強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第十五話「めんどくさい女(性的描写注意)」

「さて、と。どうしたものか」

 

 その日の晩、人気のないレーベの村はずれで俺は一人の女と対峙していた。

 

(うーん)

 

 どうしてこうなったかというと、今日はもう眠ろうかととっておいた宿の部屋に向かったところドアに手紙が挟み込んであったのだ。

 

(今時果たし状とはなぁ)

 

 ここがゲームの中という異世界なので、古風と断じて良いのかはわからない。

 

 ゲームと違って宿屋は部屋数もベッドもそれなりの数があったが、この辺りは勇者の家の間取りがゲームと違ったのと同じで人々が営みを送るのに矛盾が出ないよう何らかの修正力が働いているのだと思われる。

 

(まぁ、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。勇者達も疲れてるだろうからこんな所にやってくるとは思えないけど)

 

 ちなみに、勇者一行は影ながら護衛していた面々の出番もそれ程なくあっさりレーベに到着。バニーさんが「やらかしたセクハラ」でつるし上げられている間に僧侶のオッサンが宿の手配をし、全員が客室に引っ込むのを見計らってから護衛組はチェックインした。

 

(俺もゆっくり休めると思ったけれど、虫が良すぎたのかな)

 

 勇者達が部屋に引っ込む迄に目の据わった魔法使いのお姉さんがロープの束を持ってバニーさんを一室に連行していったが、自業自得なのでそちらに関わる気はない。

 

「このウサギには調教が必要ですわね」

 

 とか言っていたが、どちらかもしくは両者が新しい扉を開けたり変な趣味に目覚めないことを俺は祈るだけだ。

 

「ったく、いつまでだんまりを決め込んでる気だい?」

 

(バニーさんのことはさておき、村の中だしあまり騒いで村の人の迷惑になるのは避けたいよね)

 

 単に現実逃避目的の回想をしていただけなのだが、女戦士は痺れを切らしたらしい。

 

「あたいが勝ったらアンタは勇者と遊び人から手を引き、以後このアリアハンの女には手を出さない。そんでアンタが勝ったらあたいの躰を好きにする……条件を呑んだからここに来たんだろ?」

 

(はぁ)

 

 正解は、無視したら更に面倒なことになりそうだから来たなのだが、今までの態度からすると話をするだけで誤解を解くのは無理だろうなぁと俺は思っている。

 

「つまり、俺が勝ったなら俺の言うことは何でも聞く……ということで良いんだな?」

 

「はん、あたいは嘘を言わないよ。しっかし、想像通りの下種だねあの娘だけじゃ飽きたらず……」

 

(……この女の中ではどれだけ外道設定なんだろ)

 

 汚物でも見るような視線で刺してくる女戦士の口ぶりに少しだけ気になったが、聞いたら後悔する気がして、俺は疑問を心の中だけに止めた。

 

(うん、聞いてしまったら勇者達と顔を合わせた時絶対思い出すだろうし)

 

 ここは聞かないのが正解だ。

 

「……もう遊び人の娘は手遅れかも知れないけど、せめて勇者だけでも救ってみせるよ」

 

(て お く れ っ て な ん だ)

 

 聞く気がなくても向こうから話してくるとか、無いと思う。

 

「言いたいことは、それだけか」

 

 俺はことさら冷酷そうな声色で吐き捨てると、武器を地面に落とし、地面を蹴った。

 

「ゆくぞ」

 

「なっ」

 

 驚異的なスペックを誇るこの身体なら、距離を詰めるのは一瞬で済む。

 

(さっさと終わらせよう。これ以上口を開かせたら精神力が削られるし、何より……)

 

 俺には勝負を急がなければいけない理由があった。

 

「舐めんじゃないよっ」

 

「くっ」

 

 女戦士があっけにとられていたのは、一秒にも満たない時間だった。そこから我に返り、反射的に攻撃のモーションに移ったのは、力量の差を考えれば賞賛に値する。

 

(しまった)

 

 もっとも、反撃を繰り出そうとすることが出来たのは、懐に飛び込んだ時点で俺がまごついてしまったからでもあるのだが。

 

「ちっ、避けたかい」

 

(どうしよう、よくよく考えたらこの身体って素手でもこの辺りの魔物なら瞬殺出来るほど身体能力高いんだよなぁ)

 

 最初は漫画とかでよく見かけるように首筋を叩くか鳩尾を殴って気絶させるつもりだったのだが、勢い余って殺してしまう可能性に思い至ったのだ。

 

(となると、関節技かな? ううむ、格闘技の経験もないし)

 

 ナイスアイデアである。女性を殴るのに抵抗もあった俺としては、よく知らないとはいえ試してみる価値はあると見た。

 

(力でねじ伏せるのだって難しくないもんな)

 

 ガッツリ組み合って力比べをしたとしても、力のステータス値が違う。

 

「けどねぇ、盗賊が素早いのは織り込」

 

 おそらく織り込み済みだとでも言いたかったのだろう。此方の動きを見ず、繰り出したのは後ろ蹴り。

 

(なるほど)

 

 動きにあわせて攻撃したのでは間に合わない、ならば相手の動きそうな位置を予測して攻撃を仕掛ける。スピードは俺がかなり勝ると見ての高度な戦い方だった。

 

「だが、遅い」

 

「ああっ♪」

 

 先読みを差し引いたとしても、突き出した女戦士の腕を掴んで捻りあげるのは容易く。

 

(えーと)

 

 そんなことより、捻りあげた時の悲鳴がどことなく嬉しそうに聞こえたのは俺の気のせいだろうか。

 

「勝負あったな」

 

「くぅっ、は、はんっ。こんなの腕を握ってるだけじゃないのさ。勝ったって言うんならあたいを地面に這い蹲らせてみなっ」

 

 気のせいに違いない。頭を振って勝利宣言すれば挑発で返してきたのだから。

 

「そうか、ならば――」

 

 遠慮は要るまい。

 

「うわっ」

 

 俺は後ろ手になった相手の腕を捻り上げたまま空いた手と身体で押さえつけるようにして女戦士を地面に押し倒した。

 

「くっ、これぐらいっ」

 

「させん」

 

 当然暴れようとするので、そのまま押さえ込む。プロレスや柔道の押さえ込み技を知らないのが悔やまれる身体能力便りのでたらめな押さえ方であるが、是非もない。

 

「っ、く……はぁ、はぁはぁ」

 

 疲れてきたのか、下になった女戦士の呼吸が荒くなり、力んだりしているからなのか肌も赤みがかってくる。

 

「はぁっ、んッ、あぅ……あんッ♪」

 

 もぞもぞ動きながらあげる呻き声が呻き声でない別の何かに聞こえてしまうのは、俺の気のせいか。

 

「んんぅ、あッ、あぁ……」

 

「……これは、俺の勝ちでいいのか?」

 

「はっ……そ、そうだね。あたいの負けだよ……」

 

 微妙にリアクションに困りつつ問いかければ、女戦士は我に返って答え、戦いは終了したのだった。

 

「約束だ、好きにしな」

 

「待て、何故鎧を脱ぎ出す?」

 

 理由が何となく察せても聞かなければいけないことはある。

 

「はぁん? もしかして自分で脱がすのが好きだったりするのかい? そいつぁ悪かったね」

 

「何の話だ」

 

 うすうす想像はつくが、認めたくなかった。

 

「父さん、母さんゴメン……あたいはこれからこの男に口にするのも憚られる様なことをされて」

 

「誰がするか!」

 

「えっ、しないのかい? どことも知れない地下室に監禁して――」

 

 思わず全力でツッコんだら意外な顔をして女戦士が語り出した自分の敗北後はお子様にはとても聞かせられない様な内容だったので敢えて伏せておく。

 

(じんめんちょうだったかな、この辺りに出没してマヌーサを使うモンスターって言うと)

 

 意外そうと表現した女戦士の表情が何処か残念そうでもあったのは、知らないうちに幻を見せる呪文マヌーサをかけられていたからに違いない。

 

「なぁ、本当に何もしないってのかい?」

 

「俺としてはどうしてそう言う発想が出てくるか教えて欲しい物だがな」

 

 物欲しげに聞いてくる女戦士への答えは半分皮肉というか嫌味のようなものであったのだが、聞かれた方はそう受けとらず。

 

「っ、それは……いいよ、何でも聞くって約束だったからね」

 

 少し躊躇を見せながらも話し始める。

 

「あたいがこんな風になっちまったのは、一冊の本を拾ったのが切欠だったんだ」

 

(あっ)

 

 語り出しだけでオチが読めたというかおおよそのことは察せたが、ここで話を遮るのはルール違反に思えて。

 

(アレなんだろうなぁ)

 

 俺は女戦士の過去話に耳を傾けたのだった。

 




えろす「ちょっとだけ本気出す」

正義感が空回りした人の話を聞かない女かと思ったら――と言うとんでも展開。

ある意味バニーさんよりめんどくさい女とかかわることになってしまった主人公。

え、省略された女戦士の説明部分?

ご想像にお任せします。

そして、明かされる女戦士の過去とは。

想像付いてたらごめんなさい。

次回「おれのそうぞうした●●と違う(性的描写注意)」にご期待くだ……えーと、うん。あはははは……。

つづきますッ

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