(サブタイトル)と言うのに、何でこうなったのだろう。
「……いいな、実に良い」
覆面をしているから、その男がどういう表情を浮かべているのかはわからない。
「くっ」
世界はどうしてこうも凶悪な存在を生み出せるというのか。
そう、「危ない水着とガーターベルトを装備してしなを作るさつじんき」など。
「むぅ、こう言うのも意外とありじゃのぅ……じゅるり」
あと……魔物の感性はやっぱり俺には理解不能だったよ、シャルロット。
「すまない、まさかこんなとこ――」
とんでもない視覚的暴力に耐えきれず、俺の意識はそこで闇に沈んだ。
とりあえず、さーびすしてみた。
「ブックバンドにもなる水着かえ?」
それは、おろちが気を遣ってくれたのか、単に天然だっただけか。
(っ)
おろちの言葉に乗っかるかどうかで俺は迷う。
(ここで肯定したとすると……)
上手く行けば誤魔化せるが、つい先程のことを思い出すにジーンが口を挟んで台無しになる気もする。
(ジーンかぁ)
もういっそのこと「ジーンを縛ろうとヒモを用意したつもりがちょっとした手違いでヒモ水着持って来ちゃったテヘペロ」とか言ってみるか。
(って、何考えてるんですか俺! ……はぁ、ジーンへの憤りでおかしくなりかけてる)
元々遊び人経由で賢者になった身体だからか、縛り方については身体の方が覚えているようなのだが、覆面マントにパンツ一丁の男を縛って何の意味があるというのか。
(せいぜいあの腐った僧侶が喜ぶだけだよな)
一瞬脳裏に良い笑顔の腐少女が浮かぶが、現実逃避していられるような状況ではない。
(考えろ、考えるんだ。おろちに水着を着させない為にはどうすればいいかを……ジーンに着せる、悪夢。自分で着る、アウト。もう諦める、論外。シャルロットに……ん?)
そのひらめきはまさに天啓と言っていいモノだったと思う。
「モノ自体のことはさておき、これは知り合いへの土産なのでな。悪いがやれんぞ?」
そう、架空の渡す相手をでっち上げて予約済みにすれば良かったのだ、これなら更なる追求はすまい。
(か、勘違いしないように言っておくけど、べ、別におろちよりシャルロットに着て欲しかったとか思った訳じゃないんだからねっ?)
心の中で口にした我ながら気持ち悪いツンデレ風弁解が一体誰に向けてのモノだったのかは俺にも解らない。
(だいたい、試みようとした時点でシャルロットのお袋さんに殺されかねないし)
そもそも他人に渡した時点で俺が社会的に死亡すること請け合いなのだ。
(まぁ、上から何か追加装甲をつけて鎧みたいに加工すれば別だろうけれどね)
装甲同士を繋ぐヒモ的な役割と言うことにすれば、女戦士の着ていたビキニアーマーみたいなモノレベルまで無難な品にはなるだろう。しかも守備力も増――。
(あ、そうか! 直接渡さず刀鍛冶の人に託して魔改造して貰えばいいんじゃないか)
テンパっていたとは言え、どうしてこんなことに気づかなかったと言うのか。
(そうと決まれば、こんな所で時間を食っている暇はないっ)
さっさと用件を済ませてしまおう。おろちがムラムラしだしたなら、ジーンを与えておけば済む、たぶん。
(ジーンは『さつじんき』だもんな)
まさか社会的に殺されかけるとは思わなかったが、やらなければこちらがやられてしまう。
(非道でも外道でもない、これは緊急措置なんだから)
俺は密かに心の中で割り切った。これが大人になると言うことなのだろうか。
「故にお前へ渡せるのは、この本と隣にいる男ぐらいだ。名はジーン。静かに暮らすことを望んでいるが、ここならばもってこいだろう?」
「……宜しく頼む」
俺の言葉をどう受け取ったのか、ジーンは偽ヒミコへ頭を下げ。
「ほぅ……見てくれは悪くはないが、少々頼りなさげじゃな」
ジーンに興味と視線をやったおろちの言葉へ反射的にツッコまなかった自分を褒めたい。
「見てくれはともかく、腕の方はこれから鍛えてくる予定だ」
「そうかえ。ただのぅ、わらわとしてはお前様のほ」
「生憎、俺はやることを残している。待たせている者もいるしな」
皆まで言わせると恐ろしいことになりそうだったので、おろちの言葉を遮って、手にした本を突き出す。
「その性格のままでいるのもまずかろう? 使うといい」
ぶっちゃけ、性格さえ変わってしまえば新アイテム「ジーンの盾」など使わなくても良かった気もするが、ジパングで暮らすというなら、目の前にいる偽ヒミコを無視することなど出来ない。
(これで良かったんだ)
数年後、謎のクリーチャーが誕生したとしても、人に危害を及ぼさないなら良しとしよう。
「ではな」
ジーンにはジパングの入り口でレベル上げの助っ人を待たせて置く的なことを告げ、踵を返す。
(はぁ、終わったぁ。水着にしても加工して貰えば問題ないし、これでほぼ一件落着だよな)
この時、俺は本当にそう思っていた。
「さて、入り口に戻るついでだ、刀鍛冶の家に寄って行くか」
些少順番が前後するも、思い立ったが吉日とも言う。別にあの忌まわしい水着を一刻もはやく手放したかったとかそう言う訳ではない。
「ああ、あんたか。モノは幾つか仕上がってるぜ?」
「本当か?」
訪れた先で待っていたのは、思わぬ吉報。
「皮も鱗も硬くて加工は苦労したけどな。で、そいつは?」
「あ、ああ。実はこの水着をベースに防具が作れないかと思ってな」
肩をすくめつつもきっちり仕事をしてくれた刀鍛冶の技量に背中を押された俺は、鞄の中に押し戻していた水着を取り出して刀鍛冶の男へ見せた。
「ふーむ、なるほどなぁ」
マジマジ見て唸る刀鍛冶の視線へ水着越しに晒されて少々居心地が悪かったが、些細なこと。
「出来るか?」
「んー、まぁ、まだあの魔物の素材は残ってるしな、任せておけ」
問いかけへ帰ってきた言葉は本当にありがたく、心強いモノだった。
「じゃあ、これを着せる嬢ちゃんか姉さんも連れてきてくれ」
続きを聞くまでは。
「は?」
「『は?』じゃねぇよ、これだけ身体にぴっちり合わせるモンを作るなら採寸は必須だ。ついでにコイツを未加工で着ているところを確認せんことにはな。装甲取り付けてから『動きにくいです』って言われても直しようがねぇ」
動くのに邪魔にならない装甲の厚さ、重量、その辺まできっちり見て仕上げないといけないのだと刀鍛冶は言う。
「いや、言ってることはわかるのだが……」
目も言葉もやましいところは見受けられず、純粋に職人としてのこだわりで言っているのはわかる。
(だからって、連れてこいと? アレを着て貰う為に?)
頭を下げれば、嫌な顔をせずに同行してくれる人物の心当たりは幾つかある。ありはするが、一体どんな顔で頼めばいいと言うのか。
(とんでもないところにピンチ埋まってたぁ……とは言え今更「じゃあ良いよ」ってのも不自然すぎるよなぁ)
本当に、どうしてこうなった。
「では、とりあえずこれとこれとこれは預けておくな」
「おう」
鞄の容量を圧迫する上、またはみ出てはたまらない。俺はとりあえず水着と俺自身が持っていても意味無い女性用の下着を鍛冶師の男に渡すと顔には出さず嘆息した。
「さつじんき×やまたのおろち」で配合すると「へびておとこ」が生まれてきそうな気がする今日この頃。
尚、へびておとこはドラクエⅤのモンスターになります。配合を含めて、他ゲームネタで申し訳ない。
次回、第百四十三話「八つ当たりなんかじゃないと俺は言いたい」
主人公と墓穴堀り属性は離れられぬ定めだとでも言うのか。