強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百十一話「あれの応用」

 

(さてと、この甲冑男は盗賊のお姉さんに拾って貰えばいいとして、問題は詳細な内情だな)

 

 この格好では盗賊のお姉さんと接触するのも無理があるので、石の合図を使って甲冑男の回収はお願いするつもりだが、派手に反乱を始める前に聞いておかなくてはならないことがある。

 

(掠われた人達はアジト最奥の牢屋だと思うけど、人が多いもんなぁ)

 

 掠われた人を人質に取られて心ならずも一味に荷担してる人と言ったイレギュラーがいたとしたら。

 

(協力者になってくれるかも知れないし、巻き込むのは寝覚め悪いし)

 

 とはいうものの、聞き出すならこの甲冑男を納得させる理由が必要だ。裏切り者のアークマージが犯罪組織に所属してる、実はいい人を知らなくてはいけない理由が。

 

(ま、カンダタの子分はこのオッサンだけじゃ無いんだし、失敗したら次の情報源を捕まえれば良いだけだしなぁ)

 

 取り押さえてしまった時点で、この男を洞窟の中に行かせる訳にはいかない。

 

(下手に気負って大ポカするぐらいならな)

 

 案ずるより産むが易しとも言う。

 

「ところでお前は今の頭に不満はないのか?」

 

 失敗したら次があるさぐらいのつもりで俺は、話を切り出した。

 

「私が手を貸せば、お前がボスになることとて不可能では無いのだが……」

 

 わざわざスレッジのことを知らせる為にこの洞窟へ来るぐらいだし、普通ならこんな誘いにホイホイのって来るとは思わない。

 

(けど、些少でも頭が回るなら、話に乗ろうとするはず)

 

 甲冑男からすれば、強者に捕らえられている今の状況は詰みなのだ。

 

(裏切って仲間になるふりをして解放して貰い、逃げ出して仲間達の元に戻るか)

 

 あるいは、俺を騙して罠に填め、仲間達の元に誘い込むなんてことも考えられる。

 

「こうして口を塞いでいては答えられんだろう。口を塞ぐ手は外してやる。ただし、大声を上げたり仲間を呼ぼうとした時は殺す」

 

 たぶん足の骨が砕けていると思うので、逃げることは出来ない筈だが押さえ込みは解かない、ただ口を押さえている手だけをどかし。

 

「問おう。私と組むか、あの男への忠義を貫くか」

 

 今度は別のもっとはっきりした形で甲冑男に問いかけ、答えを待った。

 

(さてと、どう答える?)

 

 沈黙は長くても二分ぐらいだったと思う。

 

「あ、あなた様にしたがいますですぅ」

 

「ほぅ、賢明だな。ならば、聞いておくことがある」

 

 わざとらしくない様注意しつつ軽く驚いて見せた俺は更に一歩踏み込む。

 

「お前の仲間の内で信用出来る者や全く信用出来ない者は居るか? もちろんこれはお前がボスとなることを前提でだ」

 

「そ、それは信用出来る者をひ、引き込むってことで?」

 

「ついでに邪魔そうな者は消しておいた方が良いだろう。後顧の憂いは断ってこそだ」

 

 恐る恐る尋ねてきた甲冑男に頭を振って見せると、出来るだけ冷酷そうな声を作って答え、更に問うた。

 

「異論でもあるか?」

 

 と。

 

「い、い、いえ……とんでも、とんでもないですぅぅぅ」

 

「ならば話せ。信用出来ない者でもわざと暴発させて他者を疑心暗鬼にさせるという使い道がある。理由は詳細にな」

 

 実際は助けるべき人物が居るかどうかを知る為だが、馬鹿正直に説明する理由はない。

 

(ま、申し出自体はこのオッサンが一味のボスに収まる為にはどうするかを本気で考えた場合自分なら言うであろう事なんだけどね)

 

 ただし、時間をあまりかけられない場合限定での話になる。

 

(組織を乗っ取るなら地盤固めと根回しは必須だろうからなぁ)

 

 トップになってから組織の把握を始めるなんて正気の沙汰ではないが、チートな俺の実力があれば話は別だ。

 

(ただ の きょうふ せいじ に しか ならない き が する? き の せい ですよ?)

 

 そもそも、いくら職業が盗賊だとは言え、犯罪組織のボスをやる気なんてもうとう無い。

 

(だいたい、民家のタンスを漁ることだって自重する善人だというのに)

 

 何が悲しくて犯罪組織を運営しなくてはならないのか。

 

(まぁ、世の中には義賊ってタイプの盗人も居るし、魔物相手にはアイテム容赦なく盗んでるけどさ)

 

 それとこれとは話が別である。

 

「なるほどな、だいたい分かった」

 

 一部行いがろくでもなさ過ぎて現実逃避もしていたが、気になる一味の人間に着いての部分はしっかり聞いていた。もちろん、全面で信用する気はなく、あくまで参考のレベルだが。

 

(これを参考にして二、三人捕まえて情報を照合すれば嘘をついてるところがあれば矛盾する筈)

 

 ついでに表向き仲間に引き込んで、三人に残る二人は心から協力してくれているとか言えば猜疑心から暴走や裏切りも防げるんじゃないだろうか。

 

(囚人のジレンマだったっけ?)

 

 うろ覚えなのであってるかどうかは解らない。ただ、探してみると世の中には他の事に応用出来そうな事案が結構転がっているものだと思う。

 

(そもそもこのアークマージの反乱だってやまたのおろちを参考にしたからなぁ)

 

 上位の者に絶対服従でない姿を見たからこそ、偽装反乱を思いついたのだ。

 

(魔物も一枚岩じゃないって事だよな)

 

 町中にスライムの居る町もあったのは、覚えている。

 

(しかし、魔物使いか)

 

 アークマージがそう名乗って通用していたと言うことは、この世界にも魔物を使役する職業が存在するのだろうか。

 

(確認してみるのは後だな、まずは――)

 

 この反乱を成功させること。

 

「参考にはなったが、その足で洞窟に戻れば不審に思われるだろう。信用出来る男とやらの元には私が出向く」

 

 ここで待機しているように言い置いて、俺は再び洞窟へ足を踏み入れた。

 




次回、第百十二話「信用出来ない男」

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