強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百十二話「信用出来ない男」

(そして洞窟に逆戻りかぁ)

 

 最初は掠われた人達を助け出すだけの筈だったのに、随分面倒なことになったとは思う。

 

(まぁ、すすんで一味に加わったんじゃなさそうな人の情報とか手に入ったことを考えると結果オーライかも知れないけど)

 

 悪人だと思って容赦なく痛めつけた相手が、脅されてやむを得ず従っていた人だった何て事になったら後味が悪すぎる。

 

(あのオッサンの話を全面的に信用するつもりはないけど……)

 

 参考にはさせて貰うつもりだ。裏切ったアークマージとして、後にこの格好でカンダタ一味を襲うつもりの俺だが、襲いかかるなら根っからの悪党を選びたい。

 

(ついでに無理矢理協力させられてる人に話を通しておけば、人質や掠われた人達の安全も確保出来るかも知れないし)

 

 石を使った五色米もどきの連絡手段だけはクシナタさん達に伝えられることも限られてくる。

 

(とりあえず一味の人間何人かに接触して情報収集だな。うん、本物のアークマージに不審がられないようにしつつとか難易度高いわぁ)

 

 洞窟の魔物はカンダタ一味を襲わない。故に覆面パンツの変態さんと魔物が一緒にいるパターンもそこそこ見かけるのだ。

 

(魔物の前で話をする訳にはいかないし、魔物を排除しようとすれば自分も攻撃されると思って応戦してくるだろうし)

 

 情報収集どころではなくなってしまうことうけあいである。

 

(つまり、この場合探すのは出来るだけボッチで戦意の薄い変態……)

 

 魔物の側におらず一匹狼していてくれると言うことナシだが、実はこの条件に当てはまる人間に心当たりがあった。

 

(確か、担当区画はこっちの方だって言ってたよな?)

 

 相変わらず、似通った形で連続する部屋を忍び足で通り抜けつつ、俺が向かった先は、無数にある部屋の一つにして作りかけの地図からすると一階の端にあたる一室。

 

「お前が、ジーンか?」

 

「っ! なんだ、魔物使いか」

 

 足音を殺していたからこそ、こちらの接近に気づかなかったのだろう。覆面男は弾かれたように振り返り、俺のローブを見て咄嗟に取ろうとした構えを解いた。

 

「もう一度聞く、お前がジーンか?」

 

「……そうだ」

 

「ならば、話がある」

 

 甲冑男によると、このジーンは信用出来ない男であるらしい。

 

(殺害人数は三人だったっけ)

 

 とある町で有力者の息子とその友人を殺して故郷を追われたらしいのだが、殺害理由は家族の敵討ち。

 

(何とか本懐は果たしたが有力者の恨みを買い、流れ流れて辿り着いたのが、ここだったと)

 

「それで、話とは?」

 

 投げかけてくる視線は、甲冑男から聞いた話を肯定するかのようにどこか冷めていて、無言の牽制になっていたが、まごついている時間はない。

 

「何、現状に満足しているのかと思ってな」

 

 他に身の置き場がなくてやむを得ず一味にいるなら、状況を打開してやることぐらいは出来る。

 

「何を言っ」

 

「二度と追われることのない居場所を与えてやろう。非合法な真似をせず真っ当に暮らせる居場所をな。むろん、無条件ではないがな」

 

 見返りに求めるのは、情報と協力。

 

「本当に、本当に静かに暮らせるのか?」

 

「任せておけ。世界は広い」

 

 俺は念を押す覆面男に頷きを返し、ただし受け入れ準備にある程度の時間は貰うぞと付け加え。

 

「わかった、それで俺は何をすればいい?」

 

「そ、そうだな……まず、私に協力してくれそうな奴が一味にいれば教えて欲しい」

 

 あっさり承諾してくるチョロさ加減に罠の可能性も考えたが、敢えて除外する。

 

(甲冑のオッサンが嘘を言ってた可能性もあるし、何より協力者が居ないとここから先やりづらいからなぁ)

 

 魔物と一味の人間が同じ場所にいる状況でも、ジーンが協力してくれれば、魔物に攻撃されることなく、一味の人間だけを連れてくることが出来る。

 

(何人か情報提供者や協力者を作ったら情報を照らし合わせて……あとは、完全に信用出来ない連中が居たなら、例のジレンマで裏切りを防ぎつつクシナタさん達待ちだな)

 

 反乱で騒ぎを起こすタイミングを間違えるとかえって救出を難しくしたり、クシナタ隊と俺を追いかけてきたあやしいかげ達と隊が鉢合わせしかねない。

 

「……だいたいこんな所だ、人付き合いも殆どないし下っ端の俺が把握してることなんてこの程度だが」

 

「いや、助かった。なら、次はさっき言っていた男を呼び出して貰えるか?」

 

 話を聞き終えた俺は、ジーンにそう依頼すると、後ろ振り返る。

 

(さてと、入り口に置いてきた甲冑のオッサンをどうするかな……)

 

 信用出来ない男と言われたジーンに接触したのは、邪魔な魔物やお仲間が居なかったこともある。だが、甲冑男が信用出来ないと言ったからでもあって。

 

(どっちが信用出来ないのやら)

 

 声には出さず胸中で呟いた。

 




さつじんき が なかま に なりたそう に こちらをみている
ジーンは嬉しそうに馬車へ駆け込――

なんて展開はなかったぜ。
協力はして貰えそうですけどね。

次回、第百三話「亀裂」

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