強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百三十二話「ベリー○○○」

「これは……」

 

 何か聞き覚えがあると思ったら、ピラミッドのBGMだった。そんなことを思い出しながら音の漏れ出てくる劇場の入り口をくぐる。

 

「邪魔をする」

 

 オッサンの話が真実ならば、ようやく売られてしまった人を助け出せるかも知れないのだ。

 

(昼で良かったって思うべきなんだろうなぁ)

 

 出し物の告知文に何が書かれていたかは、敢えて伏せておく。

 

「いらっしゃいませ、ここは劇場です。ただ、お客様申し訳ありませんが今は練習中でして、ステージは夕方以降に――」

 

「いや、客ではなく踊り子と座長に話があって来たのでな」

 

 踊りを見に来た訳ではないと即座に否定したのは、班員のお姉さん達が後ろにいるからではない。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「もうっ、駄目ぇ」

 

「みんな! 弱音を吐いちゃ駄目よ!」

 

 観客席の向こうで揺れるメロンにスイカ、じゃなかったレッスン中の踊り子さん達の何人かが辛そうにしていたからだ。

 

「すまないが、少し話を聞かせて貰ってもいいだろうか?」

 

 幾ら何でもぶっ続けで踊り通しと言うことは無いと思う。なら、話しかけることで休憩する理由になればと思っただけのこと。

 

(べ、別に目の毒だからさっさと用件を済ませて次の場所に何て思った訳じゃないんだからねっ)

 

 などと思考がツンデレ風味になってしまう程、取り乱してる何てことはない。俺は冷静だ。

 

(そう。例え、衣装が「危ない水着よりよっぽど危ないわ」と絶叫してしまいたくなるような「もう見えちゃ拙い場所だけ隠しておけば良いんでしょ」とかだろうが、右端から三番目のお姉さんのそれが、ずれて外れかけていようが関係ない)

 

 魔物の僅かな隙をついて隠し持ったお宝を盗む為の動体視力が、まさかこんな所で仇になるとは思わなかった。

 

「お話ですか。もう少し待って下さいね、キリの良いところまで後ちょっとですので」

 

「あ、ああ」

 

 座長と思わしきお兄さんからの指示に俺は天井を仰いだ。

 

(平常心、平常心、平常心、平常心、平常心、平常心、平常心、HEY! ジョー知んない? 平常心、平常心、平常心、平常心)

 

 駄目だ、謎の外国人が紛れ込んできた。と言うか、「ジョーって誰だよ、俺の方が聞きたいよ」とかツッコんでおくべきだっただろうか。

 

(ってそうじゃなくて、落ち着け落ち着くんだ俺。こういう時は、天井の染みを数えてれば良いってのがセオリー……だったっけ?)

 

 何か違った気もする。

 

「ああっ、もうっ」

 

「はぁ、はぁ……ううっ」

 

 よっぽどハードな練習なのか、聞こえてくる呼吸を荒くし喘ぐ踊り子さん達の声と息づかいが、俺の瞑想を妨げて。

 

(くっ、精神滅却、色即是空、明鏡止水……うーん、あとそれっぽい四文字熟語は……)

 

 何だかクイズみたいなことになってきてたが、それが良かったのかもしれない。

 

「お待たせしました、それでお話というのは?」

 

「ん?」

 

 座長さんの声で我に返って視線を向けると。キリの良いところまで行って休憩に入ったらしく、踊り子さん達はステージの上にへたり込んでいた。

 

「はぁはぁ、はぁ」

 

 汗の浮いた肌、荒い呼吸、すごく目の毒だが、ここで用件を伝えないと足を運んだ意味がない。

 

「あ、あぁ……実はな」

 

 俺は、ここまで来た経緯と理由をかいつまんで説明すると、もし居るなら売られてきた女性と話したい旨を伝えた。

 

「当人の意思を確認したいというのもあるが、他の女性がどこに行ったのか知っているかも知れないしな」

 

「なるほど、そういう事情でしたか」

 

 でしたらと続けた座長さんは、お探しの女性はそこにとへたり込んでいた踊り子さんのうち二人を示し。

 

「灯台もと暗し、ではないか……」

 

 少しだけ苦笑したおれの目に映ったのは、メロンじゃなくて劇場に入ってきた時辛そうにしていた踊り子さん達だった。

 

「入ってきたばかりだったから、動きにまだ慣れなくて辛そうだったんですね」

 

「それだけじゃないような気もしますけど。いいなぁ……大きくて」

 

「……さて」

 

 何やら納得したようにクシナタ隊のお姉さんが頷くが、もう一人のお姉さんの呟きは、聞かなかったことにし。

 

「何にしても、これでようやく話が出来るな。……とは言え相手は女性、事情説明は頼めるか?」

 

 俺は同行者である盗賊のお姉さんに役目を振った、別に目の毒だから人任せにしようという訳ではない、ちゃんと理由はあるのだ。

 

「ええ。と言うか、これで何もしなかったらただスー様についてきただけになってしまうものね。任せておいて」

 

「すまんな。ところでもう一つ聞いても良いか?」

 

 快諾して踊り子さんの所へ向かおうとする盗賊のお姉さんに頭を下げると、座長さんに向き直る。

 

「最近この辺りで広まっている呪いについて知っていることがあれば教えて欲しい」

 

 俺には俺でまだ聞くことが残っていた、そう言う訳だ。

 

「あの呪いですか。ウチのステージは夜やってますから、お客さんも呪われた人は少ないのですよね。一応夕方の部を見に来てくれているお客様には呪いにかかった方は居られるようですが」

 

「ふむ。そう言えば酔っぱらいが怪しい者を見たとも聞いたな」

 

「ああ、それでしたら私も聞きました。猫か何かと見間違えたんじゃないかと言ってた人もいましたね」

 

 呪いの一件が広まれば興行にも悪影響があるからだろうか、事件を解決する為に調べているのだと言うと座長さんは知りうる限りのことを教えてくれた。

 

「猫、か」

 

 うろ覚えの記憶だとイシスだったと思っていたが、おそらく間違っていたのだろう。

 

「真相は、だいたい分かった」

 

 探偵など柄ではないが、再会したクシナタ隊のお姉さん達が語尾に「ぱふ」をつけているところは見たくない。

 

「呪いの一件、俺が解決して見せよう。ただ、解決した暁には――売られてきた者達が望むのであれば解放してはくれんか?」

 

 交換条件のようで卑怯かも知れないが、カンダタ一味のアジトで十全にお宝を回収出来なかったこともある。

 

「今急に抜けられると困るんですが、仕方ありません。呪いの一件、宜しくお願いしますね」

 

「ああ、任せておけ」

 

 こうして座長さんと約束を取り付けた俺は、盗賊のお姉さんが踊り子さん達から聞き出した情報を頼りに向かった先で事件を解決したら売られた女性を解放して貰うと言う約束を取り付けては、その女性から得た情報を頼りに他の売られてきた女性を探すと言うリレーを繰り返すハメとなったのだが。

 

「先を越されたか」

 

「……流石、隊長さんね」

 

「他の班より飛び抜けて結果を出しているようだな」

 

 所々でぶち当たったのは「もう身請けされてここには居ないぱふ」という反応。

 

「手がかりが切れてしまった以上、一旦宿に戻るか」

 

「そうですね、また隊長が預けに来てる可能性もありますし」

 

 走り回ったせいか、日も傾き始めていた茜色の中、俺の提案に隊のお姉さんは頷き。

 

(さて、宿で合流出来ると良いのだけど。ここからが勝負だな)

 

 夕日に顔を染めながら俺達は宿に向かって歩き出した。

 




主人公(くっ、精神滅却、色即是空、色即是空、シキソ、シキソ、シキソシキソシキソシキソ、ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥドゥドゥドゥドゥエドゥドゥドゥ)
お姉さん「ああっ、スー様がマグロのように飛び跳ねながら外にっ!」

 と言う没ネタもあったんだぜ。(劇場での瞑想中より)
 他ゲームネタなので除外したけれど。

いやぁ、ベリーなメロンでしたねぇ、私のお目々も釘付けぇ、的な。

次回、第百三十三話「ベ○ー○○○」

私達のステージは、ここからだ。

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