強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百五十一話「ルーラの行き先」

 

「遅くなって済まぬ」

 

「「え、スレ様?」」

 

 ルーラでバハラタに着くなりクシナタさん達の滞在する宿屋へ顔を見せた俺に、隊のお姉さん達が驚きの声を上げる。

 

「うむ、ジーンをあのまま置いてくるとジパングの魔物の餌食になってしまうでの」

 

「ああ、そう言うことでするか」

 

 隊のお姉さん達は大半がジパング出身、全部話すまでもなく事情を察してくれたらしい。

 

「レベル上げ、だっけ? スレ様と一緒にいたら強くなるのあっという間だったしーホントスレ様って凄すぎー」

 

「いや、まぁ……地道に鍛錬を詰む者には少々申し訳ない方法かもしれんがの。ともあれ、用事も済ませて今度こそダーマにと行きたいところだったんじゃが……バラモスが動き出したようでの」

 

 これを牽制する為にか勇者サイモンが旅立ったことと共にジパングで知ったことを俺は明かし、その対処の為に立ち寄ったのだと戻ってきた理由を説明する。

 

「やっぱり、噂は本当だったみたいね。スレ様、ジパングやアリアハンよりイシスに近いからその話ならこの町でも人の口に上ってるのよ」

 

「人間側の不安を煽る為に魔王が広めてる可能性もあるんですけど」

 

「成る程のぅ、ならばワシが対応すべく動こうとする所までは想定済みじゃったか」

 

 合流すべきだと判断して行く先にバハラタを選んだが、これなら連絡しなくても独自に動いてくれていたかも知れない。

 

「その様なことはありませぬ。す、スレ様が居なければ私達ではとても……」

 

 頷く俺にクシナタさんはそう言ったが、謙遜と言うかこちらに対するフォローだろう。

 

「すまんの、気を遣わせて。ともあれ、降伏勧告を受けたイシスの女王がいきなり勧告を突っぱねでもしなければ、魔物の侵攻までにいくらかの猶予は生じるじゃろう」

 

 俺としてはこのロスタイムを使って出来る限りの手を打つつもりで居た。

 

「お前さん達には一部を連絡要員に残し、アッサラームまでルーラで飛んで貰う。そこからは途中まで馬を使った強行軍でイシスを目指す。騎乗中はワシが聖水を使うから魔物と出くわす心配はない」

 

 イシスへ向けられるバラモスの軍勢がどの程度の規模と強さか解らない以上、あまりやりたくはなかった。

 

「ろくでもないことを頼まねばならぬ我が不明を恥じて、頼む。イシスを守る為、力を貸して欲しい」

 

「スレ様……」

 

「この戦い、シャルロットの嬢ちゃんは間に合わんじゃろう。他の面々ならば参戦は可能じゃろうが、勇者一行にクシナタ隊の存在を知られるにはまだ時期が早い」

 

 そも、勇者一行がルーラでたどり着ける最寄りの場所は、バハラタかポルトガ。

 

(ただし、前者は抜け道が開通して居らず、後者は関所を通る為の鍵を勇者一行が所持していないから……ん?)

 

 行く方法がない、と言うところまで考えて何かが引っかかった。

 

(行く方法がなかったら、普通どうする?)

 

 何とか辿り着く手段を探そうとするのではないか。

 

「すまんが、お前さん達はここにいてくれんかの」

 

「スレ様?」

 

 確証はなかった。だが、可能性としてはあり得た。

 

「はぁはぁはぁ、良かった。まだここにいらっしゃいましたのね」

 

「っ、お前さんは――」

 

「はっ、はっ、はっ……す、すみません。送り出しておいてすぐ追いかけてきて」

 

 驚き半分、ああやっぱりなという気持ち半分の俺に呼吸を乱したバニーさんがペコペコ頭を下げ。

 

「ゆ、シャルはまだああですけれど、あなたのお陰で些少なりとも強くなれましたわ。大した力にはなれないかも知れませんけれど、それでもお返しをする機会ぐらいは求めさせて頂きますの」

 

 流石は勇者一行の魔法使いと言うべきか。

 

「死ぬかもしれんのじゃぞ?」

 

「それは恐ろしいですな。しかし、忘恩の徒となるのも肝心の時に何も出来ぬ役立たずと言われるのもご免被りたいのです」

 

 俺の脅し文句に応じたのはいつの間にか現れた僧侶のオッサン。

 

「まったく、しょうのない者達だの」

 

 この分では帰れと言っても聞かないだろう。

 

「この町にはくろこしょうという香辛料を売る店がある。そこでくろこしょうを手に入れ、ポルトガ王へと献上すれば外洋航海用の船を一隻譲ってくれる筈じゃ。勇者サイモンも旅だったと聞くが移動手段を考慮すればまずポルトガに向かうはず。お前さん達には勇者が居ない、じゃがそこに行けば勇者が居る。お前さん達の勇者ではないじゃろうがの」

 

 だとしても単純な足し算で即席とはいえ、勇者一行と言うパーティーが出来上がるはずだ。

 

「イシスへの降伏勧告自体が勇者サイモン暗殺の為の罠と言うことも考えられる。故にお前さん達に頼みたいのは……ちょっと、こっちに来てくれぬかの?」

 

「あ、は、はい」

 

「うむ、実はじゃな」

 

 続きは、とりあえずバニーさんを手招きしてから、寄ってきたバニーさんの耳元に囁いた。

 

「ええっ、そ、それは」

 

「うむ、我ながら何を言うのかという気もするがの、頼めるのはお前さん達だけじゃ。むろん、無理はせんでいい。お前さん達を失うことになったらあの男にワシが殺されるのでの」

 

 イシスに向けられるであろう侵攻部隊と刃を交える可能性もあるクシナタさん達にしろ、バニーさんにしたお願いにしろ、最悪命を落とす可能性がある。

 

(けど、俺の身体は一つしかなく、どっちかに纏めることも出来ないから……)

 

 俺は悩んだ末に、バニーさん達をサイモンの元へと向かわせる決断を下した。

 

「お前さん達を危険な目に遭わせかねないだけでも後が怖いがの。ワシも分裂は流石に出来ん。イシスとサイモン、両方は守れん。となれば……の」

 

「スレッジ殿は、イシスへ向かわれるのですな?」

 

「ほっほっほ、想像にお任せするとしようかの。格好いいこと言っておいて臆病風に吹かれ一人逃げ出すかもしれんぞ?」

 

 この世界に来たばかりの俺なら、そうしていたかもしれない。クシナタ隊と勇者一行がそれぞれ40レベルくらいまで育っていれば、安心して丸投げ出来ただろう。

 

「会うたびに嘘が下手になってるきがしま……何でもありませんわ。ともあれ、確かに勇者様を狙ってくることは充分に考えられますものね。承知しましたわ。エロウサギ」

 

「は、はいっ! あ、あの……わ、私達はこれで」

 

「う、うむ。気をつけての」

 

 相変わらずの呼び方で魔法使いのお姉さんに呼ばれ、ビクッと身をすくませたバニーさんに俺は頷きを返すと、立ち去るシャルロット抜きの勇者一行を見送ってから、宿の方へと向き直る。

 

「さてと、お次はこっちじゃな。まったく、いつになったらダーマに行けるのじゃろうな」

 

 愚痴を漏らしつつ向かう宿屋は第二の作戦説明会場でもあった。

 

 




はっはっは、まさかヤマカンでスレッジの行く先を推測してついてくるとか、ぐぎぎ。

いやぁ、まさかの二正面作戦?とか、本当にどうなるんでしょうね、うむ。

次回、第百五十二話「い、言っておくけど、アッサラームだからってぱふぱふ出てくると思ったら大間違いなんだからねっ」

語尾も呪い解けちゃいましたからね。

期待して夢やぶれても責任はとらないぱふ。

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