強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百四十五話「サラ・暴走」

「ふむ、病気の完治してない者に魔物の出るような場所で立ち話をさせるのも何じゃな。ひとまずジパングに戻るとするかの」

 

 襲われても撃退出来るけど、さっき咳き込んでたシャルロットに魔物が現れるかも知れない状況はよろしくない。空気を読まず襲ってくるかも知れないし。

 

 交易網作成には協力したんだし、話せば中で見た交易所の一室ぐらいは貸してくれるだろう。

 

(ジパングには宿屋もないもんなぁ)

 

 こう、やって来た旅人が拠点に出来る場所がないのは不便だと思う。これまでのジパングならそれで良かったんだろうけれど、交易で更に人が訪れるようになれば、宿屋は必須だ。

 

(一筆書いてシャルロット達を連れてきたあのお姉さんに持っていって貰おうかな)

 

 直接会えなくても交易所の方に預けておけばたぶん何とかなるだろう。魔法使い兼国の役人と言った立ち位置だと思われるし。

 

(ま、それはそれとして)

 

 空気の読めない殺人鬼はともかく、もう一人を空気にしておく訳にはいかない。

 

「さて、そっちのお嬢ちゃんはサラさんじゃったかの?」

 

「はい、バハラタで別れて以来でしたわね」

 

 話を向ければ肯定してきた魔法使いのお姉さんに、俺は声には出さずそう言えばそうだったなぁと呟いた。

 

(クシナタ隊のお姉さん達とアリアハンに戻った時に会ったのはシャルロットとバニーさんだけだったような)

 

 シャルロットの師匠としてはシャルロットの自宅などで顔を合わせて居たので、「あれ、そうだっけ?」と一瞬首を傾げそうになったが、危ないところだった。

 

(別人演じてるとこういうところめんどくさいよな、しかも一個ポカやらかすと正体バレかねないし)

 

 特に時々大ポカやらかす俺は要警戒である。

 

「そっちの本調子でなさそうなシャルロットちゃんと一緒と言うことはルーラの為に地形を覚えに着たと行ったところかの?」

 

「ええ、それもあるのですけれど……もう一つ気になることがありましたの?」

 

「ほぅ」

 

 魔法使いのお姉さんことサラの言う気になることには心当たりが有ったが、俺は少し興味の色を除かせるにとどめ視線でサラへ先を促した。

 

「先ほど私達を送ってくれた方をあそこまでの実力者に育て上げたのはあなただとお聞きしましたわ。ですから、私も――」

 

(想定内)

 

 口を開いたサラが魔法使いのスレッジに願い出たことは、俺の予想の範疇を出ない。

 

「ふーむ、元々そこのジーンを鍛えに行こうとしていたところなのでの、ワシは構わんのじゃが」

 

 言葉を濁しつつ、シャルロットへ視線をやる。

 

「そっちの嬢ちゃんはどうする気じゃ?」

 

「あ」

 

 サラからすれば、師事して貰うべき相手と自分の実力を追い越した同業者の修行場所となったジパングで出会えたと言う好状況に、頭の中から抜け落ちていたのだろう。

 

(やや、暴走気味かな)

 

 ただ、無理もないと思う。魔王を倒す為活動する勇者一行であるならレベルアップを試みようとするのは当然のことであるし、俺としてはレベル上げに協力するのもやぶさかではない。

 

(唯一の問題点が、シャルロットをどうするかってことになるわけで)

 

 魔物を一掃するのはドラゴラムで変身したこちらが引き受けるので負担もそれ程はかからない。

 

「無理をして病状が悪化しては元も子もない。そも、そんなことになってしまったらそっちの嬢ちゃんのお師匠様にワシは何をされることやら」

 

「……そうでしたわね。申し訳ありませんわシャル。私が身勝手でしたの」

 

「そ、そんな……ボクこそゴメン。風邪をひいてなかったら、ここでスレッジさんに鍛えて貰えたかも知れないのに」

 

 俺の指摘にサラがシャルロットへ謝罪し、シャルロットもまたサラに謝る。美しい友情だと思った。

 

「そうだ、さっちゃんは修行して更に実力をつけたいんだったよね? だったら良いことを教えて貰ったんだ」

 

「シャル、その呼び方は止め……良いこと?」

 

「うん、『ガーターベルト』って装飾品なんだけど……」

 

 そのアイテムの名前を耳にするまでは。

 

「な」

 

「ガーターベルト、ですの?」

 

「そう、実はちょっと色っぽい下着なんだけどね、身につけた者の性格を変える力を持ってるらしいんだよ」

 

 俺が思わず声を上げていたことにさえ、気づかない様子で二人は不穏な気配が漂い始めた会話を続ける。

 

「下着と言うのには抵抗がありますわね」

 

「そうかも知れないけど、着用後の性格の人は呪文使いとして大成した人が多いんだって。だから……ボク、キミがその下着をつけてスレッジさんの修行を受ければとっても強くなれるんじゃ無いかと思うんだ」

 

(えーと……)

 

 これは、どうしてそう言う結論になったとツッコミを入れるべきか。非常に拙い流れだと言うことはわかる。

 

(けど、これにどうやって介入しろと?)

 

 下着にそんな効果なんて無い、とは言い難い。確かに、レベルアップ時の能力上昇と性格に関連性があってもおかしくないとは思うのだ。と言うか、攻略サイトで、関連があると書いてあったような気もする。

 

(情報の出所は不明だけど、シャルロットがああも言ってるってことは、「せくしーぎゃる」は本当に呪文使い向けの性格なんだろうな)

 

 純粋に能力だけ求めるなら、選択肢としてはアリだ。しかも見計らったかのように今のジパングにはそのガーターベルトが存在している。

 

(なに、この てんかい)

 

 まさか、アッサラームでアレを手に入れた時からこうなることは仕組まれていたのだろうか。

 

「……下着か、水着では駄目なのだな?」

 

「「え?」」

 

 ほら、来ましたよ。

 

(やっぱり、お前か! お前かぁぁぁぁぁっ!)

 

 その男の名はジーン。空気の読めないさつじんきである。

 

 尚、驚きの声に続けてシャルロットが「かっこいい」とか呟いたのは幻聴だと思いたい。

 

「その話、もう少し詳しく!」

 

 もうそうなるだろうなぁ、とか思い始めていたが俺の予想をぶち抜く感じでサラはジーンの発言に食いついて。

 

(そう言えば、盗賊な俺のことは黙っていてくれって言ったけど、水着に付いては何も言及してなかったっけ)

 

 いやぁ、まいったねこれは。

 

(どうしろと、ここからどうやって不穏な方向にしか行かなさそうな状況を方向修正しろと?)

 

 刀鍛冶の所へ預けに行ったことはジーンに知られていないと思うが、このままだと水着がはみ出ちゃった事件の現場に向かい、おろちと出会いかねない。

 

(と言うか、おろちってあの後ちゃんと本は使ったんだよな?)

 

 ジーンを押しつけて立ち去ったので知らないが、もし「せくしーぎゃる」のままだった日には。

 

(ん、せくしーぎゃる?)

 

 この時、俺の脳裏に不吉な光景が浮かんだ。シャルロットかサラのどちらかがおろちと対面して口にした「せくしーぎゃる」と言う単語に反応し、おろちが「せくしーぎゃる」になる方法を中途半端な形で教えてしまったなら。

 

 

「えっちな本を読むと『せくしーぎゃる』になるのじゃ」

 

「そ、そんな……けれど呪文使いとして大成する為ですわ」

 

「そ、それで『せくしーぎゃる』になれるなら、ボク……」

 

 

 二人とも根は真面目なのだ。魔王を倒す為、実力を高める為に必要なことだと言われればだいたいそんな感じで実戦し始めてしまいそうな気がする。

 

(っ、シャルロットが汚れてしまうっ)

 

 何という悪夢。やはり、この世界はせくしーぎゃるを軽くあしらえなければ冒険もままならない魔境なのか。

 

(止めないと、何とかして止めないと――)

 

 まだ、対策は思いつかない。だが、いつもならストッパーになりそうなサラまで暴走を始めているのだ。

 

(本当に、どうしてこうなった)

 

 ごめん、クシナタ隊のみんな。俺はまだ当分、ここからそっちに行けそうにない。

 

 




まさかの『せくしーぎゃる』フラグ、サラへ感染。

おろちかシャルロットかと期待させておいてまさかの第三者なのか。

そして、この窮地主人公は切り抜けられるのか。


次回、第百四十六話「たった一人でこの状況、どうしろって言うんですか」



大丈夫、君ならきっと……うん、なんだ、ファイト。
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