強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百三十話「そこに潜む危険」

「とりあえず、振り切ったか」

 

 はぷぱふ言う声が聞こえなくなって、少しだけ安堵した。

 

(忠告ってのが気にならなかった訳じゃないけど、これから向かう先は「あれ」だもんなぁ)

 

 見上げると角度の関係からか際どい服のお姉さんが手招きしている看板は殆ど見えなくなっていたが、看板が見えようと見えまいと、そこがどういう店かについては変わらない。

 

(首から提げていたのは、まず間違いなく「きんのネックレス」だろうし)

 

 男性専用の装飾品で、装着者の性格を「むっつりスケベ」に変えてしまうという恐ろしい品だ。

 

(「せくしーぎゃる」でさえあんなに厄介な性格だったって言うのに……)

 

 しかも俺達の向かう先が、子供にはとても近寄らせられないいかがわしいお店であると知れれば、あのオッサンがどんな行動にでるか解ったもんじゃない。

 

(だいたいなぁ……)

 

 むっつり、というのがいかにも「下心ありますぱふっ」と全力で語ってる気がするのだ。

 

(俺が失望されるのはもう仕方ないとしても――)

 

 それ以上に不快な思いを同行してくれるお姉さん達にはさせられない。

 

「ここから先は、聞きづらいことを聞きに行く訳だからな。余計な人間が居ては話してくれたかも知れないことさえ口を割らんかもしれん」

 

 前情報なら仕入れてあるとも説明してお姉さん達を納得させると、もう迷いなど無かった。お店に足を踏み入れてからはテンパったり、良いようにあしらわれたりとさんざんな醜態をさらす気はしたけれど。

 

「すまない、少し邪魔をす」

 

「あら、格好いいお兄さんようこそぱふっ」

 

「は?」

 

 俺は、店に足を踏み入れた直後、まったく別の理由で硬直した。

 

「ぱふ?」

 

 思わず口にしたそれに謎のデジャヴを感じてしまうのは気のせいではないと思う。

 

「……その様子だと、まだこの町に来たばかりぱふね? 外で誰かに言われなかったぱふ?」

 

「……声はかけられたが、あまりに胡散臭かったのでな」

 

 どうあっても言い訳だが、俺は無視したと素直に明かした。

 

「じゃあ、知らないぱふね。あまりこういうことを吹聴したくないぱふけど……今この町では語尾に『ぱふ』がついてしまう呪いが広まってるぱふよ」

 

「な、呪いぃ?」

 

 驚きのあまり声が裏返りかけた。

 

(ちょっ、どういうこと? ゲームじゃこんなイベントは無かったはず)

 

 俺が原作の進行ルートを無視して好き勝手やったバタフライ効果とでも言うのか。

 

(そも、呪いってことはバラモスか?)

 

 確か何処かの町でバラモスによって馬だか猫だかにされた人がいたような気はするが、こんなツッコミどころに困る呪いはかけてこなかったように思う。

 

(って、呆けてる場合じゃない)

 

 俺を出迎えたこの店の人の話が真実なら、クシナタ隊のお姉さん達が問題の呪いにかかってしまう可能性だってあるのだ。ならば、呪いの情報は最優先で集めておくべき。

 

「なるほどな、それで……呪いにかかった原因は?」

 

「それがぱふ……みんな気がついてたらこうなっていたとしかぱふ。ただ、夜に起きてる人からは呪いにかかった人が一人もいないと言うことぐらいしかわかっていないぱふ」

 

「夜、か」

 

 とりあえず、手に入った情報は一つだけだが、何も知らなかったさっきよりはマシだろう。

 

「所で、この店にはバハラタ出身の女性はいないか?」

 

「バハラタぱふ? ……ごめんなさい、ウチにいるのはイシスとロマリアの娘くらいぱふ」

 

「そうか」

 

 取り乱すことなく聞き込みが出来たのは、呪いという情報の与えたインパクトが大きすぎたからかもしれない。

 

「お兄さんバハラタの人ぱふ? 故郷の人が良いのかも知れないけれど、うちの娘だって綺麗どころが揃ってるぱふよ?」

 

 あと、たぶん呪いでついてる語尾が。

 

「いや、仲間にも呪いのことを伝えておかないと大変なことになるかも知れないからな。邪魔をした」

 

 こうして呪いをダシに一軒目のお店から逃げ出すことに成功した俺は、そのまま数歩進み。

 

「……すまん」

 

 一緒にいたお姉さん達に頭を下げた。

 

「俺が浅慮だった」

 

「「スー様」」

 

 たぶん、あの胡散臭いオッサンも呪いの被害者だったのだ。非は性格だけに目を奪われて本質を見誤った俺にある。

 

「あ、謝る程のことじゃないですよ」

 

「そ、そうですよ。あのおじさん、確かに胡散臭かったですし、カナメさんの胸とかお尻とかチラチラ見てましたし」

 

「や、やっぱり気のせいじゃなかったのね。って、じゃなくて! ええと、呪いのことについてはちゃんと聞けたんだし……」

 

 お姉さん達のフォローが胸に痛かった。三人は、わざわざスルーして良いのかと聞いてくれていたのだ。それを聞き入れなかったのは、やはり俺。

 

「すまん」

 

 一歩間違えば、お姉さん達もぱふぱふ言うハメになっていたかも知れないと思うと、ひたすら申し訳なくて。

 

「はぁはぁはぁ、あ、居たぱふ! はぁ、ようやく追いついたぱふよ」

 

 俺が、凹みに凹んでいるところでそのオッサンは再登場した。

 

「あ、さっきの」

 

「……というか、さっきの人よね?」

 

 顔に青あざをこしらえたりしてやけにズタボロの格好で。

 




ゲームにはなかった謎の呪い、まさか主人公達までぱふぱふ言う様になってしまうのか。

そして、この呪い騒動の元凶とは?

次回、第百三十一話「聞き込み案件が倍になったってばよ」

そんな感じで、続きます。

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