強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百十九話「かげさんこちら」

(さてと……)

 

 どうしてこうなった、と声が漏れそうだった。

 

(俺も甘いと言うか、何というか)

 

 甲冑のオッサンはこのまま逃げようにも足の速さ的な問題で追いつかれて、推定複数の首をもつドラゴンなあやしいかげに踏みつぶされると思ったので、バハラタにでも戻ってろとキメラの翼を渡して逃がした。

 

(まぁ、本気で戦うには足手まといにしかならないもんなぁ)

 

 せめてマホトラで精神力を吸い取れれば良かったのだが、追っかけてくる魔物達から丸見えの状態でアークマージの使えない呪文を唱える訳にもゆかず、今に至る訳だ。

 

(カンダタこぶんにマホトラ効いたか覚えてないけどね)

 

 どちらにしても、済んでしまったことだ。

 

(今は後ろの団体さんをなんとかしないと)

 

 洞窟の外は森なので隠れるところには困らない。

 

(さっさと逃げてしまうのは意外に簡単そうにも見えるけどね)

 

 追いかけてきた魔物達をから逃れたとしても、洞窟に近い位置でまいたのであれば、何割かの魔物は洞窟に戻って行くことだろう。

 

(それは看過出来ないよね)

 

 クシナタさん達がどこまで潜ってるかは解らないが、あの魔物達を一体でも洞窟に引き返させればクシナタ隊の戦力では詰む。

 

(最低でも橋の向こう辺りまでは引きつけないと)

 

 倒すかどうかは別として、そこまでは最低条件だ。

 

(ゲームじゃ数マスでもリアルだと結構な距離なんだけどな)

 

 追いかけてきて貰わないと困るので、姿は隠せない。

 

(よいしょっ、と。うん、手頃な大きさ)

 

 見失って貰っても困るが精神力の方は無駄遣い出来ないので、出来ることと言えばこうして逃げながら時折木の枝や石ころを拾い――。

 

(そおぃっ!)

 

 投げることぐらい。

 

「グオッ?!」

 

 ごすっといい音がして、バキバキ木をへし折りながら追いかけてきたあやしいかげに命中するが、悲しいかな投げた物が小石。

 

(力が200越えてようが、モノが小石じゃ大したダメージにはならないかぁ)

 

 もしくはあの影が想定通りの魔物でやたら頑丈なのか。

 

「フハハハハハ、その図体では木々が邪魔で追ってこれんか、ノロマめ」

 

 とりあえず、何も考えずこっちに向かってきてくれるように足を止めて嘲笑い。

 

(ふぅ、まったく……)

 

 俺は徐に近くのしげみに歩み寄り、立ち止まると、足を後ろに振り上げた。

 

「はぁっ」

 

「ごぶっ?!」

 

 全力の蹴りを叩き込んだ茂みから転がり出てきたのは、顔面を砕かれた黄緑色の魔物。胴の部分に顔を持つそれは洞窟でも遭遇した魔物だった。

 

(杖の端っこが覗いてなかったら見落としていたかもな)

 

 後ろの敵も居るが、こういった元々この場所にいた魔物の相手もしなくてはならない。

 

(思ったよりハードかも)

 

 思わず胸中で呟きつつ、地面に横たわった魔物から持っていた杖を奪い取る。

 

(うーん、投げれば石ころよりはでかいダメージになりそうかな)

 

 ブーメランの様に戻ってきてはくれないだろうから、きっと使い捨て扱いだが。

 

(と言う訳で、そぉいっ!)

 

「グルオオオオオッ! ガッ」

 

 とりあえず、蹴った時に奪い取ったチケットのようなモノをポケットに突っ込みつつ投げた杖は激しく回転しながら、先程の嘲笑に怒りこちらへ向かってくるあやしいかげへ直撃した。

 

「グルルルル……」

 

 きっと、さっきより痛かったのだと思う。

 

(じゃ、今の内にっと)

 

 蹲ったあやしい影が唸っている間に、俺はそそくさと歩き出す。

 

「おい、何があった?」

 

 立ち去り際、追いついてきた別のあやしいかげが僅かとはいえ足を止めていた推定ヒドラ系が正体のあやしいかげへかけた声を聞き。

 

(あっちのは、さっきのアークマージか、やばっ)

 

 慌てて木々の影に飛び込んだ直後だった。

 

「イオナズンっ!」

 

 林の一部がいきなり爆ぜたのは。

 

(はぁ、危なかったぁ)

 

「くっ、……逃……れ……」

 

 割と近くの爆発だったせいか、攻撃呪文をぶちかましてくれたあやしいかげが何を言って居るのか良く聞き取れず、起きあがった俺は再び逃げ出した。

 

(何て言うか、今ならちょっとだけ灰色生き物の気持ちが分かる気がする)

 

 追いかけられるって、めんどくさい。

 

(距離とりすぎるとこっちを見失うかも知れないし、かといって近づきすぎるとイオナズンでドカンだからなぁ)

 

 呪文である以上、精神力切れで使えなくなる可能性もあるのだが、魔物の中には精神力無限とか言うふざけたモノが存在していらしたりするのだ。何が起きるか解らないパルプンテの呪文の効果でゼロまで精神力減らされた筈が、平気な顔してギラの呪文を唱えてくる、でろっとした灰色生き物の様に。

 

(って、あれはアークマージじゃ無かったかな?)

 

 こういう時、無性に攻略本か攻略サイトが見たくなる。

 

(まぁ、そんなこと考えられるようなら、まだ大丈夫かな。問題は――)

 

 元気にイオナズン唱えてくるあやしいかげ他をこれからどうするかだ。

 

(野良あやしいかげとしてこの辺りをうろつかれると拙いよなぁ)

 

 掠われた人のこともある、一度はバハラタに戻ると思うが、あんな凶悪な魔物が徘徊していては、俺はともかくクシナタ隊のお姉さん達だけでは独力でダーマへ行くことも能わない。

 

(と、なれば倒すしかないよなぁ)

 

 まず、俺が偽物と感づかれるとやばいので、人語を解する魔物を優先的に。

 

(幸い、隠れるところだらけだし……あれが良いだろうなぁ)

 

 別のゲームの話になるのだが、似通った条件の時に良くやったのだ。

 

(れっつ、ゲリラ戦っ)

 

 なけなしの精神力は、攻撃力を増加させるバイキルトに使う。

 

(一撃離脱、筆頭&ウェーイ)

 

 何かが微妙に違う気もするが、だいたいそんな感じだ。

 

(あんまり洞窟の近くで始めちゃ逃げられるだろうし、開始はやっぱり、橋を越えてからかな)

 

 この時、俺は疲労からちょっとおかしくなっていた。

 




筆頭がパーリィせずに、うぇーいって言う感じ。(意味不明)


次回、第百二十話「かりのじかん」

魔物の群れ、殲滅出来るか、主人公?

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