「はぁ」
何人かの覆面マントさんから話を聞き終えた俺は、壁にもたれかかるとため息をついた。
(とりあえず、これでだいたいのことは解ったかな)
話した中にはジーンのように情状酌量の余地がありそうな者や、人質を取られてやむなくしたがっている者も居たが、カンダタ一味の大半は罪を犯したごろつきや荒くれ者で構成されているらしい。そして、少数派であるやむなく従っている者達は全員が下っ端であることも判明した。
(まぁ、組織から見て信用出来ない相手ならそうするか)
協力して貰う算段もつけはしたのだが、下っ端では掠われた人達や人質の捕まっている牢屋に近づくことは許されていないそうで、近づけるのは甲冑男のみと語った協力者その三の覆面さんの言葉に、俺は少し後悔した。
(勿体ないことしたよなぁ、甲冑のオッサンの兜粉砕してなきゃ別の救出方法もあったかも知れないのに)
今から甲冑を手に入れるには、協力者さんの誰かに甲冑を着た一味の誰かを呼び出して貰い物理的に無力化するという手間がかかってしまう。
(倒すのは簡単だけど騒ぎを起こす前に目立つ訳にもいかないし)
下手に小細工して失敗するぐらいなら掠われた人や人質達の救出は協力してくれるさつじんきの皆さんとクシナタさん達に任せた方が無難だろう。
「バハラタの町から戻ってきた者が、武装してここにやってくる一団を見ている。掠われた者を助けに来たか、犯罪者達の掃討に来たと見て間違いはない」
クシナタさん達のことは協力してくれる覆面マントさん達にだけそう説明してある。
(問題は、ここからだよな)
アークマージとして動いている今、クシナタさん達が仲間であることは明かせない。
(クシナタさん達には入り口の甲冑男を見張ってるはずの盗賊のお姉さんにレムオルで姿を消しつつ接触してこっちの事情を伝えればいいけど)
ジーン達にクシナタさん達が実は俺の仲間でしたと明かす訳にはいかない。
(うーむ、となると「こっちからは矢文か何かで協力したい者が居ると伝えた」とかでっち上げるしかないな。俺とクシナタさん達が繋がってると知れると、アークマージの一人が反乱を起こしたってのも疑う奴が出てくるかも知れないし)
クシナタ隊は、反乱を決意したアークマージにとって引っかき回す為の隙を作ってくれた見知らぬ人間達の集団でなくてはならない。
「こちらに協力者が居ることは私が矢文で連中に伝えておこう。ことが終わったならその武装集団について行くも良し、むろん約束を違える気はない。協力の代価を払えと言うなら、落ち着ける場所まで連れて行こう」
後半はジーンにだけ向けて言い、さつじんきの皆さんに背を向ける。
「ではな、私は手紙をしたためてから入り口に向かう」
協力者を作ったことでカンダタ一味の中に生じた亀裂。いや、やむを得ず従っている者が居るのだから亀裂は最初から生じていたのか。
(カンダタが留守じゃなかったとしても、対処のしようがないよなぁ)
クシナタさん達の襲来とアークマージ一名の反乱と言う外圧が加わるのだ。
(後は、信用出来そうにない連中の疑心暗鬼を煽って機能不全にしておけば、救出の方は何とかなるとして……)
一つだけまだ解決策を思いつかないモノがある。
(ジーンとどうやって合流したものか)
俺は最終的に引っかき回した魔物の集団に追いかけ回されることになる。
(さざなみの杖を使ったことにして反射呪文のマホカンタ使っても防げるのは自分への呪文だけだし)
逃げてる途中で合流した場合、魔物からの攻撃呪文に巻き込まれて死亡なんてオチもあり得る。
(かといってルーラで一度離脱すると戻ってくるのにもう一度移動しないといけないもんな)
戻ってくるのに時間がかかることを事前に伝え待っていて貰うことも考えたが、これは反逆者を捜して魔物がうろついてる地域に反逆者の格好でわざわざ戻ってくると言うことを意味した。
(仲間だったアークマージの一人が味方を襲って混乱してる時ならともかく、時間が経って相手が冷静になったなら思いも寄らない手を打ってくる可能性だって……)
すすんで危険に身をさらす気はない。だが、約束を破る訳にも行かない。
(クシナタさん達にジーンを預かって貰うか? けど、アークマージはクシナタさんと面識のない設定だし、預けるの不自然なんだよなぁ)
ジーンが去り際に伝えた選択肢の前者を選び自分の意思でクシナタさん達について行ってくれると助かるが、そちらを選ぶことはまず無いと思っている。約束を交わしたのは、クシナタさん達ではなく俺なのだから。
(ま、それはそれとして手紙にはジーンのことも書いておこう)
協力者であることとは別の記載で、静かに暮らせる場所を求めていることを大まかな事情説明も付けておくつもりだ。
(さてと、それじゃ寄り道しますか)
とりあえず手紙を書くのは確定事項だが、必要なモノがあるのだ。
(中央は同じ様な部屋を連続させて迷わせる為だって言うのはわかるけど、何というか……)
このダンジョン、一階に大きな明かりのある部屋は、四つしかなく、全てが洞窟の端と来ている。文字を書くにはそれなりの光源が必要だった。
(隠れるだけなら暗い方が隠れやすくはあるんだけどさ)
だから、一概に暗いのが悪いとも言えないのだが。
(ひとくいばこの居た部屋なら箱を机代わりに使えるかな)
おそらく入り口にも一番近かった気がするその部屋に向かった俺は、数分で手紙を書き終え。
(やっぱ洞窟の中って微妙に気が滅入るよなぁ、魔物を避けるのに神経使うし)
再び入り口近くまで戻ってくると「ふぅ」と一息ついて階段を上る。
(さてと、ついでに深呼吸でも……え゛っ)
さつじんきの覆面やパンツ以外の緑色を視界に求めて外に出た俺が目にしたモノは――。
「脱走して逃亡を図るなんて」
「せっかくスレ様が命は取らずに居てくれたのにねー」
「あ、あぁ……」
剣呑な目で武器を構えたクシナタ隊のお姉さんに囲まれた甲冑男の姿だった。
甲冑男がフルボッコされるまで後数秒――?
次回、第百十四話「間の悪い男」
足を踏まれていると言うことは、お姉さんに蹴られて「踏んだり蹴ったり」が完成するんですね、わかります。