強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百五十九話「夜の城と俺の――」

 

「うーむ、しかし足元を見るようであれじゃったかの」

 

 俺達が最初に向かうことにしたのはゲームで星降る腕輪と呼ばれるアクセサリーが収められている地下だった。

 

「ですけどスレ様、女王様を呪いから救った褒美という形な訳ですし」

 

「救ったというか、あれは呪いをかけた張本人が盛大に自爆しただけじゃろ」

 

 隊のお姉さんがフォローしてくれるのだが、国の窮地にかこつけて国宝を奪って行くような罪悪感は消えてくれないのだ。

 

「まぁ、まだ持ち主との交渉は残っておるが」

 

「ああ、幽霊が出るんでしたっけ?」

 

 ゲームでは星降る腕輪を持ち去ろうとすると骸骨姿の幽霊が現れて、私の眠りを覚ましたのはお前達かと呼び止められるのだ。更に宝箱の中身をとったのも自分達かと問われるのだが、この問いには正直に答えても嘘をついても何もなかった。故に、ゲームの仕様通りなら待っているのは結果の分かる交渉といえるのかさえ微妙なやりとりだけだ。

 

「ただのぅ」

 

 出てくることだけは解っていても幽霊が出てきた時、俺はビビらないかと少し不安でもある。ホラー系のアクションゲームとかで敵の出現ポイントが解っていても実際に出てきたらビクっとするとか、お化け屋敷でいかにもな場所だからと身構えてにもかかわらずお化けが出てきて驚く時のみたいになってしまわないかと言う意味でだ。

 

(他にも理由はあるけどね)

 

 心の中で呟きつつ、俺はちらりと後ろを振り返る。お化け屋敷へ女の子と一緒に入った時にアニメとかなら高確率でおこるイベントを危惧しているのだ。俺意外は全員が女性。下手をすれば牢屋に押し込められていた時以上の試練が待ちかまえている可能性がある。

 

「どうされました、スレ様?」

 

「いや、魔物にも注意せねばならんと思っただけじゃ」

 

 ベビーサタンかどうかは解らないが、バラモスの部下がまだ城内に潜入しているかも知れないし、スライムベスの集団に窒息させられる可能性だってある。

 

「そ、そうでしたね」

 

「うむ、驚いてパニックになれば格下相手でも思わぬ苦戦をするかもしれん。抱きつかれてバランスを崩したりとかの」

 

 念のために抱きつかれたら困るんだよと言う意味合いの予防線を張ってみたので、きっと大丈夫だと思いたい。

 

(こう、押すな押すなよとか言って実際に背中を押される芸人みたいなことにはならないよな)

 

 口にした後でフラグ臭に気づいたが、幾ら何でもそんなベタなことは起こらないだろう。

 

「と、とにかく……この先にある階段からは人目につきにくい地下じゃ、魔物ならば隠れるのにうってつけ、警戒は密に、いつ魔物が現れても良いようにの」

 

「「はい」」

 

「うむ、良い返事じゃ」

 

 念には念を入れてお姉さん達に忠告し、口を揃えての答えに勇気づけられた俺は細い通路を進むと、階段の前で立ち止まる。

 

「さてと、ここからは数人に分かれて進むとしようかの」

 

 階段を降りればいよいよ地下なのだが、原作通り階段の横には通路が延びており分かれ道になっていたのだ。

 

「階段の向こうの道はもう一つの地下に降りる階段に続き、更にその階段の向こうにも通路は続いておる。行き止まりじゃったかまでは覚えていないがの」

 

「成る程、魔物と行き違いにならないようにするんですね」

 

「うむ、状況次第では追いつめて挟撃も出来るからの。通路の向こうに二班階段を下りる班が一つあれば通路の先が行き止まりなら地上部分は完全に確認出来るじゃろ。外には夕方に合流した嬢ちゃん達の何人かが居るしの」

 

 元ぱふぱふ語尾のオッサンを無事家族の元に送り届けたクシナタさん達と合流を果たしたお陰で、広い城ではあるが探索の人員も充分だった。ちなみに、クシナタさん達と別行動で動いているのは、城が広く探索メンバーを指揮出来る人間を地上と地下で一人ずつ置いた方が良いと思ったからで、他意はない。

 

(うん、断頭台に登らされる死刑囚の様な目で引き取られていったお姉さんなんて俺は見なかったんだ)

 

 ペシーン、ペシーンと砂漠の夜風に乗って聞こえてきた音とお姉さんの泣き叫ぶ声なんて聞こえなかった。だから、せめてもの慈悲に執行現場も見えず、声も音も届かない地下へ逃れようとしただなんて誤解である。

 

「スレ様、あの子のことは……」

 

 と言うか、心読めるんですか魔法使いのお姉さん。タイミングピンポイント過ぎるんですけど。

 

「う、うむ。信賞必罰は集団行動に置いて不可欠じゃろうからな、規律を守る意味でも」

 

「そうですね」

 

 沈痛な顔で俯いたお姉さんの名前は何だったか。人数が多いので未だに全員の顔と名前が一致しないのが申し訳ないところだ。盗賊や商人のお姉さんみたいに隊の中で同じ職業の者が少ない人とか、俺にイタズラしてクシナタさんにお仕置きされるお姉さんは流石に覚えているのだが。

 

(ひょっとして、俺に名前を覚えて貰う為にわざわざイタズラを?)

 

 だとしたら非情に申し訳ない話だ。

 

「が、その前にのっ」

 

 階下の物音に気づいた俺は片袖を振る。

 

「っぎゃぁぁぁ」

 

「魔物?!」

 

「うむ。この短時間で通路の先に行った嬢ちゃん達がこっちにやってくるとは考えづらい。わざわざこの時刻に地下へ往く者が居ないのは、出発前に確認済み。消去法からすると、他はないのぅ」

 

 上がる絶叫に後背のお姉さん達が身構えたのだろう。モーニングスターの鎖の鳴る音を知覚しつつ、階下へ視線を向けたまま、お姉さんお一人が漏らした驚きの声に首肯する。

 

「まだ深部に達していなくてこれとは、最悪地下は巣窟になって居るやもしれんの」

 

 もちろん、別班のお姉さん達に追われてこっちに逃げてきた可能性だってある訳だが、城に潜入していた魔物が、少なくとも牢屋に現れただけでないことだけはこれで確定した。

 

「ここから先は、より気を引き締めて行くべきじゃな」

 

 牢屋にノコノコ現れたからあっさり片が付くかと思えば、面倒くさい。これでは、城の掃除をしている間に外の魔物が来てしまうかも知れない。もう時間はあまりないって言うのに。心の中だけで愚痴を漏らして、階段を下りる。

 

「物陰には気をつけるんじゃぞ」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

 一人で先行して目につく魔物を全て倒して行くことは可能だが、それではお姉さん達に経験値が入らない。階段を下りる俺の足は気づけば少し早足になっていた。

 

 




以上、第百五十九話「夜の城と俺の――」でした。

――の部分は「焦り」をネタバレ防止に省略したものだったりします。

うむむ、お話がなかなか進まない。

一応、お尻ペンペンは執行されたようですけどね、無茶しやがって。


次回、第百六十話「ほしふるうでわ」

そうそう、黄緑色のスライム、Ⅲには居ないんですよね。

スライムエイミーとかライムスライムとか他ナンバリングや派生なら呼び名はあるんですけど。


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