強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百七十一話「悲劇の理由」

「小娘の親は傷の手当てに薬草を使っておりましたので、ワシが思いますに精神力もほぼ底を尽きていたのではないかと」

 

「成る程な」

 

 魔女の話によると、少女達を魔女が見つけた時には既にかなり疲弊していたらしい。

 

「しかし、精神力を温存の為に薬草を優先して使ったとかそもそも回復呪文が使えなかったとも考えられるが?」

 

 少女は回復呪文の初歩であるホイミが使えない。ベホイミについても、ベギラマなどと同様魔女に習って会得したモノであり、少女の両親も回復呪文が使えなかった可能性がある。

 

「そ、それは確かに。ですが、空を飛んでいてたまたま出くわしただけのワシらでは……」

 

 箒に跨った上空の傍観者に解ったのは、父親の方が一度だけバギマの呪文を使ったと言うことのみであり。

 

「まぁ、遠巻きに戦闘を眺めていただけで解ることはたかが知れていると言うことか」

 

 恐慌状態に陥ったのか、両親を殺された怒りと悲しみに依るモノか、暴発させたバギクロスの呪文によって生じた竜巻は敵味方だけでなく周囲の木々すら巻き込んで荒れ狂ったのですじゃと魔女は語る。

 

「むぅ」

 

 ならば少女の素性を知る手がかりも一緒に吹き飛んでしまっていると見るべきだろう。

 

「しかし……疲弊していたと言ったが、あの辺りは人間共への襲撃をそれ程頻繁に行っているのか?」

 

 少女の両親がそれ程強くなかったというケースも考えられるが、バギマを行使するだけの力は持ち合わせているのだ。

 

「周辺に居る者全ての行動を把握している訳ではないワシには何とも言えませんじゃ。ワシが最近何をしておったかを知るのは同じ魔女の仲間の数名がせいぜい。そも、知能の低い死体どもは生気を求め、その持ち主を好き勝手に襲います。ワシらに襲いかかってくることだけはないようシャーマン達が徹底して命じてはおりますが」

 

「つまり、詳しい話を知りたければ、シャーマンを当たれと」

 

「は、はひ」

 

 シャーマンとは仮面を付けた蛮族のような格好をした人型の敵であり、回復呪文のベホイミを使う他、くさったしたいを呼び出したりするモンスターだと記憶しているが、つまるところ、くさったしたいの動向は管轄外と言うことか。

 

「……皮算用が過ぎたな」

 

 結局の所、得ることの出来た情報はあまり無かった。少女の出自の手がかりになりそうなモノは呪文の暴走で吹っ飛び、疲弊するに至った理由を知るには魔物達に聞いて回らなければならないと言うのだから。

 

「解ったのは、あの娘が記憶を失った場所くらいか」

 

 位置的にはバラモスに滅ぼされたと言うテドンの村の北西に当たるので、村の生き残りという可能性が有力かとも思うが、裏付ける証拠はない。テドンの村は死者達が夜になると生きていた頃のように生活を送る亡霊の町と化しているので、夜にテドンを訪れることが出来れば確認は出来るのだけれど、寄り道している時間も今はないのだ。

 

「まぁ、この状況下では検分や確認に赴く余裕などあるまい」

 

 現在の立ち位置が魔物側であっても、こちら側であっても。老婆達ならイシスを襲撃するところだった上、正体不明の相手に呪文攻撃を受けて大きな被害を出したばかりだし、俺達にはバラモス城にお邪魔してレベルあ、もとい嫌がらせの破壊工作をしてイシス襲撃やらサイモン暗殺などをしていられない状況に追い込む必要がある。

 

「だが、一応聞いておく。お前にシャーマンの知り合いはいるか?」

 

 だから、もはや眼前の老婆に価値があるとすれば、次なる情報提供者の紹介状としてのモノのみであり。

 

「いえ、知り合いは魔女仲間のみですじゃ」

 

 それが首を横に振った瞬間、利用価値は消え去った。

 

「そうか、ご苦労だった」

 

 問題があるとしたら、この魔女の処分方法だ。少女の前で殺すのは宜しくないが、このまま立ち去らせる訳にも行かない。

 

「あ」

 

「お前は中に戻って休んでいろ」

 

 記憶がないからと言っても両親が命を落とした時の詳細を聞かされたのだ、平静でいられるとは思えない。俺は気遣うように少女の背を押すと、老婆を一瞥し、再び口を開く。

 

「私はあの魔女を送ってくる」

 

 何処へかまでは言わないので、嘘ではないだろう。

 

「ではな」

 

 手にはキメラの翼を持ったまま、歩き出す。

 

「待たせたな」

 

「い、いえ、滅相もありませんですじゃ」

 

「そうか。ともあれ、お前達を襲った者のこともある。キメラの翼で飛ぶにしてもあの娘からは離れた場所の方が良かろう」

 

 悲鳴など漏らさせないつもりであるが、万が一もある。

 

「もっとも、あれから何もないのがかえって不気味でもあるがな……」

 

「ひぇ? 言われてみれば、そうですなぁ」

 

 もっともらしいことを言いつつ周囲を警戒し俺は周囲を見回すが、これも少女が隠れ場所からこっちを見ていたり後をついてきていないかを確認する為。

 

「ただ一つ言えるのは、あれだけの被害を出せる敵が存在したと言うことだ。忌々しいが、場合によっては撤退や大幅な作戦の変更を進言せねばならんやもな。貴様も無駄死にはしたくなかろう?」

 

「も、もちろんですじゃ。ですが、ワシごときの言葉をバラモス様が聞き入れて下さいますやら」

 

「否定はせんが……頭を使え。箒が使えない以上戦線の復帰も難しかろう? 報告に戻ったとすれば敵前逃亡と罪を問われることもない」

 

 そして、報告をしているのだからイシス侵攻作戦が失敗した場合責めを負わされるのは、進言を聞き入れなかった上の者ということになる。

 

「故に言質をとっておくのだ。進言はした、とな。その上で戦況を報告する。主力がかなりの損害を被っているのだ、私ならばそこまで言われれば捨て置かん。確認ぐらいはするだろう」

 

「な、なるほど」

 

「そして確認の結果が報告通りであれば、貴重な戦力を壊滅から救ったとして貴様の手柄になる。聞き入れられなくても貴様の失点にならんのはさっき述べたとおりだ」

 

 端から見れば敵に入れ知恵しているようにも見えるかも知れないが、こちらの狙いはアドバイスに従い眼前の老婆がバラモスかその部下に作戦中止もしくは撤退を進言すること。仲間の魔女が救援に来るなりして始末を失敗した場合の予防策だ。もっとも、この魔女の外道&小者ッぷりからすると危険を顧みず仲間の捜索をするような魔女はおそらく居ないと思うけれど。

 

「しかし、厄介なことだ。我らに刃向かうは勇者を称する者とその仲間だけだと思っていたのだがな、聞いた話では私と同じアークマージにも裏切り者が出たと聞く。お前達のうちいくらかの被害は爆発によるものだったな」

 

「な、ではその裏切り者の仕業だとおっしゃいますか?」

 

「いや、確証はない。爆発を起こす呪文は効果範囲が広い、単により多くの被害をもたらす為の選択であった可能性も否定はできんからな」

 

 などとまるで他人がやったかのように襲撃犯は何者かと推論を交わしつつ歩くこと暫し。

 

「この辺りまで来れば良かろう」

 

 徐に砂の山の陰になる位置で足を止めると、俺はキメラの翼を片手に後方に向き直る。

 

「後ろにはミイラ共の姿もない。例の襲撃者もそれらしい人影はないな。かわりに上空に味方の影もないが」

 

 襲撃者についてはここにいるからなのだが、それはそれ。

 

「そっちはどうだ?」

 

 自分の身体を目隠しにして袖から取り出したミイラ男の包帯を自分の片手に巻き付けながら、老婆に問う。

 

「こ、こちらも異常はありませんじゃ。味方もおりませぬが」

 

「そうか」

 

 お膳立ては調った。

 

「ならば、死ね」

 

「ひぇ?」

 

 振り返る間も与えなかったので表情は解らないが、きっと呆けていたのでは無いだろうか。殴り飛ばされたやや小柄な身体は砂の上に二度三度と跳ねて止まると、ひしゃげたまま短い痙攣を経て動かなくなる。

 

「終わったな。後は砂をかけて隠しておくか」

 

 包帯を解きながら俺は呟くと、ローブの中から用済みになった衣装を埋める為に買っておいた移植ゴテを取り出し死体へと近寄るのだった。

 




犯人はミイラ男?

次回、第百七十二話「新たなる選択肢」
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