強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百二十九話「ぱふぱふ」

 

「昼についたのは幸いだったな」

 

 夜じゃなくて本当に良かったと思う。

 

(あのテのお店って繁盛してるのだいたい夜だろうからなぁ)

 

 昼間お休みで夜営業してる武器屋や道具屋もあったと思うから一概にはそうと言いきれないが、ゲームと同じ仕様なら、偽物の踊り子さんが悪魔の囁きをしてくることは無いはずだ。

 

(そうだよな、うん。避けられないならせめて話を聞きやすそうな時間帯に到着出来たことを良しとしなきゃ)

 

 正直な気持ちを言うと今からでもルーラで大空に飛び立ちたい気持ちで一杯だ。ただ、売り飛ばされた人達のことを考えると、そんな真似が出来るはずもない。

 

(あれが、ゲームの時にもあったやつかな?)

 

 用水池なのか噴水なのか町の中央に湛えられた水が陽光を反射して周囲を取り巻く壁の一部を明るく照らす姿を眺めつつ、俺は現実逃避した。

 

「賑やかな町でありまするな」

 

「っていうかー、広すぎだと思うなぁ、あたしちゃん」

 

 他の町同様にゲーム仕様ではなく町と言うに相応しい人口と広さをもった姿のアッサラームを眺めながらコメントするクシナタ隊のお姉さん達。

 

(これからここを探さないといけないんだよなぁ、うふふ、あはははは……)

 

 町が広いと言うことは、子供がいっちゃいけないようなお店の並ぶ区画も相応に広い。言葉が分からない人のためにか、絵看板では際どい服を来たお姉さんが来訪者達を手招きしている。

 

「いやぁ、魔物が出なかったのはあんたらが聖水撒いてくれたからなんだろ。護衛代金、あれっぽっちじゃ申し訳ないと思ってね。色つけておいたよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 交易船の護衛を終えた後、商人のお姉さんはこの町に向かうことになっていた人達からも護衛の仕事を取り付けたらしく、俺達の後ろからはそんなやりとりが聞こえていた。

 

「資金が増えるのは歓迎すべきでする」

 

 とクシナタさんは賛成していたが、俺も文句はない。売られてしまった人を買い戻す資金、と考えると少し憂鬱になるけれど。

 

「スー様、お待たせしました」

 

「あ、あぁ」

 

 来るべくして来てしまったと言うべきか。

 

「とりあえず、ハヅキとカンナそれからサツキは別の班にした方が良いわね」

 

「そうですね、キメラの翼があるとは言えルーラの使える人が居た方が緊急時には対処しやすいでしょうし」

 

 当然の様に始まった班分けは、全員一緒に回るような効率の悪いことをしていられないという意味では頷ける。

 

(この流れだと、俺も隊のお姉さん達何人かと行動ってことになるんだろうなぁ)

 

 そも男一人では首尾良く掠われ売られた人を買い戻すことが出来たとしても、精神や肉体的なケアの面で問題がある。

 

「アイナはライアス様と一緒にするとして」

 

「ちょ、ちょっとそれはどういう」

 

「お尻に敷いた仲でしょ」

 

「お、おい。待てお前ら」

 

 知らぬ所でカップルが発生していたという事実を間接的に知った胸のモヤモヤに苛まれつつ、俺は空を仰いだ。

 

(空は青いなぁ、こういうのを何て言うんだろう? バシルーラ日和?)

 

 今の自分は盗賊の呪文しか使えない、ただの盗賊だ。解ってはいる。

 

(ライアスにそんな呪文使えるわけが……じゃなかった、ライアスの前でそんな呪文なんて使える訳がないじゃないか)

 

 だいたい、俺達は遊びに来た訳じゃないのだ。人捜しの人員を一時の感情で排除するなどあり得ない。

 

「それは良いとして、スー様と一緒の班は――」

 

「はい! やっぱり隊長のいる私達の班が良いと思います」

 

「な、何を」

 

「そうですわ、隊長が居るのにスー様まで居たらバランスが」

 

 あり得なさすぎて、何だか俺をクシナタ隊のお姉さん達が取り合っているかのような幻聴まで聞こえてきた。

 

(ここはあれかな、「やめてっ私の為に争わないで」とかおきまりの台詞でボケるべきとか?)

 

 いや、幻聴にボケてどうするのだ。

 

「盗賊のカナメとかもしっかりしてるからさぁ、あたしちゃん達の班でよくない?」

 

「そうそう。そもそもスー様も盗賊だから被っちゃうよね?」

 

「けど、そちらには商人の方がもう既に」

 

 しかし、何故幻聴は途切れないのか。

 

(あれ、これってひょっとして幻聴じゃない?)

 

 だとすると、信じがたいことだが、俺が原因で班決めが終わらないと言うことでもあり。同時にチャンスでもある。

 

「俺が原因で決まらないというのであれば、俺は一人で行くぞ?」

 

 売られた女の人については、助けることが出来た時点でクシナタ隊のお姉さんを捜して預ければいい。

 

(そう、思ってたんだけどなぁ……)

 

「で、ではスー様お願いしますね」

 

「よ、よろしく」

 

「よろしくね、スー様」

 

 謎の団結を見せたクシナタ隊のお姉さん達はくじ引きという手段を編み出し、俺は盗賊のお姉さんが居る班と行動することに相成った。

 

(盗賊が二人同じ班でいいのかなぁ)

 

 バランスとしては問題ありそうなのだが、ここで異議を唱えたら班決めでもめていたついさっきに逆戻りだろう。

 

「ああ、よろしくな。さてと……」

 

 ポーカーフェイスを崩さないように注意しつつ応じ、歩き出す。

 

(せめて死に場所は自分で決めよう、社会的な)

 

 そも、この編成で俺がリーダーでないというのも不自然だろう。

 

「売られた、とするとおそらくはあの区画だろうな」

 

 俺が見上げたのは、先程も目にした看板。

 

「助けるぞ、一刻も早く」

 

「ええ」

 

「「はっ、はい」」

 

 半ば自棄になりつつ漏らした声に三人が答え、歩き始めた矢先。

 

「そ、そこの人、ちょっと待つぱふっ!」

 

 俺の背中に、何だかとんでもない語尾で声がかけられた。

 

「ぱふ?」

 

「おうっ、いきなりそこに着目するぱふかっ」

 

 思わず口にして振り返れば、そこにいたのは「あちゃあ」とでも言うかのように顔を手で覆ったオッサン。

 

「見たところこの町は初めてのようぱふから、忠告しておくぱふっ」

 

 趣味の悪そうな黄金のペンダントを首から提げてふんぞり返ったオッサンを。

 

「さて、行くか」

 

 俺は当然のように無視した。

 

「ちょっ、ちょっと待つぱふっ! そ、それはないんじゃないかなぱふっ!」

 

 後ろから抗議の声があがったきもするが、ぱふぱふ言うオッサンの首に掛かっていたモノが俺の知っているアイテムなら女連れで相手にするのは危険すぎる。

 

「え、ええと、スー様?」

 

「い、いいんですか? 何か忠告とか言ってましたけど?」

 

 クシナタ隊のお姉さん達は聞いてきたが、この点に関して俺に譲る気はなかったのである。

 

 




主人公、お前にリア充を恨む資格はない……ぱふっ。

くっ、中途半端なところまでしか書けなかった。

おのれ回線不調めっ。

え、ぱふぱふ? ちゃんとぱふぱふ言わせておいたぱふよ?

次回、第百三十話「そこに潜む危険」

アッサラームの闇を、君はまだ知らない。

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