強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百二十三話「おみやげもってきたよー?」

「まぁ、乾かす暇など無いのもやむをえんな」

 

 少し迷ったが、結局洗ったばかりで濡れそぼった衣服と装備を身につける。

 

(誰も居ないし、顔だけ隠して下着姿って訳にもいかないし)

 

 近くの洞窟に似たような格好の犯罪者は出たが、ルーラでジパングに向かうことを考えると、いつもの格好に目元を布で隠したものでないと拙いのだ。

 

(あのジパングの人の協力は絶対必要だからなぁ)

 

 宿屋からジパングまでキメラの翼で連れて行ってくれたジパング人の男性と面識があったのは、その後おろちを退治しに洞窟に向かった男、スーザン・ノルンオウルだけなのだから。

 

(とりあえず、ジパングに着いたらあのジパングの人に死体の見張りを頼んで……)

 

 首だけ持ってまずはおろちと話をつける。

 

(あれだけ大きなモノ持ち込むなら国主の許可を得ないとな)

 

 だいたいモノがモノだ。生き物の死体を持ち込むとか、一歩間違えば嫌がらせと取られても仕方ない。

 

(おろちが居ることで情報統制できそうなジパングがベストなんだけど)

 

 少しでも濡れた服が乾けばと全力疾走しながら、俺は声に出さずに呪文を詠唱する。

 

「ヴヴ」

 

「イオナズン」

 

 完成した呪文は、右手前方を飛んでいた虫の魔物を足下の死体や倒木ごと消し飛ばした。

 

(ふぅ、これで良し。綺麗な死体を残しすぎると素手で倒した不自然さが目立っちゃうかも知れないからなぁ)

 

 丁度俺が吹っ飛ばした辺りは「倒す→物音に気づいてやって来る→死体に気づいて硬直→隙あり、でやぁ!」のループで数を稼いだ場所に該当し、転がっていた骸が多い。

 

(纏めて倒されてれば、イオナズンで一網打尽にされたっぽいし)

 

 偽装についてはこれぐらいやっておけば充分だろう。

 

(周囲の魔物とかが爆発の音に気づいてあっちに集まってくれれば更に儲けものかな)

 

 全力疾走ではあるが、忍び歩きもちゃんと同時にしている。せっかく洗った服に魔物の返り血がついた日には何の為に川まで行ったのか解らないのだから。

 

「さてと……そろそろだったな」

 

 イオナズンの甲斐もあってか、気配を消していたからか、俺はイオナズンで消し飛ばしたハンターフライとのニアミスを除けば魔物と遭遇することもなく、キングヒドラの死体の所まであと少しという場所に達し。

 

(念のため今骸のある場所の側に五色米もどきは設置しておくか)

 

 枝で隠されて緑の小山になったそれに近寄ると、白石で一個の赤石を囲み、葉っぱの上に載せ、呪文を唱える。

 

「ヒャダルコ」

 

 合図の石もそのままではルーラの反動で吹っ飛んでしまうかもと思い、凍らせたのだ。

 

(時間が経てば氷は溶けるし)

 

 凍り付いた地面は偽装の一部にしか見えないと思う。

 

「しかし、この辺りも随分荒らしてしまったか……」

 

 ザオリクでも倒れた木を蘇らせるのは不可能だろう、おそらく。

 

(まぁ、洞窟にいて貰っちゃ掠われた人を助け出せなかったし、仕方ないかぁ)

 

 クシナタさん達が上手くやったかは気になるが、洞窟には戻って俺しか勝てないあやしいかげが再び出てくるようなことがあれば目も当てられない。

 

「ジパングへ、ルーラ!」

 

 唱えた呪文が、緑色の服にくるまれたお土産を抱える身体を、お土産の身体こと宙に浮き上がらせる。

 

(うわぁ)

 

 移動呪文とんでもないなと思いはするが、驚きはしない。この呪文、海に浮かんだ船ごと空を飛ぶことだって出来るのだから。

 

(とりあえず、着地には気をつけよう)

 

 ライアスがクシナタ隊のお姉さんのお尻に敷かれた時はギャグで済んだが、質量兵器と化したお土産(胴体)に乗っかられたらほぼ間違いなくぺしゃんこだ。

 

(まぁ、空からこんなモノが飛んできたって気づけば逃げてくれると思うけど)

 

 木の枝をくくりつけられ緑の小山な巨大物体が一緒に飛ぶ様はシュールこの上ないが、俺という比較対象が側にあるので、巨大な物体が落ちてくると言うことはおかわり頂ける(何故か変換出来ない)と思う。

 

「そろそろジパングか……」

 

 眼下の景色が海に変わったかと思えば山地に代わり、見覚えのある場所が近づいてくるに従って高度が下がって行く。

 

「降りるぞ! 巻き込まれないように注意しろ!」

 

 人気はなかったが、念のため声を張り上げながら着地の姿勢を作ると横を見た。

 

(これだけ離れてれば、いいな)

 

 周りに気を配っておいて、自分が仕留めた魔物の骸に押し潰されるなんてオチになったら笑うに笑えない。

 

「っと……ふぅ」

 

 よそ見をしていたせいでちょっとだけ蹌踉めいたものの着地は成功。

 

「――殿ぉー! スーさん殿ぉ」

 

(……ナイスタイミング。と言うか、こんな目立つ登場すれば来るわなぁ)

 

 こちらの姿を見つけたらしく駆け寄ってくる顔なじみのジパング人に、俺は緑の小山の見張りを頼んだ。

 

「献上品を持ってきたのだがな、荷物が大きすぎた。無許可で持ち込むのも問題だろう?」

 

 そんな感じに許可を得るついでにお土産を渡してくると説明したので、問題はない。

 

(確かおろちには一度会ってるし、門前払いにされることはないはず)

 

 実際、来訪と目的を告げると、あっさりとヒミコの部屋に俺は通され。

 

「な、何用じゃ? お前の要求は叶えたであろう?」

 

 若干腰が引けてる気がするのは、ひょっとしたら血の臭いとかがしたのだろうか。

 

(そう言えば肉食動物ってそう言うのに敏感そうだもんなぁ)

 

 おろちにもそれが当てはまるとは断言出来ないが、何らかは感じ取っているからこその態度なのではないかと思う。

 

「何、少々面白いモノを手に入れたのでな。土産に持ってきた」

 

「面白いモノじゃと?」

 

「ああ。少々重く、ここまで持ってきたのはこれだけだがな」

 

 訝しむおろちに頷いてから俺は脇に抱えていたモノを地面に置くと、包んでいた緑の布地をぺらっとめくって見せる。

 

(そう――チラリズムである)

 

 渾身のボケだが、流石に声に出すのは自重した。

 

「な」

 

 布地の奥にあったキングヒドラの首は、同じ多頭の魔物であるおろちには衝撃がでかすぎたらしい。

 

「こんな、まさか……」

 

「どうだ、気に入ったか? もう少し見やすくしてやろう」

 

「そん……な……」

 

 顎が落ちそうになる程口を開いて布が払われ露わになった首を見ていた偽ヒミコは、視線を俺の方にスライドさせると、ひっと息を呑み、へたり込む。

 

「あ、あ、あぁ……」

 

(うーん、ちょっと刺激が強すぎたかな)

 

 と言うか、割と外道だったかも知れない。おろちからすれば同族とは行かなくても色違い、近しい種だったとしても不思議はないのだから。

 

(まぁ、生き返らせたとは言え若い娘さんを喰い殺してた時点で慮るつもりなんて無かったんだけど)

 

 勿論俺とてただ怯えさせてからかいに来た訳ではない、最初の発想はともかく。

 

(圧倒的な強者だと知らしめて釘を刺し、あわよくばオーブを供出させる)

 

 こちらの強さが想定以上だと解れば、おろちも態度を改めるんじゃないかと思ったのだ。

 

「ど、どうか命ばかりは……何でも言うことは聞く、命ばかりは許してたもれ」

 

(そうそう、こんな風にガタガタ怯えて、服を脱ぎ……ん?)

 

 何故だろう、今一つおかしな所があったような気がする。

 

「何故、服を脱ぐ?」

 

「に、人間の男は女子にそう言うことをするのが好きなのじゃろう? わらわのこの姿は触った感触も人の女子そのも――」

 

(なんだか とんでもねぇ こと に なり やがり ました ですよ?)

 

 ある意味間違ってはいない、とかそう言うレベルじゃねぇ。

 

「ちょっと待て、何がどうしてそうなった?」

 

 はっきり言って俺は頭を抱えた。もし、この状況下でお付きの人とかが声を聞いて飛び込んできたらどんな事態に発展するか。

 

「ヒミコ様、いかがなされましたっ?」

 

 そして、聞こえて欲しくない声はするなと願った直後にすぐ後ろからしたのだった。

 




おろち の すてみ の はんげき。
しゅじんこう は だい ぴんち に なった!

こまんど?

次回、第百二十四話「そう言うゲームじゃねぇから、これ」



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