強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百六十八話「とある老婆を事情聴取」

 

「でやぁっ」

 

 駆け寄るなり地面を蹴って放ったのは、跳び蹴り。攻撃呪文のイオナズンでは老婆を位置的に巻き込みそうだったのもあるが、箒を失う状況を招いたのは、奇襲となった同じ攻撃呪文なのだ。

 

「ゴッ」

 

「せやぁっ」

 

 俺の蹴りを胸に受けたミイラ男は吹っ飛んで後続のミイラ達を巻き込み転倒し、着地するなり拳で別のミイラ男の頭部を破壊する。

 

「脆いな」

 

 この程度なら、バイキルトも必要ない。

 

「ゴオオオオッ」

 

「遅い」

 

「ゴアッ」

 

 拳打に足を止めたところを好機と見て別のミイラ男が倒れかかってきたが、半身をずらして身をかわしつつ、カウンター気味に膝を腹に叩き込んで浮かせ。

 

「邪魔だ」

 

 顔面を掴んで投げ飛ばす。狙いは蹴り飛ばされた仲間に巻き込まれて転倒し、今起きあがろうとしている別のミイラ。

 

「こうも数が多いと、面倒くさいものだな」

 

 アークマージの戦い方じゃない何て苦情は受け付けない。あくまでも人間の自分には口から冷気のブレスを吐けるような身体構造はしていないのだ。

 

「まったく、手間をかけてくれるわ」

 

 一度に二体、十体近くいたのでゲームで言うところの五ターン前後はかかったと思う。

 

「さてと……大丈夫か?」

 

「は、はひ。ありがとうございま」

 

「礼はいい。そんなことより他の者は?」

 

 首を巡らせて砂の上にへたり込んでいる魔女を見つけた俺は、声をかけると帰ってきた感謝の言葉へ首を振り、懸念の一つを問う。

 

「見たところ、追われてるのはお前だけのようだったが」

 

 こちらとしてはこの老婆を連れて行き、ボロを出して貰って少女がバラモスの元から離反する展開を期待したいところだが、他にも生存者が居て助けて欲しいと言われた場合、応じないと不自然になってしまうし、生き延びた魔物達がこの魔女を助けに来ても計画は破綻する。

 

「そ、それが突然呪文で攻撃されまして……箒をやられたワシは墜落の衝撃で足を。ベホイミで何とか癒し、近くに倒れていた者にも使いましたがもう手の施しようが無く」

 

「……つまり、生存者はお前だけと言うことだな?」

 

「は、はい」

 

 仲間に回復呪文をかける辺りがいい人だったらどうしようと言う不安をかき立てるが、他に生存者が居ないというのはこちらにとって都合の良い展開だった。ならば、邪魔が入らぬうちに確認してしまうべきだろう。

 

「そうか、ならばお前に聞くしかあるまいな」

 

 腕を組むと砂の上に座り込んだままの老婆を威圧しながら俺は問いを発す。

 

「……何故人間の小娘がお前達と一緒にいる?」

 

「なっ、何故それを?」

 

「質問は許さん、答えろ」

 

 魔女からすれば、当然の疑問だったかも知れないが、まだ明かすタイミングではない。そしてこっちが望む答えが出てくるか解らない状況で相手に必用以上の情報を渡すのも悪手だろう。俺は、視線で老婆を貫きながら答えを求め。

 

「あ、あの娘は上手く扱えば良い戦力になると思いましたのじゃ」

 

「戦力だと?」

 

「は、はひっ。あの娘は親共々生気に引かれて寄ってきたくさったしたい共に群がられて居たところを見つけたのです」

 

 最初に娘を庇った両親が殺され、残されたあの少女は恐怖からか唱えようとした呪文を暴走させたらしい。

 

「生じた竜巻に死に損ない共は蹴散らされ、このままではワシらまで呪文の餌食となるかと思いましたが、娘はそのまま倒れ伏し、捕まえて連れ帰ったところ記憶を失っておったのです」

 

「なるほどな。しかし、何故連れ帰ったのだ? 記憶喪失が判明したのは連れ帰った後なのだろう?」

 

 倒れた時点では記憶喪失かどうかは解らなかった筈だ、ならば意識を失った少女を連れ帰る理由が分からない。

 

「そ、それは……」

 

「それは?」

 

 戦力としてのみ見なしているだけなら、話の持って行きようはあるが、連れ帰った動機次第では全てがひっくり返る。

 

「しょ、処女の生き血が……肌によいと聞いた仲間がおりまして、その」

 

 OK、これなら呪文で消し飛ばしても良心の呵責は覚えずに済みそうだ。

 

「愚か者が。確かにくさったしたいを一掃出来る攻撃呪文は有用だろう。だが、私的理由で連れ帰った副産物の上、小娘が記憶を取り戻したらそれはこちらに向けられるかもしれんのだぞ?」

 

 と言うか、記憶を取り戻した時の危険性を考えてなかったのだろうか、この魔女。

 

「で、ですのでこの戦いに同行させましたのじゃ。人間共に力を振るえば、もはやあの娘は記憶を取り戻したとしても行くべき場所を失います。そも、直接あの娘の親を殺したのは脳みそも腐った死体ども。知性のかけらも無いきゃつらの暴走で、詫びの意味も兼ねて保護したのだと言いくるめれば」

 

 わぁい、想像以上に外道でしたこの老婆。だが、これならばいける。

 

「何処までもおめでたい奴だな。その小娘のことを何で私が知っていると思う?」

 

「へ?」

 

「あの攻撃呪文に驚いて地面目掛け突っ込んできたのだ、何故かお前と同じ装いをした人間の小娘がな」

 

 あっけにとられた顔の魔女へ怒気を込めた視線を送りつつ、俺はついてこいと言葉を続ける。

 

「その小娘に会わせてやろう」

 

 あとは老婆を誘導し、あの少女に聞こえる位置で本性を露呈させればいい。

 

(ふぅ、こういう時覆面ってありがたいよな)

 

 きっと今の俺はもの凄く悪い笑みをしていることだろう。だが、それで良かった。一人の少女が外道の操り人形から脱せるなら、それで。

 

 




うーむ、思ったより短くなってしまった。

ぐぎぎ。

ともあれ、容赦なくずんばらりん出来そうな外道と判明した少女の保護者。

少女の自由を勝ち取るべく、主人公は画策する。

次回、第百六十九話「一つの真実、一つの門出」

たぶん、ジャッジメントですの。

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