「すまんっ」
「な」
部屋に入るなり床に正座し、驚くクシナタさんにも構わず頭を床に叩きつける勢いで下げた。DOGEZAであり、有言実行でもある。
(いや、実際口に出した訳じゃないし有言実行はちょっと違うか)
どちらにしてもまずはクシナタさんのご機嫌を取るというか心証を良くしておかないといけない。
(ネックレスの件は説明出来たけど、盗賊のお姉さんへの失言とかは100%俺自身の落ち度だもんなぁ)
結局の所、お説教からは逃げられない訳でもあり、自業自得でもある。
「す、スー様頭を上げて下さいませ」
「いや、そう言う訳にもいかん。カナメへの失言を含め今日一日己の行状を顧みるとな」
我に返ったクシナタさんにお願いされるも、頭を下げてるのは、お説教時間を減らして欲しいという下心からだけでない。反省しているのだ。
「この身体は借り物で責任をとれないと前に言っておきながらのあの言動、お前やカナメにも申し訳ないし、謝らなくては周囲に示しもつかん」
「スー様……」
勘違いしないで欲しいが、別にお説教が怖いとかそう言う意味ではないのだ。
「ふふ、うふふふふふ……」
「ごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざ……」
一緒にこの部屋に運ばれて来るなり意識が何処かに飛んで行ってしまったお姉さんとか、ごめんなさいをエンドレスしてるお姉さんなんて何も関係がない。
(しかし、何をされたらああも怯えて……)
二人のお姉さんを何もしていないにもかかわらずあんな風にしてしまう程ジパング式のOSEKKYOUは恐ろしいモノなのかとビクビクしていることは認める。
(あの二人、少しはフォローしてやるべき何だろうか……いや、いけないいけない)
他人に構ってる余裕もないし、俺は被害者の筈なのだが、ふとそんなことを考えてしまい胸中で慌てて頭を振る。
(ここで助け船なんか出したらよけいややこしいことになる。そも、この件で反省せずにまた同じ様なことがあったら……)
今回はペンダントに気づけたから良い。
(そうだな、一歩間違えばオッサンとぱふぱふだったんだ)
ここでこの二人のフォローをしなくても俺は悪くない。一部の特殊な趣味の人で無ければオッサンとぱふぱふ何て金を積まれても嫌だろう。
(あの二人には猛反省して貰わないといけないんだから、俺は悪くない)
仏心は出すべきじゃない、自分の心配をするべきだ。
「そう言う意味では口を出すべきではないと思うが、あの二人についても些少手心を加えてやっては貰えないだろうか?」
だと言うのに、俺の口は何を言っているのやら。
「スー様?」
「俺を慕う気持ちが暴走したというなら、あれもまぁ間接的に俺のせいとも言えなくもなくもないような気がするからな」
「それは、最終的に否定になっている気がしまするが……ではなくて、お庇いになられるのでありまするか?」
「あ、ああ。まぁ、な」
こちらの言葉に呆然としたクシナタさんは我に返るなり尋ねてきたが、出来たのは曖昧に頷くことぐらい。自分でもこの行動には少し驚いていたのだ。
(残り大部分はお人好しすぎるって呆れだけど)
「「スー様……」」
あの二人を庇ったらどうなるかなど、解っていた筈だった。
(やっぱ馬鹿だわ、俺)
DOGEZAしたまま顔を上げていないので周囲の光景は解らないが、声でぶっ壊れていたお姉さん達が正気に戻ったことも理解出来たし、声自体に高純度の好意やら感謝やら敬意やらが籠もっていることにも気づいた。
「「スー様ぁぁぁぁぁ!」」
「あ、あな」
「ぐふっ」
おそらくは感極まって俺に抱きつこうとでもしたお姉さん二名のジャンピングボディアタックをDOGEZA姿勢で受けた俺は、潰された。
(うぐぐ、何だかドラクエの断末魔っぽいもの出た)
腰と頭の辺りに柔らかい感触を感じつつ無事だった俺の頭は冷静にそんなどうでも良いことを考え。
「スー様、大丈夫でするか?」
「あ、あぁ」
クシナタさんの声に応じつつ、身を起こす。そう、俺は大丈夫だった。
「良かった……さて」
「えっ」
「あ」
ほぅと胸をなで下ろしたクシナタさんが次に見たお姉さん達二人となると話は異なるが。
「恩を仇で返したにもかかわらず庇っていただいたスー様に斯様な仕打ち、スー様が許すと申されてももはや私は許す気になれませぬ……」
一言で言うなら般若復活である。
「ひいっ」
「あ、あ、あの、あ、あれはスー様への気持ちがおっ、押さえき」
「問答無用っ!」
「「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ」」
流石に再び庇う気はいくら俺でも無かった。
「っ、おとなしくしなさいませっ」
一ターン二回行動の劣化番コピーを応用して逃げようとしたお姉さん達を捕まえると、その場に組み敷いてうつぶせに伏せさせた状態に持って行き、両足で押さえつける。
(うわぁ、だんだん慣れてきてるなぁ……何という才能の無駄遣い)
呆れればいいのか、目のやり場に困ればいいのか。
「その性根」
「「え」」
「ちょ」
たぶん目のやり場に困る方が正解だったのだと思う。お姉さんの片方と驚きの声をハモらせた直後。
「たたき直して差し上げまするっ」
「あぐぅっ」
「はうっ」
クシナタさんは振り上げた手を、お姉さんのお尻に叩き付けたのだから。
(おしりぺんぺん……だと?)
お姉さん達が色々やり過ぎたというのは解る。だが、仮にも異性の前でそれはあんまりなのではなかろうか。
(おろちとか女戦士のレベルまでいっちゃってるとご褒美とか受け取りそう何て一瞬でも考えた俺はきっとまだペンダントの影響が残ってるんだろうな、うん)
その後のことについて、俺は何も見ていない。流石に気の毒に思って目をふさぎ、ついでに耳も塞いでおいたのだから。
(どうか俺にはおしりぺんぺんが待っていませんように……)
ただ一つのことを真摯に祈り続けるだけだった。ジパング式、マジで怖い。お姉さん達が正気を失っていたのもある意味納得である。
その後俺自身も無茶苦茶OSEKKYOUされたが、体罰的なモノが無かったのは幸いだった。
(なるほどなぁ)
クシナタさん曰く、スー様の身体は他の方のものなのだから体罰などとんでもないとのことだったのだが、言われてみればそれもそうであり。
(それはそれとして、本当に朝まで続くとは思わなかった)
おしりぺんぺん中は流石に戸で塞がれていた窓から外を見れば空は白み始めていて。
「スー様、申し訳ありませんでしたオッサンとぱふぱふ」
「ごめんなさい、スー様」
「い、いや俺はもう良いのだが……な」
お姉さん達には罰が科せられていた。クシナタ隊全員で案を出し合い、それをクジにして引かせた結果が現状なのだが、二人の引いたクジは一人が「語尾を『オッサンとぱふぱふ』にすること」でもう一人は「首から罪状のプラカードを下げる」と言うモノで。
(クシナタ隊のみんなを怒らせるようなことは絶対にしないようにしよう)
惨状から目を逸らしつつ、俺は心に強く誓ったのだった。
酷いことになったと思ってる。
説教シーンをくわれてしまうとは酷い誤算だった。
次回、第百三十八話「呪いは解けて」
正直、あの語尾は無いと思う。誰だよ、提案ったお姉さん。