強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百六十七話「ある意味での平等」

「ゴガアッ」

 

 ミイラ男は熊より弱い。故にただの一撃である。

 

「かけ声付きで打ち込めんと、若干威力は鈍るか」

 

「はうぅ。す、凄い……」

 

「なに、大したことはない」

 

 こちらとしては若干不満の残る一打だったのだが、拾った少女を感嘆させるには充分のようで、声と共に向けられる視線を知覚した俺は覆面の中で苦笑した。

 

「それよりも、だ。お前は何処まで戦える?」

 

「え?」

 

「こんな場所でさえアレが現れたのだ。ミイラ共は外にも居るはずだ。上空に逃れてしまえば良いだけだろうが、ここから出る時や離陸の瞬間を狙われる可能性がある」

 

 俺としては正体がばれて敵に回られた時を踏まえても少女の戦闘能力は確認しておく必要があったのだ。

 

「あ、え、ええっと……ベギラマとベホイミ、それからバシルーラにば、バギマまでなら……バギクロスはめ、滅多に成功しなくて、その、あぅぅ……」

 

「待て、何だそのレパートリーは」

 

 気がついたらツッコんでいた。新兵ってレベルじゃねぇ、使える呪文は一ランク上の色違いのモノまで使える上に本来使える筈のないバギ系呪文まで使用可能とか完全に上位互換じゃねぇか。

 

「まったく、それは戦力に組み込もうとするはずだ」

 

 箒の制御の甘さという弱点はありそうだが、下手したらバギ系最強呪文が飛んできたかもしれなかったのか。とんでもない地雷が潜んでたモノだと、覆面の下で顔が引きつる。

 

「ともあれ、それだけ色々使えるなら下手な心配は不要か」

 

 少女自身が自分の身を守れないのではと言う懸念だけならば、だが。

 

(うん、余計に放置出来なくなったよなぁ)

 

 一応隙をついて呪文を封じる呪文をかけるなり呪文で眠らせるなりした上でミイラ男の包帯を使って縛り上げることも可能だ。ただ、出来ればこの少女は味方にしたい。

 

(記憶が戻ってくれればとも思うけれど、そうそう都合良く物事は運ばないだろうしなぁ)

 

 ならば少女を離反させる方法は外にいるであろう魔物と対峙してカマをかけ、ボロを出すのを期待する、ぐらいか。

 

(ただ、あの魔女達がこの少女のことを本当に仲間として認めてたりとかすると完全に逆効果になるからなぁ)

 

 やろうとすれば、大きな賭けになる。

 

(ただの使えそうな戦力として見てるだけの外道ならいい)

 

 だが、少女のことを真っ先に聞いてきて、無事だと解ると「良かった」とか笑顔を見せるようないい人だった場合、俺まで攻撃し辛くなる。

 

「ふむ」

 

 どちらにしても、ここにとどまり続ける訳にはいかない。賭に出るとしても、言葉を交わせる魔物と都合良く接触出来るかどうかと言う問題があるのだ。

 

「まぁ、やるだけやってみるとするか」

 

 そもそも、今はいろんな意味で時間との戦いの真っ最中だ。躊躇による時間の浪費こそ唾棄すべきもの。

 

「私は外に出て負傷者を保護してくる。お前達はここに居ろ。何時戦闘が再開されるかわからんし、負傷者を運んできた場合お前のベホイミが必要になる」

 

 襲撃やらかした人間の台詞ではないが、こう言っておけば、少女も外には出ないだろう。

 

「ひゃ、ひゃい。お、お気をつけて」

 

「うむ」

 

 こちらの真剣な雰囲気に呑まれたのか、鯱張った様子で頭を下げてきた少女に見送られ、俺は外に出た。

 

「さて、生きていてくれると良いが」

 

 こっちに都合の良い証言をしてくれる魔女が。

 

「まず、落下した時生きていれば自分にベホイミをかけるとして……」

 

 一部の精神力が無限とか言う反則な敵を除き、魔物の精神力の最大値はそれ程高くなかったと俺は記憶している。

 

「普通ならそのまま上空に逃れるところだ。ただ」

 

 正体不明の相手からの攻撃呪文が負傷の原因である以上、下からも丸見えな上空に逃れるのは狙ってくれと言わんがばかりである。

 

「あ」

 

 そう言う意味では先程の少女への発言、大ポカだったかもしれない。空に逃れれば良いなど、呪文攻撃してきた脅威についてまったく計算に入れていない発言だったのだ。

 

「一応フォロー出来んこともないが、しくじったな」

 

 反省すべき点ではあるが、その為だけに戻って自己弁護するなど怪しんでくれと全力主張するようなモノだ。

 

「とにかく、今は生き残りを――」

 

 だから俺は振り返りかけた後方から前へと視線を戻し。

 

「ひぃぃぃ、た、助けてくれぇぇぇぇっ」

 

「っ」

 

 知覚した声に周囲を見回し、目撃する。

 

「ゴオオ」

 

「オオ゛オオアアアッ」

 

「ひっひぃ、はぁはぁ、はぁ」

 

 先端を失い、ただの折れた棒となったモノを片手にミイラ男の集団から追い回される老婆の姿を。

 

「成る程、箒が折れれば飛んで逃げることも出来んわけか」

 

 呪文を使って迎撃しないところを見るに精神力の方も尽きて居るのだろう。

 

「こちらが襲われたようにあちらも襲われていた訳だな」

 

 ある意味で平等に、本来盗掘者を追ってピラミッドを出た守護者達は牙を剥いた。

 

「向こうには災難だろうが、こちらとしてはちょうど良い」

 

 願わくは、あの魔女がこちらにとって都合の良い外道でありますように。

 

「待っていろ、今行く!」

 

 利己的なことを考えつつ、俺は敵の助けを求める声に応じたのだった。

 

 




うぐぐ、短くてすみませぬ。

次回、第百六十八話「とある老婆を事情聴取」

ジャッジメントかもしれませんの!


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