強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百四十九話「おじいちゃんについて行くだけの簡単なお仕事です」

「洞窟内での行動はここまで歩きながら説明した通り。ワシはドラゴラムの呪文で竜となるので――」

 

「わ、私が魔物を口笛で呼び寄せて」

 

「私がピオリムの呪文で強大な竜に変じて生じる動きの鈍さを補うと言うことでしたな」

 

「うむ」

 

 洞窟の前でのお復習い。呼び出し役のバニーさんと補助役をする僧侶のオッサンの回答へ鷹揚に頷きを返した。

 

「残りの面々は、そこの商人を除いて護衛じゃな。まぁ、出てくる敵は片っ端からワシが燃やすと思うがの」

 

「ほな、わいはゴールドの回収に専念させて貰いますわ。みなさん、よろしゅうに」

 

 俺の言葉に続く形で頭を下げた商人のオッサンはサハリとか言っただろうか。元祖せくしーぎゃるの襲来で取り乱した俺は正気に戻っても暫くその存在に気づかなかったのだが、来てくれたのはありがたい。

 

(この身体が属してた勇者一行の口座に頼りっぱなしとはいかないもんなぁ)

 

 人のモノであることを考えるなら使った分もあとで補填しておくべきだと思うし、交易網作成の報酬に勇者一行の装備を調える為の費用を得られるとは言え、自由に出来るお金が増えるのは正直ありがたい。

 

(ゲームと違って保存食とか旅には装備以外の経費もかかるし)

 

 一人前の商人がいれば、大声で旅の宿屋を呼ぶという荒技も出来る訳だがそれでも宿泊費用がかかってしまう。

 

「軍資金が多くて困ることはないじゃろうからな、宜しく頼むぞ」

 

「任しといてぇな」

 

 クシナタ隊のお姉さん達の時はゴールドの回収が追いつかなくて商人のお姉さんがひいひい言いながら必死に魔物の死体を漁っていたとあとで聞かされたような気もするが、ここでわざわざそんなことを明かしてサハリのオッサンのやる気を刈り取ることもない。

 

「では、進むとしようかの。変身すると敵のと味方の区別ぐらいしかつかなくなるので巻き込まれんようにのぅ」

 

「は、はい」

 

「承知しましたわ」

 

「うむ。ならば行こう」

 

 釘を刺す声にバニーさん達の声が返ってきたところで、俺は洞窟に足を踏み入れる。

 

「まずは開けた場所まで行かねば、竜の巨体では動きづらいのでの」

 

 おまけに魔物を倒せば骸が残る。狭い場所では骸が邪魔になってしまうと言うこともあった。

 

「なるほど。魔法使いとしての戦い方、学ばせて頂きますわ」

 

「う、うむ。とは言うものの、今から使う呪文をお前さんが会得するのは結構先のことになると思うのじゃが」

 

「ふふ、お気遣いありがとうございますわ」

 

 当分使えないことを後で知って落胆するよりはと思い、敢えて言うも魔法使いのお姉さんは首を横に振った。

 

「まだ遠くてもいつか覚えるなら、学んでおいて無駄にはなりませんもの。……エロウサギもちゃんと学ぶのですわよ?」

 

「えっ」

 

「いずれ賢者となられるのでしたら、魔法使いの呪文も扱えるようになりますからな。サラさんの言うことももっともと言うことです」

 

 いきなり話を振られてきょとんとしたミリーに僧侶のオッサンが噛み砕いて説明するのを横目で眺めつつ、俺は呪文を唱える。

 

(精神力無駄遣いはしたく無いんだけどなぁ)

 

 拳で何とかしてはお姉さんへの手本にならない。

 

「ヒャダインっ!」

 

「「え」」

 

「「な」」

 

 唐突に唱えた呪文に同行者達が驚く中、出現した氷の棘の集合体の射出した棘が煮えたつ溶岩へと突き刺さると同時に表面が激しくうねり出す。

 

「す、スレッジ様、これは……」

 

「この洞窟にはようがんまじんと言う生きた溶岩の魔物がおってな」

 

「「ゴアオオオオオッ」」

 

 説明する間も撃ち込まれた氷の棘はマグマへ突き刺さり、あちこちから断末魔があがる。

 

「まぁ、こんな訳じゃ。流石にアレのゴールド回収は無理じゃろうが、どんな魔物が棲息するかは知っておいた方が良いと思っての。ちなみにあの魔物はヒャド系の呪文に弱い。まぁ、身体が溶岩で出来てるのじゃから当然じゃろうが」

 

 学ぼうとする意思というのは尊いモノだと思う。そもそも、開けた場所に出るまでにも魔物と遭遇する可能性はあるのだから、教材にはおそらく事欠かない。

 

「ただし、溶岩故に、ああいう場所にも潜めるし思わぬ場所から奇襲をしてくるかも知れぬのでの」

 

「お、恐ろしい相手ですね……」

 

「まぁ、あれに限らず油断は禁物じゃろうな」

 

 プチ講義をしつつ洞窟を進み。

 

「先程の魔物は教材が前と被ったので補足は不要かの……と、着いたようじゃ」

 

 魔物と遭遇すれば、倒してその特性と注意点を説明することを繰り返すこと数回。見覚えのある景色の中で周囲を見回し、俺は同行者に向き直る。

 

「では始める。呪文を唱え終えてワシが竜になったらまずピオリムを、口笛はその後じゃ」

 

「「はい」」

 

「うむ」

 

 バニーさんと僧侶のオッサンが同時に返事をするのを見届け、こちらも頷きを返して背を向ける。

 

「ドラゴラムっ」

 

 さあ狩りの始まりだ。

 

「グオオォォッ」

 

「す、すごい……」

 

「ぼーっと見ている時間はありませんぞ、ピオリムっ!」

 

 俺の咆吼を眺めポツリ呟クバニーサンヲ叱咤シ僧侶ノオッサンガ補助呪文ヲ俺達ニカケル。

 

「あ、す、すみませんっ」

 

 謝ルバニーサンガ口笛ヲ吹キ鳴ラシタノハソノ直後ダッタ。

 

「ゴァァァァァ」

 

 熊、出テキタ。

 

「来ましたぞ、スレッジ殿」

 

「グォォン」

 

 五月蠅イが熊燃ヤス。

 

「な、こんなにあっさりと?!」

 

「……凄まじいな」

 

「す、凄……あ、すみませんっ、次呼びますっ」

 

 味方、騒ガシイガ、敵後ロカラ音響イタ後ニスグ出テキタ。

 

「グオオォォッ」

 

 俺、火ハク。敵燃ヤス。

 

「ギャアアッ」

 

「ゲ」

 

 燃エタ敵、動カナクナッタ。腹ニ顔アル奴モカエルモ。

 

「ちょっ、何てペースや。魔物の群れ二つをこんな短時間で……くっ、手ぇ回らへんっ」

 

「こんな強力な呪文がありますのね……」

 

 後ロ声シタ、ダガ俺敵燃ヤスダケダッタ。

 

 




そして始まるドラゴラム無双。

次回、第百五十話「ハンターズ・ハイ」

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