーさんにお尻を触られて我に返った。

 

(モンスターは俺が倒すつもりだけど、モンスターを見ただけでさっきの状態になってしまうかもしれないしなぁ)

 

 つまり、バニーさんのセクハラは動けなくなった勇者を正気に戻すと言う役割も担っているのだ。

 

「すまん」

 

 ちなみに、バニーさんを預かってくれた昨晩、シャルはさっそくその洗礼を浴びたらしい。

 

(とはいえ事情は説明出来ないし)

 

 モンスターの攻撃ならば当たり所が悪ければ落命の可能性すらある、それと比べればこの修行ははるかに安全だと思う。

 

(逃げる練習と攻撃を避ける練習を兼ねてるんだけど)

 

 バニーさんのセクハラは、攻撃のかわりでもあった。スライムにさえ怯えてしまう勇者が練習用の攻撃にも怯えてしまう可能性を考慮し、攻撃と認識せずなおかつ逃げようとするものとして考えたモノがこれなのだ。

 

(おれが「おって」やったら、はんざいだもんなぁ)

 

 と言うかこれ以上ルイーダさんに弱みを作ってたまるものか。腕利きの護衛とやらが監視してるかを確認した訳ではないが、李下に冠を正さずである。

 

「一応『やくそう』と『キメラの翼』を各々に渡しておく。ん?」

 

「……あぅ」

 

 俺は鞄から道具を取り出して二人に差し出し、受け取る様子を見せない勇者の顔を見て、嘆息する。

 

「はぁ」

 

 気が進まないのはわかるが、妥協して貰わないと話が進まない。

 

「まぁ、こんなモノ無くても今日は俺が守ってやるが、念のためだ。それに嫌なら捕まらなければ良いだけだろう?」

 

 勇者を安心させる為に顔を覗き込んでもう一声かけ。

 

「だ」

 

「だ?」

 

 何かを言いかけたシャルに問い返した俺は――。

 

「だったら、ボクのお尻も守ってくださいっ」

 

「は?」

 

 思いっきり耳を疑った。

 

「あっ、ちが違う、違うよ。そうじゃなくてボク、あ、うぁう……」

 

 誰だ、誰が勇者に混乱呪文メダパニをかけた。

 

(いや、きっと何か言いたいことがあったけど踏ん切りかつかず、それを誤魔化そうとしたらとんでもないこと言っちゃったとか、そんなオチなんだろうけど)

 

 真っ赤な顔をして悶えてるところを見るにそんなところだろう。と言うか、そうであって欲しい。

 

「『勇者の師』兼『尻の守り手』」

 

 とか伝承に記載されて喜ぶ趣味は持ち合わせていないのだ。ならば、ここは触らず流すが吉、追求などもってのほか。

 

「まあいい、そろそろ始めるぞ?」

 

 俺は助け船のつもりで、勇者に確認をとり。

 

「う、うん」

 

 テンパって居た勇者は、半ば反射的頷いたのだと思う。

 

「ならばすぐに逃げろ」

 

「え?」

 

 俺の声に勇者が振り返った時には、既に手が届く距離にバニーさんが居たのだから。

 

(こういうときだけこのひととんでもないよな)

 

 俺も何となくだが、バニーさんがどういう人なのか理解し始めていた。

 

「きゃっ」

 

「フライング……先走りすぎだ、勇者が逃げてから三秒待て」

 

 たぶん身体スペックが高いから間に合ったのだろう、左腕を後ろからお腹に回すようにして飛びつこうとしたバニーさんを俺は止める。

 

「お、お師匠様」

 

「早く行け、次は助けんぞ」

 

 別に勇者の尻を守った訳ではない。あっさり終わってしまっては修行にならない、それだけの事である。

 

「そう言う訳だ、すまんな」

 

「い、いえ。こちらこそすみませんっ、ご主人様の手を煩わせてしまって」

 

「謝罪は不要だ」

 

 バニーさんも恐縮してくれたが、俺が謝りたいのはそれだけでは無かったりする。左腕につけた水鏡の盾に押されて逃げ場を失ったバニーさんのおっ……柔らかくて勇者のそれより大きなモノが俺の腕にのっていたのだ。

 

 もちろん、ご馳走様とも言えない。

 

「放すぞ?」

 

「は、はいっ。すみませんでしたっ。ゆ、勇者さん……い、行きますよっ」

 

 通知してから拘束を解くと、バニーさんは地面を蹴り、勇者の後を追い始める。

 

「さてと、俺も行かねばな」

 

 二人が修行を始めたなら、俺も二人の護衛をしなくてはならない。

 

「そう言う訳だ、悪く思うな」

 

「ビギュ」

 

 勇者達の出発直後にあらわれた水色生き物に踵をめり込ませると二人の後を追ったのだった。

 

 




一話で終わらせようとしたのに最低でも前後編の長さになりそうな修行回。

まったく、なんて酷い修行なんだろうね?

そんな感じで続くと思われます。

果たして勇者達はこんな修行で成長出来るのか?

バニーさんのセクハラレベルが上昇するだけってオチはやめてくれ。

次回「早く賢者しないと(性的描写注意)」(予定サブタイトル)にご期待下さい。

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