強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百五十二話「い、言っておくけど、アッサラームだからってぱふぱふ出てくると思ったら大間違いなんだからねっ」

 

「さてと、待たせたの」

 

 戻って来るなりそう言ってから始めた説明については、それ程複雑なモノではない。

 

「だいたいこんなところじゃ」

 

 地図を広げての大まかなルート説明やこのバハラタで呪文ダメージを軽減出来るまほうのたてを購入し装備しておくことなどうろ覚えでも原作知識を持っていれば思いつくであろう準備や対策が殆どだった。

 

「ワシは道具屋でキメラの翼と聖水を買うだけじゃが、お前さん達には盾の代金もいるじゃろう。名前を呼んだら側へ来るようにの」

 

「「はい」」

 

 理由を説明して指示すれば、素直な返事が返ってきてあとは一人一人呼ぶ為にやって来るお姉さんを抱き上げる作業が待っているのみ。

 

「きゃあっ」

 

「うひょひょひょひょ、良い感触じゃのぅ」

 

「スレ様?」

 

 クシナタさんがジト目で見てきたが、金のネックレスの一件やらおろちやら水着やらにピンチへ追い込まれた身としてはたまに役得があっても良いと思うのだ。

 

「せ、責任はとれんがここのところ生殺しじゃし、こう、何というかじゃな……」

 

 苦しい弁解だとは思う。だが、こっちも限界なのだとか俺は正座をして訴えてみた。もちろん内心はクシナタさんにお仕置きされるんじゃないかとビクビクである。

 

「……申し訳ありませぬ」

 

「ひょ?」

 

 ただ。

 

「す、スレ様とて人の男の子。当然のことを忘れておりました」

 

「い、いや。そうかしこまられる程のことではなくてじゃな?」

 

 謝られるのは予想外だった。

 

「隊長、ここはアッサラームで教えて貰ったアレをすべきかと提案致します」

 

「えっ」

 

 と言うかはっきり言って甘かったのだろう。今回のこれはどう考えても俺が掘った墓穴。

 

「ぱふぱふですよ、隊長」

 

「た、隊長がされないのでしたら私がっ」

 

 うん、落ち着こうかクシナタ隊のお姉さん達。何でそんな対応なの?

 

「み、皆様方、な、何を仰られれ」

 

 唐突な展開に混乱してるのはクシナタさんも同じ様だったが、救いとは思えない。

 

「良いんですか隊長っ、あの人多分本気ですよ?」

 

「ううっ、まさかスレ様から求めてくださるなんて……」

 

「「ちょ、ちょっ?!」」

 

 再び、俺とクシナタさんの声がハモる。

 

(正直すまんかったです、これってドッキリですよね? 俺がモテるとかあり得ないし、クシナタさんと俺を弄る為のドッキリだよね?)

 

 そうに違いない、焦るな俺。ここは流れに乗って俺もクシナタさんを弄る方に回ってしまうんだ。

 

「あ、えー、あ、あんな事を言って居るぞ?」

 

「スレ……様?」

 

 クシナタさんは俺の態度に呆然とするが、俺にはうっすらと隊のお姉さん達の意図が読め始めていた。

 

(イシスが危ないというこの時に、そんな不謹慎な真似をする筈が無いじゃないか)

 

 冗談で緊張をほぐそうとしたのだろう。

 

(ま、まぁ、当事者にされればテンパって即座に気づけなくても無理はないけどさ)

 

 それで居て、俺のセクハラには文句の一つも言わない。良い人達に会えたとつくづく思う。

 

「み、皆様がそこまで言われるのでしたらっ!」

 

「ひょ?」

 

「す、スレ様……」

 

 だから、クシナタさんもそろそろ気づくよね。思い詰めた顔で何故胸元をはだけて顔を赤くするんですか。

 

「ええっ」

 

「ああっ」

 

「ちょっと、隊長嗾けなかったら私がしてあげられたのに、酷い」

 

 あれ、他のお姉さん達も何で止めないの。

 

「たいちょー、ふぁいとー」

 

「ごーごー」

 

「……いいなぁ」

 

 煽ってるように聞こえるのはきっときのせい。気のせいなのだ。

 

「ちょ」

 

 ええっと、どっきりですよね、もしもし。

 

「ちょ、ちょっと待」

 

 こっちは本気で慌てた。迫ってくるのだ、クシナタさんのそれが。

 

「「なーんちゃって」」

 

「「はい?」」

 

 だから、お姉さん達が声を揃えて言った時、俺は紛れもなく言葉の意味が理解出来ず、後で声を上げた側だった。

 

「スレ様があたしちゃん達にセクハラとかー、マジありえないしー」

 

「隠したいことがあったから、誤魔化す為にあんな狂言回しをしたんでしょ?」

 

「っ」

 

 遊び人のお姉さんと盗賊のお姉さんの説明で理解に至ったのは、己の失敗。

 

(わざとらし過ぎたかぁ)

 

 二人の指摘は、図星だった。

 

「えっ、何それ?」

 

 気づいていなかったお姉さんも居た様だが、となると彼女は素で煽っていたのだろうかクシナタさんを。

 

(けど、クシナタさんはきっと気づいて居たんだよな)

 

 演技の上手さには定評があったからつい騙されてしまった。

 

「そっ、それは本当でするか?」

 

「え?」

 

 そう思っていたのに、顔を真っ赤にしたクシナタさんは落ち尽きなく周囲を見回して確認していて、俺は目を疑う。

 

「あれー、隊長気づかなかったの?」

 

「違いますわ、きっとあれも演技ですわ」

 

「あぁ、クシナタさん、演技上手いもんね」

 

 ああ、そうか。危うくまた騙されるところだった。

 

「いやぁ、脱帽じゃ。してやられたの」

 

 完全に観客と化してるお姉さん達の声に耳を傾けた俺は、顔を引きつらせたままクシナタさんの方を振り返ると素直に負けを認めた。色々カオスだったし、一時期はひょっとしたら本気かと疑いすらしたけれど、そんな美味しい展開ある筈がない。

 

「そ、そ、それ程でもありませぬ」

 

 謙遜しつつも、まだ顔が真っ赤な辺りは実に演技派だと思う。

 

「所で、スレ様……」

 

「何を隠してたんですか?」

 

「うぐっ」

 

 もっとも、素直に感心している時間をこちらはそう長々と貰うことは出来なかったようで。

 

「そ、それはじゃな……」

 

 だからと言って真意は話せない。故に答えへ困った。

 

「まさかスレ様……死ぬつもりじゃ」

 

「「ええっ」」

 

「ちょっ」

 

 そして、答えに困ったところを飛躍して考えるお姉さんが居たせいで、宿屋の中は再び混沌と化した。

 

「……と、好色な翁の演技が勇者一行の一人にあっさり看破されての。練習じゃったのじゃよ」

 

「あぁ、勇者さんの前でやってたあれね」

 

「ええと、人には向き不向きもありますから……」

 

 とりあえず、最終的に納得させることは出来たと思う。

 

「お話は理解しました。ただ、皆様……この一件が終わりましたら別のお話が」

 

 ただし、クシナタさんのOSEKKYOUという地獄が確定したようでもあり。

 

「では、準備を終えたら町の入り口での……はぁ」

 

 宿を出る俺の心には微妙に沈んでいた。

 

「さてと、聖水とキメラの翼は必須じゃな。あとは……」

 

 道具屋を経由して入り口に皆が集まったら、次はアッサラームだ。

 

「いよいよじゃの」

 

 ごめん、みんな。本当のことを言えば、きっと……が……るから……。俺は、みんなに言えなかった。

 




そう、本当のパフパフタイムはバハラタにあっ(ザー)


<暫くお待ち下さい>



意味深な終わり方で、主人公達はアッサラームへ。

あれ、ひょっとして作者物語畳み始めてる?

次回、第百五十三話「砂漠へ向けて」

くっ、ぱふぱふ入れてたらアッサラームいけなかった。

ぐぎぎ。
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