強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百六十三話「強くて逃亡者」

「ふぅ、冷えるなぁ」

 

 ゲームの知識でとは言え、夜の砂漠が冷えるのは知っているつもりだった。

 

「供出した物資以外にもアッサラームで色々買ったから防寒具も問題ないと思うけど」

 

 問題はここからどう進むかだ。

 

「イシスの攻防戦を前に逃げ出した人間なら、ルーラで安全な場所まで逃げるかな」

 

 そしてカナメが口にしていた様にバラモスの所に乗り込むなら、ルートは三つ。南下して空を行く魔物の群れを襲い、モシャスで魔物に変身して南下する最短距離ルートが一つ。

 

「ジパングに飛んでおろちの所に行ってキメラの翼を使わせるのが二つめ」

 

 ゲームだとバラモスの城はルーラで飛べなかったが、魔物からすれば本拠地である主の城に移動出来ないのは不便極まりない。魔物であればひとっ飛びにネクロゴンドまでいけるのではないかという訳なのだが。

 

「ただ、あくまでこれは仮定で実際に試した訳じゃないし、おろちが協力するかとか問題もあるからなぁ」

 

 失敗したらルーラの移動時間を丸々無駄にしてしまうという大きなリスクがある。

 

「三つ目はすごろく場の西にある川から勇者オルテガの落ちた火山の脇にある河を通過、洞窟を経て一歩手前まで抜けるルート、と」

 

 この場合、川は筏か例によってモシャスで水辺の魔物に変身して泳ぐことになると思う。ゲームのオープニングか何かではオルテガが火山の火口で魔物と戦うシーンがあったと思うので、シャルロットの親父さんが落ちた火山は工夫次第では徒歩で越えることも可能だと思う。

 

「クシナタさん達が追ってくるとしたら、南か東だろうけど……」

 

 あの状況でクシナタさん達が抜けたらまずイシスは守りきれない。それでも逃げ出した俺をみんなは追ってくるだろうか。

 

「んー、あたしちゃんは追ってこない方に300ゴールド。スー様が本気で逃げたら追いつけないのは解ってるはずだし、下手に外に出たらイシスに向かってくる魔物の群れと鉢合わせして危ないしー」

 

「まぁ、クシナタさんもその辺りのことは気づくし解ってるよな」

 

 遊び人のお姉さんの言葉に頷きながら、俺はちらりとイシスの方を振り返る。

 

「何、スー様後悔してるの?」

 

「いや、ただ申し訳ないなぁ、と」

 

 ついそこまで荷物として連行してきたこのお姉さんにも言えることだが、本当に色々済まなかったと思う。

 

「でしたら、戻って隊長に謝って下さいっ! 私も、その……お、お尻ペンペンは三分の一ならかわりに受けても良いですからっ」

 

「ごめん、それは無理なんだ」

 

 同じようにして荷造りして持ってきた僧侶のお姉さん――と言うには小さい隊最年少の少女が服の裾を引っ張って言ってくるが、頭を振ることしか出来なかった。

 

「今、イシスが攻められようとしてる。けど、バラモスの底力と言うか運用出来る最大戦力がどれぐらいかまでは俺もしらない」

 

 この世界はゲームであってゲームでない。無限に魔物が湧くとは思わないが、だからといって俺一人で蹴散らせるほど少数と言うのも違うと思うのだ。

 

「ただね、ここで、イシスの防衛に成功した場合、バラモスの名に大きな傷が付く。バラモスの軍勢なんて大したこと無いと世界の人々が思ってしまえば、世界征服という意味で大きく後退してしまうと思う」

 

 バラモスはそもそも大魔王ゾーマの僕の一体に過ぎない。大きな失態をやらかせば処分されても不思議はない訳で。

 

「本気になったバラモスが今以上の軍勢を増援としてイシスに差し向けたり、一度に複数の都市を狙って侵攻し始めたら今度こそ俺達には打つ手がない」

 

 ひょっとしたら、カナメさんはこの辺りまで考えたのでは無いだろうか。

 

「じゃ、じゃあどうしろって言うんですかっ!」

 

「決まってる、バラモスがこれ以上侵攻を考えられない様な状況に追い込んでやればいい」

 

「えっ」

 

 その一つがバラモスを倒してしまうことであり、多分カナメさんは俺がそのつもりで動き出したと思ったのだろう。

 

「スー様、バラモス倒しにゆくの? あたしちゃん達ってーそのオトモ?」

 

 驚きに僧侶の少女のが固まる一方で、マイペースな遊び人のお姉さんは首を傾げつつ訊ねてくるが、残念ながら不正解である。

 

「ハズレ、良いところまでは行ったんだけどね、この編成で気がつかない?」

 

「編成? え、あ、ま、まさか……」

 

 我に返ってからすぐに思い当たる辺り僧侶の少女は頭が良いのだろう。

 

「んー、わかんなーい。スー様、ヒント頂戴?」

 

 対して、遊び人のお姉さんの方はと言うとまだ解らなかったらしい。

 

「じゃあ、ヒント。口笛係、ピオリム係、ドラゴラム係」

 

「ちょ」

 

 クシナタ隊にとっては殆ど答えな俺の返答に、僧侶の子が引きつった顔をする。

 

「そう、正解は『可愛い女の子二人を連れ出して両手に花で逃避行する』でした」

 

 ハッスルしすぎて何処かのカバさんが他のことに手が回らなくなったなら、それは不可抗力だ。

 

「スー様、それ絶対わざととぼけてますよねっ? どう考えてもレベ」

 

「はっはっは、何を仰る。ストレスが溜まってるのでたまには女の子と一緒にお城見物しながらはっちゃけようってだけじゃないか」

 

 言わせない、その先は言わせないよ僧侶の子。と言うか、俺がこの子を選んだ理由は、僧侶で一番体重が軽かったからだったりする。飛行出来る魔物に変身した時、掴んで飛べるように。

 

「ただね、お城まで行く手段としてちょっと必要なモノを狩ってくるつもりなんだけど、二人はどうする」

 

 ちょうどあつらえたかのように俺の向かう先には何故だか魔物の群れの姿があった。

 

「んー、スー様守ってくれるならあたしちゃんついてく」

 

 危険ではあるが、ちょっとした挨拶でも後ろの二人ならレベルが上がる可能性はある。念のために聞いてみたら遊び人のお姉さんは即座に手を挙げて。

 

「な、何言ってるんですかっ! そんな危険な」

 

「じゃあ、ツバキちゃんは一人で残ってる?」

 

「うっ……わ、わかりました、ご一緒します」

 

 噛み付いた少女も一人で残ってるのは嫌だったのだろう。

 

「じゃあ行こうか」

 

 二人を連れた俺はそのまま、砂漠を南下する。逃避行がてらお城見物ツアーに行く為に。待っててね、発泡型潰れた灰色生き物。

 




ま・さ・か・の・れ・べ・る・あ・げ。

特攻かと思ったらおちょくりに行くとネタばらししちゃったでござる。

うん、これ以上伏せて書くの難しいかなって思ったからこうなったんだけどね。

二人ほどお持ち帰りしてるのは、ピンクいワニさんを運んだでっかい猛禽なら女の子二人ぐらい運べそうだし、と言う理由。

主人公、一人で三人は厳しいと思ったらしい。(意味深)

次回、第百六十四話「空を飛ぶ者達の災難」

逃げて、モンスターさん逃げてぇ

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