「ふむ」
「どうしました、スレ様?」
真っ直ぐ民家やお店の建ち並ぶ町の中央へ進んでいったオッサン達と違い、こちらの目的地はイシスの城。入り口近くにあった墓地の前で左手に折れ直進するだけの道のりではあるのだが、この道はモンスター格闘場、つまり賭博場の脇を抜ける道でもある。
「なあに、この手の施設の側は治安が悪かったりすることがままあるのでの」
ましてや、商人が住民に襲われるという事件まで起きているこの状況下でリュックをパンパンにした人間が通りかかれば、どうなるか。
「おぅ、そこのジジイ。重そうな荷物じゃねぇか」
「へへへ、大変だろ。俺達が荷物を軽くしてやるぜぇ?」
「と、元々この辺りをうろついておったごろつきが因縁をつけてくるわけじゃの」
いかにもと言った風体の男が数人、肩をいからせて歩み寄ってきたので、肩をすくめてみる。
「なるほど」
白昼堂々、いきなりコレとは恐れ入るが、同行者のお姉さんは俺が唸った理由に納得出来たらしい。
「一応聞いておくが、この老人を哀れんで、荷物持ちをしてくれるお手伝いさんではないのじゃな?」
まずあり得ないとは思う。ただし、語尾にぱふがつく呪いが蔓延する町があったりするこの世界なら、実はただのツンデレなだけで博愛精神が豊富なごろつきだって存在するかも知れない。
「はぁ?」
「おいおいジジイ、てめぇのおつむはどうなってんだぁ?」
思い切り小馬鹿にしたような顔で見てくるところをを鑑みるに、ごく普通の物盗りなのだろう。
「いや、違うならそれで良いんじゃよ。親切な若者を問答無用ではり倒す訳にもいかんのでの」
「んだと、ざけ」
「せいっ」
ごろつきの一人が何か喚き出したが、俺は取り合わない。ただ、最後まで言い終えるよりも早くリュックのポッケに手を突っ込み、抜きはなったそれを振るう。
「がっ」
「……へ?」
「な」
短い悲鳴にどさりと倒れ込む音が続き、喚きだしたごろつきを含め俺を除くほぼ全員が音の方へ視線を集中させる。
「ふむ。まほうつかい、とはの」
倒れ伏したのは、覆面をした黒いローブの男にも見えた。
「ま、魔物?!」
「格闘場から逃げたってのか?」
ごろつき達がこちらのことも忘れて騒ぎ出すが、バラモスのし向けた魔物達がこのイシスに向かってきているタイミングで魔物が逃げ出すというのは幾ら何でも出来すぎていると思う。
「スレ様」
「これは厄介どころではないの」
もしこれもバラモスの差し金なら、町に存在する魔物もつい今し方倒した雑魚一体のみとは思えない。ひょっとしたら物資不足をもたらした商人の襲撃にすら魔物が関わっている可能性がある。
「格闘場用の魔物と偽って町の中に運び込み、機を見計らっておったか……」
アークマージをカンダタ一味の人間が魔物使いと呼んでいた気がする。もし同じように魔物使いを名乗って格闘場で戦わせる魔物を納入しているバラモスの部下が居たとしたら。
(けど、それなら何故このタイミングで発見されるようなヘマを)
最初から大暴れさせるか、モンスターが襲撃するのにあわせて内側で暴れさせた方が効果は大きいはず。
「とにかく、これは格闘場にそこの死体を持っていって事情を聞いた方が良さそうじゃな」
無いとは思うが、ただ単にモンスターが逃げただけだったとしても、あのまま逃亡を許せば事件になっていた可能性がある。
「スレ様、あちらは大丈夫でありましょうか?」
「むぅ、住民の襲撃だけなら問題ないと見たんじゃがそれは責任者に話を聞いてみないことにはの」
先程のように魔物が外に出ているなら、数が合わないはず。どんな魔物がいるかという意味でも確認しておく必要があった。
「とりあえず、そこのごろつき共を縛ったら格闘場に寄り道確定じゃな」
「なっ、何で俺らが」
「明らかにワシの荷物を狙っておったじゃろうに。それとも抵抗してみるかの?」
魔物への攻撃はごろつき達への威嚇も兼ねていた。
「手加減は苦手なんじゃが」
多分そう続けたのが決め手だったのだと思う。
「うぐっ」
「ほっほっほ、観念することじゃの。さて、嬢ちゃん達、荷物にロープがある。そいつでこの連中を縛ってくれ」
「「はい、スレ様」」
無駄な抵抗を諦めたごろつき達は、こうしてクシナタ隊のお姉さん達の手でお縄となり。
「厳つい男達を縛って連行しとればごく普通の町民なら寄って来ぬ。ついでに道中の安全も確保じゃな」
魔物という例外もあるが、その時はチェーンクロスで仕留めるだけだ。
「人語を解す魔物なら捕らえて背後を聞き出すのもありじゃの」
「っ、とんでもねぇジジイだ」
「くそっ! なんでこんな化け物みてぇなジジイに絡んじまったんだ」
ごろつき達には酷い言われようだったが、敢えてそこはスルーしておく。
「スレ様ぁ」
「やっちゃって良いですよね?」
こめかみ辺りをヒクヒクさせたお姉さんが、良い笑顔で武器を握りしめていたのだから。
「歩くのに支障が出ぬ程度にの」
「「はいっ」」
その後、お姉さん達がごろつき共に何をしたかは敢えて伏せておく。
「モンスター格闘場によう……ひいっ」
格闘場につくと入り口に居た従業員に悲鳴をあげられたが、きっとごろつき達の有様ではなく顔面を砕かれた魔物の死体を担いでいたからだと思いたい。
「驚かせてすまんの、実はこの魔物を町中で見かけてな」
ここから逃げ出したのではと思い尋ねてきたのだと用件を告げると、従業員の顔が別の理由で引きつる。
「しょ、少々お待ちください。今すぐ城に使いを」
慌てぶりからすると、寝耳に水なのだろう。
「城?」
「えっ、ええ。この格闘場は公営ですので。勿論、魔物の確認も直ちに行います。誰か――」
俺の問いかけに答えつつ振り返って人を呼び。
「お呼びですかい?」
「魔物使いと世話係を集めてください。魔物が逃げ出したのです」
「なっ、あ、ああ、す、すぐに呼んで来まさぁ」
格闘場は蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
執筆の過程により、タイトル変更になったことを心よりお詫びします。
次回、第百五十六話「女王」
次こそは、女王出したい。