「砂漠に良いところがあるとしたら、こういう時掘りやすいことか」
ただし、埋めても風が少し吹いただけで露出してしまう訳でもあるのだが。
「生存者は居そうにないが、死者なら珍しくないもんな」
見つかったところで、最初のイオナズンで地面に落とされ、ミイラ男達に殺されたのだろうとでも言っておけば説明はつく。
「まぁ、それはそれとして……」
これで、あの少女にキメラの翼を使って貰えればバラモス城に乗り込めることにはなった。ただ、移動が楽になったことでとれる方針も増えてしまったのだ。
「うーむ」
通常なら喜ばしいことであり、実際良いことなのだが、自由度が増えた故の悩みというモノもある。
例えばバハラタでクシナタ隊の女の子達を抱き上げたのは、モシャスで空飛ぶ魔物に変身し運んで行く人を選ぶべく体重の出来るだけ軽いお姉さんを探していた為で、その結果俺が選んだのが現在同行しているツバキちゃんであり、同行者が二人だったのも三人以上を運ぶのは厳しいと判断した為だ。
「けど、こうなってしまえば人数制限はナシだもんなぁ」
イシス防衛にそれなりの人数は残さなければいけないが、イシスに出戻って追加人員を加えてからバラモスの城に飛んでも充分間に合う。
「問題はどの面下げてイシスに戻るかってことと」
帰ったらほぼ確実にクシナタさん達のOSIOKIが待っていることが予想される点だ。
「効率を考えたら商人と盗賊のお姉さんにはついてきて貰いたいかな」
うん、盗賊のお姉さんことカナメさんにはどんな顔で会えばいいか解らないけどね。
「後は、遊び人のお姉さんがおもしろがって隊のお姉さん達にあること無いこと吹き込む可能性とか」
うわぁい、ピンチに陥ってる場面しか想像出来ないじゃないですか、やだー。
「少人数の方が効率は良いけど、やっぱり勿体ないよなぁ」
死体を隠蔽する作業中も隠れ場所までの帰路も進むか戻るかが俺の頭を悩ませる。
「はぁ……ま、どっちにしてもまずは説明だな」
少女にアークマージで無いことを明かして、これからしようとしてることもかいつまんで教える必要があるだろう。現状、バラモス城までキメラの翼で行けるのは、少女だけなのだから。
「そして、説明を終えた上で三人と話し合うか」
三人寄れば文殊の知恵とも言うし、一人であれこれ悩むよりはマシな決断が出来ると思う。難点があるとすれば、協議して決める様なモノだから、定まった後で「やっぱ今のナシ」とはやれないことだ。OSIOKI怖い。
「半ばトラウマ化していた者までいたからな」
こう、解りにくい例えになるかも知れないが、小学校の予防接種で前に注射された子がギャン泣きしながらやって来てすれ違った時の心境とか、それに近い。いくら肉体がハイスペックとはいえ、クシナタさんには道具として使うと相手の守備力を下げるくさなぎのけんがある。
「尻を狙われる展開などあの腐った僧侶の少女からのモノ以外無いと思っていたのだが」
俺の認識は甘かったらしい。
「くそっ、急がないといけないはずなのに足が重い」
理由は言わずもがなである。だが、このまま戻らなくてはならず。
「すまんな、遅くなった」
「あっ、お、お帰りなさい」
「あ、あぁ」
少女に出迎えられた俺は、頷きを返すとちらりと同じく待っていてくれたツバキちゃんと遊び人のお姉さんを見た。別に顔色を窺ったとかではないと思う。
「では、帰ってきて早々だがこれからのことについて話そう……ただ、その前に」
とりあえず、謝っておかないといけない。だが、それよりも先にしておかないと拙いことがあるのだ。
「まだ名前を聞いていなかったな」
「あ」
そう、この少女に何と呼びかければいいのかが解らないのだ。
「記憶喪失というのは聞いているが、それでも仮初めの名前ぐらいはあるのだろう」
「は、はい。その、すみません……あ、あたしの名前はエリザベートって言います。ふ、普段は名前で呼ばれることなんて無かったんですけど……あぅ」
「いや、謝るのはこっちの方なのだが」
魔物のふりをして欺いていたのもあるし、よくよく考えればこっちもまだ名乗っていなかったのだから。
「えっ?」
「私はアークマージでは……魔族や魔物ではないのだ。すまん」
驚きの声を上げたエリザベートの前で覆面をとると、俺は跪いて頭を下げた。
「イシスの国にバラモス配下の魔物が群れをなして進軍しているのを目にしてな、この辺りの説明は不用と言うかエリザベートさんの方が詳しいだろうが……私、いや俺は万が一魔物に見つかった場合に備えて魔物の格好をして偵察に来ていたのだ」
「偵察に? じゃ、じゃあ」
「ああ。もの凄い勢いで突っ込んできたエリザベートさんを受け止めたのは、成り行きだ。魔女を連れてきたのは、話を聞いてエリザベートさんの記憶を取り戻す手がかりが得られたらなと思ってな」
「そ、それであんなことを……言ったんですね」
「うむ、そうなる」
老婆にエリザベートさんを拾った経緯の詳細を話させたことについては嘘をついていないので、俺は頷き。
「それでだ、改めて確認したい。俺達と一緒に来てくれるか?」
改めて問うた。
「……そ、その。まず、あたしですけれど……よ、呼び捨てで構いません。え、エリザと呼んで頂ければ。それから、ええと、その、申し訳ないのですけれど……あ、貴方の名前、まだ伺って」
「あ」
ただ、名乗り忘れたことに気づいたのは、エリザから指摘された後で。
「スーザンだ。皆にはスーさんで通している」
ツバキちゃん達からはスー様と呼ばれているが、差異は許容範囲だろう。
「す、スーさんですね。あ、あたし……スーさんが人間でも……ううん、人間なら尚のことついて行きたいです。その、よ、宜しくお願いします」
「ああ、よろしく」
こうしてエリザが仲間に加わり。
「スー様?」
「スー様っ、私達置いてけぼりなんですけど?」
「あ゛っ」
俺は再びポカに指摘されてから気づくと言う失態をおかしたのだった。
少女の名前、最初は魔女だからタバサで良いかなとも思ったんですけどね、うむ。
敢えてこっちをエリザベートにしてみますた。
次回、第百七十三話「どうする? 出戻る?」
さて、どっちを選ぶのかな、主人公?