強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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休載お詫びの一発ネタ

主人公「腰が抜けた、か。まったく……仕方ない俺の背中に乗れ」
おろち「こ……これは……さ、サラマンダーよりずっと早いのじゃ」


シャル「ううっ……」
サ ラ「勇者様、勇者様!」
シャル「ん、あ……夢かぁ」
サ ラ「夢、ですの?」
シャル「うん、ちょっと嫌な夢を見ちゃってね‥…ごめん、心配駆けて」

しょーもない&別ゲームネタでごめんなさい。



第百二十六話「次はバハラタ」

「では宜しく頼む」

 

「「へいっ」」

 

 集まった人足達は運ぶモノの大きさに驚きはしたものの、戦くようなことはまだ無かった。たぶん、問題のブツを木の枝で覆ったままだからだと思う。

 

「しっかし、旦那ぁ。よくこんなデカイのしとめられやしたね?」

 

「そこそこ手こずったがな。だがだからこそコイツの素材で武具を仕立てたくなった訳だが」

 

 話しかけてきた人足の頭へ俺は肩をすくめると、ちらりと作業を始めた人足達を見る。

 

「流石に一人で持てる大きさではないからな」

 

「あっしからすると、じゃあどうやってここまで運んできたのかってツッコミたくなりやすがね」

 

「大きな船ごと空を飛び離れた場所に移動させる道具があってな、それを使った」

 

「へぇ、そんなモンがあるんですかい」

 

 道具屋も武器屋も存在しないこの地ではキメラの翼も未知の品なのだろう。

 

(と言うか、知ってたら集団で逃げてるよな、おろちの被害がついこの間まであった訳だし)

 

 これから運ぼうとしている品にしても、おろちの色違いっぽい魔物の死体なので、木の枝が取り払われた瞬間、周囲がパニックになる可能性がある。

 

「ふむ」

 

「どうしやした?」

 

「いや、少しな」

 

 臭いなど誤魔化しきれない部分があった為、正体はぼかし「加工して貰う為に持ち込んだ魔物の死体」とは明かしてあるが、巻き付けた木の枝を取り払う作業は人足を帰して一人でやった方がいいだろう。

 

(あとは、加工して貰う刀鍛冶への対応か)

 

 こちらはパニックを避ける為にも先に正体を明かしておいた方が良いと思う。

 

(口止めは、普通にお願いしておけば大丈夫だろうけど)

 

 偽ヒミコからも口外無用と言う通達は出して貰っている。やまたのおろちではないにしても似通った姿の魔物が倒されたなんて話が広まれば、偽ヒミコとしても掘り返されたくないモノに飛び火する可能性があるのだから。

 

(利害の一致、だよな)

 

 これに関して俺は脅していない。

 

(強く出ようとすれば、また服脱ぐだろうからなぁ)

 

 とりあえず、今回はピンチを回避したがおろちの性格改変事件については早急に対処が必要だろう。

 

(もっとも、その前にバハラタへ一度は戻らないとな)

 

 兜を壊したカンダタこぶんは放置したままだし、クシナタ隊や捕まっていた女性達のことも気になる。

 

(手が回らないな。このままクシナタ隊のお姉さん達に掠われた人達のこと……あ)

 

 そこまで考えて、俺はここまでにもう一つポカをやらかしていたことに気づく。

 

(五色米もどきで、ジパングに飛んだって伝えたけど、隊のお姉さん達ジパングには来られないじゃないか)

 

 そう、生け贄にされて死んだ筈のお姉さん達はこのジパングに顔を出せない。

 

(ってことは、こっちから合流するしかないよな)

 

 一刻も早くバハラタに行く必要が出てきた。時間があれば、魔物から素材をはぎ取る方法とかも学んだり素材の幾つかは素材のままで受け取ってすぐ他のドラゴン系装備を扱ってる武器屋へ持ち込むつもりだったのだが、是非もない。

 

「すまんが、用事が出来た。一足先に刀鍛冶の方に話を通しに行く。これだけ貰って行くぞ?」

 

「へ、へい。お気をつけて」

 

 人足の頭に断りを入れ、俺は運んでいる荷物からキングヒドラの首を一つ抜き出すと一足先に鍛冶屋の家へと向かう。

 

(死体を覆う枝を取り払う作業は自分でやらないといけないだろうけど、作業開始までに言づてをしておくことは出来るもんな)

 

 見本用に首を一個先行して持って行くので、説明も何とかなると思う。目的地へ辿り着くのにも俺の足で大した時間はかからなかった。

 

「邪魔をする」

 

 と、声を発してお邪魔した先はたぶん連絡が行っていたからか、炉に火を入れて居る最中で。

 

「ん、思ったより早かったな。あんたがヒミコ様から話のあった御仁か?」

 

「ああ。獲物の方はもう少しかかるが、これの胴体と残りの首だ」

 

 振り返った初老の男にキングヒドラの首を突き出す。

 

「っ、こいつは」

 

「ああ、首が複数ある魔物だ。こいつを使って武器と防具を作って欲しい。それとこのことは口外無用に頼む。それなりに手こずる相手だったからな、相応の価値はあると思うが……」

 

「なるほど、欲に目の眩んだ輩が無謀をやらかすと目覚めが悪い、そんなところか?」

 

「そう受け取って貰っても構わない」

 

 良い具合に勘違いしてくれたので敢えて訂正はせずに流すと、俺が注文したのは主に防具。

 

「材料が余るようなら、鞭か爪も作って欲しい。鞭はこんな形で――」

 

「なるほど。しかし、この形状からすると材料が被るぞ?」

 

「ふむ、確かに……仕方ない、最初に頼んだとおりこちらを優先してくれ」

 

 思い出せる限り、ゲームにあった武器の構造を再現した絵を描きながら説明し、鍛冶師の返答に悩みつつも取捨選択して指示を出す。

 

「これは『どらごんろーぶ』だったか?」

 

「ああ。それから、俺用に盾も頼む」

 

 シャルロットにはまだ見入手だが勇者専用装備がある筈だし、そうなってくると勇者一行に必要なのは後衛職の防具だろう。みかがみのたてではブレスを軽減してくれないのでちゃっかり自分の盾も依頼したが。

 

(だいたいこんな所だな。あとは素材の方が到着してくれれば)

 

 骸を覆う枝を取り払い、目の前の鍛冶師に素材を託してバハラタへ向かえる。そう、バハラタへ。

 

(クシナタさん達無事だと良いけど)

 

「旦那ぁ、お待たせしやした」

 

「あ、ああ。世話をかけた」

 

 到着を知らせに顔を出した人足の頭へ応じつつも、俺の意識は既に別の場所へと向いていた。

 




次回、番外編10「自宅の窓から(勇者視点)」


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