強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百十五話「反乱の時間」

 ローブが燃えてしまっては作戦が破綻する。だからこその行動だが、これで終わりではない。

 

(……我が呼び声に応え以下省略っ)

 

 後ろに飛びながら声に出さず詠唱していた呪文を解き放つ。

 

「ヒャドっ」

 

 撃ち出された小さな氷の固まりが存在を許された時間は一秒もない。俺の手に迫っていた火の玉と接触し爆ぜた火球に飲み込まれたのだから。

 

(っ、熱っちぃぃ!)

 

 俺が試みたのは、ゲームではあり得ない呪文同士の相殺、ただ、威力とぶつけた位置の関係で俺の手は炎に包まれる。

 

(うぐっ)

 

 まず間違いなく火傷をしているだろうが、直撃よりはマシだし今は撤退が先だ。

 

「そんな、メラミは完全に命中しましたのに」

 

 速度を緩めず遠ざかる甲冑男に魔法使いのお姉さんが驚きの声を上げるが、対処したのは甲冑男ではなく透明になった俺である。

 

(ううっ、手がひりつく……ヒャダルコかヒャダインならもっと威力を殺せてただろうけどなぁ)

 

 それをやってしまうと、呪文のエフェクトというか呪文によって起こる効果が見えてしまう。ただでさえラリホーの件を誤魔化さなければいけないのに、更にめんどくさい事態になるのは間違いなかった。

 

(とにかく、やるべきことはやったんだ)

 

 後は逃げの一手。

 

「ぐがーっ」

 

「ベホイミ」

 

 今だ眠りこけた甲冑男をブラインドにし、手に負った火傷を回復呪文で癒しながら俺は洞窟に飛び込み。

 

「ふぅ……追っては来ないようだな」

 

 警戒したのか、手紙に気がついて読んでる最中なのか、それとも。

 

(姿の見えない乱入者には気づいてるよな、おそらく)

 

 ラリホーの呪文は甲冑男の居た場所とは別方向で唱えられているし、呪文を行使したのが甲冑男でないと言うことも囲んでいたクシナタさん達なら気づいただろう。

 

(乱入者の正体にまで気づいてるかは微妙なとこだけど)

 

 俺が育てたのだが、クシナタ隊のお姉さん達は成長めざましい。乱入者の正体を看過していたとしたって驚かない。

 

(無謀な追撃をかけてくるお姉さんも居ないみたいだし、重畳だよな)

 

 こういう時、短期間に得た力で増長し、痛い目を見るというテンプレがあるも、お姉さんは当てはまらなかったようだ。

 

(わざと逃げ出して誘引し、罠にハメるってのはベタ過ぎるけどね)

 

 手紙を無視して追いかけてこられたら、何らかの足止め策を使わざるを得なかった。

 

(ともあれ、ここまでは何とかなった訳だし)

 

 後は甲冑男を適当なところに放置して、次の行動に移るだけである。

 

「ぐがーっ、んぐぐ、ぐがーっ」

 

(……やっぱり最初はイオナズンかな)

 

  相変わらず寝たままの甲冑男から手を離し、直前まで大きな荷物の負荷がかかっていた側の腕を回しつつ、俺は予定の場所へ向かう。

 

(手頃な獲物が居たなら些少場所がずれるのは誤差の範囲として……)

 

 例によって忍び足で進みながら物色するのは、襲撃の標的。

 

(人語を解す魔物とカンダタ一味、混乱させるなら同時に襲うより時間差にすべきだよな)

 

 まず、人語の話せる怪しい影を襲って離反を宣言し、次にカンダタ一味を襲いアークマージというか魔物達が敵に回ったと思わせる。

 

(逆だとジーン達まで魔物に襲われるし、この順番だけは守らないと)

 

 先に離反した者が居ると魔物側が知っていれば、カンダタ一味に襲いかかられてもそれが、自分達を裏切ったアークマージの小細工だと気づく。

 

(襲ってくるカンダタ一味に応戦すれば、俺の思う壺だってことも解る筈)

 

 あやしいかげに化けている魔物の強さにもばらつきがある、殺し合いになった場合、最終的に生き残るのは魔物側だろうが、被害が出る上にカンダタ一味という人間の協力者まで失ってしまうことになる。

 

(誤解を解こうとするなら良し)

 

 めんどくさくなってとか知性の低い魔物を御せなくてなし崩しの殺し合いになる可能性もあるものの、裏切ったアークマージを放置してカンダタ一味を殲滅させるような真似は、俺が許さない。

 

(経験値は勿体ないけど、間引いておかないとクシナタさん達やジーン達が危ないもんな)

 

 少なくともアレフガルドを棲息域にする魔物はこっちで倒すか、連れ出す必要がある。

 

(まぁ、俺が暴れれば虫は出来ないだろうけどなぁ……ん?)

 

 タイミングが良いと言うべきか。

 

「おい、ヴァロ様を見なかったか?」

 

「ヴァロ様? そう言えば昨日から見てないが」

 

「ふみゃぁぁ」

 

 声が聞こえて足を止めた俺が見つけたのは、何やら会話する怪しい影が二体とあくびをする皮翼をもった猫。誰かを捜している口ぶりにもの凄い心当たりを覚えてしまうのは、気のせいではないだろう。

 

(なるほど、あのアークマージの名前か)

 

 まさにおあつらえ向きの相手な上、情報までくれるとは至れり尽くせりである。

 

(それじゃ、お礼をしないとな)

 

 声には出さず詠唱し始めた呪文が何であるかは言うまでもない。

 

「ん、おい……あれヴァロ様じゃ?」

 

「何?」

 

 わざとその怪しい影達がたむろする部屋へ足音を鳴らし、登場した俺は影の片方を巻き込まないように調整しつつ呪文を完成させる。

 

「イオナズン」

 

「「な」」

 

 驚きの声を上げたあやしいかげ達の姿が爆発によって生じた光に漂白され消える。側にいた猫の魔物諸共。

 

「ククククク……ハハハハハ」

 

 出来るだけ本物の声を思い出して似せながら哄笑すると、洞窟の床を蹴って前に飛ぶ。

 

(さて、仕上げっと)

 

 あやしいかげの片方はおそらく無事な筈。俺の振る舞いを喧伝して貰う為にも生きていて貰うつもりだが、俺の攻撃呪文に恐れをなしてこの段階で逃げられては、困る。

 

「立て、今のはわざと外してやった筈だ」

 

 煤まみれになって床に転がるあやしいかげに命じると、共にもう一度声には出さない方で呪文の詠唱を始めながら反応を待つ。

 

「おいっ、何だい――」

 

「イオナズン」

 

 爆音を聞きつけて飛び出してきたらしい何者かが、呪文で生じた爆発に呑まれて消える。

 

「くだらんな。実にくだらん」

 

 さぁ、始めよう。一大造反劇を。倒れ込んだまま身動きのとれなかったあやしいかげから視線を外さず、俺は嘆息した。

 

 

 




主人公無双、はっじまっるよー?

次回、第百十六話「蹂躙」

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