強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百十話「甲冑男との再会」

(さてと、まずは「あやしいかげモード」でのアークマージを認識してるかだな)

 

 甲冑男が近づいてくるのを待つ間に背負っていた死体は木の陰へ隠しておいた。

 

(こっちが先に気づけて良かったぁ)

 

 ローブの紫は割と目立つんじゃないかとも思ったのだが、カンダタこぶんの甲冑の方が派手だった、ただそれだけのことである。

 

(おかげで死体隠してる時間が確保出来たんだからな)

 

 あの荷物のせいで怪しまれて情報収集に失敗しようものなら、悔やんでも悔やみきれない。

 

(埋める時間はなさそうだけどね)

 

 幸いこの辺にはアンデッド系の魔物も生息しており、臭いだけなら魔物のものだろうと誤魔化す事が出来るのは幸いだが。

 

(しっかし、まさかあの手の魔物の臭いに助けられる日が来るとはなぁ)

 

 もはやおなじみの歩く腐乱死体や、片方の眼球をぶら下げ、所々骨を露出させた犬科の動物のゾンビっぽいものを思い出して覆面の中で顔をしかめる。

 

(あれの骸からお金を探せる商人のお姉さんって凄いわ、本当に)

 

 憑依先が盗賊でまだ良かったと思う。戦闘中のアイテム奪取は、攻撃のついでに身体が動いていたと言う感覚であり、ほぼ一瞬のことなのだから。

 

(ま、それはそれとして――今考えるべきは、あの男の反応に対するこっちのリアクションか)

 

 想定されるのは「アークマージの事を知っていて協力関係にある」パターンと「アークマージは知らないがあやしいかげとしては認識していて協力関係にある」パターン。

 

(それに「あやしいかげの存在自体にも気づいていない」パターンに前者の二つだが協力関係ではなく不干渉関係であるってのぐらいかな?)

 

 どのパターンでもバハラタの町で見聞きしたことを報告されると不味いので最終的には物理的に何とかすることになりそうだが、是非もない。

 

(とりあえず、兜の事に触れてみるか。誰がどう見ても不自然だし)

 

 あの男がスレッジのことをどう見ていたかも解るというものである。

 

(解放されたのか脱走してきたのかは、盗賊のお姉さんに聞けばわかるもんな)

 

 一つ一つ対応を考えながら待った時間は数分ほどだろうか。

 

「その頭はどうした? 兜をかぶっていないようだが」

 

「あ、あんたは、魔物使いの」

 

 いかにも待っていましたと言った態から切り出した言葉に返ってきたのは、ある意味で想定外のモノだった。

 

(魔物使い?! って、ああそう言うふれこみで協力してるのか)

 

 ゲームではさつじんきと洞窟に出現する他の魔物は共闘して勇者パーティーに襲いかかってきた。

 

(アークマージは思いっきり人型だもんなぁ、他の魔物は全部使役してる魔物ってことにしていると……)

 

 ともあれ、カンダタ一味がアークマージと面識のあった事が知れたのは、大きい。

 

「そ、そうだ。実はバハラタの町にとんでもなく強ぇぇ爺が現れて、俺はそいつを知らせに来たんだ」

 

「爺だと?」

 

「あ、あぁ。兜もそいつが砕いたんだ。すげぇ呪文を使う奴で、下手すりゃここに乗り込んで来るかもしれねぇ」

 

 俺の声に頷いた甲冑男は、だからこそ仲間に報告しなければいけないと主張した。

 

(ふーむ、協力者とは言えここまで詳しく語ったのは、早くここを通りたいからと見るべきか)

 

 だが、当然ながらこの男を洞窟の中に進ませる訳にはいかなくて。

 

(ただなぁ、止める理由が無いんだよな、アークマージだったら。そこを何とかしな……ん?)

 

 ひらめきは突然訪れた。

 

(ひょっとしたら最初の予定よりこっちの方が遙かにいいかもしれない)

 

 最初は盗賊のお姉さんに預けるつもりでいたが、洞窟の魔物達とカンダタ一味の関係が俺の予想通りなら――きっと上手くゆく。

 

「成る程な、ならば」

 

「ああ、そう言う訳だ。通」

 

「ふんっ」

 

 これ以上話をするのももどかしいと言わんがばかりに、脇を通り抜けようとした男の足を俺は思いっきり踏みつけた。

 

「っぎゃあああんぐ」

 

「喧しい」

 

 更に悲鳴をあげる男の口を塞ぐと地面へと引き倒す。

 

「面白い話を持ってきてくれたが、貴様を通す訳にはいかん。その老人、私が求めていた方かもしれんからな」

 

「ん゛ん?!」

 

「何故なら、私は――今の主にうんざりしていたのだよ」

 

 シナリオを大幅に変更し、甲冑男の口を塞いだまま俺は語り始めた。

 

(さぁ、始めよう。急なアドリブでクシナタさん達には悪いけど)

 

 これもアークマージの死を有耶無耶にし、なおかつ掠われた人達を救う為。

 

(タイトルを付けるなら「アークマージの反乱」かな)

 

 人間の犯罪者風情に力を貸し、やって来るかも解らない強者を待つ日々に嫌気のさしたアークマージの一人がある日突然、大魔王を裏切る。

 

(大魔王の城にいるような魔物が本気でカンダタ一味に協力してるとは思えないし、仲間の中でも上位に存在する者が裏切ったとなれば犯罪者の用心棒どころじゃなくなるはず)

 

 ある程度引っかき回した上で、アークマージ役の俺自身は逃亡し、洞窟内にいる魔物を誘引する。

 

(それで、混乱したカンダタ一味だけになったところへクシナタ隊が、突入。俺は魔物達と適当に遊んでからドロンする)

 

 透明になる呪文のレムオルと移動呪文であるルーラ、これに忍び足を併用して逃げるのだ。

 

(後はローブを脱いでしまえばいい)

 

 かくして裏切り者は姿を消し、魔物達は存在しない裏切り者のアークマージを追いかける。

 

(ちょっとスレッジではっちゃけすぎたからなぁ)

 

 ちなみに、このアークマージの格好はほとぼりが冷めた頃に呪文の使える仮の姿としてリサイクルするつもりだ。

 

(シャルロット達の前には出られないのがネックだけど、そこは仕方ないよな)

 

 本物と紛らわしいので、あくまでソロ活動用の格好である。

 

(その時までにはちゃんと直しておかないと)

 

 甲冑男を拘束したまま、俺は密かに触れた。応急処置の為されたローブの縫い目を。

 

 

 




次回、第百十一話「あれの応用」

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