強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百七十七話「それはそれとして」

「……そうか」

 

 俺を止められなかったカナメさんはそのことを気にし、不眠不休の体勢でタカのめを使い、ずっと城の南側を監視していたらしい。もし魔物の襲撃などの変事があれば真っ先に気づくように。そして、もし、俺が心変わりして帰ってきたら真っ先に気づけるように。

 

「すまない。いや、申し訳ない」

 

 結局の所、カナメさんにそこまでさせてしまったのは、俺だ。

 

「それで、帰ってきてくれたと思ったら、知らない女の子が増えてるのだもの」

 

「……ごめんなさい」

 

 ましてやカナメさんの言うような状況であればこの仕打ちも当然である。俺がお姉さん達の立場だったとしてもブチ切れていたと思うし。

 

「慌てて隊長やみんなに報告に行って、『隊長は演技派だし、これが一番効果的だろう』って話になって」

 

「後はスー様も知るとおりでありまする」

 

 成る程、途中で会ったお姉さん達の内、顔を伏せた人は咄嗟に演技が出来なかった人で、何か言いたげだった人は俺を騙すことに抵抗のあったお姉さんだったと言うことか。

 

「本当にすまなかった」

 

 この場にいないお姉さん達にも後で謝っておこう。

 

「スー様が反省なされたのでしたらこれ以上何か言うつもりはありませぬ。スー様達の方の事情については、ツバキが説明をしている頃でありますれば」

 

「事情説明が必要なのは、この部屋に残ってる二人だけね」

 

「なるほどな」

 

 狂言をしかけても、そちらにかまけては居ないと言うことか。

 

「それで――」

 

「特にエリザさんについては詳しくおしえていただきたいところでありまするな」

 

「え」

 

 それは、俺にとって第二のOSIOKIの始まりであり、まさにOHANASIの時間だった。

 

「何がどうしてああいうことになったのか。きっちり、ね?」

 

「あ、いや、その……」

 

 まぁ、隊員をお持ち帰りしつつ逃げ出しておいて、見知らぬ女の子を連れて戻ってきた俺がきっと悪かったのだろうけれど、出来ればお尻ペンペンは勘弁して欲しいなと、引きつった顔で後退りながら思う。

 

「待て、い、一から順に説明するからくさなぎのけんを道具として使うのは――」

 

 この後何があったかは言いたくない。お尻にベホイミかけて余計な精神力を消費したり、お婿にいけないとかそんなことはなかった。

 

「テドンの近くで魔物に襲撃されてでするか」

 

「あ、ああ。となると原作通りテドンは滅ぼされて死人の村と化してる可能性が高い」

 

 エリザがテドンの出身で、記憶が戻ればクシナタ隊のお姉さん達の様に無理矢理勇者一行に加入させてザオリクで蘇生という荒技も出来るかも知れないが、蘇生呪文をかけるには最低でも魂を呼び戻す為に相手の名前が必要になってくる。

 

「それで、必要な名前については夜に村を訪れ直接聞くか、エリザさんの記憶が戻るのを待つかの二択になる訳だが」

 

 どちらにしても、これはバラモス対策の後だ。

 

「言い方は悪くなるものの、バラモス城へ纏まって移動出来る手段が確保出来た。あとは予定を少々変更し、少し多めの人数でバラモスの城に侵入し、鍛錬がてら城内を引っかき回す」

 

 変更に関しても追加で人員を加えると言った程度の変更である。

 

「お話しにあった、嫌がらせのレベル上げでありまするな?」

 

「ああ。ただ、イシスの守りを残しておくのは絶対だから、クシナタには隊長としてこちらに残って貰わないといけない」

 

「っ」

 

 断言するなりクシナタさんが仲間にして欲しそうにこちらを見たが、流石にこれは覆せない。

 

「カナメにはアイテム回収要員としてついてきて貰うことになると思う」

 

「あ、あぁ……あれをまたやるのね?」

 

 当然、商人のお姉さんとコンビでハードワークと言うことになる訳で。

 

「大丈夫か? 徹夜で同行は厳しいようであれば、居残り組でも良いし、交代要員としての途中参加でも何ら問題はないぞ?」

 

 バラモス城に一度飛べば、キメラの翼やルーラでの往復も可能となる。

 

「着地の直後に襲われる可能性が高い為、合流のタイミングを決め、横やりが入らないように周囲の魔物を殲滅しておく必要があるが、理論上途中参加も可能だ。疲れているようなら、一晩寝てからでも」

 

「ふふっ、ありがとうスー様。だけど気遣いは無用よ」

 

「そうか」

 

 俺の言葉を遮ったカナメさんは、もっと強くなりたいものと微笑する。それが、今度こそ俺を止める為にとかでありそうで微妙にいたたまれない気持ちになるのだが。

 

「そう言えば、商人の『大声』なら宿屋も呼べるか」

 

 ゲームではフィールド上なら例えバラモスの城の真ん前でも呼べば来たはずだが、この世界ではどうなのだろう。

 

「スー様、流石にそれは」

 

「一介の商人に魔王の城の前まで来いなどというのは無茶にございまする」

 

 いや、解ってはいたけれども。ゲームでは店の場合、最後に訪れた店の主人がやって来ることになっていたのだ。アリアハンの道具屋の主人が大魔王ゾーマの城の前まで出張とか、極悪非道の行いをしたあげく何も買わずに帰って貰う何て非道も出来た。

 

「そ、そういうものか。しかし、懐かしいな」

 

  間違って呼んで、申し訳なくて束で買った薬草でゾーマ戦の前にHPを回復した訳だが。

 

「一応弁解しておくが何も好奇心から呼ぶつもりだった訳ではないぞ?」

 

 メインはHPとMP回復の為だ。そも、俺も精神力の方は魔物から吸い取りはしたが万全ではない。かといって貰ったいのりのゆびわを使うのも勿体ない気がしてしまったのだ。

 

「第一、呼べば来るというのが『おおごえ』であって……」

 

 周辺の魔物が強すぎるからいけませんでは存在意義が半減である。

 

「と、話が逸れたな」

 

 後で検証はしてみるべきかもしれないが、今話すべきことから脱線してるのは確かだった。

 




主人公は結局お尻ペンペンされたのか?

きっとそれは聞いてはいけないことなのだ。

次回、第百七十八話「出発」

さぁ、嫌がらせ旅行に出発だ!

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