強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百十四話「間の悪い男」

(うわぁ)

 

 何という間の悪さか。思わず顔を引きつらせ、回れ右をしかけたけど仕方ないじゃないかと思う。

 

(よりにもよってこのタイミングで鉢合わせるとか……)

 

 予定ではクシナタさん達宛の手紙を五色米もどきの石と一緒に洞窟の入り口に残し、甲冑男を回収していったん中に戻るつもりだたのだ。

 

(今、アークマージの格好で出てゆくのは拙すぎるよな。面識無い設定は守らないと)

 

 クシナタさん達は俺がアークマージの格好をしていることは知っているが、甲冑男の前でクシナタさん達と仲良くする訳にはいかない。

 

(となると、やっぱりクシナタさん達に甲冑のオッサンはボコボコにして貰って、こっちは洞窟に戻るか……うーん)

 

 心情的には見捨てたい、見捨てたいのだが。

 

(ここで使い捨てにすると離反者が出かねないというか、まず間違いなく暴発するわなジレンマ要員が)

 

 情報収集で接触し、信用出来ないと判断した数人のさつじんき達には俺と甲冑男が完全な協力関係にあると吹き込んである。発言力も信用も甲冑男の方があるから、こちらが何か企んでいると知らせることは出来ず。

 

(甲冑のオッサンには「話して貰った者達との協力を取り付けることに成功した」って報告したからなぁ)

 

 甲冑男からすれば短期間に部下の一部を掌握されたように見えることだろう。実際の協力者は、人数的に報告の半分に満たないのだが、敵を欺くには何とやらである。

 

(使い方が微妙に間違ってる気もするけど、今はそんな細かいことに拘ってる場合でもないし)

 

 ここは甲冑男を回収して離脱がベストだろう。

 

(となると、どうやって回収するかだよなぁ)

 

 クシナタ隊のお姉さん達に手荒な真似をする訳にもいかないが、甲冑男は完全に包囲されているのだ。

 

(レムオルで透明になればお姉さん達の間は通り抜けられるだろうけれど)

 

 隙間無くびっちり並んでいては武器も振るえない。実際、通り抜けることはぐらいは出来そうな隙間もある。問題は、包囲の話に侵入したの後のことである。

 

(離脱自体はラリホーの呪文を使い、お姉さん達を眠らせることでたぶん何とかなる。ラリホーの効果範囲は一グループだった筈だし)

 

 アークマージがラリホーの呪文を使えないという点がネックなのだ。

 

(レムオルは透明になってるから良いとして……うーん。側にラリホーを使える魔物が居たことにするぐらいしか思いつかないなぁ)

 

 魔物使い扱いをされていたのだし、なら使役する魔物が居たと言うことにしておけばいいか。

 

(それで「問題の魔物は足止めに残ってクシナタさん達に討たれた」ってとこかな)

 

 甲冑男を回収したら時間との勝負だ。

 

(適当なところで甲冑のオッサンと別れて――)

 

 おそらくはクシナタさん達が手紙を飛んでいる間に知性のあるあやしいかげを探し出して宣戦布告。袂を分かつことを告げたら、襲撃タイムだ。

 

(巻き込む訳にはいかない人達にはもう話を通してるし)

 

 心おきなく呪文をぶっ放せる。

 

(似た部屋が多くてめんどくさい洞窟だけど、そこそこ広いのと一部屋二部屋落盤で潰れても問題ないのが良いよなぁ)

 

 ちょっと地形が変わってしまうかも知れないが、ちゃんと地下に何もない場所を選んで呪文は使うつもりだ。崩落で掠われた人が怪我をしたり命を落としては本末転倒であり。

 

「覚悟は出来ましたか?」

 

「掠われた人達の為にも、あなたはここで討ち果たしまする」

 

 今丁度甲冑男に裁きを下さんとしているお姉さん達に迷惑をかけるのは、本意でない。

 

(さてと、始めるとしようか)

 

 モタモタしてると甲冑男が本格的に成敗されてしまう。俺は手紙を地面に置くと、声に出さずレムオルの詠唱を始め。

 

「……レムオル」

 

 小声で呪文発動させたところで、ラリホーの詠唱に移る。

 

(そう言えば、味方にラリホーかける展開、やたら多いなぁ)

 

 甲冑男にも使おうとしたし、水色生き物に使った記憶もあるが、普通に冒険してれば味方にラリホーの呪文をかける必要なんて早々やってこないと思うが。

 

(って、そんなこと考えてる余裕はないな)

 

 雑念を振り払い、呪文を唱え終える。

 

「ラリホー」

 

「うっ……」

 

 効果は即座に現れた。

 

「っ、新手?」

 

「皆様、警か――」

 

 ただ、クシナタさん達の反応も早い。

 

(流石だなぁ)

 

 レベル上げの効果なのだろうか、数日前まで素人だったとは思えない反応速度だった。

 

(ま、それでも退路は確保出来たか)

 

 崩れ落ちたのは数名に過ぎないが、歯抜けになった人垣は脱出に充分すぎる。

 

「ぐがーっ」

 

(けどさ、何で今回に限って効くんですかね)

 

「わぁ……ごーるどがこんなにたくさんっ。ふふふ、うふふふふ」

 

 俺は距離と立ち位置の都合でラリホーの呪文に巻き込んでしまった甲冑男を担ぎ、幸せそうな顔をした商人のお姉さんをまたいで包囲を抜けた。

 

「あっ」

 

(ふぅ、とりあえずこれで後は洞窟に逃げ込めば)

 

 手紙もあるし、突入には眠ったお姉さん達を起こす必要がある、即座に追撃されることはないと思っていたのだが、俺の予想は裏切られた。次の瞬間、後ろから声が投げつけられたのだ。

 

「待ちなさい、逃がしませんわメラミっ!」

 

 何か攻撃呪文のおまけ付きで。

 

(ちょっ)

 

「ぐがーっ」

 

「っ」

 

 思わず覆面の中で顔が引きつり、背中のいびきにイラッとして担いだオッサンを反射的に呪文の盾に使いかけたが自制し。

 

(くそっ、一か八かかっ)

 

 振り向きざまかわりに突き出したのは、自分の手だった。

 

 




あの中に一人、殺る気の魔法使いが居るッ!

次回、百十五話「反乱の時間」

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