強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百六十九話「一つの真実、一つの門出」

 

「小娘はこの先だが、本当に出来るのか、恩人だと思われているのだろう?」

 

 わざわざそんな質問をした理由は他でもない、責任をとって自分の手で小娘を始末すれば罪は問わないと言うと即座に食いついてきたからだ。

 

「も、もちろんですじゃ。そもそもあの小娘は最初から気に入りませんでしてな。才能があって使えそうだから生かしておいてやっただけのことでして……」

 

 こっちとしては、上手くいきすぎてペテンにかけられているのではと疑ってしまうのだが、魔女は頼んでも居ないのに少女のことをひたすら悪し様に言うと手にした元箒を脇に挟んで手をすりあわせて見せる。

 

「そ、そうか」

 

 強者に媚びへつらう小悪党のテンプレを見せられているようで、何とも言えない気持ちになってくるが、一応流れは俺の目論見通りにいっている。

 

「だ、そうだが?」

 

「ひぇ?」

 

 そう、例えば砂山と俺の身体が影になる形で魔女からは見えない位置に目的の場所があって、会話は隠れ場所からほぼ筒抜けであるとか。

 

「酷い……」

 

「あ」

 

 やりとりを聞いていたからこそ出てきたのであろう少女と、老婆の視線があった。

 

「まったく、この小娘はお前達のことを案じていたというのに、酷い話もあったものだ」

 

「な、これはどういう」

 

 わざとらしく肩をすくめれば、我に返った魔女はこちらと少女を交互に見る。

 

「お前はこの娘のことを才能があって使えそうと評したが、才能があると言うところまでは同感だ。だが、お前のその下劣さではこの娘から慕われる資格も従える資格もない」

 

「ちょ、ちょっとお待ち下され! 先程までとは話が」

 

 突然の掌返しに老婆は慌てるが、俺からすれば想定通りの流れである。

 

「まだ解らぬか? この程度で馬脚を現すようでどうしてこの娘を言いくるめられると思っていたのだ? 貴様の様な奴に預けておいては才ある者を腐らせるだけよ。あの小娘は私が預かる」

 

「ま、まさか……そこの娘をワシから奪う為に、わざとあのような話をしたと?」

 

「違うな、小娘をこのまま任せるに足る人物かを計る為にだ。結果は残念なものに終わったがな」

 

 この段階でアークマージじゃない、と正体を明かしてしまうパターンも考えたのだが、そうするとアークマージに化けていたことを言い逃れに使われる可能性がある。

 

「さて」

 

 老婆を放置して少女の方に歩み寄ると砂に片膝をついて俺は頭を下げた。

 

「お前にはすまないことをした、騙されたままで居た方が幸せであったやもしれん」

 

「え」

 

「な」

 

 魔女と少女の双方がこちらの態度に驚きの声を上げるが、構わない。

 

「だが、あの本性ではとてもお前を任せてはおけぬのでな。試す為とは言え話を向けたもはや私も信用できんかもしれんが、私はお前についてきて欲しいのだ」

 

「そ、そんな……あたし、急に言われても、頭の中、いろんなことで一杯で、その……」

 

「即答はせんでいい。ただ、どちらにしてももうあの者とは過ごせまい。この娘の身柄はこちらで預からせて貰うぞ?」

 

 まごつく少女に頭を振って応じると、視線はそのまま老婆へやる。後半の魔女に向けた言葉は確認の形をとったが、ほぼ断定である。

 

「は、はひっ」

 

 思いっきり理不尽な対応ではあるが、実力的にも地位的にも老婆は逆らえる位置に居ない。こちらの要求を呑むしかなく、結果俺は少女の身柄を手に入れた。

 

「これで一つは片が付いたな。あとは……」

 

 眼前の箒を失った魔女をどうするかだろう。このまま断罪してしまっても良いのだが、聞いておきたいことがあったのだ。

 

「ここにキメラの翼がある。砂漠で行き倒れていた人間の死体から拾ったものだが、箒が無くともこれがあれば報告には戻れるか?」

 

 そう、バラモス城にルーラで飛べるかという確認だ。出来れば少女の両親が無くなった経緯ももっと詳しく知りたいが、それを突っ込んで聞く理由がアークマージにはない。だからこそ、不自然にならない形で質問出来る中でも一番知りたい疑問の答えを俺は求め。

 

「へ、も、勿論ですじゃ」

 

「そうか」

 

 覆面の中で笑む。つまり、同じ場所からここまでやって来たあの少女もキメラの翼を使えばバラモス城に飛べる理屈なのだから。後はキメラの翼を渡すふりをしつつ外道を一匹始末するだけだ。

 

「お前は戻って少し休むと良い。心の整理をするにも落ち着ける時間はいるだろう」

 

 流石にそんなシーンを見せる訳にも行かず少女に隠れ場所へ戻って貰うよう俺は促し。

 

「あ、あの……ありがとうございます。けど、あたし、もう時間はいりません」

 

「は?」

 

 想定外の反応に呆ける。いや、もっとゆっくりしていって良いのよ、とかこの格好じゃ言っては拙いようなことを口走るところだった。

 

「ふ、ふつつか者ですが……よ、宜しくお願いします!」

 

 決断早すぎだろとでもツッコミ入れるべきか何て馬鹿なこと考えてる内に、こうとんでもないことを言われて。

 

「ヒッヒッヒ、なるほどそう言うことでしたか。よりによって人間に負けるとは……ワシもあと十年若ければ」

 

 ちょっと待てそこの外道、何勘違いしてるんですか、攻撃呪文ぶちかましますよ。

 

「あー、ええとだな……」

 

「その、優しくして下さいね……」

 

「いや、ちょっと待て」

 

 うん、どうしてこうなった。

 

「ワシはあっちの方におりますでの。終わったら声をおかけ下され」

 

 下され、じゃねぇよ。ってか、何が終わったら何だよ、何が。

 

「ええい、埒があかんっ! 一旦中に戻るぞ」

 

「は、はい……」

 

 顔を赤くしてついてきた少女と一緒に隠れ場所に戻った俺はツバキちゃんから無茶苦茶罵声を浴びせられた。

 

 みんなあの外道魔女のせいだ、おのれ。

 

「……私達にも説明はしてくれるんですよね、スー様?」

 

「はぁ」

 

 この後正体を明かして事情説明し、仲間になった少女の新たな門出、と言うことになると思っていた俺は、まず誤解を解くところから始めないといけないらしい。

 

 おのれ、魔女め。

 

 




ジャッジメントならず。

次回に持ち越しっぽいですね、うぐぐ。

次回、第百七十話「精算と書いておとしまえと読む」


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